豪雨の傷跡を癒す間もなく、時折激しい雨が大地を叩く。梅雨明けに取り残された北部九州は、今日も苛烈な日差しと重苦しい暗雲がせめぎ合って、絡みつくような湿気に辟易する一日だった。
気の緩み……というより、耐力の限界を超えたのか、お腹を痛めてツラい3日を送っている。巷は3連休の中日、気怠い割りには落ちない食欲をいいことに、2人前のパスタを作ってカミさんと6:4で分けて食べ、満腹の午後のうたた寝。3時のおやつに頂き物の冷えたスイカを4切れも食べて、一瞬「お腹が冷えたかな?」と思った。……これが予感だったのだろう。
1時間Tシャツを絞るほど汗を流して庭の草取りをして、濡れた身体のままに冷房の効いた部屋を出たり入ったりして、ヒグラシが鳴きたてる黄昏を迎えた。ここで俄かに腹痛がきた。夕飯も殆ど口に出来ないままにダウン、2時間おきにトイレに駆け込む苦難の一夜が明けて、かかりつけのホームドクターのもとに走ろうと思ったら……そうだ、今日は「海の日」!
お腹に来た夏風邪なのか、単なる腹下しなのかわからないままに、市販の整腸剤で37.6度の発熱の一日をひたすら耐える羽目になった。
翌日病院で点滴を受け、抗菌剤と整腸剤をもらってやっと人心地を少し取り戻した。そんな状態でも、やっぱり八朔の下でセミの抜け殻を数えている自分が滑稽でもあり……。
今年85匹目を数えた足元に、一筋の虹が飛んだ。我が家の住人のハンミョウが2匹、追いかけっこをするように庭を飛び交っていた。もう何年も我が家の庭で世代交代を繰り返しているのだろう、秋風が立つまで終日庭先で戯れ合っている。通称ミチオシエ、私の散歩道では、必ず九州国立博物館裏の散策路で待ち構えていて、数歩先を導いてくれる。
アブラコウモリ、ハンミョウ、セミの集団、ツマグロヒョウモン、キアゲハ、アナバチ、カリウドバチ、コガネグモ、アマガエル、カナヘビ、トカゲ……我が陋屋にはふさわしい住民たちである。時には蛇もやってくる。
「この庭を雑木林にしたい!」と考え始めたのはいつごろからだろう?勿論、父の形見に純和風で築いた庭だから叶うはずもないのだが、わざとユキノシタやヤブコウジ、ドクダミ、ミズヒキソウ、ムラサキケマンなどが繁茂するままに放置し、今年は猫じゃらし(エノコログサ)まで一叢繁らせて楽しんでいる……「蟋蟀庵」の名前にふさわしく、コオロギたちも居心地がいいに違いない……などと独りよがりに納得している。藪蚊が苦手なカミさんは、決して庭仕事には手を出さない。
さて、ハンミョウは、老いの道をどこに導いてくれるのだろう?
猷を修むと名に負ふも やがて至誠の一筋ぞ
ああ剛健の気を張りて 質朴の風きたへつつ
向上の路進み行き 吾等が使命を果たしてん
わが母校の館歌(校歌とは言わない)3番である。猷(道)をどこまで修めたか、どんな使命を果たしたのか、それは自ら評価することではないし、余生でその道を深める欲もない。穏やかに、緩やかに、足元を見ながら、躓かないように、のんびりと歩いて……そのうちに我が家に帰る道も忘れて徘徊……いやいや、それだけは願い下げにしたい。
ハンミョウよ、もうしばらく我が行く道を導いておくれ。
夜10時、エアコンの室外機が唸る闇に、3匹のセミの幼虫が背中を割っていた。よくよく八朔の樹が好きなのだろう、95%がこの枝先で命を誕生させている。
薬が効いてきた。今夜は朝まで爆睡できそうな気配である。
今年の夏は長くなりそうだ。
(2017年7月:写真:庭で遊ぶハンミョウ)