太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

若作りの谷

2014-08-04 07:15:51 | 日記
かれこれ10年以上も昔、日本で、あるデパートに行った。

1階のバッグ売り場で、とても美しい長い髪をもった店員さんをみつけた。

ここで余談だけど、

日本のデパートって、1階にきれいな店員さんが多いような気がするのは私だけだろうか。

化粧品とかアクセサリー類の売り場があることが多いからだろうか。



その店員さんは、後姿で何か作業をしていた。

髪は腰に届くかの長さで、ゆるいウェーブがかかっていて、毛先までつやつやとしている。

髪に見とれていたら、店員さんが振り向いた。



「・・  ・・・・」


この衝撃を、どう説明したらいいだろう、

松嶋菜々子のような顔をイメージしていたのは私の勝手だ。

美人な部類に入ると思う。

しかし、20年前だったらもっとよかったのにな、と思う。

ほうれい線がくっきり、目尻にも深いシワ、髪が見事に美しいぶん、そのギャップは厳しい。



その時、三十代だった私は、「若い」と「若くない」のハザマで、

何を着ていいかわからない、どんな髪型をしていいかわからないというところにいた。

今思えば、三十代なんかじゅうぶん「若い」のであって

何も悩むことなどなかったと思うのだけれど、当時はそれがわからなかった。

そんなときに、その店員さんを見て、ますます私は悩むことになった。

たぶん、あのときが私の人生で最初の


『若作りの谷』


との出会いだったと思う。


「若い」と「若くない」の違いがはっきりしている以上に、

「若い」と「若作り」の間には、深い深ーーい谷がある。

その谷底の存在を知り、恐ろしくなったのはその時である。



私の人生の半分以上はショートヘアで、長く伸ばしている時間のほうが短いぐらいだ。

今は長いのが好きで、ロングヘアでいるのだけれど

傷んでパサパサになったら潔く切るしかないと思っている。

そうならないように、できるだけ手入れをしているのだが

朝、髪型を決めて後姿を鏡でチェックするとき、ふとあの店員さんのことが頭をよぎる。

染めたばかりで白髪もなし、ゆるくかけたパーマの具合もまだいい。



でも、顔と合ってる・・・・・???



誰かに聞いても、私に気を遣ったことを言ってくれるだろうし、

本当の答えは闇の中。




ハワイで暮らしていると、日本にいたとき、どうして年齢を気にしていたのか不思議なほど

年齢から自由になる。

特に私が「若作りの谷」におののいていた時代の日本は、ミセスらしく、三十代らしく、といった

「らしさ」が生き残っていて、この年齢なら膝は出せないとか、二の腕を見せられないとか、

おでこを隠す髪形はおかしいとか、平気で言われていたものだ。

その時代から比べたら今は、日本もずいぶん自由になったと思うけど、

ハワイでは平気で髪に大きな花をつけて歩けるのに、帰国したときには何か躊躇してしまう空気がある。


若すぎず、老けすぎず、ムンムンしたのも嫌だし、ぎすぎすしたのも嫌。

清潔でほどよく汁気もありながら、バランスよく年を重ねることの難しさ・・・・


さいわい、ハワイにいる限り、その問題は日本ほどには関係ない。

だってハワイの人々は、着たいものを着て、煮崩れたボンレスハムのような二の腕も出しっぱなしにして(
むろん私も人のことは言えないんだけどさ)幸せそうで、

この人達には、「若作りの谷」の話なんかしても理解できないだろうなと思う。


だから私ものびのびと、二十代しか着てはいけないような服を平気で着ているわけなんだけれど、

ふと、あの店員さんのことが頭をよぎり、


「二十代しか着てはいけないような服」+「長く伸ばした髪」と

はたして私の顔が合っているかどうか、と鏡に問いかけるとき

生あたたかい汗が噴出すような気持ちになるのである。












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