太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

二者択一

2016-06-05 14:32:33 | 日記
先週、気づいた。

両肩が、しっかり焼けているではないか。

制服はノースリーブのハワイアンプリントで、その袖ぐりに沿って肌の色が違う。

前の仕事は、外の天気もわからない、窓のない建物の中だった。

今の仕事は建物の中ではあるが、ほぼ四方に開け放した窓や出入り口があり、

ようするに屋根だけがあるようなものだ。


すっかり油断していた。

ハワイに住み始めた頃、家にいるだけなのにうっすらと焼けてゆくことに驚いた。

家の中でも紫外線はあって、しっかり日に焼けるのだと友人が教えてくれて、

日焼け止めを塗るようにしたのだったが、いつのまにかすっかり忘れていたのである。



私はもともと、色が白いほうだった。

泳げないし、運動神経も鈍いので、アウトドアスポーツといったらスキーぐらいだったのも、

焼けずに済んだ理由かもしれない。

「うまれつき色白」の上に胡坐をかいていられたのも、40の声を聞くまでであった。

きっかけは、手の甲についた汚れが洗っても落ちなかったことだった。

よく見ると、それは汚れじゃなくてシミだった。

あわてて素顔を鏡で念入りに観察してみたら、どう考えてもシミと思われるものがいくつもあって、

目の前が暗くなった。

それをホクロだと思い込んでいた自分の能天気さにもあきれた。


それ以来、美白とうたわれるものを手当たりしだい試してきたが、

シミは目立ちこそすれ、消えることはなかった。

小麦色の肌がツヤツヤと美しいのは20代まで。

焼けた肌が、その張りを失ったらどうなってゆくか、恐ろしいサンプルを私はたくさん見ている。

同じ皺くちゃでも、黒くくすんだのと、白いのとでは、見た目が違ってくる。

昔、サーフィンが好きで真っ黒に肌を焼いていた友人が、シミができてもわからないぐらいに焼く、

と言っていたのを思い出す。

しかしどんなに焼いても、シミはシミである。顔全体に隙間もなくシミができるわけがない。

彼女は今、どうなっただろう。

「色白は七難隠すんだから、あんたあんまり焼いたらダメだよ」

今更ながら、母が言った言葉が身にしみる。







そして私は考え方を変えた。

できたものはあきらめよう。

ただ、これ以上増えないようにすればいい。

昔のように白くなろう、若返ろうなんておこがましいことは言うまい。

私はこの「現状維持」の謙虚な考え方が気に入った。



それでも、日本にいるうちはまだよかった。

1年の半分以上は紫外線が激減するし、夏場だけ気をつければいい。

しかしハワイでは1年中、日本の真夏の何倍もの紫外線が降り注いでいる。

窓の近くにいなくても、そこにはかなりの紫外線があると思っていい。

それなのに私は、油断こいて素肌を晒して、気がついたら現状維持どころか

確実な後退をしていた。



今でも、色が白いですね、と言われることがある。

しかし、その前には必ず、「ハワイにいるのに」という枕詞がつく。

日本から来る旅行者の、真っ白い肌に見とれることがある。

既に焼けて色が変わってしまった肩のことは、もう忘れよう。

この状態から現状維持をすればいい。

ていうか、それしかない。



日焼け止めをずっと塗っていると、肌が少し荒れるような気がする。

日に焼けてカサカサくすんだシミ婆さんになるか、

黒くはないが肌が荒れた婆さんになるか。

この人をやめて、あっちとつきあうか、

仕事を辞めて、専業主婦になるか、若い頃の二者択一は優雅だった。

年をとってくると、二者択一もなんだかやたら物悲しいものになってくるのである。







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