太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

エリザベス

2015-03-31 22:19:26 | 日記
長い栗色の髪を揺らし、

少し腰を振りながら、大またに歩いて、今日もエリザベスはやってきた。

「ハアイ」

声は出さず、口の形だけでそう言ってレジの横を通り過ぎた。

流し目をした目の上は、ハワイの空のようなブルーで彩られている。

エリザベスはブルーが好きなのだ。


魅力的に見えるだろうと鏡の前で研究したのではないかと思われる、

数々のしぐさは、おおかたわざとらしいのだけれど

うっかりすると普通に女らしくみえることもあって、たじろぐ。



エリザベスは男だ。



本名は知らない。私が勝手にエリザベスと名づけた。

エリザベスが入ってくると、私は心の中で「ハアイ、べス」と言う。


以前、私はエリザベスは女性だと思っていた。

強烈な個性の、でもどこかがしっくりとこない、不思議な女性。

エリザベスが男だと教えてくれたのはMさんで、

私はそれを知ってから、そのしっくりこない部分は一気にクリアになった。

それと同時に、エリザベスに対する個人的興味がムクムクと頭をもたげてきた。


どうしてそんな格好をしているのか。

まったくの男性で女装が趣味という人たちもいるけれど

それは趣味ではなく、心は女性なのか。

なにをしているのか。

家族はいるのか。


ここでは、同性愛であることを普通に公言して生きてゆける。

同僚にもゲイはいるし、それは左利きであるのと似たような違いでしかない。

私が女性だから、というのはあるだろうけど。

しかし女装となると、そういう知り合いはいない。



エリザベスは、誰かがばらまいてしまった小銭を、床にはいつくばって(できるだけ優雅に、というのを忘れずに)

拾ってあげたこともあった。

普通にいい人なのだと思う。

友達になったら、あんがい楽しい人かもしれない。

友達になる機会はめぐってこないと思うけれども。







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