◎『日本児童生活史』(1941)のカナヅカイ
桜井庄太郎の『日本児童生活史』(刀江書院、一九四一)は、一九四一年(昭和一六)六月に初版が出ているが、すでにこの段階で、新しいカナヅカイを採用している。
本日は、同書の「序」から、カナヅカイについて言及している部分を引いてみよう。なお、漢字は、新字に改めてある。
なお本書の執筆に当つて、わたしは、引用の場合を除いては、全部、文部省臨時国語調査会発表の「カナ遣改定案」に拠つて書いた。わたしは、文字と発音とは一致すべきもので、小さい子供たちに、今日の発音とは異る歴史的カナヅカイを教えることは、全く無意義で愚かしい限りだと信するものである。文部省が進んでこの「カナ遣改定案」を実行に移し、国民学校、青年学校、中等学校などの致育もこの発音式カナヅカイに拠つて行われ、一般の新聞雑誌の文章もこれによつて書かれる日が、いづれ来ることをわたしは確信しまた望んで止まない。わたしがあえてこの発音式カナヅカイによつて、この書を書いたのは、児童文化の重要な問題がここにもあることを意識したからである。昭和十四年頃から、高倉テル氏の「大原幽学」、羽仁五郎氏の「ミケルアンヂエロ」など、この「カナ遣改定案」によつて書かれたすぐれた著述が、つぎつぎに出版されたことは大いに喜ばしい。わたしのこの小さな著述に何のとりえがないとしても、発音識カナヅカイで書いたことだけは、ささやかながら、日本文化への一貢献であると、みづから信じている。
桜井庄太郎(一九〇〇~一九七〇)は、社会学者。あまり有名でないのは、学問的な実績がないからではなく、単に学閥にめぐまれなかったためであろう。この『日本児童生活史』などは、岩波文庫、東洋文庫、講談社学術文庫、平凡社ライブラリー、講談社学術文庫のどれにはいってもおかしくない名著だと思う。
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