初めて彼と出会ったのは、まだ娘がロングビーチに住んでいた頃だった。レストランや土産物を売る店が並ぶ、港沿いのショアライン・ビレッジ。娘の車で夕日を見に行ってハッピー・アワーのドリンクを楽しんだり、1ヤード(98センチ)の長いグラスでヤード・ビアを飲んだり、娘が仕事で留守の間にバスで出かけて水族館で遊び、ビレッジの屋台で買ったホッと・ドッグをベンチで食べながらカモメを見たり……その一角に小さなインディアン・グッズを売る店があった。ネイティヴの店員と片言の英語でお喋りしながら、小さな買い物を楽しむのが恒例だった。そこで初めてKokopelli(ココペリ)グッズを見た。何故か妙に魅せられ、以来アメリカを訪れ、方々を旅する傍らひたすらココペリの土産物を捜し歩くことになった。
ランチョンマット、コースター、マグネット、キー・ホルダー、ストラップ、ペンダントと数が増えていき、つい先日はニュー・メキシコのホワイト・サンズにドライブした娘から、楕円に引き伸ばして、砂漠でトカゲに向かって笛を吹くココペリを刻印した1セント硬貨を送ってきた。ご近所や親しい仲間へのお土産にも、度々ココペリが登場する。車のマスコットにも、彼が揺れている。
ココペリ……ネイティヴ・アメリカンのホピ族の300以上いるという精霊・カチーナ(尊敬すべき精霊の意)の一人である。「平和の民」を意味する族名を持つホピ族は、主にアリゾナ州北部に住み、その居留地は、先日訪れたアンテロ-プ・キャニオンがあるナバホ族の居留地に周囲を囲まれている。ネットによれば「ココペリが笛を吹くと、地面から緑が吹き出し、花が咲き乱れ、木々は生い繁り、 花粉は風に舞い飛び、動物たちは次々と子供を産み落とす。 ココペリは、発芽と豊穣を体現している神的存在である。」と記されている。つまり、笛を吹くことで豊作・幸運・子宝などをもたらしてくれる豊穣の精霊なのである。人と神の間にいて、人を導き助け、人の祈りを神に届ける仲介者として存在しており、北米大陸の南西部の各地に残されているペトグリフ(岩絵)にも、歩く、立ち止まる、寝そべる、膝を曲げる、笛を吹く、踊るなど、様々な姿態のココペリが描かれている。
また、ネットにはこんな記載もあった。「ホピの神話の中で、人々が第4の世界に到着し、大陸の四隅に移動をはじめた頃、あるクラン(氏族)には二人のマフ(熱の力を持つ虫)と呼ばれるキリギリスに似た虫人が同行した。ある山の峰にさしかかったとき、その土地を守っている巨大な鷲に土地に住む許しを乞うたところ、鷲は持っていた矢で二人のマフの身体を射抜いた。しかし、マフは射抜かれたまま笛を取り出し美しい音楽を奏でて、高揚した霊の力でその傷を癒すのだった。鷲はいたく感動し定住の許可を与えたのだが、このマフがココペリだといわれている。 この中であらわされている超自然的な力が、豊穣の神的存在といわれるゆえんではないだろうか。」
不思議な魅力を持つ精霊である。今回のユタ、アリゾナ、メキシコを駆け回った旅でも、また幾つかのココペリが増えた。アリゾナのガソリン・スタンドの雑貨屋でさえ、いつの間にかココペリを探していた。
これはもう、精霊の魔力に取り憑かれたとしか言いようがない。しかし、何とも心地よく楽しい憑依である。
(2010年1月:写真:ココペリのキー・ホルダー)