ウクライナ戦争の起こり方について改めて総集編をまとめてみる。以下の歴史的経過は、アメリカ発ニュースで覆い尽くされている西欧、日本マスコミ社会ではほぼ無視されてきたもの。これらの経過の無視がどうして起こっているかを論じたものも併せて紹介する。これはちょうど嘘の理由で始まったイラク戦争に本当の理由が別に存在したのと表裏の関係になるだろう。と言っても、プーチンの世界史的戦争犯罪が軽減されるわけでは全くない。これはイラク戦争が国連(総長)によって真っ向から非難されていたのと同じ理由のはずだ。
二月二四日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、人類戦争史を半世紀前に戻したような酷い蛮行。アメリカは二一世紀に入ってもこの野蛮を繰り返しているが、それ以外の大国のこんなあからさまな戦争は近年珍しいからだ。それだけに、戦争嫌いの僕はこの戦争までの彼の地の紛争経過を知りたくなった。この地の紛争と言えばまず、二〇一四年ウクライナ東南部を巡るロ・ウの暴力応酬、戦闘にまで遡らねばならない。
『(二〇一三年から一四年にかけての反政府運動において)二〇一四年二月に突然、暴力革命の様相を帯びるに到り、ヤヌコビッチ(二〇一〇年の選挙でウクライナ南部、東部を基盤として選ばれた同国大統領)は国外逃亡に追い込まれます。その背後の事情は明らかではありませんが、整然たる市民運動のなかに過激な暴力を持ち込む極右勢力が紛れ込んだようであり、そのなかにはネオナチ的な人たちもいたようです。このような「マイダン運動」の暴力革命化は、ロシア語系住民の多いクリミアやドンパス二州の住民を刺激し、前者のロシアへの移行、後者における「人民共和国」樹立を引き起こしました。これは国家秩序の非立憲的な変更であり、諸外国から強く非難されました。もっとも、当事者たちからすれば、その前にキエフで非立憲的な暴力革命があったということが正当化根拠とされるわけです』(月刊誌「世界 五月号」の塩川伸明東大名誉教授「ウクライナ侵攻の歴史文脈と政治理論」)
次いでこの時の状況を、岩波新書「アメリカの制裁外交」(杉田弘毅元共同通信論説委員長、現在国際ジャーナリスト著。二〇二〇年二月第一刷発行)から、紹介する。以下のこの事件によってロシアがここから追放され、G八がG七になったのである。
『(二〇一四年の)クリミア併合とその後の(ロシアへの)制裁は、ロシアと米国の関係を決定的に悪化させ、中ロを接近させた。その結果、北方領土返還の道筋も見えなくなった。地政学的に大きなインパクトを持つ対ロシア制裁とはどんなものなのだろうか。
クリミア半島は帝政ロシア時代の一九世紀から保養地として知られ、ロシア系住民が六〇%を占め、ウクライナ人は二五%と少数派だった。黒海に突き出ている半島にはロシア黒海艦隊の基地があり、ロシア海軍が地中海に出る戦略的要衝である。(中略)
ウクライナでは二〇一三年一一月から親ロシアのビクトル・ヤヌコビッチ政権への激しい市民デモが起こり、翌一四年二月には政権が崩壊。これを受けて親ロシア派の武装勢力がクリミア半島の議会や空港を占拠し現地の政治権力を奪取し、さらには半島全域で行われた住民投票で九六・七七%がロシアへの編入を支持し、欧米が猛反発する中、三月一八日プーチンはクリミアの編入を宣言した』
『(二〇一四年の)クリミア併合とその後の(ロシアへの)制裁は、ロシアと米国の関係を決定的に悪化させ、中ロを接近させた。その結果、北方領土返還の道筋も見えなくなった。地政学的に大きなインパクトを持つ対ロシア制裁とはどんなものなのだろうか。
クリミア半島は帝政ロシア時代の一九世紀から保養地として知られ、ロシア系住民が六〇%を占め、ウクライナ人は二五%と少数派だった。黒海に突き出ている半島にはロシア黒海艦隊の基地があり、ロシア海軍が地中海に出る戦略的要衝である。(中略)
ウクライナでは二〇一三年一一月から親ロシアのビクトル・ヤヌコビッチ政権への激しい市民デモが起こり、翌一四年二月には政権が崩壊。これを受けて親ロシア派の武装勢力がクリミア半島の議会や空港を占拠し現地の政治権力を奪取し、さらには半島全域で行われた住民投票で九六・七七%がロシアへの編入を支持し、欧米が猛反発する中、三月一八日プーチンはクリミアの編入を宣言した』
この後のことについては、この三月二四日の朝日新聞に、元国連難民高等弁務官事務所職員、千田悦子氏がこういう文章を寄せていた。
『一四年以降のドンパス地域は、ウクライナ政府の非制御地(NGCA)と制御地(GCA)との境界線を中心に戦闘が常態化し、人々が西へ逃げていた。親ロ派によるロケット弾発射や発砲、それを迎え撃つウクライナ軍の砲撃戦で、家や学校、病院、公共施設などが破壊されたそれらの修復を初めとするプロジェクトの進行調整を私は担当した。日中、砲弾の音を間近に聞きながら仕事をする日もあった・・・・ロシアの歴代大統領が恐れてきたNATO拡大についてロシアの言い分を聞きつつ、今後の緊張を緩和する方向性をNATO全体で探る必要があるのではないだろうか』
『一四年以降のドンパス地域は、ウクライナ政府の非制御地(NGCA)と制御地(GCA)との境界線を中心に戦闘が常態化し、人々が西へ逃げていた。親ロ派によるロケット弾発射や発砲、それを迎え撃つウクライナ軍の砲撃戦で、家や学校、病院、公共施設などが破壊されたそれらの修復を初めとするプロジェクトの進行調整を私は担当した。日中、砲弾の音を間近に聞きながら仕事をする日もあった・・・・ロシアの歴代大統領が恐れてきたNATO拡大についてロシアの言い分を聞きつつ、今後の緊張を緩和する方向性をNATO全体で探る必要があるのではないだろうか』
この境界線戦闘によって以降一九年までに双方一万人を超える死者が出ているという資料もあったうえで、今年二月二四日のロシア侵攻である。ついてはこの侵攻直前まで、こういう事実があったと明記しておきたい。ウクライナの大統領はあくまでもNATOには加盟すると、それでも「ロシアは攻めて来ない。来るという人はその証拠を見せて欲しい」と表明し続けていた。なぜ、どういう根拠でこの表明があったのか。「BSフジ・『プライムニュース』三月二八日放送」のネット記事から、真田幸光 愛知淑徳大学教授の見解を以下に紹介してみよう。三菱UFJ銀行出身の国際金融学者である。
【 英米が真に狙うはロシアの先の中国叩きか。日本は慎重に様子見を
(前略)
新美有加キャスター 国際的な信用を落としてまでも各政策を行うプーチン政権。経済的にはどういう利益が出るものですか。
真田幸光 基本的にはない。むしろ、そこまでロシアが追い込まれ、貶められている。
反町理キャスター プーチンがそうするように仕向けていると。その主体は誰ですか?
真田 英米だと思います。今の覇権争いにおけるアメリカの一番の敵は中国。中国とロシアがくっつくことは極めて怖い。まず、ロシアの力である資源と軍事力を徹底的に落とす。最近の国際金融筋は、ウクライナ問題においてプーチンの力がかなり落ちていると見ている。そろそろ落としどころを探し、金融で中国の首を絞めることが始まるのでは。
反町 なるほど。ロシアに対して英米は、経済制裁や国際世論、武器供与も含めて追い込み、プーチン大統領が愚策を打たざるを得ないようにした。すると、武力をもってウクライナを救うつもりは最初からなく、ロシアを潰して中国を叩くことに向けたステップとしてウクライナ侵略を見ていたと聞こえるが?
真田 そう申し上げました。ウクライナが、そして大陸ヨーロッパが踊らされた部分が結構あるのでは。
反町 怖い話だ。畔蒜さんは?
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員 これまでの米露の交渉を見ると、アメリカはロシアがウクライナに侵攻する危険性を相当感じていて、かなり警告をしたと思う。一方、私が知っているロシア人の専門家は皆、ウクライナへの侵攻などあまりにも愚策でやるはずがないと言っていた。今は当惑している。プーチンにはもっと別の手もあった。
反町 英米が本当に睨んでいるのがロシアの先の中国であるとすれば、日本はどのようについていけばよいのか。
真田 難しい。日本最大の同盟国はアメリカで、価値観の共有という意味できちんと合わせる必要があるが、先んじて対露制裁や中国への何らかの動きをし過ぎると、はしごを外される危険性がある。また場合によっては、世界の中でかなりの実体経済を握る中国の側が勝つ可能性もある。どう転ぶかわからず、とりあえず様子を見るのが生き延びる手だて】
(前略)
新美有加キャスター 国際的な信用を落としてまでも各政策を行うプーチン政権。経済的にはどういう利益が出るものですか。
真田幸光 基本的にはない。むしろ、そこまでロシアが追い込まれ、貶められている。
反町理キャスター プーチンがそうするように仕向けていると。その主体は誰ですか?
真田 英米だと思います。今の覇権争いにおけるアメリカの一番の敵は中国。中国とロシアがくっつくことは極めて怖い。まず、ロシアの力である資源と軍事力を徹底的に落とす。最近の国際金融筋は、ウクライナ問題においてプーチンの力がかなり落ちていると見ている。そろそろ落としどころを探し、金融で中国の首を絞めることが始まるのでは。
反町 なるほど。ロシアに対して英米は、経済制裁や国際世論、武器供与も含めて追い込み、プーチン大統領が愚策を打たざるを得ないようにした。すると、武力をもってウクライナを救うつもりは最初からなく、ロシアを潰して中国を叩くことに向けたステップとしてウクライナ侵略を見ていたと聞こえるが?
真田 そう申し上げました。ウクライナが、そして大陸ヨーロッパが踊らされた部分が結構あるのでは。
反町 怖い話だ。畔蒜さんは?
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員 これまでの米露の交渉を見ると、アメリカはロシアがウクライナに侵攻する危険性を相当感じていて、かなり警告をしたと思う。一方、私が知っているロシア人の専門家は皆、ウクライナへの侵攻などあまりにも愚策でやるはずがないと言っていた。今は当惑している。プーチンにはもっと別の手もあった。
反町 英米が本当に睨んでいるのがロシアの先の中国であるとすれば、日本はどのようについていけばよいのか。
真田 難しい。日本最大の同盟国はアメリカで、価値観の共有という意味できちんと合わせる必要があるが、先んじて対露制裁や中国への何らかの動きをし過ぎると、はしごを外される危険性がある。また場合によっては、世界の中でかなりの実体経済を握る中国の側が勝つ可能性もある。どう転ぶかわからず、とりあえず様子を見るのが生き延びる手だて】
戦争嫌いの僕は例によって、この戦争を起こしたプーチン・ロシアを今でも、どれだけでも非難する。だからこそそれだけでは済まず、一般マスコミ物の他にもここまでの詳しい経過などをいろいろ読むことになった。そこで出会ったのが「プーチンもウクライナも英米によってこの『あまりにも愚策』へと追い込まれた」論なのである。すると、これを傍証するようなものをどうでも探したくなって、やっと一つ見つけた証拠が、これだ。
『「ヤツェニュクには政治と経済の経験がある。クリチコが入るとうまくいかないだろう。国際的に信頼されている人物を招いて一役買ってもらえるといいが・・・」
政変のさなか、アメリカのヌーランド国務次官補とキエフ駐(ちゆう)箚(さつ)のパイアット大使のふたりが、この政変を支持し、暫定政権の人事について電話で話し合う様子がリークされたエピソード(BBC、二〇一四年二月七日)も、いまでは忘れられた感がある。
果たしてその後、ふたりが描いた筋書きどおり、クリチコはキエフ市長になり(プロボクシングの元世界チャンピョンで、ロシア軍と戦う現キエフ市長である)、ヤツェニュクはマイダンで開かれた勝利集会で〝革命〟政権の暫定首相に指名される。』
政変のさなか、アメリカのヌーランド国務次官補とキエフ駐(ちゆう)箚(さつ)のパイアット大使のふたりが、この政変を支持し、暫定政権の人事について電話で話し合う様子がリークされたエピソード(BBC、二〇一四年二月七日)も、いまでは忘れられた感がある。
果たしてその後、ふたりが描いた筋書きどおり、クリチコはキエフ市長になり(プロボクシングの元世界チャンピョンで、ロシア軍と戦う現キエフ市長である)、ヤツェニュクはマイダンで開かれた勝利集会で〝革命〟政権の暫定首相に指名される。』
この文章の出典は、月刊誌「世界」四月臨時増刊号「続・誰にウクライナが救えるか」。二〇一四年マイダン革命当時のウクライナ政権人事をアメリカが握っていたと示されている。筆者はエコノミスト・西谷公明氏。早稲田の大学院を出て、長銀総合研究所、ウクライナ日本大使館専門調査員、その後トヨタロシア社長という経歴の東欧専門家である
最後だが、この戦争から中台も危ないとか、地球で戦争が増えるとかの論議が、日本でもしきりに語られるようになった、そのことについてのべておく。反政府地域が存在するというのは、確かに両国共通だ。だが、現政府が最近の暴力革命で生まれて、反発する反政府地域との「国境」で10年近く戦闘状態が続き、その間に1万人が死んでいるなどという状況は台中間には存在しない。