「駆除に効果的な薬剤も分かっていない……」9月21日、西日本新聞朝刊の記事である。その気になって気を付けて見ていると、遠来の客の情報は決して少なくはない。温暖化による生物北上は気になる現象ではあるが、いきなり「駆除」という言葉に出会うと、いささか抵抗がある。やはり、人間を頂点に置いた目線である。
クロマダラソテツシジミ。写真(インターネット「昆虫館」から借用)で見るとおり、可憐なシジミチョウである。「天然記念物、熱帯から小さな強敵・大ソテツ“チョウ害”」という見出しが躍っていた。熊本県玉名市の国指定天然記念物「大野下の大ソテツ」に、熱帯地方に生息するクロマダラソテツシジミが繁殖し、幼虫が新芽を食い荒らしている。今月初めから数匹のチョウが舞い、幼虫が新芽を食べているというから、季節風や台風に乗って飛ばされてきた単体の迷蝶ではない。既に2年前に鹿児島県指宿市などで発見されて以来、宮崎、大阪、兵庫、四国と生息圏を拡大しているという。
試しにインターネットを開いたら、あるある!例えば、9月10日の日経コラム「春秋」の記事をお借りしよう。
『クロマダラソテツシジミ、とは舌をかみそうな名前だが、東南アジア原産の熱帯性のチョウのことだ。羽を広げても3センチほど、幼虫はソテツの若芽を食い荒らす習性があるという。世界中に分布するシジミチョウのなかでも変わり種だ。 南国の風土にこそふさわしいこの小さな生き物が日本列島で相次いで見つかっている。九州や四国はもちろん、大阪や兵庫でも公園や庭先にまでやって来たという報告が少なくない。今年の夏にはとうとう東京都心でも繁殖が確認されたとNHKは伝えていた。地球温暖化との関係を疑わせる不気味な北上である。
首相になる民主党の鳩山由紀夫代表が、温暖化ガスの排出を2020年までに1990年比で25%減らすと表明した。その意気やよし、と拍手を送りたいが生やさしい話ではない。よほどしっかりした道筋を示して産業界を説得し、暮らしにも配慮しないと絵に描いた餅(もち)。中国やインドを本気にさせる努力もいる。由紀夫氏は子どものころ、弟の邦夫氏とともにチョウの採集に励んだという。やがて宅地化が進んで野山のチョウは姿を消し、それが環境問題に目を向けるきっかけになったそうだ。さて今度はクロマダラソテツシジミの異変でもうかがえる人類の危機にどう挑むか。鳩山家の友愛精神だけで勝てる戦いではない。 』
宇宙のどこかで、「地球のホモ・サピエンスは繁殖しすぎて、宇宙にまで拡がりそうだ。駆除に効果的な薬剤はないだろうか?」と、エイリアンが首をひねっているかもしれない。「なになに、人類を駆除するに妙薬は要らない。放っておけば自滅するさ」
新型インフルエンザは、その警鐘のひとつかもしれない。呵呵と笑ってもいられないのだが、心のどこかで、「負けるなよ。君達は本能のままに生存圏を拡大しているだけだから、罪はない。」と応援している自分がいる。珍客到来を喜んでいる自分がいる。
先日の九州国立博物館の「市民と共にミュージアムIPM」の研修会で、久留米大学の上宮教授の「昆虫学概論」を聴いた。人類一人当たり、昆虫の個体数は4億という。(先年どこかで聴いた話では3億だったが、いずれにしろ太刀打ち出来る数ではない。)
形あるものは、いずれ滅びる。
(2009年9月:写真:クロマダラソテツシジミ:「昆虫館」より借用)