蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

思い知る

2017年11月07日 | つれづれに

 おかしな週になった。運転免許証更新・後期高齢者講習のまたまた三日後、「今週はシルバーウイークか?」とぼやきながら、校区の自治協議会主催の「健康度測定会」にカミさんと出掛けた。ちょっとグズグズした体調で態勢万全ではないが、先日の認知度テストをきっかけに、体力の総点検をするのも悪くないだろうと思ったのだった。

 体重:適正、BMI(見た目の体形):適正、体脂肪率:やや高い、筋肉量:やや少ない、血管年齢:血管は老化していません。血管の弾力性は、とても良い状態です、骨密度:YAM(若いころに比べ)93%・AGE(年齢比)132%(あなたは若年者の平均に比べて同程度と言えます)、総合的身体年齢:歳相応。
 筋肉量が少なく出たのは意外だった。「ほかの指数を考えれば、体質でしょう」と慰められたが、やや肥満度が高いのと無関係ではないのだろう。体重は理想値だから、まあ良しとしよう。

 さて、体力……握力の減退はショックだった。若いころは50キロ近かったのに、34キロに落ちていた(5点)。30秒間の上体起こし:12回(6点)、開眼片足立ち:2分(10点)、10メートル障害歩き:5.9秒(7点)、長座体前屈:19センチ(2点)
 トータル30点:総合評価B(やや優れている)。長座体前屈は、中学生の時に痛めた腰痛を60年以上引き摺っているから、身体が硬いのは仕方ない。
 開眼片足立ち2分を余裕を持ってクリアしたからニンマリしていたら、翌日右足太ももに見事に凝りが来た。夏の暑さで歩きをサボっていたツケ、バランスはよくても筋肉は弱っているという証しだった。

 1週間の三つのテストで、年齢的立ち位置がはっきりした。過信もよくないし、かといって徒に歳を感じるのも又決していいことではない。いい機会だったと思う。まずまず順調に歳を取ってるということか……と、いささか負け惜しみっぽい自己弁護をしながら、遅れてきたシルバーウイークを閉じた。

 その二日後の今日、高校卒業59年目の同窓会に出掛けた。453名(内、女子73名)のうち、わかっている物故者100名(内、女子3名)と、およそ四分の一が彼岸に渡ったことになる。親友だった二人も、もうこの世にいない。お互いの加齢や薄くなった頭をからかい合い慰め合いながら、和気藹々の3時間を過ごした。
 それにしても、女性の物故者比率の少なさはどうだろう!80歳まであと2回開催する予定だが、年々少なくなっていく仲間を数えるのは寂しい。
 東京から来た友人の一人は、既に17年間連れ合いの介護を続けているという。三度の食事を全て支度し、そのために卒業以来同窓会に来ることが叶わなかった。「今日は、施設のショートステイに預けて、初めて出席した」という。
 『いずれ誰もが介護保険の世話になる時が来る。その時、男は「そんなところには行きたくない」と駄々をこねる。しかし、それは自分の為ではない、介護する奥さんを休ませる為だという事を忘れないでほしい』と、長年の経験が言わせた彼の言葉は説得力があった。

 庭の15センチほどの小さな実生の山椒に、アゲハの幼虫がしがみついていた。今日は立冬、霜注意報が出る季節である。この冷え込みの中で、残り少ない山椒の葉を食べながら終齢まで育ち、無事に蛹までに辿り着ける可能性は限りなく低い。
 遅れてはいけない営みがある。しばらく続いた温暖な日差しに、体内時計を狂わせてしまった蝶が本能的に卵を産み落としたのだろうが、孵った幼虫には、もう季節を選ぶことは出来ない。
 どうしてやりようもない自然の営み、触ると一丁前にオレンジ色の角を振り立てて威嚇してくる健気さが、切なくやるせなかった。

 宵闇に、何処かで虫がきしり鳴いて、やがて雨が来る。
                  (2017年11月:写真:遅れてきた幼虫)

色づく季節、落ち葉の悲哀

2017年11月06日 | つれづれに

 春の花を着けず、全くの裏作の八朔に、微かに色付いた二つの実を見付けた。多い時は180個ほど実ることもあるのに……悲しくなるほどに小振りではあるが、今年の2個は貴重品である。
 ツワブキの黄色が、朝日を眩しく照り返していた。
 
 1月の運転免許証更新を前に、お盆明けに「認知度検査・後期高齢者講習通知書」が届いた。昨今の高齢者のブレーキとアクセルの踏み違いによる事故多発に伴い、今年3月に道路交通法が改正され、2日がかりの検査・講習になった。前回懲りているから、即日自動車学校に予約を入れたが、8月半ばの時点で既に空いているのは、一番早くて10月30日。高齢になるほど車が必需となる生活環境だから、運転免許の自主返納もままならず、年々講習の日取りを確保することが難しくなっている。

 認知度検査は、惨めになるような内容である。まず、腕時計を外すよう指示され、壁の時計にも幕が下ろされる。「氏名、生年月日、性別、年齢を書いてください。では、今は何年・何月・何日・何曜日の何時・何分頃ですか?」を書かされる。『時間の見当識』のテストである。
 次に「16種類の絵をパネルで示しますから覚えてください」
 そして「丸い時計の絵を書いて、数字を入れてください。10時20分の位置に、長針と短針を書いてください」……『時計描画』のテストである。
 その後で「さっき見た16の絵を思い出して、全て書いてください」一番悩ましい『手がかり再生』のチェックである。
 みんなが頭を抱えて10分前の記憶を引き出そうとするが、これがなかなか出てこない。14個まで思い出したところで、時間が尽きた。
 最後に、「武器、台所用品、花、動物、虫……」などとヒントが書かれた用紙が配られ、何とかすべてを思い出すことが出来た。

 30分待機して、「認知症検査結果通知書」が配られる。無念、96点!(49点以下だと、「認知症に関する医師の診断」を受けなければならず、「認知症」と診断された場合は運転免許の取り消し・停止処分となる)
 これで650円。
 結果によって、次の「後期高齢者講習」の日程が通知された。幸い早く申し込んでいたから、3日後の11月2日に決まった。遅れて申し込んだ人は、1月2月まで待たされていた。

 3日後、再び講習に赴いた。30分の運転適性診断、夜間視力、動体視力検査……覚悟はしていたが、動体視力と夜間視力の衰えを実感させられた。目が疲れやすいから、黄昏時・夜間・雨の日の運転は自粛しているが、それは正解だった。
 運転実技は、車線変更・一時停止・徐行・車庫入れ・Sカーブなど何の問題もなく、試験官が唯一助言してくれたのは「一時停止を、あと1秒長くした方がいいですよ。最近の警察は、3秒以上止まらないと、停止したと認めないことがありますから」
 これで4650円。

 いろいろと高齢者に厳しい世の中になってきた。歳は取りたくなくても取っていく。しかし、まだまだ枯れ落葉の悲哀を舐めるつもりはさらさらない。ただ、傲岸不遜・したり顔の首相の顔を見ないで済むところで、のんびり余生を過ごせたらどんなに幸せだろう!……そんな思いで、色付き始めた木々を見上げていた。
 一番の冷え込みの朝、ハナミズキの葉は散り終り、キブシと蝋梅の落葉が始まった。

 木枯らし吹く季節が、もうそこまで来ていた。 
                       (2017年11月:写真:ツワブキの花)