礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

吉波彦作の文検受験用漢文参考書(1925)を読む

2021-04-01 00:08:52 | コラムと名言

◎吉波彦作の文検受験用漢文参考書(1925)を読む

 今から十年ほど前に、吉波彦作著の『漢文研究要訣』(大同館書店、一九二五)という本を入手した。入手した当時は、そうでなかったと記憶するが、今日、この本は、国立国会図書館のデジタルコレクションによって、インターネット公開されている。ただし、そのタイトルは、『文検受験用漢文白文訓読復文作文支那時文研究要訣』となっている。
 この本のタイトルは、奥付によれば、『漢文研究要訣』。しかし、背表紙には、『漢文{白文訓読/復文作文/支那時文}研究要訣』とあり、本扉には、『文検/受験用 漢文{白文訓読/復文作文/支那時文}研究要訣』とある。国立国会図書館は、本扉にあるタイトルを採用したのであろう。ちなみに、「文検(ぶんけん)」とは、文部省中等学校教員検定試験のことである。
 当ブログでは、このあとしばらく、この漢文参考書を紹介してみたい。
 本扉のあとには、「緒言」。これが一ページから七ページまである。ところが、国立国会図書館架造本は、一ページと二ページが「欠」となっている。何者かによって、破りとられたのであろう。ここでは、欠ページも含めた「緒言」の全文を、二回に分けて紹介してみたい。

   緒 言

 ■真実に受験者の為めに、適切な参考書といふものは、受験に苦しみ悩んだ者で無くてはわからない筈である。受験といふものに没交涉である人は、受験者の苦悩や要求を如実に味ひ知ることが不可能である。従つて受験者の忠実なる伴侶たるを得ないと言つてもよからう。
 ■今日受験の為めの参考書は、次から次へと新しいものが多く出版される。けれども受験者の切実に要求してゐる関鍵に触れるものが乏しい。又真実に受験といふ苦悩を体験した人の著作も極めて尠い。故に浩瀚な書冊や繁瑣な研究物などを渉猟して、自ら苦辛惨澹するより外に方法がないのである。若し要を撮り萃を抜いた簡明なものがあれば、どれだけ受験者の労力と時間とを節約せしめることが出来るか知れない筈である。
 ■私は小学校の尋常科高等科の准教員から正教員を経て、文検に合格するまで試験ばかりを幾階級も経過して来たので、独学の痛苦と受験の懊悩といふことは、相当に味ひ知るを得たつもりである。さうして其の後も受験の希望者を鼓舞激励するが為めに、参考書を書いたり、各種の雑誌に投稿したりして、自分だちと同じいやいやな境遇に居らるる諸彦の相談相手ともなり指導者ともなりたいと思つて、自分自身を鞭撻して来てゐるのである。
 ■現在私の周囲には常に数人の受験者があつて、予備試験だけ合格した者や、国語科を受けて漢文科をやらうといふ者やいるいろある。又全国の各地にも未見の同志があつて、受験の参考書や研究法などのことを質問して来るものが尠くない。それらの人々の経験せる切な要求に応じて、本書が生れ出たのである。
 試みに本書の内容一斑を概説して見ると左の如きものである。
 ■本書の第一篇は、専ら漢文問題の分解的方法、即ち白文の訓読法を各種の方面から講究したもので、各章の方法を実際的に練習熟達すれば、必ず相当に速効を挙げ得ることと信ずる。部分的にはもつと詳しい参考書もあるが、それは受験者の為めに直接適切だとは思へないものが多いので、系統的に組織的にまとまつた手近なものは、未だ何処からも出版されて居ないやうである。
 ■第二篇は、復文と作文とに就いて、実際的練習の方法と問題とを講究したもので、現在では之れと同種類の参考書は唯の一冊も無いのである。受験者諸賢から復文作文に関する参考書の質問の多いことが、充分に之を証拠立てゐる。恐らくは此篇だけでも読者の為めには適切な参考書たり得るものであることを推奨するに憚らないのである。
 ■第三篇は、支那時文を訓読したもので、之も過去の試験問題を始め、支那の新聞雑誌から得た最新の材料に就いて、時文の練習上最も適切なものを択んだつもりである。他に時文の参考書がいくらもあるが、文検の受験を目的としたものは、寡聞にして未だ多くを知らない。殊に第六章の「用語摘解」は読者諸彦の為めに便益が多からうと思ふ。【以下、次回】

 ふたつ目の段落の最後、「筈である。」までが一ページ。そのあと、五つ目の段落の「各種の方面」までが二ページである。

*このブログの人気記事 2021・4・1(8・10位の桃井論文は久しぶり)

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