山本周五郎
『ながい坂㊦』★★★★
勢いに乗っていたけど、
途中で宮部みゆきの三島屋シリーズにつかまってしまった(^▽^;)
静かな夜に少しずつ読み進めてゆく。
全くブレない主水正に感嘆しつつ。
--------(抜粋)
異例の出世をした主水正に対する藩内の風当たりは強く、心血をそそいだ堰堤工事は中止されてしまうが、それが実は、藩主継承をめぐる争いに根ざしたものであることを知る。
“人生"というながい坂を人間らしさを求めて、苦しみながらも一歩一歩踏みしめていく一人の男の孤独で厳しい半生を描いた本書は、山本周五郎の最後の長編小説であり、周五郎文学の到達点を示す作品である。
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「妙なはなしですが、私は小さい子供が嫌いでしてな」と小出は苦笑をした、「孫というものを可愛いと思ったこともなし、抱いたりあやしたりしたこともありません、このぶんですと私の一生は書物に始まって書物に終る、ということになりそうです」そういう生涯もあるのだ、と主水正はあとで思った。人の生きかたに規矩はない、ひとりひとりが、それぞれの人生を堅く信じ。そのほかにも生きる道があろうなどとは考えもせず、満足して死を迎える者が大多分であろう。小出先生は小出先生なりに生きた。それはむしろ祝福したいようなものだ。それに反しておれ自身はどうか、おれはそうではない、今日のおれはおれ自身が望んだものではない。
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草鞋と草履のちがいは何?? (笑)
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自分の選んだ道が、現在のおれの立場を招いたのだ。
他の人たちとは違ういろいろな、新らしい経験をしてきたが、いま思い返してみて、これがむだだということは一つもなかった、こんどの仕事も徒労である筈はない、
「鷲っ子は無事か」
すべては一つの波だ。水面に生じた波が、一点から他の店へ動いてゆく現象に似ている。これはいっときのどたばた騒ぎであり、波が過ぎ去れば元の状態に返る。いまこのどたばた騒ぎの一つ一つを問題にしたり、それに驚いたりしてはならない、動き、過ぎ去ってゆく波から眼を放さないことだ。
「殿に会いたい」と主水生が云った、「どんな方法でもいい、機会はないだろうか」
「私が知りたいのは殿の御安否だ」と主水生は云った、「殿さえ御安泰なら、このきちがい沙汰をきっと転覆させてみせる、繰返し云うが、殿さえ御安泰ならばだ」
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P208(しばしブランク(宮部みゆき三島屋は挟む)
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どんな財政をうまく案配しても、亡びるものは亡びる。人間のすることにいつも限度が付いてまわる、大きく云えば、なにもしないで死ぬことがもっとも理にかなった生きかたなのだ、と主水正は心の中で思った。
「この世に起こることは、人間の力では及ばないことが多い、私は殿が御無事であるかどうかを、この眼で慥かめるために江戸へいった、殿は御無事だったし、時がくれば飛騨守昌治さまとして、正式に御帰国なさるということを聞いてきた、六条一味の計ったことはもう限度まできている、しかし六条一味のしようとしたことにも、よい面がないとはいえない、かれらはかれらなりに、最善をつくしているのだろう、たとえそれがわれわれにとって悪事だとしても、一味にとっては善であることに紛れはないだろう、——およそ人間のは自分のすることを善と信じ、他人のすることには批判的になるものだ、殿はその判断を誤らないまでに成長された、飛騨守さまとして、いつ正式に御帰国なさるかどうかは問題ではない、桑島はいま、われわれは命を賭けて御再興のために奔走していると云った、だが、それはおまえたちだけのことではない、自分のことは云わないが、殿御自身もこのために命を賭けていらっしゃるのだ、もっとはっきり云えば、殿御一人ほど生死の境を潜って来られた方はないだろう、人間がただ生きてゆくというだけでも、命がけなものではないだろうか」
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男の苦しみと女の苦しみは違う、
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「長いあいだ苦労させたね、これからも無事にゆくかどうかはわからないが、私の心だけは一生変わらないよ」
「これからなにが起こるかわからないが」と主水正は半ば自分を納得させるような口ぶりで、杉本に云った、「そのときうろたえたり、みれんな振舞いをしてはならんぞ」
―—かれらはおれを殺せなかった。
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~顔かたちや躾作法は、はたの者と本人の意思でどうにでもなる、しかし生まれついた軀の機能だけはそうはいきません。
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兵部は両手で抱くように、宗岳の軀を支えながら云った、「老いては子に従えと教えたのは先生ですよ」
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「まるで人間のように」と兵部は太い杉の幹に手を当てながら呟いた、「おまえは口もきけず動くこともできない、百年でも五百年でも、同じ場所に立ったままで生き続けなければならない、けれども人間や毛物と同じように、生きていることは事実だし、このとおり呼吸さえしている、ことによると、われわれのじたばたしている姿を見て、羨んだり嘲笑したりするだけの感情さえあるのではないか」
そうではないかと呼びかけ、兵部は杉の幹をあやすように叩いた。
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兵部に何かを期待している自分がいる。
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「としと老いはべつなようです」
これからのほかにも、老いたり死んだりした人は少なくないだろう。時は休みなく過ぎ去ってゆき、人はその時の経過から逭れられない、王侯といえどもいつかは老い、そして死ぬのだ。
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「およそ人間の生活は、過去とのつながりを断っては存在しないと思います。新らしい事実を処理するには、経験の中から前例を選び出し、それらを検討することで、適切な手段がとれるのだと思いますが、そうではないでしょうか」
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よく晴れた初夏の空は、気の遠くなるほどの碧色に澄み、暑いような日光と、爽やかな風とで肌がこころよくしみた。
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流れ去ったものは帰らない
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「あなたは楽天家だな」
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夜の静かな雨
庇を打つ雨の音に気づいた。ひっそり静かな音で、尖った感情や緊張が、やわらかに解きほぐされるように、感じられた。
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主水正の困難に立ち向かうが如く、周りに左右されず信念を貫き通すその心意気が沁みた。
自分に素直であれ。正直であれ。
「沁みるわ~」その一言に尽きます。
★★★★★
管理会社さんに感謝!!
(↑現在コロナ陽性っぽく逢えず もはや感染していない人の方が少ない!?)
山本周五郎 - Wikipedia