鹿島田真希
『ゼロの王国』★★
結構厚めなハードカバー
持ち応えがある。
見た目だけでもこれからどんな物語が始まるかワク2する感じ。
ネバーエンディングストーリー的な。
しかし内容は、、、
会話で成り立つ物語
「恋というものはそういうものなのよ。男か女、どちらかが激しく傷つくものなのよ。」
「見返りを気にしていたら、生きてはいけないではないですか。」
「多くの人を愛すると、そのぶん一人に対する愛情が薄まってしまうとお考えなのでしょう。男というものは特にそういうことを考えてしまいがちですね。なにしろ男という生き物は、表面には出さないものの、本当は実に嫉妬深く、独占欲の強い生き物ですからね。」
「あなたは短所ばかりの人間なんていないと思っているのでしょう?確かにそれはあなたの考えている通りかもしれないけれどもねえ。じゃあ仮に短所ばかりの人間がいるとしましょうか。それも女と限定してみましょう。そういう女は男にたいそう愛されるでしょうよ。私を尊敬しているだなんて!私はそういう理由で男の人に愛されたことはないわ。私はいつも短所ばかりの女として、男に愛されてきたわ。君の太ももは大変たくましい。鎖骨の発達ぶりも異常だ。昔はさほど美しいとは思わなかった。それから君は馬鹿だ。愚痴ばかり言っていないで、たまにはモンテーニュの『エセー』でも読みたまえ。こんな具合にね。だから君を抱いてあげよう。もっと汚らわしくしてあげよう。そうやって私は娼婦のように抱かれてきたのよ。どうして男は美しくもなく、馬鹿な女を抱きたいと思うのかしら。愛というものはなんて理不尽でいびつなのでしょう。
ある時私は読んだわ。モンテーニュの『エセー』を。はじからはじまで。暗記するほどなんども。悔しくて別れることもできなかった。丁寧に研究して、ある時語ったわ。『エセー』について。彼は私の乳房に触れてこう言ったわ。ねえ、もう難しい話はやめようよ。と。抱き合おうという意味だったのよ。私はそのことに気づいた。そしてその愛の理不尽さが怖くなった。決してその男と抱き合ってはならないと思ったのよ。だから私はある時言ったのよ、私の体はとても不潔です、と。そんなこと、と男は目を爛々と耀かせて言ったわ。そんなこと、それなら僕が食べてあげるよ、と。だから風呂にも入らなくてもいい、と。僕だって性器の皮がぽろぽろ剥けるんだよ、とその男は言ったわ。とにかく私は恐ろしかったわ。その男の屈折した性欲が。とにかく、焦る必要はないわ、と私は言った。とてもいやらしい声で。抱かれるためではなく、性交を拒否するために私はいやらしく、したたかになっていったの。僕は焦ってなんかいない、とその男は言ったわ。例え三ヵ月後でもいい、と」
冷笑する人には知的な人が多いといわれている。確かに、冷笑する人には、人生というものを真剣に考え、その考えを出すために、さまざまな本を読んで深い教養を身につけた人が多いのだろうと考えられる。シニカルになるためには、それなりの努力が必要というわけだ。しかしシニカルな人が忘れがちなのは、その根拠というものが、所詮人間が作ったものであるということだ。シニカルな人は、人間が作った根拠を第一であると考え、それを超越する存在があるかもしれない、という可能性を考えない。そうやってよくよく考えてみると、シニカルな人というのは、人間の作ったものをそんなにも信仰できるのだから、楽観的な人種なのではないか、とも考えられる。
「恋愛も、け、権力闘争だということが。とても小さな規模の。どちらが主人で、どちらが奴隷かという戦いなのですよ。だけどそれは単なる単純な権力闘争ではありません。支配の快楽、これは誰でも知っています。だけど奴隷の屈辱の快楽。これがあるんですよ。だから、誰しもが主人になりたいと思っているわけではない、進んで奴隷になろうとする人がいるのですね。」
「人は、ものを所有していると、それに縛られてしまいますからね。財産を持っていると、それがいつなくなってしまうか、気をもんでいなければなりません。そして、人はものに束縛されてしまいます。ものを捨てるというのは、自身を解放する行為だと思っています。」
幸田真音
『RUNWAY』★★★★
装丁に惹かれて手に取ったのがきっかけ。
そこから一気に物語に引き込まれた。
全く知らない世界を垣間見るようでおもしろかった前半
テンポよく進む人生
そんなとんとんと上手くゆくもの?って気持ちがないわけではなかった後半
読んでいて爽快なサクセスストーリー。
あくまで小説
色々な職業がある。
バイヤー セレクトショップ そして投資家
この作家さんの名前 ステキ
初めて出逢ったけど、随分とお固い経歴でギャップ!
横浜中華街での気休め的占いで
「あなたは遊び大好き!遊ぶためにに働いている」って言われ大笑い。
一緒に見てもらったコは「仕事のために働いてる」ってまさしく経営者
そして「自らのパワーで生きてる」って言われたのに対して
私は「周りからパワーをもらって生きてる」だって ははは。
間逆な二人 仲よろし。
今年も残すは半月
恩田陸
『メガロマニア あるいは「覆された宝石」への旅』★★★★
いない。
誰もいない。
ここにはもう誰もいない。
みんなどこかへ行ってしまった。
門をくぐっても、寝所を覗いても、誰の姿も見えないし、歌も聞こえない。
水路も涸れ、乾いたまま。
からっぽ。
世界はからっぽだ。
この世界からは、誰もいなくなってしまった。
私は飛んでいる。ひとりきりの空を飛んでいる。
すべてが失われたこの世界を感じている。
かつて見知っていた世界、かつて煌いていた世界、私たちの覆された宝石を。
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夜を越えて
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ビジャエルモッサの夜
空港を出ると、夜が重い。闇が濃い。
濃密な夜。
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非常に高度な天文学の知識を持ち、いまだかつてない正確な暦と完成された文字体系を駆使し、ゼロの概念まで持っていたマヤ文明。カミソリ一枚すら通す隙間のない、素晴らしい石組みの技術でさまざまな建造物を築きあげ、黄金に包まれた都に皇帝が君臨したインカ。太陽神を崇拝し、生贄を捧げた、勇猛なアステカ。残虐さと洗練を併せ持っていた謎の民族、謎の文明。突然、歴史舞台から姿を消したミステリアスな人々。
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オルメカ文明
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パレンケへ向かうまっすぐな幹線道路を走る道すがら、空はどんよりと曇り、墨を流したように黒く滲んでいた。
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生きている。老いてはいるが、まだ呼吸している。身体の奥で、まだ心臓が波打っている。そんな気がした。
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記憶というのは不思議なもので、だんだん見慣れてくると、共通している部分は無意識のうちにすっ飛ばして、差異の部分だけ残るようになってくる。
人は誰しも自分の巣、自分だけの空間が欲しいという願望がある。
むろん、根っこのところにあるのは、危険の回避だろう。
つまり、ステイタスとは、いかに多くの衆目を集め、それでいてその視線を退散させ、その視線から隠れるか、にかかっている。
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マヤ文明。
この言葉ほど、神秘的で謎めいていて、少年時代の冒険心を掻き立てるものはなかなかないのではないか。
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すべてのものから水分を奪い、輪郭を剥き出しにせずにはおかないような圧倒的な光。あまりに光量が多いので目を開けていられない。
ブーゲンビリヤの鮮やかな赤、道端に山に積まれた果物のオレンジ色、壁に塗られたペパーミントグリーンやローズ色、それらがこれでもかという輪郭を伴ってくっきりと浮かび上がり、空の明快な青さとコントラストを成している。
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それにしても、どうして欧米人が皆、あんなにプールに入りたがるのか、私には理解できない。プールサイドで水着を着ていないと、休暇を取った気分になれないのかもしれない。日照時間が短いから、という説を聞いたことがあるが、東北人があれほどプールに入りたがるとは思えない。プール=リゾートのシンボル、なのだろう。
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私はトイレットペーパーの隅を畳まない。居酒屋やレストランのトイレで、前に入った人が畳んであるのを見てムッとするタイプである。トイレットペーパーの隅を畳むのは、「掃除が終わった」というサインなのであって、掃除したわけでもないのに畳むのはよしてくれ、といつも心の中で叫ぶのであった。私が観察したところによると、トイレットペーパーの先を畳む奴に限って、ペーパータオルを二枚取る。
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中庭を囲む神官の神殿も壁面の緻密で繊細な細工がエレガントで美しい。
蛇はどこの国でも水の化身だ。
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サクべ
普段、東京で生活していると、空間を把握しにくい。ついつい、マンションとその周辺、駅に繋がる商店街、鉄道の先のターミナル駅を想像するのが精いっぱいで、自分の住む都市の空間的スケールを実感するのが難しい。
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むべなるかなである。
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すべてをあまねく晒し出す昼間の太陽と、圧倒的な重量を持つ夜の闇。
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蒸し暑い部屋で、眠たげに回る扇風機の鈍い音を聞いていると、コッポラの映画『地獄の黙示録』を思い出す。あの映画のせいで、どうしても天井の扇風機音に混じって、遠くからヘリコプターの音が聞こえてくるような錯覚を感じてしまうのだ。
扇風機の音、ヘリコプターの夢。
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なるほど、文明とは「場」を作ることなのね、と思う。
強い日射し。
緑の海を渡る風。
なんという静寂さだろう。
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湖の反射光が目の奥に残っていて、部屋の鏡を見てもまだどこかがキラキラ揺れている。
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リマの印象は、大都会なのに暗い、というものである。もっとも、夜も煌々とあまねく明るいのは東京だけで、世界の大都市の夜は暗く、京都だってそんなに明るくない。
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高地で血の巡りがよくなる酒はご法度。
街灯の暗いオレンジ色の光を見て、本当に遠いところまで来たという実感が沸いたのだった。
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高山病が不安でおどおどと歩き出すが、外に出てみると日射しのほうが気になった。
太陽が近い。空気が薄く硬質なので、ダイレクトに太陽光線が肌に突き刺さる感じなのだ。紫外線が怖い。
クスコの標高は約三千四百メートル。かつてはインカ帝国の首都であった。
元々インカ帝国の中心、世界の中心とされていた都市である。都市の栄枯盛衰というのはかくも諸行無常。一時代を担ったことのある都市を訪れると、いつもたとえようのない憂鬱と不安に襲われる。いつかは我々も取り残されるのではないか。
手塚治虫の未完の対策『火の鳥』は、よく知られているように、遠い過去と遠い未来を交互に描いてゆき、少しずつ両側から現代に近づき、最終編は現代を描いて終わる予定だったと言われている。
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雨が生まれる場所
山にまとわりつくように雲が次々に流れてくる。ちぎれたり、垂れこめたり、色も真っ白から濃い墨の色まで、刻々と変化していく。
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謎のモライ遺跡
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ヨーロッパ人は、照明についての感覚が日本人とは異なる。いや、江戸時代くらいまではきっと同じような感覚だったと思うのだが、現代の日本人、あまねく明るく照らし出す日本人とは違う、と夜の町に出るたびに思うのだ。
オレンジ色の明かり。町全体に紗がかかったような、別世界。
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暗いプラットフォーム、列車から上がる蒸気。車両ごとに担当の決まったスタッフたちが並んでいるところは、ポール・デルヴォーの絵そっくりで、夢の中の光景のようだ。このまま列車に乗り込んだら、なんだか不思議な世界に連れていかれそうだ。
登山列車でもあるペルーレイルは、時折スイッチバックをする。
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モノクロの世界。
影の世界。
風はなく、沈黙が世界を支配している。
呼吸すると、雲が喉に入ってきてひんやりと冷たい。
音が消えてしまったようだった。それにもまして、時間が止まってしまっているような感じが心許無く、方向感覚を見失っている。
インカトレイル
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風の谷
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神殿を壊し、母国と同じ聖堂を建てても、土台はインカのもの、地震が起きれば、神の御加護があるはずの聖堂はあっさり崩れてしまい、びくともしないインカの土台のみが残る。
ミイラを敬い、太陽に生贄を捧げるインカの風習を、スペイン人たちは恐怖し、軽蔑し、徹底的に弾圧した。