原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

むなしい若者

2008年05月15日 | その他オピニオン
 どうやら、現代の若者は“むなしい”らしい。
 いや、現代に限ったことではなく、昔から“若さ”とは虚無との闘いであるのかもしれない。

 5月10(土)朝日新聞夕刊「こころ」のページ“悩みのレッスン”の若者の悩みもこの“むなしさ”なのである。
 以下に、中学3年生の相談内容を要約する。
 この春中3になり高校受験の年であるが、勉強する気が全く起きない。自分には作家になりたいという夢があり、童話を書いたり物語を作るのが好きだ。だが、自分の夢の実現方法が分からず、勉強も手につかず、ただ流される毎日である。この1年をどう過ごせばよいのか。

 当ブログのバックナンバー記事「学問は虚無からの脱出」においても、この“悩みのレッスン”を取り上げた。前回の相談者は高校生だったが、悩みの内容が今回とほぼ同一だ。 小説家になりたい希望はあるが勉強をする意義が見出せない、という相談であった。
 この相談に対し、創作家の明川哲也氏が「ほぼすべての若者の対決は“生 vs 虚無”の構図にある。まず“虚無”を認識しそれに敗北することがスタートである。」という趣旨の回答を書かれていて、私見も同感であることは既述した。

 今回の相談の回答者は哲学者の永井均氏なのだが、その回答を以下に要約する。
 誰もがしなければいけない勉強などそんなにはない。 たぶん小学校の勉強だけで十分である。 与えられた勉強を与えられるがままにやれる人というのは、「順応主義的」といえるような特殊な才能があり、そうでない人には真似はできなくて当然である。ではどうするか。中学生ならばもう自分の「専攻」を持つべき。幸い、相談者は作家になるという夢があり、既に問題は解決されている。まず、真剣に本格的な作品を書き人に批評してもらったり、人の作品を読んだり、話の作り方や書き方の研究もしよう。そして自分の「むなしさ」についてその本質をつかみ作品化することも試そう。そのような自分にしかできない勉強を通じて、学校の勉強もはじめて自分のものとしてつかめるようになる。


 私論を述べる前に、自分自身の中学生時代を振り返ってみる。

 私の中学生活は至って多忙だった。なぜならば、私は(自分で言うのも何だが)勉強もよくする生徒だったのに加え、クラブ活動(今は部活と言うのか?)に没頭していたためだ。 ブラスバンド部に所属していたが、過去において全国優勝経験がある程の伝統ある部で、活動が大変厳しかったのだ。 毎日夕方6時頃まで、土曜の午後も、そして日祝日は終日練習、夏休みには合宿もあった。 加えて、中学校管轄自治体の市民バンド的な役割も果たしていて、市の各種行事、例えば消防出初式、成人式、駅の開通式、市内パレード、etc…にはいつも演奏隊として駆り出される。それに毎年定期演奏会に学校の文化祭での舞台、そして極めつけのコンクール出場と、年中行事が目白押しなのである。(表舞台に立つことを好んでいた私にとってはこれが快感で、大きな達成感を得たものである。) 中3の2学期までこれを頑張った。 合間に部の仲間とのコミュニケーション(帰りの寄り道等のチョイ悪行動)もこれまた楽しくてはずせない。 この過密スケジュールの中、私は高校受験勉強もそつなくこなし、第一志望校合格を見事ゲットした。 (一応、私の出身の都道府県では当時1、2位を争っていた名立たる高校なのだが…。当時も今も推薦入試など一切なく、自力での学科試験合格ゲットだった。)

 この通り、私の中学生時代は“むなしさ”を感じる暇など一切ない程忙しかった。
 ここから結論を短絡的に導くならば、虚無からの脱出の一番手っ取り早い方法は自分を過密スケジュールの中に置くことである。 過密とまではいかずとも、ある程度自分に負荷をかけることにより虚無を回避することは可能ではなかろうか。
 ただしその負荷が自分の意に沿わない事柄である場合は、当然長続きしないどころがかストレスばかりを食らうであろう。好きであるからこそ対象事象に没頭できるのだ。

 そういう観点から推測して、この相談者は本当にものを書くことが好きなのであろうか、という疑問符が私の頭をもたげる。 もしかしたらただ単に“作家”という職業に漠然とあこがれているだけなのかもしれない。ただ、まだ中学生の相談者にこの指摘は酷であるため、私論としてもとりあえずは永井氏の回答を支持する。 とにかく自分が好きだと思えることを行動に移してもっと掘り下げよう。 それを日々実行している間に、気が付いてみれば“虚無”から脱出でき、学校の勉強にも励んでいる自分がそこに存在しているかもしれない。


 それにしても若さとは“むなしさ”との闘いであり、それはごく自然で健全なことだとも思うけどね。
 えっ、年をとってもまだむなしいって? 今の時代、その気持ちもわかるよね…。
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