実は蝶と蛾に生物学的な意味での明確な差異は存在しないという。色彩も姿形も、飛翔時間の昼夜すら両者を明確に区分する根拠とはならない。ただ蝶は美しい姿で昼に光の下を遊び、蛾は醜いと呼ばれる事の多い姿で夜の闇に紛れて光を求めるイメージが定着している訳で、何とも残酷な話だ。
実は蝶と蛾に生物学的な意味での明確な差異は存在しないという。色彩も姿形も、飛翔時間の昼夜すら両者を明確に区分する根拠とはならない。ただ蝶は美しい姿で昼に光の下を遊び、蛾は醜いと呼ばれる事の多い姿で夜の闇に紛れて光を求めるイメージが定着している訳で、何とも残酷な話だ。
幻燈は文字通りに光と影が生み出した幻の如く実在しないものだが、それでも確かにその場に存在する。そして優れた芸術と呼ばれるものは必ず、触れることも留め置くことも出来ない一瞬を切り取ってこの世界に遺した、いわば遺産のようなものだと生涯貧乏画家だった俺の先生はよく言っていた。
兄はこの世界に「此処ではない何処か」があると生涯信じて疑わなかった。そして疑いが鎌首を持ち上げると決まって異国の骨董じみた品物を見付けてきて身近に飾るのが常だった。だから今、兄が本当に「此処ではない何処か」に旅立ったのなら、私には必要のない兄の蒐集物は、きっと別の場所で別の誰かを癒すのだだろう。
文化の発展には偉大な創造者だけでなく創造された文化を似て非なるものとして再生産する模造者、そして模造品すら享受する圧倒的な消費者層が絶対に必要で、創造の対象が神や悪魔であってもそれは変わらない。そこで彼らは人を導く高次の偶像ではなく人の投影として表現される。
「星座盤か、俺も昔、ちょっといいものを父親に買って貰ったことがあるな」
「黒曜石製か?」
「湾曲した薄い金属盤に透明な回転窓が付いていたな、夜空の暗がりではロクに星座部分を確認できなくて、結局は飾り物になったが」
「あれ?懐中電灯で回転窓を照らしたりしなかったの?」
「……街中では星も見えづらくてな」
夜空を彩る星々の説明から始まる童話の作中には、黒曜石を土台にして様々な色彩の貴石をちりばめた星座盤が登場する。そうやって切り取られた星空は美しいがひどく高価で、だから人は更に手軽に入手できる安価な材料、例えば紙やセロハンで切り取られた星空をたくさん作ったのだ。
たかあきは、真夜中過ぎの初恋と桜の花に関わるお話を語ってください。
生まれて初めて恋をした相手、職場の上司には既に妻子がいた。仕事では有能で部下に対しても面倒見が良く更に家族を大事にすると周囲から全く悪い評判を聞かない上司に、決して叶えてはいけない思いを一生抱えていこうと誓っていた私は、ある日思いがけず二人きりになった上司から告白され、そして一瞬で彼に対する思いが散り果てた。
生まれて初めて恋をした相手、職場の上司には既に妻子がいた。仕事では有能で部下に対しても面倒見が良く更に家族を大事にすると周囲から全く悪い評判を聞かない上司に、決して叶えてはいけない思いを一生抱えていこうと誓っていた私は、ある日思いがけず二人きりになった上司から告白され、そして一瞬で彼に対する思いが散り果てた。