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'07/10/11の朝刊記事から
冤罪真相闇のまま 富山女性暴行
無罪の男性笑顔なく「裁判長人ごとのよう」
女性暴行事件で服役後に冤罪が判明し、富山地裁高岡支部の再審で10日、無罪判決を勝ち取った柳原浩さん(40)。
待ち望んだ判決のはずだが「うれしくない」。
最後まで顔に笑みが浮かぶことはなかった。
午後3時。
黒のスーツにストライプのネクタイ姿の柳原さんは、硬い表情で法廷に入った。
「被告人は無罪」。
藤田敏裁判長が淡々と主文を読み上げた瞬間は、身じろぎせず直立したまま。
「無実であるのに服役したことは誠にお気の毒です。これからの人生が充実したものになることを願っています」と裁判長が話した時も、膝に手を置いて座り、前を見据えたままだった。
閉廷後、富山市内で記者会見。
「無罪判決は当たり前。なぜ僕のところに(捜査員が)最初に来たのか。真実は闇に葬られたままでうれしくない」と表情を変えず静かに話した。
裁判長の言葉にも「人ごとのようでむかついた。5年前いい加減な裁判をやらなければこういうことにならなかった」と憤りを隠さなかった。
逮捕されてからの日々は「考えるとつらいことを思い出すので考えないようにしている」という。
判決を受け「まずは(服役中に)亡くなった父親に報告に行きたい」と話した。
富山の冤罪事件経過
02/01/14 富山県氷見市で女性暴行事件発生
02/03/13 氷見市で女性暴行未遂事件発生
02/04/15 氷見署が女性暴行未遂容疑で柳原浩さんを逮捕
02/06/13 地検高岡支部が女性暴行未遂罪で柳原さんを起訴
02/11/27 富山地裁高岡支部が柳原さんに懲役3年の実刑判決
02/12/12 刑確定、柳原さんが服役
05/01 福井刑務所を柳原さんが仮出所
06/08/01 鳥取県警が強制わいせつ容疑で大津英一被告を逮捕
06/11 氷見署の取調べで、大津被告が氷見市の2事件を自供
07/01/19 富山県警が柳原さんの誤認逮捕を発表、真犯人として大津被告を再逮捕
07/10/10 富山地裁高岡支部が柳原さんに無罪判決
<解説> 構造的問題踏み込まず
富山の冤罪事件がより深刻なのは「裏付け捜査や供述の吟味不足」(富山県警)が原因なのではなく「証拠をでっち上げ、犯人に仕立て上げた」疑いが消えないからだ。
被害者、柳原浩さんによると、氷見署の取調官は、柳原さんに母親の遺影を持たせて自白を迫ったり、右手首を掴んで現場の見取り図を書かせたりした。
現場には約28センチの足跡があったが、柳原さんの靴のサイズは24.5センチで大きさは食い違い、犯行時間帯に自宅から電話を掛けた通話履歴もあった。
しかし氷見署は基礎的な証拠の矛盾に気付かず、アリバイも見落としていた。
検察側は再審の冒頭陳述で「無罪を立証します」と一言述べただけで真犯人の存在の立証に終始した。
〝不当捜査〟の実態を明らかにすることが、名誉回復にも繋がるとする弁護側は、取調官の証人尋問を2度申請。
しかし、検察側は事前協議で難色を示し、地裁高岡支部も「必要性は認められない」といずれも却下した。