カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

[ 聞く / 拳 / 魔術師(マジシャン) ] より・魔術師の憂鬱

2015-06-16 19:09:46 | 三題ランダムキーワード
 その魔術師は普段、決してローブの袖に隠れた右手を人前に晒すことがなかった。実は修業時代に悪魔の召喚術を失敗した時、覚えたての転移魔法が暴発して悪魔と彼の右手が融合してしまったのだと言う。
 それ以来、彼は素手で悪魔を殴り倒せる武道派魔術師として第一線で活躍しているが、唯一の問題は悪魔の餌として新鮮な大量の生肉が欠かせない事だとか。
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[ 諦める / 蝋燭 / 栄光(ホド) ]より・順番がやってくる

2015-06-15 18:25:16 | 三題ランダムキーワード
 世間では著名な芸術家と呼ばれる彼の、最期の命火が消える瞬間に駆け巡った記憶は略奪と剽窃の自分史でもあった。後悔する事すら知らずに掻き集めてきた数々の栄光は、恐らくは彼の死と共に正体を暴かれ地に落ちることになるだろう。そして彼の裏切りの果てに悶死したかつての親友の言う通り、今度は彼が根こそぎ奪われる番となるのだ。
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[ 愛しむ / エメラルド / 塔(タワー) ]より・追憶の塔

2015-06-12 19:27:32 | 三題ランダムキーワード
 その塔が建てられた頃の周囲一面は見渡す限りの緑野が広がり、季節ごとに様々な彩りの花が人々の目を楽しませてくれた。やがて土地が枯れ、人々が砂漠と化したこの地を去った後にも塔は朽ちかけた姿を晒しながら其処に有り続けた。
 ある日のこと、余命幾ばくもない身で先祖が暮らした故郷を一目見ようとこの地を訪れた旅人が這うように塔を昇り、先祖達が見ていた豊かで優しい緑野の代わりに、神聖なまでに美しい黄金の枯れ野を見下ろしながら死んでいった。

 最期の瞬間に旅人の唇がどんな言葉を紡いだのか、知るものはない。
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2015-06-12 00:05:26 | 拍手
「泥の見る夢」をUPしました、画面右のWeb拍手ボタンをクリックすると二回目で見られます。
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[ 戒める / 針 / 慈悲(ケセド) ]より・舌鋒

2015-06-11 19:05:40 | 三題ランダムキーワード
 鋭い言葉で他人を刺し続ける友人は、何度嗜めても本当のことだからと己の言動を改めようとしなかった。そして至極当然なことに今度は自分自身が刺されたとき、本当のことだからと極めて残酷な言葉を返された。

 実に容易く人間を殺せる、色も形もない刃の恐ろしさは、それを向けられ傷付いた人間にしか判らないものだ。
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[ 吐く / アイスクリーム / 貪欲(ケムダー) ] より・憧憬と挫折と諦念

2015-06-10 19:29:02 | 三題ランダムキーワード
 小さい頃、自分の家があまり裕福でないと自覚があった僕は、たまの休日に親が連れて行ってくれたデパートの食堂で平たい杯を思わせるガラスの器に乗った丸い小さなアイスしか頼めなかった。色とりどりの果物で飾られたクリームと赤いサクランボが乗ったプリンや、大きくて深い器にソフトクリームのように積まれて鮮やかなフルーツソースで彩られたパフェは、自分とは無縁の存在だと思っていた。
 やがて大人になった僕は都会に出て一人暮らしを始め、一人で喫茶店に入った際に決死の思いで憧れのパフェを注文した。
 そうしたら、何とホイップクリームが品切れだから作れないと言われた。あの時に受けた衝撃を忘れられないまま、その後、僕が喫茶店でパフェを注文したことはない。
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[ 冷静 / 星空 / 教皇(ハイエロファント) ]より・杞憂(きゆう)

2015-06-09 22:20:07 | 三題ランダムキーワード
 空が落ちてくる夢を何度も見ると怯える信者に、神官は先ず窓の無い部屋で寝ることを勧め、、それでも駄目なら空の見えない地下室で眠るように勧めた。そして神官が言った通りにした男は数日後、『まるで空が落ちて来たような』豪雨が地下室に貯まって溺死した。

 それを知った神官は、逃れようのない運命に殺された彼の為に祈りを捧げるのだった。
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[ 吸う / 鏡 / 魔術師(マジシャン) ] より・誰も知らない

2015-06-08 19:31:31 | 三題ランダムキーワード
 魔術師は鏡に映った自分に向かって術を施し、鏡に映る己の姿と引き替えに歳を取るのを止めた。鏡に映らない魔術師は己の姿を晒さぬように細心の注意を払っていたが、ある日不注意から水鏡にその身を晒してしまい、鏡の向こう側の魔術師に『次は俺の番だ』と体を乗っ取られたが、何しろ普段から他人との付き合いが密では無かった上に結局は同一人物同士が入れ替わっただけなので全く気付かれなかった。
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[ 悼む / 拳 / 欲望(ラスト) ] より・果ての旅

2015-06-07 20:58:23 | 三題ランダムキーワード
 修行仲間が死んだ。自殺とも事故とも判断出来ない死因だったらしい。
 ただ、ヤツが最近色々と悩んでいたのは確かで、オレも愚痴に近い相談は何度か受けていた。その中で「悟りを開く為の修行とは、悟りを目的に修行を手段とする邪法ではないか」と言われたときは、さすがに「全ての修行という道の先に必ず悟りが存在するなら、進んでいけばいずれ必ず辿り着くであろうものを否定するのか」と答えた。

 ヤツの進んだ修行の道は、一体何処に続いていたのだろうか。
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[ 悩む / ドア / 恋人たち(ラヴァーズ) ]より・向こう側の世界

2015-06-06 20:43:28 | 三題ランダムキーワード
 最近の彼の悩みは、今日はこれで帰るねと挨拶をして部屋を出て行った彼女が自分のいない場所で他人と何を話しているか、ひょっとして自分の悪口を言ったりしていないかだった。疑念はやがて膨れ上がり、いても立ってもいられなくなった彼はこっそり彼女の後を追って会話を盗み聞きすることに血道を上げるようになった。

 結果として、疑念は綺麗に晴れたが代わりに彼女を失った。
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