出来心で妻を手酷く裏切った事について己の愚かさを許してほしいと哀願する夫に、妻はただ黙って「REGARD」と刻印の入った指輪を贈った。夫はそれ以来常にその指輪を身に着け二人は世間でも評判の夫婦となった、その指輪が実は首輪であったことを知るものは夫婦以外に存在しない。
出来心で妻を手酷く裏切った事について己の愚かさを許してほしいと哀願する夫に、妻はただ黙って「REGARD」と刻印の入った指輪を贈った。夫はそれ以来常にその指輪を身に着け二人は世間でも評判の夫婦となった、その指輪が実は首輪であったことを知るものは夫婦以外に存在しない。
形見分けで貰った祖母のパスケースの隠しには色褪せた写真が入っていた。かなりの美形だったので昔の役者か誰かだと思って母に尋ねてみると、何と若くして亡くなった祖母の夫、つまり私の祖父だという。祖母はどんなに条件の良い男が言い寄っても生涯再婚の意思を見せなかったそうだが、同じ面食いとして何となく納得してしまった。
小学校に入学した時にお祝いで送った硝子製の菓子器に対する感想を、青は嫌いの一言で切って捨てた姪は成長するに従って青いドレスの似合う娘となり、たまに遊びに行く僕はお土産として彼女の青い菓子器によく似合う可愛らしいピンク色の砂糖菓子を持参しては無言で補充しておくのだった。
彼が見せてくれた小振りのガラスケースに収められた宝石造りの蝶は、青い石を基調に本物の蝶を思わせる色彩と細工が施された見事なものだった。幼い頃に捕獲できなかった美しい蝶を記憶そのままに再現したという話だが、それでもあの時の蝶の美しさには遠く及ばないと寂しそうだ。
大切な人を失い僧院に入ったという彼は常に福音書を手放さず、人に尋ねられると形見なのですと寂しそうに微笑むのが常だった。豪華な装丁の福音書に人々は彼が失った大切な人についての様々な想像を好き勝手に巡らせたが、彼が失ったのは無邪気な笑顔で四つ葉のクローバーを差し出してきた少女だった。
周囲に薔薇の貴婦人と呼ばれた侯爵夫人は、職人に命じて透き通ったガラスで繊細な薔薇の花をあしらった頭文字入りの印章を作らせた。その印章は彼女の証明となり、その二つ名をより確かなものとしていきながら常に周囲を彼女の話題で沸かせた。やがて時は流れ、今はもう印章を見ても侯爵夫人とその二つ名を思い出す者はいない。
たかあきは、小糠雨の家族と桜の菓子に関わるお話を語ってください。
家族で有名な桜の名所に花見見物に出かけた日は雲間から薄明るい光が垣間見える雨空だった。しかし揃って楽天的の我が家の人間にとっては風情はあるし人は少ないしでなかなかの花見日和だという結論に落ち着き、あちこち回って一日楽しんでから桜の意匠をしたお菓子をお土産に買って帰ってきた。
家族で有名な桜の名所に花見見物に出かけた日は雲間から薄明るい光が垣間見える雨空だった。しかし揃って楽天的の我が家の人間にとっては風情はあるし人は少ないしでなかなかの花見日和だという結論に落ち着き、あちこち回って一日楽しんでから桜の意匠をしたお菓子をお土産に買って帰ってきた。