松静自然 -太極拳導引が教えてくれるもの-

松静自然とは落ち着いた精神情緒とリラックスした身体の状態をいい、太極拳導引の基本要求でもあります。これがまた奥深く…

私の出会った先生達 -その1-

2005-07-29 | 日常雑記-暮らしの逸話(エピソード)-
私がずっと昔に通っていた
鍼灸治療院でのエピソードです。
隣りの診療台で治療を受けていた患者さんが
先生に向かって何事か言い始めました。
 患者「先生は、私がここにはじめてきたときに
    言いましたよね。『時間はかかると思いますが、
    徐々に快復しますよ』って」
 先生「そうですよ。今は身体の中の悪い部分を
    すべて出していると思ってください」
 患者「最初の頃の治療は、受ける度に
    メキメキ良くなっている感じがしたんです。
    でも、最近はなんだかちっとも良くなっている感じがしない。
    なんだか、体力も落ちているみたいだし…」
 先生「物足りない感じがするんでしょ?」
 患者「そうなんです」
 先生「あんたの体は最初、無一文の文無し、空っぽだったんだよ。
    そこへ私が500円渡したんだ。文無しに500円は大金だ。
    だが、そのうち毎回500円ずつもらっても
    うれしくなくなってくるんだ。500円に慣れちゃうからな。
    次は1,000円もらわないとうれしく思えないんだ。
    今のあんたは1,000円をねだっているんだよ。」
 患者「……」
 先生「今のあんたの体は500円ずつがちょうどいいんだよ。
    私の言うことが信じられないなら、
    どこかよそへでも行ってくれ」
 カーテン越しに聞いていて、こちらまで
ドキドキしてきてしまったのを今でも覚えています。

先生は子供の頃から体が弱く虚弱体質で、
成人してからも体質は変わらず兵役にもつけず、
肩身の狭い思いをしたそうです。
仏門に入ったことがきっかけで東洋医学を知り、
この仕事を始めたと聞いています。

先生は自らの体験から患者の苦しみを理解し、
患者を大切にしていました。
その分、患者が先生の指導を無視して
養生を怠ったりするとものすごく怒りました。
待合室までその声が響いてくるのです。

先生は普段は温厚なのですが、
ここぞと言うときにはこのようにカミナリを落としました。
いつも患者さんは苦しい体を押して
ここまで来てくれるんだから精一杯の治療を
させてもらうのだと言い続け、
お弟子さんが遅刻したりすると、
ものすごーい雷がドカンドカン落ちてました。

患者さんによっては
とてもコワイ先生だという人もいましたが、
私は大好きでした。