太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

親孝行のおすそ分け

2012-12-19 08:45:08 | 日記
職場である本屋で、お客様が欲しいものを一緒に探すことがある。

それは日本でもアメリカでも同じだと思うけれど、ちょっと違うのは、

日本語が読めない、わからないお客様のために日本語のものを探すことが多いことかもしれない。

両親のために何か演歌のCDを探しているだとか、

氷川きよしのCDを欲しいけれど、なるべく自分が知らない歌が欲しいので、CDの曲名を読み上げてほしいとか。



あるとき、一人の女性がやって来て、84歳になるお母さんが読む本を探しているという。

その女性は日本語は話せるけれども読めない。

足腰が弱って、あまり出歩くことができないので、本だけが楽しみだと。

なにか気分が明るくなるようなものがよくて、伝記でもいい。



本を探しながら、彼女のお母さんと実家の母が重なった。

私の母はまだ70代で元気だけれど、まるで母に本を探しているような気持ちになったのだ。



それで私は、中村喜春の生涯を書いた本を選んだ。

中村喜春は大正時代に生まれた江戸っ子芸者で、英語を話し、晩年はニューヨークで暮らしたという人だ。

波乱な人生だけれど、あの時代にあってそういう生き方をする人の話は、おもしろいのじゃないだろうか。



それからしばらくたった頃、また同じ女性が私を訪ねてきた。


「あの本ね、とーってもおもしろかったんだって。あっというまに読んでしまった。どうもありがとう。

もっと他にも読みたいから、あなたに探してもらおうと思って」



働き始めてもうすぐ3ヶ月だけれど、この仕事をしていてよかったとしみじみ思った。


「母ね、最近足が痛くてね、家の中も思うように歩けないの」


日がな椅子にすわって読書をしているお母さんを思うと、やっぱりそれが母と重なってしまい、

熱いものがこみあげてきた。

「少し時間をかけて探したいから、3日以内にまたココに来れますか?」

「もちろん!親切にありがとう」


その人は、笑顔で店を後にした。

こちらこそ、親孝行のおすそ分けをありがとうございます、と心でお礼を言った。







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