アーク・フィールドブック

四万十フィールドガイド・ARK(アーク)のブログ

Letter From S9 真冬の瀬に突入せよ!の巻

2025-01-25 | レターフロムS

Letter From S9 真冬の瀬に突入せよ!の巻  再掲です。

 年始は、おだやかでぬくかった四万十も、

1月半ばを過ぎると大気の冷え込みがグンときびしくなった。

大寒の日には、この冬2回目の積雪に。

雪化粧をした四万十川を、冷たく激しい北西風が雪煙を巻きあげて吹きぬけてゆく。

朝、夕の気温は氷点下になりました。

 

 スキマだらけの我が家は、うすら寒い。

部屋の中に2人用の小さなテントを張った僕は、テントにもぐり、羽毛のシュラフにくるまった。

そしてキャンプ用のガスストーブで湯をわかし、お茶を飲みながらマンガを読んだ。

テント内の小さな空間はすぐにぬくもるし、部屋の中でキャンプ気分も味わえる。

ただ、テントから抜けだすのが非常におっくうになりますが・・・。

 

10何年も前。

初めて自分のテントと羽毛のシュラフ(冬用)を手に入れたときも、

うれしくて部屋の中でテント生活をして、母親にあきられたことがある。

テントは代替わりしたけど、羽毛のシュラフはまだ現役だ。

コテンパンに使いこんだシュラフの生地は、色褪せゴワゴワで羽毛もだいぶ抜けて、

へたってしまっているけど、冬の夜の星空の下でも、このシュラフで充分に寝られる。

買った当時は値段がメチャ高かったけど、「やはり野外道具はタフでなければ」と思うのでした。

 

        

   家中キャンプ              南国土佐にも雪がふるのだ

 

 寒さが一段落した1月末のある日。真冬の四万十川上流をカヤックで下る。

ヌクヌクした家を出て、ヒリヒリした時間を過ごし、生きてる手ごたえを感じたくなったのだ。

 

 我が家から車で1時間ほど上流へ(約45キロほど上流)。そこは、十和村上流、通称三島の瀬があるところ。

カヤックで下る7~8キロの間に、2~3級(水量により3~3、5級)の瀬が8~9ヵ所ある。

(以前この区間では、カャックのフリースタイル(ロデオ)の大会が行われたコトも)。

僕は、水があたたかい季節に何度か下ったコトがあるが、真冬に下るのは初めてだ。

最もこんな時期に、ソロでここを下る物好きはまずいないだろう(良い子は真似しないでね)。

もっと下流の、瀬が少ないコースも考えたが、ヒリヒリするような時間を感じたかった。

ゴール地点に自転車を置き、川の下見をしながら、スタート地点の三島の沈下橋へ。

 

 しょっぱなの200メータ区間に、2級、2、5級、2、5級の瀬が白波を立てている。

水量は少なめで瀬にパワーはなさそうだが「沈」はしたくないなぁ。*沈:転覆すること

気温13~14度。水温8度。西風。

水に手を着けると15秒ほどで指先がしびれ、痛く、ガマンが出来なくなる。

「ロールに失敗したらどうしよう・・・」

沈脱したら5分以内に水から上がらないと、体が動かなくなりそうだ。

「ヤバイよ!やめとけば・・・」もう1人の自分がささやく。

ココロの中で弱気の虫がザワザワと騒いだ。

 

 ドライスーツはない・・・。下着は、カヌー用の長袖シャツ&パンツ。

その上に、半そでのウエットスーツ、フリース。アウターは、上下のレインウェア。

レインウェアの足首、袖口、胴回り、首周りを布テープで巻いて水の浸入を防ぐようにした。

なんともカッコ悪いが仕方ない。じっくりとストレッチをした後、カャックに乗りこんだ。

 

        

 よい子は真似しないでね            初っ端の瀬 うーむ・・・

 

 久しぶりのパドリング。沈をおそれドキドキするココロ。

緊張と、ぎゅうぎゅうに締めつけたライフジャケット(PFD)のおかげで、

漕ぎはじめてしばらくたっても、体がスムースに動かない、呼吸も妙にくるしい。

「えーいっ、ままよ!いくぞ!」

覚悟をきめ、速く流れる水流にカヤックを滑らせ、JR予土線鉄橋下の瀬に突入した。

 

 「どおりゃーっ!」2級左カーブの瀬。

瀬の中で梶がきくようにしっかり漕いだつもりが、思ったよりも強い流れに艇をもってかれてしまった。

「ゴツン」艇の横腹が、岩にヒットしてバランスを崩す「オットット・・・」。

「落ちついて、水をつかまえろ!」と自分に声をかけ、次の2、5級の瀬に突っこむ。

ドドドッ!白波がデッキに落ちてくる。水飛沫をカラダいっぱいに浴びる。

「よっ!よっ!よっ!」リズムをとり、波頭をブレードでしっかり捕まえながら下ってゆく。

水の冷たさはまったく感じない。全神経を瀬に集中してるからだろう。アドレナリン、全開!

水温が高いときであれば、カヤックを瀬の巻き返しの波にのせたり

流れから出たり入ったりして、瀬で遊んで行くのだけど、本日はその余裕はナシ。ひたすら真面目に漕ぐ。

 

 「ふぇー」瀬の終わりのとろばにカヤックを入れ一息ついた。

カラダが軽い。先程までの緊張がうそのように。

呼吸が苦しかったのは、布のテープで首周りをきつく締めていたからだった。

「バカだねぇー」僕はテープをはがした。

 

        

   ほっと一息                空も水も青いのだ

 

 コース中盤の2、5級の瀬をブジ漕ぎ抜けると川の流れはおだやかになった。

川の流れの中に突き出している無数の岩。どの岩も先端が侵食されなめらかに丸みを帯びている。

岩を縫うようにカャックは進む。水の中をのぞくが、魚の姿スガタは見えず。

この低い水温では、魚はほとんど動かず、深いところでじっとしてるのだろう。

少し先でカモたちがさわいでる。ウが目の前を横切っていった。

 

 周囲の山々の日陰は、まだうっすらと雪化粧をしている。

岸辺の落葉樹は、すっぴんで(すっかり葉を落として冬芽で)春を待っている。

冬の深く澄んだ空、浅く澄んだ川は、どちらもキッパリと青が濃い。風はキッチリと冷たい。

トロ場のスローな流れに身をまかせた僕は、カヤックの上でのけぞって冬ブルーの空をながめた。

ヤッホーッ!!今、このイカシタ時間はジブンだけのもの。

なんとも言えない充足と開放感!!胸の奥まで清々しくなってゆくようだ。

そして思う。ああ、そうか、ビールを積んでくればよかった、と。

 

        

    大材の瀬                ジュージツのひととき

 

 瀬は真面目に漕ぎ、それ以外は景色を愛でながらのんびりと下る。

流れが狭まり、「ゴーッ」前方からイチダンと大きな瀬音が聞こえてきた。

大材の瀬だ。流れの真ん中、やや右側に大きな岩がある。しっかり漕いで、大岩の左側を通過。

 

 下り始めて約1時間、もうすぐゴールだ。空を見あげて、ほっと安堵の息をついた。

真冬の瀬に突入した今回の川下り。

水も風もひやい冬の川は、カラダをすっかり凍えさせたけど、

手ごたえのあるヒリヒリした時間に —豊穣な孤独に― ココロは、じわじわとぬくもっていった。

 

        

  大正町 無手無冠             栗焼酎 ダバタ火振りが有名です



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