母が、脳細胞の病になり、動作がとてもゆっくりになった。
それがわかったのは昨年の夏あたりで、とても心配していたのだが、
どうやらそれほど進行することもなく、今に至っている。
歩くのもゆっくりだし、細かい作業ができなくなってはいるけれど、
自分のことはできるし、頭はシャープで、私よりも記憶力がいいぐらいだ。
実家には、姉一家が2階部分に住んでいるが、
84になる父も元気で、一番身近にいる父が母の手助けをすることになる。
ところがこの父が問題である。
元気なのはありがたいが、昔から「バカ」がつくほどのせっかちで、
それに加えて口が悪いときた。
さらには、思ったことをそのまま口にしたあと、本人はケロリとしているのだから、
言われて嫌な思いを引きずっているこっちは腹だたしい。
母が病気であることを承知しながら、早く早くと急かし、苛立ちをそのままぶつける。
ここで一応断っておくが、
父のそういった態度は頭に来るのだけれど、根が天真爛漫で、それほど悪い人ではない。
まるで子供がそのまま年寄りになったようなのだ。
だから心底憎めないのだが、それでも毎回腹がたつことに変わりはない。
結婚生活60年近く、母はずっと耐えて生きてきた。
舅姑に耐え、夫のせっかち暴言に耐え、夫の経営する会社の仕事に耐え、親戚づきあいに耐え、
私が黙っていれば丸くおさまる、と言うのを何度聞いたかしれない。
先日、電話で母と話したときのことだ。
父がうるさくてかなわないと母は言い、そして、もう我慢するのをやめたと言うのだ。
「だからヒロコ(私の名前)、一緒にがんばろう」
私は前の結婚時代に、母のようになりたくて我慢を重ねてきた挙句、まったく幸せではなかった。
いくら我慢したって、いいことなんかひとつもない。
母はそのことを知っていて、私にそう言ったのだ。
教訓を活かして、今はたいていのことは我慢せず、逐一夫に伝えているが、
これからはますますそうしようと決意を新たにした。
もちろん、何一つ我慢しないというわけではなく(それは無理だ、たぶん)、都合のいい人にはならないということだ。
嫌な気持ちになったら、それを伝え、
聞きたいことはちゃんと聞き、
やりたくないことは、誠意を持って伝える。そういうことだ。
それが普通にできている夫婦もたくさんあるだろうが、私はそれができなかった。
母が我慢するのをやめて、いったい実家でどんなことが起きているのか、
と想像すると笑いがこみあげてくる。
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それがわかったのは昨年の夏あたりで、とても心配していたのだが、
どうやらそれほど進行することもなく、今に至っている。
歩くのもゆっくりだし、細かい作業ができなくなってはいるけれど、
自分のことはできるし、頭はシャープで、私よりも記憶力がいいぐらいだ。
実家には、姉一家が2階部分に住んでいるが、
84になる父も元気で、一番身近にいる父が母の手助けをすることになる。
ところがこの父が問題である。
元気なのはありがたいが、昔から「バカ」がつくほどのせっかちで、
それに加えて口が悪いときた。
さらには、思ったことをそのまま口にしたあと、本人はケロリとしているのだから、
言われて嫌な思いを引きずっているこっちは腹だたしい。
母が病気であることを承知しながら、早く早くと急かし、苛立ちをそのままぶつける。
ここで一応断っておくが、
父のそういった態度は頭に来るのだけれど、根が天真爛漫で、それほど悪い人ではない。
まるで子供がそのまま年寄りになったようなのだ。
だから心底憎めないのだが、それでも毎回腹がたつことに変わりはない。
結婚生活60年近く、母はずっと耐えて生きてきた。
舅姑に耐え、夫のせっかち暴言に耐え、夫の経営する会社の仕事に耐え、親戚づきあいに耐え、
私が黙っていれば丸くおさまる、と言うのを何度聞いたかしれない。
先日、電話で母と話したときのことだ。
父がうるさくてかなわないと母は言い、そして、もう我慢するのをやめたと言うのだ。
「だからヒロコ(私の名前)、一緒にがんばろう」
私は前の結婚時代に、母のようになりたくて我慢を重ねてきた挙句、まったく幸せではなかった。
いくら我慢したって、いいことなんかひとつもない。
母はそのことを知っていて、私にそう言ったのだ。
教訓を活かして、今はたいていのことは我慢せず、逐一夫に伝えているが、
これからはますますそうしようと決意を新たにした。
もちろん、何一つ我慢しないというわけではなく(それは無理だ、たぶん)、都合のいい人にはならないということだ。
嫌な気持ちになったら、それを伝え、
聞きたいことはちゃんと聞き、
やりたくないことは、誠意を持って伝える。そういうことだ。
それが普通にできている夫婦もたくさんあるだろうが、私はそれができなかった。
母が我慢するのをやめて、いったい実家でどんなことが起きているのか、
と想像すると笑いがこみあげてくる。
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