村上春樹
『スプートニクの恋人』★★★★
お風呂本.。o○ 再読は一年ぶり。
もう話の流れは分かっているんだけど、何度でも読みたくなる。
OGPイメージ
舞台となっているのはハルキ島と言われている(春樹ですから)
『遠い太鼓』を彷彿とさせる。
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10
目を覚ましたとき、ミュウは朝食の用意をヴェランダに整えているところだった。時刻は八時半で、新しい太陽が世界を新しい光で満たしていた。ミュウとぼくはヴェランダのテーブルについて、まぶしく光る海を眺めながら朝食をとった。トーストと玉子を食べ、コーヒーを飲んだ。二羽の白い鳥が丘の斜面を海岸に向けて、滑るように降りていった。近所のどこかからラジオの音が聞こえてきた。アナウンサーは早口のギリシャ語でニュースを読みあげていた。
時差のもたらす奇妙なしびれのようなものが頭の中心にあった。そのせいもあるかもしれないが、現実と現実らしく見えるものとの境目がうまく見分けられなかった。ぼくはこの小さなギリシャの島で、昨日初めて会ったばかりの美しい年上の女性と二人で朝食をとっている。この女性はすみれを愛している。しかし性欲は感じることはできない。すみれはこの女性を愛し、しかし性欲を感じている。ぼくはすみれを愛し、性欲を感じている。すみれはぼくを好きではあるけれど、愛してはいないし、性欲を感じることもできない。ぼくは別の匿名の女性に性欲を感じることはできる。しかし愛してはいない。とても入り組んでいる。
まるで実存主義演劇の筋みたいだ。すべてのものごとはそこに行きどまりになっていて、誰もどこにも行けない。選ぶべき選択肢がない。そしてすみれがひとりで舞台から姿を消した。
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「もしもし」
「ねえ帰ってきたのよ」
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ぼくはどこにでも行くことができる。
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そうどこへでも行ける。いつでも(今は行けないね・・)
あちら側の世界 はたまた夢の世界
そんな異世界に多く遭遇している気がする。
又は次の世界への希望
いつかはこの身体は消滅する。
この研ぎ澄まされた感覚 触れるものに対して身体の隅々まで行き届いている神経
触れるか触れないか。
わずかな違和感を持って驚かされる。入り込む異物
抜け落ちた物は即異物と化する。
過去や未来よりも今を、この時を大事に生きたい。