太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

人の人生

2019-05-01 08:02:28 | 日記
人の人生に、圧倒されることがある。

ハワイで旅行代理店をやっている、小林さんという人がいる。
小林さんは両親が日本から移住してきた二世で、ハワイで生まれた。
日本人なのだから、日本や日本語も知っておいたほうがいいという両親の勧めで、日本の中学に入った。
まもなく戦争が始まり、満州の高校に行けば兵役を免除されるということで、
小林さんは満州の高校に入った。
数年後、日本は敗戦。
満州にソ連軍がやってきて、紙を配った。
その紙には、自分が兵隊であったか、学生だったか、という質問が書いてあり、
兵隊だと答えるといくばくかのお金がもらえる、という話だった。
まわりの生徒達はこぞって「兵隊」に丸をつけたが、小林さんは嘘をつきたくなかったので「学生」に丸をつけた。
兵隊に丸をつけた人たちは、お金をもらえるどころか、列車に詰め込まれてシベリアに送られた。

その後、牛乳を日本人の家に配達する仕事をしたりしながら生き延びて、
何年もかかってようやく日本に戻ってきた。
広島の田舎に住む母親に会いに行くと、息子の痩せさらばえて、ボロをまとった姿を見て、母親は幽霊かと思ったという。
小林さんは上智大学で学び、ハワイに戻ってきたときには、殆ど英語を忘れていた。
日本人相手のホテルを両親とともに始めて、ホテルの片手間にやっていた旅行代理店が、今は本業となった。

山崎豊子の「不毛地帯」のモデルになった瀬島龍三氏しかり。
百田尚樹の「海賊と呼ばれた男」のモデルになった出光氏しかり。
「流れる星は生きている」の藤原ていさんしかり。
いいことも悪いことも、誰でも人生ならしたら同じだ、と母は言ったけれど、
そうでもない。
私達が、いくつもの人生を繰り返し生きているのだとしたら、
私が覚えていないだけで、そういう大波乱の人生が、いつかの私の人生であったかもしれないけれど、
恵まれた今生の中の、ほんのささいな浮き沈みを「波乱」などとはけして言えないのである。