原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

3年前の春に東京都立単位制高校へ入学した少女、今どうしているだろう?

2021年06月07日 | 教育・学校
 冒頭から、この物語の原版である本エッセイ集2018.03.21付公開の「ある不登校少女の旅立ちの春」と題するバックナンバーエッセイを、以下に再掲載させていただこう。


 昨年(2017年)の春頃だっただろうか?
 とある知人(以下T氏とさせていただくが)より、「不登校少女」に関する相談を持ち掛けられた。
 その後1年間に渡り、1,2ヶ月に1度程度の頻度で直にT氏にお会いし、面談の形式でお話を伺い続けて来た。
 何故T氏が私に相談を持ち掛けて下さったのかと言えば、私が元高校教諭であり、不登校生徒等々“いわゆる問題児”を多く抱える底辺高校(関係者の皆様には失礼な表現をお詫び申し上げます。)での勤務経験がある事実をご存知だからに他ならない。

 当該不登校少女は、T氏の姪御さんに当たる人物だ。
 昨年の春頃の第1回目のT氏の訴えによると。
 少女は父親からずっと暴力を振るわれていたとのことだ。 そして、(これは私の勝手な推測に過ぎないが)T氏の姉に当たる少女の母親の存在感がどうも薄いご家庭と判断した。
 中学生になった頃から少女は学校へ行くことを嫌がり始めたようだ。 そんな少女を無理やりに学校へ行かせようとの言動に出た両親に反発心を抱き、結果として少女は家を出て、おばあちゃん(T氏の母親に当たる人物)の家へ転がり込んだ。 
 それを比較的暖かく迎えたおばあちゃんとT氏だったようだが、どうやらご両人の思いも少女に学校へ行って欲しいとの結論であり、それを少女に伝えたようだ。 
 結果としては少女は学校へ行ったり行かなかったりしつつ、中3になった頃からはほどんど行かなくなったらしい。  中3ともなれば高校進学を控えた身であり、こんな事では高校受験すらままならないと焦った保護者だった様子だ。

 そんな折に、T氏から私に相談を持ち掛けられた。

 まず最初に、私は「不登校肯定論者」であることを明確に断った上で、上記少女の経歴を伺い一番先に伝えたのは。
 周囲が少女に学校へ行かせる事を焦る以前の先決課題として、父親から暴力を振るわれたとの辛い過去の出来事がどれ程未だ幼き少女の心の痛手(トラウマ)となっているか、を家族に慮って欲しい旨話した。 
 この段階で家族が少女相手に高校受験を取り出して、「高校へ行かないと将来が無い」等々、少女の心の痛みに不安を上塗りする事は避けるべきこと。 それよりも優先するべきは少女の心の開放であり、それを実行出来る手段は何なのかを周囲の人間こそが模索してはどうかともアドバイスした。

 その後のT氏の話によれば、少女は比較的可愛い部類の女の子でどうやらAKBになりたいそうなのだ。 そしてスマホで知り合った友達と原宿や秋葉原へお洒落をして出かけたりしていると言う。
 その状況を、T氏も家族も「馬鹿なことばかりして…」と嘆いている様子なのだが…
 
 この談話に、私など一抹の光をみる思いだった!
 咄嗟に私の口から出た一言は。 「その子、大丈夫です! 将来性があります!!」
 いや、伊達や冗談で言ったのではない。 私も本気で相談に乗っているつもりだ。
 女の子にして“可愛い”のは今時将来性の必須条件だ。 しかもお洒落をしようとのエネルギーが内面にあり実際に原宿や秋葉に出かけるパワーがあるのならば、その年齢にして必要十分ではなかろうか。
 いえいえ、家族皆が少女がAKBと騒ぐ事態を嘆くと共に、それになれるなど思ってもいないのは認めるとしても。 少女が主体的に成しているそんな幼き行動を今現在否定する事は、将来的にマイナスにさえなる事実も伝えた。

 秋が近づいた頃、やはりT氏から具体的な「進学相談」が発せられた。
 T氏によれば、 相変わらず学校に行っていない分勉強もしないし、成績は劣悪、この状況で全日制の高校受験に合格する訳も無い。実に頭が痛い…」 

 これに私が応えて、「今現在様々な形態の高校が存在するようですよ。 例えば定時制とか単位制の高校もあるようです。 全日制にこだわらなければ進学の夢は繋げるし、少女が成長を遂げ大人になるにつれ心が開放され、今後勉学に励まないとも限らない。 その際に勉強をする場はいくらでもあるだろう。 私が勤務していた底辺高校でも、挫折を乗り越え心機一転勉学に励み国立大学合格を果たした子もいた。 あるいは、それこそ音楽等々芸能分野で活躍している子もいる。 繰り返すが、少女が未だ中学生である事に鑑み、少女の夢を潰すことのみは避けて欲しいものだが。」
 この類の話題が何か月が続いただろうか……

 そして、年が明けた頃だっただろうか。
 T氏が私に告げるには。
 少女が単位制高校受験に合意したとのことだ!
 その受験科目が「面接」と「作文」とのこと、早速アドバイスをした。 「可愛い女の子らしいし、(タレントを目指したい程の勢いがある子にして)人前で笑顔も作れる子とのこと。 そのままの笑顔で素直に面接に臨めば、教員側とて何も文句は無いはず。 作文に関しても、何を書こうが少女の自由だ。私ならばそういう子の感性こそを好む。 一つだけ、小学生レベルの漢字の復習を無理のない範囲でしておいた方がいいかも。」

 本エッセイの最後になるが…
 そうこうして先週T氏より届けられたのが、少女の単位制高校合格の吉報だ!
 こんなに嬉しいことはない。 何だか、私が少女の担任を1年間まっとうしたと勘違いさせられる程に実に嬉しい一瞬だった。
 ただ、ご家族にしてみれば今後の少女の未来こそが不安である事には間違いない。
 更にT氏が私に尋ねる。 「本当に学校へ行ってくれるかどうか…。 家族としては、学校のみではなく同時進行でアルバイトをさせる方が良いと考えている。」
 応えて私曰く、「その通り!と私も思います。 自分が所属する組織を同時進行で複数持つとの事実は、必ずや本人にとっての“逃げ場”となり得ます。 単位制高校だからこそそれが可能な訳ですし、アルバイト先との“逃げ場”を作っておくことで心のオアシスにもなり得ますし、何よりビジュアル系にしてニコニコ笑顔が得意な姪御さんの将来が開けるやもしれませんね!」
 ついでに、T氏よりの姪御さん高校進学後も相談に乗ってくれるか? との問いに関して「もちろん!」と力強く答えておいた。

 その姪御さんが、今週中学校の卒業式を迎えるとのT氏の談話でもあった。
 卒業式に出席してくれるかどうかも不安、との家族のご心配のようだが… 
 元教員の我が視点からは(あくまでもT氏よりの相談内容による考察観点に過ぎないが)、貴女がもしも中学校卒業式に出席しなかったとしても‥…
 単位制高校合格、おめでとう!
 過去のトラウマにもめげず、この世を自分なりに一生懸命生きようとしている貴女は、本当にいい子だよ!!

 (以上、2018.03バックナンバーを再掲載したもの。)


 この話の後日談をしよう。

 少女が単位制高校へ入学後、T氏と面会する機会が2度程あった。

 一度目は、少女入学後早期の頃だっただろうか。
 少女は単位制高校三部制の昼間の時間帯を希望して、高校へ通っているとの報告だった。 「それは何よりです!」と私は返答した。

 その後T氏にお会いしたのは、少女が3学期を迎えた頃だっただろうか。
 T氏曰く、「アルバイトで始めた某イタリアンチェーンレストランにての仕事は頑張っているものの… 高校への出席率が下がってしまっています…」

 いやはや、実に困難な課題である事実を元教育者として認識せざるを得ないのだが…
 ただ私の回答としては、「仕事現場で活躍できることこそが、将来性があるのではないでしょうか?」 多少苦し紛れの回答だったが、今尚それぞ正論と思う節もある。



 今回のエッセイを綴るきっかけを得たのが、朝日新聞6月5日の「通信制高人気 多様な進路応援」を読んだことによる。
 当該記事によると、現在通信制高校に在籍する生徒が増加を続けているらしい。
 その人気の理由とは、生徒が求めるものが多様になったのに応え、実社会とのつながりを求めたい生徒の希望に応えるべくプログラムを提供いている、とのことである。
 ただ一方で、ずさんな運営を未だ続ける学校もあるとのこと。
 これらの事実を受けて、文科省では通信制高校の教育の質の確保、向上に向け指導計画や設備基準強化の改正を目指すというが…


 最後の文科省による通信制高校の話題に関しては、今すぐに信用可能とは判断不能なものの。

 確かに、我が国に於ける単位制高校(チャレンジスクールとも呼ばれているが)は、ある程度進化を遂げていると考察可能なのではなかろうか。