◎苛烈なる戦局下、幾多の困難が予想せられる(朝日新聞社出版局)
昨日のブログでも触れたが、日本文学報国会編纂『古事記・祝詞・宣命』(国民古典全書第一巻、朝日新聞社、一九四五年一月)には、「国民古典全書通信 第一号」と題する附録がはさまっていた。
ふたつ折り全四ページだが、その第一ページには、朝日新聞社出版局による「第一巻発行に際して」という挨拶、および、久松潜一の「国民古典の意義」と題する文章が載っている。本日は、このうち、「第一巻発行に際して」を紹介してみよう。
第一巻発行に際して
日本文学報国会編纂にかかる「国民古典全書」の刊行は、第一期五十二巻といふ長期継続の事業であり、苛烈なる戦局下印刷資材等にも幾多の困難が予想せられるのであつて、中央公論社の自発的廃業により刊行継承の議が起つた際、本社出版局としても熟慮を要したのであるが、関係当局の懇切なる勧奨もあり、且は本全書に集る挙国的な期待とその緊要不可欠なる国家的性質に鑑み、万難を克服して完遂に当る決意を固めた次第である。
茲に諸般の準備整ひ第一巻を発行するに当り、些か継承の微衷を披瀝し、併せて大方諸賢の厚く渝らざる御支援を冀つて止まぬものである。
昭和十九年十二月 朝日新聞社出版局
これによれば、「国民古典全書」は、当初、中央公論社によって、刊行が進められていたようだ。ところが、同社の「自発的廃業」により、朝日新聞社出版局が、その刊行を引き継ぐことになったのだという。
ここに「自発的廃業」とあるが、事実は、言論弾圧事件として知られている「横浜事件」などに象徴される言論弾圧によって、廃業に追い込まれたものである。ところが、この「自発的廃業」によって、「国民古典全書」の刊行が宙に浮いてしまうことになった。慌てた当局は、朝日新聞社出版局に、刊行の継承を押しつけたといったあたりが真相であろう。
なお、こうした経緯についての記述は、管見では、どんな文献にも載っていない。インターネット上にも、まったく情報がない。つまり、このブログ独自のネタではないかと、ひそかに自負している。【この話、さらに続く】