佐佐木幸綱選
レプリカの竪穴住居の入口に消毒用のアルコールあり 松戸市 遠山絢子
下町の小窓の部屋のワンルーム暑さに耐えて履歴書を書く 横浜市 徳元てつお
一首目、縄文時代の建物のレプリカに、新型コロナウイルス対策の消毒用アルコールという取り合わせが、とてもきいています。この歌は高野公彦氏も選んでいます。二首目、これが現実なんだと悲しくなるけれど、応援しています。私も下町出身なんですよ。
高野公彦選
枝先にモリアオガエルの袋ありふくらむ中は生命(いのち)の宿坊 飯田市 草田礼子
モリアオガエルの卵のかたまりを宿坊と表現したのがすごいと思いました。言い得て妙です。この歌は馬場あき子氏も選んでいます。
馬場あき子選
「抑留」を訊けど多くを語らずに父は白寿を生きて逝きたり 南丹市 中川文和
五歳にて空襲により気絶せしわれただ祈る戦争の終結 入間市 有賀政夫
昨日はヒロシマに原爆が落とされた日でした。8月は特に、戦争と平和について考えることが多い月です。この二首も、戦争のことがテーマです。抑留といえば、ソ連のシベリア抑留のことではないでしょうか。相当多くの日本兵捕虜が強制労働で亡くなりました。戦争を生き延びたのにです。多くの兵は、南洋などで補給もなく餓死に追い込まれていました。こういう無謀な戦争をした日本軍の上層部は、戦後にきちんと罪を償ったのでしょうか、疑問です。押し付けられた日本国憲法と言われていますが、庶民はこの戦争を二度と起こすまいとして「戦争放棄」を選び、男女平等をとてもありがたく思ったに違いありません。自由と平等が、どれだけそれ以前の社会と違ったものだったか。それなのに、今もあの当時の社会に戻ろうという考えがあるのが、本当に腹が立ちます。家父長制度がどうです。LGBTの否定もそうです。多様性が尊重されるべきなのに・・。もう二度と戦争をしてなはいけないのです。日本人はそれを心から望んでいたはずなのです。平和の尊さを、再認識しなくてはいけません。どれだけの犠牲のもとにこの平和が訪れたのか、もっと考えなくては。
私はこの朝日歌壇で以前にも書きましたが、子どもが詠んだからといって、紙面に載せることに違和感を感じています。今回も、「編集者さんに初めて会いました一緒にひみつきちに入った」という歌が選ばれていますが、これはこの歌を詠んだ子供と親たちの家族の歌集が出るからこういう歌が詠まれたのでしょう。でも、これって、暗に歌集の宣伝になっていませんか?紙面でこういうことをするのはどうかと思います。私はいやですね、馬場あき子さま。
自分の短歌の勉強にもなるし、面白いからと続けてきたこのコーナーですが、面白さ以外に、ネガティブな思いが出てきてしまいました。もうやめたほうがいいのかもしれませんね。