太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

ワタナベさん

2014-08-23 08:02:08 | 人生で出会った人々
近所の豪邸が売りに出ていると思ったら、すぐに買い手がついた。

隣家のブライアンの話だと、買ったのは中国人らしい。

(私はこれは郵便配達のスタンの情報だとにらんでいる。このあたりのことで

スタンが知らないことなどないんだから)


夕方、帰宅した夫が、「早く早く、ちょっと一緒に来て」と言う。

私の手を引きながら、

「今そこで中国の人の車を見たから、まだ家の中に入っていないかも」

売れた豪邸まで行くと、ご主人が車から出るところだった。

「ハーイ!こんにちは!自己紹介しようと思って」

ご主人はあわてて、両手を顔の前で振りながら

「No English,only chinese」

そして家の中にいる奥さんを呼んできた。

奥さんも中国人で、英語はペラペラ。私たちが自己紹介したいのだとわかると、

ご主人の顔はパアーッと明るくなった。

「なにか悪いことをしたんじゃないかって思ったみたいで。ごめんなさいねー」



私はいつも、夫のこういうところにドギマギする。



夫の前の職場のRUDYが亡くなったとき、RUDYを知らない私に

「まっさきに転校生に声をかけるやつっているだろ?RUDYはそういうやつなんだよ」

と言ったことがあったけれど、RUDYがそうであったように、夫もまたそういう人なのだ。



夫と知り合った頃、時々ワタナベさんの話をした。

仕事を得て、新しい街に越してきて、街の中をいろいろ探検していたときにワタナベさんと知り合ったそうだ。

ある日、車で走っていたら、「あ、ワタナベさんだ!」

車を停めて、私の手を引いてズンズンと歩いてゆく。


「ワタナベサーン!コンニチハー!」


そこに立っていたのは、ホームレスの女性だった。



ショックだった。


夫がホームレスを差別しないことにじゃなく、

私がホームレスを差別していたことに。

差別なんかしていない、と思っていたのに、私は思い切り差別していたことに気づいた。

夫は私の肩に手をおいて

「ケッコン、シマス。オクサン」と言った。

ワタナベさんは

「ああそうかね、あんたケッコンするんかね、それはよかった、おめでとう」

と言って笑った。

私の顔は引きつっていただろう。

夫はさりげなくワタナベさんの手に1万円札を握らせて、その場を去った。


「たくさんあげすぎたと思ってるでしょ」

車に乗ってから夫は言った。

図星だった。この人は私の心が読めるのか。それとも私は全部顔に出るのか?

「僕は金持ちじゃないけど、毎月お金が銀行に入ってくる。今は1000円あっても

パンと何かを買ったらなくなっちゃうでしょ」




夫は気が短いし、持病のウツもあるし、

感情をコントロールできないことがあるし、Fワードを連発するし、

人の好き嫌いがはっきりしているし、とにかく「まったくもう!!」というところがいっぱいある。


けれども、私には到底まねできないようなことをサラリとやる。

何かが、決定的に私と違う。

私はそういう夫を、尊敬と驚嘆とジェラシーが混ざった気持ちで、しみじみと眺めるのである。







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