カリフォルニア州南端の国境の町・San Diego を過ぎると、メキシコの街Tijuana。日本語では「ティファナ」と記載されるが、現地では「ティワーナ」と発音しないと通じない。騒然とした街で、ロバにペンキで縞を描いて「縞馬」と称し、記念写真を撮らせようとしたり、いきなり「貧乏プライス、見るだけタダね!」という日本語が飛んできたり、旅人と割り切れば、それなりに楽しい思い出が出来る街だった。出るのは簡単だが、再びアメリカに戻るには厳しいパスポート・チェックがある。
Lax(ロサンゼルス空港)から南におよそ2時間半、長さ1200キロを超えるBaja California半島の最南端San José del Caboに、次女が30年間11月第2週の1週間をタイムシェアするリゾートホテル、プラヤ・グランデがある。
カボ・サンルーカスとサン・ノゼ・デル・カボという二つの町があり、その地域一帯がロス・カボスという世界的に有名なビーチ・リゾートとなっている。
4度ほど訪れ、ダイビングでシー・ライオン(カリフォルニア・アシカ)と戯れたり、サンド・バギーでサボテンの原野や砂浜を走り回ったり、アウト・ドア三昧を楽しんだ。
ホテルのプライベート・ビーチに座り、朝はコルテス海から昇る朝日を眺め、夕べには太平洋に沈む夕日を見送った。この半島の最南端ランズ・エンド(地の果て)のアーチ状の奇岩を回って、遥かアラスカ沖から南下して来たクジラが、ブリーチングを繰り返しながら、コルテス海に入り込む姿が見られる。
コルテス海の最深部には肥沃なコロラド川が流れ込み、豊富なプラントクトンを沸かせて、ジンベエザメやクジラなどの大型海洋動物を招き寄せるのだ。
港からダイビングボートで5分も走れば、ネプチューン・フィンガー(海神の指)という奇岩や、アシカのコロニーの岩山の底に、綺麗な白砂が拡がるダイビン・グスポットがある。此処で、ギンガメアジの大群・トルネードに囲まれる貴重な体験もした。
ホテルには5つのプールと3つのジャグジーがある。プールサイドのチェアに横たわると、顔なじみのメキシカンのボーイが「オラ!」と声を掛けながら寄ってくる。「オラ!」と返すと、すかさず「バナナ・マルガリータ?」……すっかり、好みのドリンクを覚えられてしまっていた。
プールの奥には、腰まで水に浸かったまま座るバーがあって、そこでメキシコのビールを頼む。味の濃いメキシコ料理には、爽やかな味のメキシコのビールが合う。櫛切りにしたグリーン・レモンを絞り込み、そのまま瓶に落とし込む。あおるように飲むメキシコのビールは、常夏の日差しの下では欠かせないものとなった。
TECATE(テカテ)、DOS EQUIS XX(ドスエキス)、CORONA EXTRA(コロナ エクストラ)……10度ほどのアメリカ訪問、その中での4度のメキシコ訪問で、いつの間にか、この3種のビールに魅せられていた。
コロナ籠りに倦んだ一日、半年ぶりに近くのショッピング・モールに出掛けた。混雑もなく、いつもの輸入品専門店に寄ったら、懐かしいCORONA EXTRA(コロナ エクストラ)が並んでいた。時節柄、売りにくいし買いにくい銘柄である。しかし、懐かしさが先に立ち、買うことにした。カミさんが並んでいる間に食品売り場に走り、ただ一つ残っていたライムを買う。本場のグリーン・レモンに代替するには、これしかない。
2本買ったが、ライムは櫛切りにすれば6本分である。翌日、またモールに走って4本を買い足すというオチが付いた。
「Viva Mexico!」とつぶやきながら、コロナに倦んでコロナを飲む。今日、最後に残っていたツマグロヒョウモンの蛹が羽化し、雷鳴轟く空に飛び立っていった。
気温は相変わらず35度を超えているが、少しずつ夏が衰えようとしていた。
(2020年8月:写真:、CORONA EXTRA)