太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

「ガール」

2019-05-24 19:21:27 | 本とか
作家・奥田英朗氏は、女性なのではないかと思った。
ネットで探してお顔を拝見してみた。
なかなか味のある、穏やかそうなお顔の奥田氏を眺め、それでもなお、
いやこれはかりそめの姿で、本当は女なのではなかろうかと、まだ思っている。
そうでなければ、どうしてここまで女の気持ちがわかるのか。

『ガール』には5つの短編が入っている。
どの物語も、三十代の女性が主人公だ。
四大卒で入社して14年目の大手不動産会社で、異例の抜擢を受けて課長になった武田聖子。
三期先輩の男が部下になり、女の上司を認めたくない男との間の葛藤に悩むが
胸のすくような最後に、読者のほうが溜飲をさげる。

同期の独身の女友達がマンションを買ったことで、自分もマンション探しをする34歳の石原ゆかり。
38歳のシングルマザーである平井孝子、
一回り年下のイケメンの指導係になった34歳の小阪容子。
表題作「ガール」に出てくる、32歳独身の主人公、由紀子は
もうガールではいられなくなったことを日々感じつつも
歳相応になるのも嫌で、宙ぶらりんのところにいる。
それに比べ、6歳年上の先輩社員、通称オミツは、思い切りガールのままで
自分が大好き、オミツは周囲を圧倒させながら、なぜか愛されている。
このオミツのキャラクターが、とてもいい。

それぞれが向き合う、さまざまな感情、葛藤、よろこび、落胆、
そのどれもが、まさに手にとるように伝わってきて、心が震える。

 

最後に、一回り年下のイケメンの指導係になった容子の、
イケメンの気を惹こうとする同性たちに対する観察眼が、なかなかおもしろい。
少しだけ抜粋する。
イケメンに近づくのが菜穂子。

菜穂子は黒髪を後ろで束ね、化粧は薄めだった。一見すると清楚な感じで
消費者金融のCMに出てきそうな顔立ちだ。男がいうところの「守ってあげたい」タイプというやつだ。
ただ同性にはわかる。
この手の女は結構計算している。カマトト風の裏にある本性はわかったものではない。
(中略)
きっと菜穂子はすぐにメールしてくる。『さっきはいきなり失礼しました。
これからもよろしくお願いします』などという文面だ。
最後に絵文字が入っている。そうに決まっている。
(中略)
美樹は家庭的な女作戦で、「クッキー焼いたんですぅ」と課のみんなに
配ったりする。容子はクッキーをつまみながら、
「炊事は親任せでもお菓子は作るんだね」とつい意地悪を言ってしまった。

ここには、正直で見得っぱりで、頑張りやでかわいくて、ちょっと意地悪な「ガール」たちがいる。
女ってかわいいなと思う。
女に生まれてよかったと、思う。

この本はぜひ、三十代のガールよりむしろ、四十代、五十代の元・ガール達に
読んでほしい。


そういえば、
奥田英朗氏の、「マドンナ」という本は、オジサンの短編が詰まっている。
これはこれで、オジサンたちの心模様がいじらしく、特に表題作「マドンナ」など
恋するオジサンに、なぜか自分が重なって、一緒にどきどきしてしまう。