カンボジアに行きたい理由

身内や知人が集まった特のことだ。

次に旅行に行くならどこに行きたいかという話題になった。

オーロラを見にアラスカ。

ペルーのマチュピチュを散策したい。

カナダの紅葉を見に。

いろんな意見が出てきて、私の番になった。

「カンボジア」

と私が言うと、一斉に

「ああ、アンコールワットだよね。あそこは私も行きたいわー」

という声があがり、行ったことがある人が、どんなに素敵だったかを説明し、

自分もカンボジアを有力候補にいれようと言う人まででてきた。



作り笑いでそれを聞きながら、

「アンコールワットってカンボジアにあったんだ」

と心の中で思っていた。

私がカンボジアに行きたいと思う理由は、かなり言いにくくなってしまった。

どこで誰に聞いたのか忘れたが、カンボジアのレストランでは、

ウェイターやウェイトレスを呼ぶのに、口を尖らせて、まるでチューをする真似のように

「チュチュチュチュチュ」

と唇を鳴らすらしい。

声を出すでも、手を上げるでも、目配せでもなく、チュチュチュ、である。

レストランのテーブルにいる人達が、ウェイターを目で追いながら、ことごとく口を尖らせて

「チュチュチュチュチュ」

とやっているなんて、そんなおもしろいものを絶対にこの目で見てみたいじゃないか。



パーティが終わって、夫と二人になったとき、

本当の理由を話したら、夫は目を輝かせた。

「行きたい、行きたい、行って、ぼくもやってみたい！アンコールワットは時間があったら行こう」

このあたりが、私が夫と結婚した理由のひとつのようである。







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