2012年『ルドルフ・ザ・ラスト・キス』必死に生きた人間の姿、その結果のようなものを演じてみたい-井上芳雄さん
2012年『エリザベート』ルドルフの強さが次第に崩れていく様を描き、最終的には希望が残るような演技にしたい-古川雄大さん
(2012年『オモシィ・マグ』創刊号より)
「2000年以来上演を重ねてきた東宝ミュージカル『エリザベート』。2012年、この傑作ミュージカルは、新たなキャストを迎えて私たちを楽しませてくれている。
omshimagの特集は、ミュージカル『エリザベート』でスタートする。第1号の特集にふさわしい作品といえるだろう。
まずご登場いただくのは、今年、東宝版に初参加となった春野寿美礼さんだ。10年前、宝塚歌劇団在籍中には、トップスターとして宝塚版のトートを演じた春野さんが、今度はタイトルオールで、再び『エリザベート』に向き合っている。」
「心の奥底では死を求めつつその時々で行き着けずにいる姿をしっかりと描き出したい
-2002年に宝塚歌劇団の『エリザベート』でトート役をなさったちょうど10年後の今年、エリザベート役を演じられるという巡り合わせですね。トートを演じたことのあるお立場から見るエリザベートとは、どんな存在ですか?
トートを演じたおきはトップお披露目公演だったため、自分のことで精一杯で、正直なところ、エリザベートについて深く考える余裕はありませんでした。今になって、当時のことをいろいろと思い出し、「トートってエリザベートにとってこういう存在ったんだな」「エリザベートはここでこんな気持ちになっていたんだ」などと気づかされています。
-宝塚での公演の前にはウィーンにいらして、作曲のシルヴェスター・リーヴァイさんにもお会いになったのですよね。
シェーブルン宮殿はとても立派でしたが、どこか閉ざされた雰囲気だと感じました。ドイツの大自然の中を走り回っていた少女があの宮殿で、愛し信じるただひとりの相手であるフランツにすら思うように接してもらえないまま、しきたりや歴史にがんじがらめにあんって暮さなくてはいけなかったのは、本当に孤独なことだったでしょうね。宮殿の一部が現在、アパートになっているのですが、リーヴァイさんはエリザベートの部屋の上に位置する部屋を借りていらして、窓から庭園をご覧になりながら『エリザベート』の曲をお書きになったそうです。その話をうかがい、私も庭やグロリエッタなどの景色を、できるだけ記憶に焼きつけたいと願いながら眺めたことをおぼえています。
-今回の制作発表時、「死をもって自由を得るという作品のテーマが興味深い」とおっしゃっていましたが、その興味とはどのようなものでしょう。
エリザベートが死へと歩み寄って行ったのは、それだけ壮絶な人生を送ったからだと思います。その理由を探りたいなと、育った家族や環境、嫁いだハプスブルク家など、さまざまな関係性をきちんとみつめ、心の奥底では死を求めうつ、その時々で行き着けずにいる彼女の姿をしっかりと描き出したいです。かつて宝塚版でトートを演じたときにはそこまで考えることができませんでしたから、再びというより、新たな気持ちで挑戦したいですね。
-立ち稽古前の歌稽古で、既に幾つもの発見がおありだったとか。
ピアノの伴奏に合わせて歌稽古をしていたとき、歌のメロディーと伴奏とがどう作られ、その二つがどう一緒に進んでいくか、学ぶことができたんです。『エリザベート』は音楽がずっと流れている作品ですが、曲調がどんどん変化していきます。例えば、少女時代の明るい曲調は、木から落ちてトートが現れた途端に妖しい音楽になりますし、舞台が暗い中から明るくなっていったり、白から赤あるいは緑へ変わって行ったりといった照明の変化も、音だけでも見事に表されている。しかも、絶妙な和音でもって表現されているんですよ。
‐<私だけに>のイントロなども、印象的な和音ですよね。
調を変えればその分だけ音の組み合わせができるわけで、半音違うだけで曲の雰囲気は明るくも暗くもなりますが、あくまで個人的な感覚として「あ、この曲にこの調って、ぴったりだな!」と。不協和音を取り入れていながら、柔らかさも持っているんですよね。エリザベートの気持ちのみを頭で考えて追いかけるのではなく、そうした音など、周りの空気を理解し感じることで、自然に世界が広がる気がします。
‐ミュージカルに出演される際は、常にそういうふうに音楽面を研究なさるのですか?
オリジナル・ミュージカルだったり日本初演であったりする場合は、稽古の段階でそこまでできないことも多いです。今回は再演を重ねている作品だけに資料が揃っていますから、すごく助けられていますね。
‐宝塚歌劇団退団時、歌を中心とする活動をとおっしゃっていましたが、今、歌と演技の関係をどうとらえていらっしゃいますか?
退団後は歌がもう少しできるようになりたくて、そちらを中心に活動してきました。少しずつではありますが、自分が求める歌に近づいてきているかなという感触があって、この時点でミュージカルとして演じながら歌ったらどうかな?という気持ちで挑戦しています。ですから、自分の中ですべてつながっているんです。
-『マルグリット』にしろ『ファニー・ガール』にしろ、今回の『エリザベート』にしろ、陰影の深いヒロインを演じていらっしゃいますね。
確かにマルグリットやエリザベートは極端かもしれません。でも誰であれ、たとえ周囲からはそう見えなかったとしても、本人の中では浮き沈みがありますよね。置かれた立場・状況が違うだけで、感情には通じるものがある。だからこそ私にも共感でき、演じたいと思う氏、ご覧になる方も好きだと感じていただけるのではないでしょうか。
-なるほど。改めて、現段階で、どのようなエリザベート像が出来上がりそうですか?
すぐに決め込むのではなく、共演者の方々と空気を合わせ、どんな化学反応が起きるか、時間をかけながら丁寧に作りたいです。どのようになったかは、お客様に直接ご確認いただけたらうれしいですね。ただ、最終的に向う場所が死ですから、破滅的な激しさだったり、あるいは繊細さだったり、そういう複雑な部分が、自ずと滲み出るように演じられたらと思っています。」