三好春樹『関係障害論』より-オムツ体験をしてみると
「そのときの感覚を純粋に言いますと、それほど悪くはありません。温かくてフワッーとして、何か懐かしいような、ひょっとしたら癖になりそうな感覚でしたね。しかし、これが尿だということを意識すると、尿辱感といいましょうか、不潔感というのがありました。それさえなくしてしまえば、それほど悪くないという感じでした。今は吸湿性があってサラッとしている紙オムツがあるといいますが、フジサプライというオムツ会社の山田譲さんに言わせると、あれも空気に触れるからサラッとしているので、密閉していたらとてもじゃないらしいです。
実際に紙オムツを使ってみたことがありますが、あれも変な感じで、寝ているとコンニャクとかゼリーの上にお尻を乗せているような、何ともいえない不快な感覚です。布オムツのようにピタッと冷たくくっつくという感じはないのですが、どちらもどちらだなという感覚です。
さて、布オムツですが、濡れるとピタッとくっつくし、歩くと摺れるのです。たとえば、Tシャツを着たままシャワーを浴びる感じで、歩くときにまともに歩けません。体をねじると摺れますから、ねじらないようにガニ股で歩くようになります。老人がよくやっていますが、あの気持ちが大変よくわかる気がしました。そのうちにゴムの部分に濡れたものが忍び寄ってきます。これが、痛いというか痒いというか、ついそこに無意識に手がいきますが、ああこれはおしっこだから触ってはいけないと、ぼくらは手をどけますね。だけどこれは、頭がしっかりしているからです。呆け老人だったら当然そこに手がいきます。
そこで、このおばあさんですが、80歳代ですが、感覚はぼくらと基本的に一緒です。どこも悪くないのに、検査だからといって病院に入って、尻もちをついたからといきなりオムツを当てられて、オムツの中にしなさいと言われても、それは出ないですよね。そこで、ナースコールを鳴らして、「おしっこをしたいのですが」というと、看護婦さんは「あなたはオムツをしているからその中にしていいのよ」と親切に言ってくれたそうです。それでも出ないので、「おしっこに行きたいのですが」とまたナースコールを鳴らしたら、「なんべん言ったらわかるの」と怒られたそうです。
そこで、しょうがないので意を決してしたそうです。出たからナースコールを鳴らして「出ました」と言うと、「オムツ交換の時間は決まっているから、いちいちナースコールを鳴らしちゃダメよ、待っていなさい」と言われた、それでも気持ち悪いからまた鳴らすと、「わからない人ね」と、親切な看護婦さんだったのでしょうね、オムツ交換の時間を紙に書いて枕元に貼ってくれたのです。枕元に貼ってもみないんですけどね。そして「ナースコールを鳴らしちゃダメよ」と、また言われたそうです。だから、時間まで待っていなくてはならなかった。時には、おしっこが出ているのにご飯がきたりということになるのですが、「1人だけ時間外に替えるとチームワークを乱すことになるから」とかなんとかいって怒られます。こんなチームワークなら乱してもいいと思うのですが、チームワークという名目で低いレベルのケアに統一しようというわけです。」
(三好春樹『関係障害論』1997年4月7日初版第1刷発行、2001年5月1日初版第6刷発行、㈱雲母書房、39-40頁より)