政府・自民党の番組介入に放送局の反応の鈍さは問題
代表委員 大西 五郎
首相が生出演中に番組構成に異議
昨年終盤から今年にかけて安倍首相やその側近、自民党による放送番組への介入が目立っています。
まず、11月18日に安倍首相は生出演していたTBS「ニュース23」で「アベノミクスは自分たちのところに届いていない」という街の声が紹介されたことに対して番組中に「実態が反映されていない。政権に反対する声を大きくとりあげている」と抗議しました。
首相側近が自民党担当記者を呼びつける
そしてその翌日(衆議院解散の前日)、自民党本部の部屋にNHKを含むTVキー局6社の自民党担当のキャップ記者が一人ずつ呼ばれ、筆頭副幹事長の萩生田光一衆議院議員から「選挙時期における報道の公平中立ならびに構成の確保についてのお願い」という文書を渡されました。そこには▽ゲスト出演者の選定▽街頭インタビュー・資料映像の使い方▽特定の立場から特定の政党出演者への集中がないこと、が書かれていました。
衆院選報道前回比4割減 「公平」要望も影響かと毎日新聞
総選挙後の12月18日に、毎日新聞は「NHKを含む在京地上波テレビ6局で、選挙関連の放送時間が前回衆院選(2012年12月)の同期間に比べ約4割減っていた」と報道しました。選挙期間中の6局の選挙関連の放送時間は38時間21分で、前回の61時間45分に比べ37.4%減りました。民放5局の情報・ワイドショー系番組での放送時間が大幅に減ったのが原因。選挙関連番組は視聴率がとれないとの判断に加え、自民党の“公平要請”も影響したと見られると毎日新聞は分析しています。
古賀茂明氏「政府の圧力で報道ステーション降板」発言
今年に入ってからも政権・与党による報道介入問題が続きました。3月27日にテレビ朝日の報道ステーションでコメンテーター役を務めていた元経産官僚の古賀茂明氏が番組中に、社長の意向などで報道ステーションから降板することになったこと。政権から激しいバッシングを受けていたと発言しました。テレビ朝日は社としてその事実を否定しましたが、古賀氏は番組関係者に政府関係者からメールが届いた事実があると云っています。
番組を特定して放送内容を批判
また最近判ったことですが、総選挙公示直前の同月26日に、自民は福井照報道局長名で24日放送のテレビ朝日報道ステーションについて「アベノミクスの効果が大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないかのごとく紹介する内容だった」として、放送法に則り公平中立な番組作成に取り組むよう配慮をもとめる文書を出していました(4月10日朝日新聞及び毎日新聞)。
番組の内容・構成にまで一々立ち入った干渉です。政権に対する批判が国民の間にどのように現れているかをどう報道するかは報道する側が最も適切と考える方法で表現することであって、政権党から指示されることではありません。
自民党がテレビ朝日、NHKを呼びつける
自民党の情報通信戦略調査会が4月17日に番組内容に問題があったとして、テレビ朝日とNHKの幹部を党本部に呼びつけて事情聴取を行いました。
自民党が問題にしたのは、テレビ朝日の報道ステーションで番組のコメンテーター役だった元経産官僚の古賀茂明氏が番組の中で「菅官房長官をはじめ官邸の皆さんにはものすごいバッシングを受けてきた」と発言した問題で、菅氏や自民党は事実関係を否定しています。NHKについてはクローズアップ現代で“やらせ”があったのではないかとされている問題です。
多くのテレビや新聞の記者が取材しようと集まりましたが、会議は非公開で行われました。事情聴取が終わった後、テレビ朝日の福田敏男専務取締役は「事実関係についてご説明しました」とだけ語り、NHKの堂元光副会長も「説明しただけ」と語りました。
情報通信戦略調査会の川崎ニ郎会長は「テレビ局の社内検証が不十分ならば、BPOに申し立てることも検討する」と、権力の側が放送を規制する姿勢を示しました。
放送法は本来放送局の編成・放送の自由を保障するもの
政府と自民党が放送法を持ち出して放送内容を規制しようとするのは本末転倒です。放送法には
第三条 放送番組は、法律の定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるとこによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害さないこと。
ニ 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
と規定されています。番組の編集にあたっての基準は放送局が自主的に守ることを前提にしており、外部(政治権力など)から強制されることではありません(第三条)。政府と自民党が放送法に基いて放送番組を規制しようとすることは言論・報道の自由を侵すことになります。
放送局側の反応の鈍さは問題
これらの政権と与党からの介入に放送局の反応が鈍いことが気になります。直接自民党から報道ステーションのことで批判されたテレビ朝日も番組で自社の立場を説明し、自民党に反論すべきですが、していません。その他のテレビ局ではTBSが「ニュース23」や「サンデーモーニング」でこの問題を採り上げて政府と自民党を批判していましたが、他の局は殆ど無音のようです(長時間の深夜のニュース番組は時間帯が重なって全部の局を視ることは不可能ですが、新聞の番組表を見てもこの問題に触れた項目が見つかりません)。
新聞は挙って政府・自民党の対応を批判
新聞は例えば自民党の情報通信戦略調査会がテレビ朝日とNHKを呼びつけた問題で、朝日新聞が「自民党の放送『介入』は許されない」、毎日新聞は「政権与党は介入を控えよ」、中日新聞は「権力と放送 統治の具と成す不見識」、日経新聞も「首かしげる番組内容の聴取」と社説で批判しています。普段は政権寄りの社説や解説の読売新聞までもが「テレビ幹部聴取、与党として適切な振る舞いか」と批判しています。産経新聞は「自民党とテレビ 番組介入は抑制的であれ」でテレビ局側も安易に介入を招くような隙を見せぬようにすべきだとしています。
放送局は同じ言論機関として新聞社の態度を見習うべきです。
代表委員 大西 五郎
首相が生出演中に番組構成に異議
昨年終盤から今年にかけて安倍首相やその側近、自民党による放送番組への介入が目立っています。
まず、11月18日に安倍首相は生出演していたTBS「ニュース23」で「アベノミクスは自分たちのところに届いていない」という街の声が紹介されたことに対して番組中に「実態が反映されていない。政権に反対する声を大きくとりあげている」と抗議しました。
首相側近が自民党担当記者を呼びつける
そしてその翌日(衆議院解散の前日)、自民党本部の部屋にNHKを含むTVキー局6社の自民党担当のキャップ記者が一人ずつ呼ばれ、筆頭副幹事長の萩生田光一衆議院議員から「選挙時期における報道の公平中立ならびに構成の確保についてのお願い」という文書を渡されました。そこには▽ゲスト出演者の選定▽街頭インタビュー・資料映像の使い方▽特定の立場から特定の政党出演者への集中がないこと、が書かれていました。
衆院選報道前回比4割減 「公平」要望も影響かと毎日新聞
総選挙後の12月18日に、毎日新聞は「NHKを含む在京地上波テレビ6局で、選挙関連の放送時間が前回衆院選(2012年12月)の同期間に比べ約4割減っていた」と報道しました。選挙期間中の6局の選挙関連の放送時間は38時間21分で、前回の61時間45分に比べ37.4%減りました。民放5局の情報・ワイドショー系番組での放送時間が大幅に減ったのが原因。選挙関連番組は視聴率がとれないとの判断に加え、自民党の“公平要請”も影響したと見られると毎日新聞は分析しています。
古賀茂明氏「政府の圧力で報道ステーション降板」発言
今年に入ってからも政権・与党による報道介入問題が続きました。3月27日にテレビ朝日の報道ステーションでコメンテーター役を務めていた元経産官僚の古賀茂明氏が番組中に、社長の意向などで報道ステーションから降板することになったこと。政権から激しいバッシングを受けていたと発言しました。テレビ朝日は社としてその事実を否定しましたが、古賀氏は番組関係者に政府関係者からメールが届いた事実があると云っています。
番組を特定して放送内容を批判
また最近判ったことですが、総選挙公示直前の同月26日に、自民は福井照報道局長名で24日放送のテレビ朝日報道ステーションについて「アベノミクスの効果が大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないかのごとく紹介する内容だった」として、放送法に則り公平中立な番組作成に取り組むよう配慮をもとめる文書を出していました(4月10日朝日新聞及び毎日新聞)。
番組の内容・構成にまで一々立ち入った干渉です。政権に対する批判が国民の間にどのように現れているかをどう報道するかは報道する側が最も適切と考える方法で表現することであって、政権党から指示されることではありません。
自民党がテレビ朝日、NHKを呼びつける
自民党の情報通信戦略調査会が4月17日に番組内容に問題があったとして、テレビ朝日とNHKの幹部を党本部に呼びつけて事情聴取を行いました。
自民党が問題にしたのは、テレビ朝日の報道ステーションで番組のコメンテーター役だった元経産官僚の古賀茂明氏が番組の中で「菅官房長官をはじめ官邸の皆さんにはものすごいバッシングを受けてきた」と発言した問題で、菅氏や自民党は事実関係を否定しています。NHKについてはクローズアップ現代で“やらせ”があったのではないかとされている問題です。
多くのテレビや新聞の記者が取材しようと集まりましたが、会議は非公開で行われました。事情聴取が終わった後、テレビ朝日の福田敏男専務取締役は「事実関係についてご説明しました」とだけ語り、NHKの堂元光副会長も「説明しただけ」と語りました。
情報通信戦略調査会の川崎ニ郎会長は「テレビ局の社内検証が不十分ならば、BPOに申し立てることも検討する」と、権力の側が放送を規制する姿勢を示しました。
放送法は本来放送局の編成・放送の自由を保障するもの
政府と自民党が放送法を持ち出して放送内容を規制しようとするのは本末転倒です。放送法には
第三条 放送番組は、法律の定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるとこによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害さないこと。
ニ 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
と規定されています。番組の編集にあたっての基準は放送局が自主的に守ることを前提にしており、外部(政治権力など)から強制されることではありません(第三条)。政府と自民党が放送法に基いて放送番組を規制しようとすることは言論・報道の自由を侵すことになります。
放送局側の反応の鈍さは問題
これらの政権と与党からの介入に放送局の反応が鈍いことが気になります。直接自民党から報道ステーションのことで批判されたテレビ朝日も番組で自社の立場を説明し、自民党に反論すべきですが、していません。その他のテレビ局ではTBSが「ニュース23」や「サンデーモーニング」でこの問題を採り上げて政府と自民党を批判していましたが、他の局は殆ど無音のようです(長時間の深夜のニュース番組は時間帯が重なって全部の局を視ることは不可能ですが、新聞の番組表を見てもこの問題に触れた項目が見つかりません)。
新聞は挙って政府・自民党の対応を批判
新聞は例えば自民党の情報通信戦略調査会がテレビ朝日とNHKを呼びつけた問題で、朝日新聞が「自民党の放送『介入』は許されない」、毎日新聞は「政権与党は介入を控えよ」、中日新聞は「権力と放送 統治の具と成す不見識」、日経新聞も「首かしげる番組内容の聴取」と社説で批判しています。普段は政権寄りの社説や解説の読売新聞までもが「テレビ幹部聴取、与党として適切な振る舞いか」と批判しています。産経新聞は「自民党とテレビ 番組介入は抑制的であれ」でテレビ局側も安易に介入を招くような隙を見せぬようにすべきだとしています。
放送局は同じ言論機関として新聞社の態度を見習うべきです。