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📚読書備忘録📚
(自己評価★★★★★)+泣ける物語
たまに山ブログ
         

N

2024-03-21 | 明治・大正・昭和

 

夏目漱石
『こころ』
 
 
大江健三郎の最後の作品にこの『こころ』が引用されていた。
実は本箱に未読本として持っていたので、これを機に読んでみた。


--------(抜粋)


あなたはそのたった一人になれますか。

親友を裏切って恋人を得た。しかし、親友は自殺した。増殖する罪悪感、そして焦燥……。
知識人の孤独な内面を抉る近代文学を代表する名作

鎌倉の海岸で、学生だった私は一人の男性と出会った。不思議な魅力を持つその人は、“先生"と呼んで慕う私になかなか心を開いてくれず、謎のような言葉で惑わせる。やがてある日、私のもとに分厚い手紙が届いたとき、先生はもはやこの世の人ではなかった。遺された手紙から明らかになる先生の人生の悲劇――それは親友とともに一人の女性に恋をしたときから始まったのだった。
 
 
--------
 
簡単に一言「暗っっ!」
あとこのご時世ジャンダーレスですが「女の腐ったような男」(これも死語?)
うじうじし過ぎてて女みたいな男だわ」
「ってか自己中心的過ぎるわ先生」
残された人のこと考えてないわ」
ぽんぽんと文句?意見?が出る一作です。

名作と言われる所以は確かにあるけど、
今の時代背景には合わないってことですな。

時代と一緒に死ねますか?
(まぁそれは美化しての一言だろうと思うけど)

確かに先生の繊細な心の動きや葛藤は伝わってきます。
言いたいことも分からなくはない。
でも・・どうなの?どうなのよ?
突っ込みに忙しく、全く入りきれない(笑)



『大江健三郎全小説4』
こちらの最終話『水死』
P428 第五章 大眩暈
P447 第六章 「死んだ犬を投げる」芝居

舞台で穴井マサオが語る先生への意見、発言に同意です。

---

正直いって、私はシラケルね。そうじゃないかい?諸君!

---

しかし先生の奥さまが気の毒でならない。
違和感を感じたのは私だけではなかったよう。
推理小説のように謎が謎を呼び、そこから想像する違う奥さま
そこは男性だろうが女性だろうが関係ない模様



『ココロ』読んだことない方・・そのままでOK
教科書に掲載されていた経緯か、
ある程度認知されているからか他作品と混ざって「不倫の話でしょ」とお友達の一言
不倫の話ではないですノンノン!





装丁が限定本なのか素敵
平成26年 その当時ジャケ買いです。
 
 
 

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M

2021-10-30 | 明治・大正・昭和

 

 

宮沢賢治
『注文の多い料理店』


昨日紹介した黒猫軒、いえ「山猫軒」にて。
どうしても黒猫と言ってしまう。にゃおん。
注文の多い料理店は小学校?の教科書に載っていた。
とにかく色々ver.が出ていて、千代文庫(書庫)の中にも数冊
表紙で選んだのは言うまでもない。




黒猫軒にはピッタリ でしょ?(しつこいね(笑))

なつかしみながら読む読む。
 
 








やはり黒猫表紙が定番?



この話の中でみんな素直に脱いでゆくけど、疑いを知らない世間知らずな様子
よい方向へお思い込み(+思考) 素直とも言う。
今の世じゃ情報過多もあり(詐欺も横行)疑り深く、そう簡単には騙されないよね。
オレオレ詐欺もなつかしき過去話





 


過去イーハトーブを訪ね
(宮沢賢治による造語で、心象世界にある理想郷)
『銀河鉄道の夜』など読んでみたいなとは思ったけど。

 

宮沢賢治学会イーハトーブセンター/宮沢賢治イーハトーブ館

そこへ夜行って歌へば、またそこで風を吸へばもう元気がついて あしたの仕事中からだいっぱい勢がよくて面白いやうな […] - https://...

宮沢賢治学会イーハトーブセンター/宮沢賢治イーハトーブ館-そこへ夜行って歌へば、またそこで風を吸へばもう元気がついて あしたの仕事中からだいっぱい勢がよくて面白いやうな さういふポラーノの広場をぼくらみんなでこさえやう。 (宮沢賢治「ポラーノの広場」より) 宮沢賢治学会イーハト […]-


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N

2021-05-11 | 明治・大正・昭和

 

夏目漱石
『吾輩は猫である』★★★★


GW読書本
数年前のお正月読書で挫折・・P585ですから・・
いつかちゃんとした休暇に再度チャレンジしたいと思っていた。
今回はノリに乗れて完読!うれしい(笑)
 
 
---
 
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
 
---
 
この冒頭は読んだことがない人でも知っている。
そこから繰り広げられる猫目線の物語
 
 




こちらの本、注解がたくさんあり、最終Pを捲るのに忙しく集中出来ないのが難点
そのPに注解があるとよいんだけどなぁ
ぶつぶつ
 
 
ツボに入るとクスクス笑いが止まらなく痛快・愉快な物語
皮肉も笑いに変えてしまう。
色濃い主人公+知人達
 
特にバイオリンについての会話は絶妙
真夜中に独り笑いが止まらなかった。
今じゃそういう会話って成り立たないなって。
 



たまには古典もよき。
『こころ』も未読のまま本箱に眠っている。

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H

2020-06-02 | 明治・大正・昭和

 

半藤一利
『幕末史』★★★★

 

部長から借りた というか部長の机にあった本
全く興味のない幕末
坂本龍馬とか西郷さんとか。
イメージはごたごた混乱期
宇江佐さんのお江戸物語を読んでいたのもあり、上野の彰義隊の背景が浮かぶ。
この筆者の半藤一利さんも初耳で「誰かしら?」
読むきっかけとなったのは帯文

 

--------

 

というわけで、これから私が延々と皆さんに語ることになります幕末から明治十一年までの歴史は、「反薩長史観」となることには請合いであります。あらかじめ申し上げておきます。そう、「幕末のぎりぎりの段階で薩長というのはほとんど暴力であった」と司馬遼太郎さんはいいます。私もまったく同感なんです。

 

-------

目からウロコ!?
幕末の英雄達は実は違っていた!?
(そう言ってもその英雄達に興味があるわけではなく)

そして筆者紹介でこの方が結構な人物であることも知る。
(『ノモンハンの夏』の筆者だったwow)

 

あとは読み始めたらするすると読んでしまい完読

 

歴史の教科書以来
忘却の未開の世界
本とに出逢いに久々にどきどきした。

 

 

私的には海軍の勝海舟が気になり、掘り下げてみたくなった。

司馬観の幕末もこうなったら読んでみたい。

 

部「結構早く読み終わったね」

「私的には勝海舟が気になりました」

部「僕は會津の人間ですから勝海舟はかなり微妙な感じです。容保とか西郷頼母とか新選組にこころふるえます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








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Y

2018-08-01 | 明治・大正・昭和




吉野源三郎
イラスト:羽賀翔一
『漫画 君たちはどう生きるか』★★★


三回ぐらいに分けて読む読む。
子供の頃に出逢っていたらよかったと思える本
読む本と現実の乖離が最近多い?

そうだよなそうだよねって感銘を受ける。
特に子供の頃なんてそうだった。



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1937年に出版されて以来、
数多くの人に読み継がれてきた、
吉野源三郎さんの名作「君たちはどう生きるか」
人間としてどう生きればいいのか、
楽しく読んでいるうちに自然と考えるように書かれた本書は、
子供はもちろん多くの大人たちにも共感をもって迎えられてきました。
勇気、いじめ、貧困、格差、教養、、、
昔も今も変わらない人生のテーマに真摯に向き合う主人公のコペル君と叔父さん。
二人の姿勢には、生き方の指針となる言葉が数多く示されています。
そんな時代を超えた名著が、
原作の良さをそのままに、
マンガの形で、今に蘇りました。
初めて読む人はもちろん、
何度か読んだことのある人も、
一度手にとって、
人生を見つめ直すきっかけにしてほしい一冊です。
《全国学校図書館協議会選定図書》



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M

2017-01-09 | 明治・大正・昭和

 


宮沢賢治
『なめとこ山のくま』


千代文庫から
初めての訪問だったけど勝手知ったる我が家みたいね。
居心地がよいカフェです(=^^=)にゃおん


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なめとこ山の熊くまのことならおもしろい。なめとこ山は大きな山だ。淵沢ふちざわ川はなめとこ山から出て来る。なめとこ山は一年のうち大ていの日はつめたい霧か雲かを吸ったり吐いたりしている。まわりもみんな青黒いなまこや海坊主のような山だ。山のなかごろに大きな洞穴ほらあなががらんとあいている。そこから淵沢川がいきなり三百尺ぐらいの滝になってひのきやいたやのしげみの中をごうと落ちて来る。
 中山街道はこのごろは誰たれも歩かないから蕗ふきやいたどりがいっぱいに生えたり牛が遁にげて登らないように柵さくをみちにたてたりしているけれどもそこをがさがさ三里ばかり行くと向うの方で風が山の頂を通っているような音がする。気をつけてそっちを見ると何だかわけのわからない白い細長いものが山をうごいて落ちてけむりを立てているのがわかる。それがなめとこ山の大空滝だ。そして昔はそのへんには熊がごちゃごちゃ居たそうだ。ほんとうはなめとこ山も熊の胆いも私は自分で見たのではない。人から聞いたり考えたりしたことばかりだ。間ちがっているかもしれないけれども私はそう思うのだ。とにかくなめとこ山の熊の胆いは名高いものになっている。
 腹の痛いのにもきけば傷もなおる。鉛の湯の入口になめとこ山の熊の胆いありという昔からの看板もかかっている。だからもう熊はなめとこ山で赤い舌をべろべろ吐いて谷をわたったり熊の子供らがすもうをとっておしまいぽかぽか撲なぐりあったりしていることはたしかだ。熊捕りの名人の淵沢小十郎がそれを片っぱしから捕ったのだ。
 淵沢小十郎はすがめの赭黒あかぐろいごりごりしたおやじで胴は小さな臼うすぐらいはあったし掌てのひらは北島の毘沙門びしゃもんさんの病気をなおすための手形ぐらい大きく厚かった。小十郎は夏なら菩提樹マダの皮でこさえたけらを着てはむばきをはき生蕃せいばんの使うような山刀とポルトガル伝来というような大きな重い鉄砲をもってたくましい黄いろな犬をつれてなめとこ山からしどけ沢から三つ又からサッカイの山からマミ穴森から白沢からまるで縦横にあるいた。木がいっぱい生えているから谷を溯のぼっているとまるで青黒いトンネルの中を行くようで時にはぱっと緑と黄金きんいろに明るくなることもあればそこら中が花が咲いたように日光が落ちていることもある。そこを小十郎が、まるで自分の座敷の中を歩いているというふうでゆっくりのっしのっしとやって行く。犬はさきに立って崖がけを横這よこばいに走ったりざぶんと水にかけ込んだり淵ののろのろした気味の悪いとこをもう一生けん命に泳いでやっと向うの岩にのぼるとからだをぶるぶるっとして毛をたてて水をふるい落しそれから鼻をしかめて主人の来るのを待っている。小十郎は膝ひざから上にまるで屏風びょうぶのような白い波をたてながらコンパスのように足を抜き差しして口を少し曲げながらやって来る。そこであんまり一ぺんに言ってしまって悪いけれどもなめとこ山あたりの熊は小十郎をすきなのだ。その証拠には熊どもは小十郎がぼちゃぼちゃ谷をこいだり谷の岸の細い平らないっぱいにあざみなどの生えているとこを通るときはだまって高いとこから見送っているのだ。木の上から両手で枝にとりついたり崖の上で膝をかかえて座ったりしておもしろそうに小十郎を見送っているのだ。まったく熊どもは小十郎の犬さえすきなようだった。けれどもいくら熊どもだってすっかり小十郎とぶっつかって犬がまるで火のついたまりのようになって飛びつき小十郎が眼めをまるで変に光らして鉄砲をこっちへ構えることはあんまりすきではなかった。そのときは大ていの熊は迷惑そうに手をふってそんなことをされるのを断わった。けれども熊もいろいろだから気の烈はげしいやつならごうごう咆ほえて立ちあがって、犬などはまるで踏みつぶしそうにしながら小十郎の方へ両手を出してかかって行く。小十郎はぴったり落ち着いて樹きをたてにして立ちながら熊の月の輪をめがけてズドンとやるのだった。すると森までががあっと叫んで熊はどたっと倒れ赤黒い血をどくどく吐き鼻をくんくん鳴らして死んでしまうのだった。小十郎は鉄砲を木へたてかけて注意深くそばへ寄って来てこう言うのだった。
「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。おれも商売ならてめえも射うたなけぁならねえ。ほかの罪のねえ仕事していんだが畑はなし木はお上のものにきまったし里へ出ても誰たれも相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ」
 そのときは犬もすっかりしょげかえって眼を細くして座っていた。
 何せこの犬ばかりは小十郎が四十の夏うち中みんな赤痢せきりにかかってとうとう小十郎の息子とその妻も死んだ中にぴんぴんして生きていたのだ。
 それから小十郎はふところからとぎすまされた小刀を出して熊の顎あごのとこから胸から腹へかけて皮をすうっと裂いていくのだった。それからあとの景色は僕は大きらいだ。けれどもとにかくおしまい小十郎がまっ赤な熊の胆いをせなかの木のひつに入れて血で毛がぼとぼと房になった毛皮を谷であらってくるくるまるめせなかにしょって自分もぐんなりした風で谷を下って行くことだけはたしかなのだ。
 小十郎はもう熊のことばだってわかるような気がした。ある年の春はやく山の木がまだ一本も青くならないころ小十郎は犬を連れて白沢をずうっとのぼった。夕方になって小十郎はばっかぃ沢へこえる峯みねになった処ところへ去年の夏こさえた笹小屋ささごやへ泊ろうと思ってそこへのぼって行った。そしたらどういう加減か小十郎の柄にもなく登り口をまちがってしまった。
 なんべんも谷へ降りてまた登り直して犬もへとへとにつかれ小十郎も口を横にまげて息をしながら半分くずれかかった去年の小屋を見つけた。小十郎がすぐ下に湧水わきみずのあったのを思い出して少し山を降りかけたら愕おどろいたことは母親とやっと一歳になるかならないような子熊と二疋ひきちょうど人が額に手をあてて遠くを眺ながめるといったふうに淡い六日の月光の中を向うの谷をしげしげ見つめているのにあった。小十郎はまるでその二疋の熊のからだから後光が射すように思えてまるで釘付くぎづけになったように立ちどまってそっちを見つめていた。すると小熊が甘えるように言ったのだ。
「どうしても雪だよ、おっかさん谷のこっち側だけ白くなっているんだもの。どうしても雪だよ。おっかさん」
 すると母親の熊はまだしげしげ見つめていたがやっと言った。
「雪でないよ、あすこへだけ降るはずがないんだもの」
 子熊はまた言った。
「だから溶けないで残ったのでしょう」
「いいえ、おっかさんはあざみの芽を見に昨日あすこを通ったばかりです」
 小十郎もじっとそっちを見た。
 月の光が青じろく山の斜面を滑っていた。そこがちょうど銀の鎧よろいのように光っているのだった。しばらくたって子熊が言った。
「雪でなけぁ霜だねえ。きっとそうだ」
 ほんとうに今夜は霜が降るぞ、お月さまの近くで胃コキエもあんなに青くふるえているし第一お月さまのいろだってまるで氷のようだ、小十郎がひとりで思った。
「おかあさまはわかったよ、あれねえ、ひきざくらの花」
「なぁんだ、ひきざくらの花だい。僕知ってるよ」
「いいえ、お前まだ見たことありません」
「知ってるよ、僕この前とって来たもの」
「いいえ、あれひきざくらでありません、お前とって来たのきささげの花でしょう」
「そうだろうか」子熊はとぼけたように答えました。小十郎はなぜかもう胸がいっぱいになってもう一ぺん向うの谷の白い雪のような花と余念なく月光をあびて立っている母子の熊をちらっと見てそれから音をたてないようにこっそりこっそり戻りはじめた。風があっちへ行くな行くなと思いながらそろそろと小十郎は後退あとずさりした。くろもじの木の匂においが月のあかりといっしょにすうっとさした。

 ところがこの豪儀な小十郎がまちへ熊の皮と胆きもを売りに行くときのみじめさといったら全く気の毒だった。
 町の中ほどに大きな荒物屋があって笊ざるだの砂糖だの砥石といしだの金天狗きんてんぐやカメレオン印の煙草たばこだのそれから硝子ガラスの蠅はえとりまでならべていたのだ。小十郎が山のように毛皮をしょってそこのしきいを一足またぐと店では又来たかというようにうすわらっているのだった。店の次の間に大きな唐金からかねの火鉢ひばちを出して主人がどっかり座っていた。
「旦那だんなさん、先せんころはどうもありがどうごあんした」
 あの山では主のような小十郎は毛皮の荷物を横におろして叮ていねいに敷板に手をついて言うのだった。
「はあ、どうも、今日は何のご用です」
「熊の皮また少し持って来たます」
「熊の皮か。この前のもまだあのまましまってあるし今日ぁまんついいます」
「旦那さん、そう言わなぃでどうか買って呉くんなさぃ。安くてもいいます」
「なんぼ安くても要らなぃます」主人は落ち着きはらってきせるをたんたんとてのひらへたたくのだ、あの豪気な山の中の主の小十郎はこう言われるたびにもうまるで心配そうに顔をしかめた。何せ小十郎のとこでは山には栗くりがあったしうしろのまるで少しの畑からは稗ひえがとれるのではあったが米などは少しもできず味噌みそもなかったから九十になるとしよりと子供ばかりの七人家内にもって行く米はごくわずかずつでも要ったのだ。
 里の方のものなら麻もつくったけれども、小十郎のとこではわずか藤ふじつるで編む入れ物の外に布にするようなものはなんにも出来なかったのだ。小十郎はしばらくたってからまるでしわがれたような声で言ったもんだ。
「旦那さん、お願だます。どうが何ぼでもいいはんて買って呉くなぃ」小十郎はそう言いながら改めておじぎさえしたもんだ。
 主人はだまってしばらくけむりを吐いてから顔の少しでにかにか笑うのをそっとかくして言ったもんだ。
「いいます。置いでお出れ。じゃ、平助、小十郎さんさ二円あげろじゃ」
 店の平助が大きな銀貨を四枚小十郎の前へ座って出した。小十郎はそれを押しいただくようにしてにかにかしながら受け取った。それから主人はこんどはだんだん機嫌がよくなる。
「じゃ、おきの、小十郎さんさ一杯あげろ」
 小十郎はこのころはもううれしくてわくわくしている。主人はゆっくりいろいろ談はなす。小十郎はかしこまって山のもようや何か申しあげている。間もなく台所の方からお膳ぜんできたと知らせる。小十郎は半分辞退するけれども結局台所のとこへ引っぱられてってまた叮寧な挨拶あいさつをしている。
 間もなく塩引の鮭さけの刺身やいかの切り込みなどと酒が一本黒い小さな膳にのって来る。
 小十郎はちゃんとかしこまってそこへ腰掛けていかの切り込みを手の甲にのせてべろりとなめたりうやうやしく黄いろな酒を小さな猪口ちょこについだりしている。いくら物価の安いときだって熊の毛皮二枚で二円はあんまり安いと誰たれでも思う。実に安いしあんまり安いことは小十郎でも知っている。けれどもどうして小十郎はそんな町の荒物屋なんかへでなしにほかの人へどしどし売れないか。それはなぜか大ていの人にはわからない。けれども日本では狐きつねけんというものもあって狐は猟師に負け猟師は旦那に負けるときまっている。ここでは熊は小十郎にやられ小十郎が旦那にやられる。旦那は町のみんなの中にいるからなかなか熊に食われない。けれどもこんないやなずるいやつらは世界がだんだん進歩するとひとりで消えてなくなっていく。僕はしばらくの間でもあんな立派な小十郎が二度とつらも見たくないようないやなやつにうまくやられることを書いたのが実にしゃくにさわってたまらない。

 こんなふうだったから小十郎は熊どもは殺してはいても決してそれを憎んではいなかったのだ。ところがある年の夏こんなようなおかしなことが起ったのだ。
 小十郎が谷をばちゃばちゃ渉わたって一つの岩にのぼったらいきなりすぐ前の木に大きな熊が猫ねこのようにせなかを円くしてよじ登っているのを見た。小十郎はすぐ鉄砲をつきつけた。犬はもう大悦おおよろこびで木の下に行って木のまわりを烈はげしく馳はせめぐった。
 すると樹の上の熊はしばらくの間おりて小十郎に飛びかかろうかそのまま射うたれてやろうか思案しているらしかったがいきなり両手を樹からはなしてどたりと落ちて来たのだ。小十郎は油断なく銃を構えて打つばかりにして近寄って行ったら熊は両手をあげて叫んだ。
「おまえは何がほしくておれを殺すんだ」
「ああ、おれはお前の毛皮と、胆きものほかにはなんにもいらない。それも町へ持って行ってひどく高く売れるというのではないしほんとうに気の毒だけれどもやっぱり仕方ない。けれどもお前に今ごろそんなことを言われるともうおれなどは何か栗かしだのみでも食っていてそれで死ぬならおれも死んでもいいような気がするよ」
「もう二年ばかり待ってくれ、おれも死ぬのはもうかまわないようなもんだけれども少しし残した仕事もあるしただ二年だけ待ってくれ。二年目にはおれもおまえの家の前でちゃんと死んでいてやるから。毛皮も胃袋もやってしまうから」
 小十郎は変な気がしてじっと考えて立ってしまいました。熊はそのひまに足うらを全体地面につけてごくゆっくりと歩き出した。小十郎はやっぱりぼんやり立っていた。熊はもう小十郎がいきなりうしろから鉄砲を射ったり決してしないことがよくわかってるというふうでうしろも見ないでゆっくりゆっくり歩いて行った。そしてその広い赤黒いせなかが木の枝の間から落ちた日光にちらっと光ったとき小十郎は、う、うとせつなそうにうなって谷をわたって帰りはじめた。それからちょうど二年目だったがある朝小十郎があんまり風が烈しくて木もかきねも倒れたろうと思って外へ出たらひのきのかきねはいつものようにかわりなくその下のところに始終見たことのある赤黒いものが横になっているのでした。ちょうど二年目だしあの熊がやって来るかと少し心配するようにしていたときでしたから小十郎はどきっとしてしまいました。そばに寄って見ましたらちゃんとあのこの前の熊が口からいっぱいに血を吐いて倒れていた。小十郎は思わず拝むようにした。

 一月のある日のことだった。小十郎は朝うちを出るときいままで言ったことのないことを言った。
「婆ばさま、おれも年老とったでばな、今朝まず生れで始めで水へ入るの嫌やんたよな気するじゃ」
 すると縁側の日なたで糸を紡いでいた九十になる小十郎の母はその見えないような眼をあげてちょっと小十郎を見て何か笑うか泣くかするような顔つきをした。小十郎はわらじを結えてうんとこさと立ちあがって出かけた。子供らはかわるがわる厩うまやの前から顔を出して「爺じさん、早ぐお出でや」と言って笑った。小十郎はまっ青なつるつるした空を見あげてそれから孫たちの方を向いて「行って来るじゃぃ」と言った。
 小十郎はまっ白な堅雪の上を白沢の方へのぼって行った。
 犬はもう息をはあはあし赤い舌を出しながら走ってはとまり走ってはとまりして行った。間もなく小十郎の影は丘の向うへ沈んで見えなくなってしまい子供らは稗ひえの藁わらでふじつきをして遊んだ。

 小十郎は白沢の岸を溯のぼって行った。水はまっ青に淵ふちになったり硝子ガラス板をしいたように凍ったりつららが何本も何本もじゅずのようになってかかったりそして両岸からは赤と黄いろのまゆみの実が花が咲いたようにのぞいたりした。小十郎は自分と犬との影法師がちらちら光り樺かばの幹の影といっしょに雪にかっきり藍あいいろの影になってうごくのを見ながら溯って行った。
 白沢から峯を一つ越えたとこに一疋の大きなやつが棲すんでいたのを夏のうちにたずねておいたのだ。
 小十郎は谷に入って来る小さな支流を五つ越えて何べんも何べんも右から左左から右へ水をわたって溯って行った。そこに小さな滝があった。小十郎はその滝のすぐ下から長根の方へかけてのぼりはじめた。雪はあんまりまばゆくて燃えているくらい。小十郎は眼がすっかり紫の眼鏡めがねをかけたような気がして登って行った。犬はやっぱりそんな崖がけでも負けないというようにたびたび滑りそうになりながら雪にかじりついて登ったのだ。やっと崖を登りきったらそこはまばらに栗の木の生えたごくゆるい斜面の平らで雪はまるで寒水石という風にギラギラ光っていたしまわりをずうっと高い雪のみねがにょきにょきつったっていた。小十郎がその頂上でやすんでいたときだ。いきなり犬が火のついたように咆ほえ出した。小十郎がびっくりしてうしろを見たらあの夏に眼をつけておいた大きな熊が両足で立ってこっちへかかって来たのだ。
 小十郎は落ちついて足をふんばって鉄砲を構えた。熊は棒のような両手をびっこにあげてまっすぐに走って来た。さすがの小十郎もちょっと顔いろを変えた。
 ぴしゃというように鉄砲の音が小十郎に聞えた。ところが熊は少しも倒れないで嵐あらしのように黒くゆらいでやって来たようだった。犬がその足もとに噛かみ付いた。と思うと小十郎はがあんと頭が鳴ってまわりがいちめんまっ青になった。それから遠くでこう言うことばを聞いた。
「おお小十郎おまえを殺すつもりはなかった」
 もうおれは死んだと小十郎は思った。そしてちらちらちらちら青い星のような光がそこらいちめんに見えた。
「これが死んだしるしだ。死ぬとき見る火だ。熊ども、ゆるせよ」と小十郎は思った。それからあとの小十郎の心持はもう私にはわからない。
 とにかくそれから三日目の晩だった。まるで氷の玉のような月がそらにかかっていた。雪は青白く明るく水は燐光りんこうをあげた。すばるや参しんの星が緑や橙だいだいにちらちらして呼吸をするように見えた。
 その栗の木と白い雪の峯々にかこまれた山の上の平らに黒い大きなものがたくさん環わになって集って各々黒い影を置き回々フイフイ教徒の祈るときのようにじっと雪にひれふしたままいつまでもいつまでも動かなかった。そしてその雪と月のあかりで見るといちばん高いとこに小十郎の死骸しがいが半分座ったようになって置かれていた。
 思いなしかその死んで凍えてしまった小十郎の顔はまるで生きてるときのように冴さえ冴ざえして何か笑っているようにさえ見えたのだ。ほんとうにそれらの大きな黒いものは参の星が天のまん中に来てももっと西へ傾いてもじっと化石したようにうごかなかった。



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H

2016-08-27 | 明治・大正・昭和


林芙美子
『放浪記』★★★

夏休み読書
電車の中、実家、旅先

実家のリフォーム中の部屋で、
ビーチリゾート的長イスを出し横になりつつ冷えたビールを飲む。
ちょうど夕方で大きな窓から見える青空は赤を含んだ夕景に変わり、
裏山で鳴く蜩の声がまさしく夏の夕方を思わせ、目を閉じて闇に紛れ込む。

遠く離れた世界
もちろんこれも現実だけどそう思えなくて。

じゃんがらの音が胸に響く。

これ以上 時が過ぎないでほしい。


以前から気になっていた本
第三部も含めた完全版

今も昔も女性の想いは変わらない。
そう田舎の家族を想う気持ちも。
大正期の都内の様子が伝わる。

カネ、カネ、カネ
でもプライドは捨ててない。

死に対して同じ。
横断歩道を渡っているとき、このまま轢いてくれたらよいのにって何度思っただろう。


ご近所のオンナ友達に読ませたいわ(笑)


過去林芙美子を読んだような記憶がある。


現実でもふみこに出逢う。奇遇だわ!!
新たな友という思いもしなかったところから。








--- 抜粋は現実に戻った第二章から



さてさてあぶない生肝取り、ああ何もかも差しあげてしまいますから、二日でも三日でも誰か私をゆっくり眠らせて下さい。私に体から、何でも持って行って下さい。私は泥のように眠りたい。石鹸のようにとけてなくなってしまって、下水の水に、酒もビールも、ジンもウイスキーも、私の胃袋はマッチの代用です。さあ、私の体が入用だったらタダで差し上げましょう。なまじっかタダでプレゼントした方があとくされがなくてせいせいするでしょう。酔っぱらって椅子と一緒に転んだ私を、時ちゃんは馬のように引きおこしてくれた。そうして耳に口をつけて言った事は、
「新聞を上からかぶせとくから、少しつっぷして眠んなさい、酔っぱらって仕様がないじゃないの・・・・・・」
私の蒲団は新聞で沢山なのですよ、私は蛆虫のような女ですからね、酔いだってさめてしまえばもとのもくあみ、一日がずるずると手から抜けて行くのですもの、早く私のカクメイでもおこさなくちゃなりません。








「私、つくづく家でも持って落ちつきたくなったのよ、風呂敷一ツさげて、あっちこっち、カフエーやバーをめがけて歩くのは心細くなって来たの・・・・・・」
「私、家なんかちっとも持ちたくなんぞならないわ。このまま煙のように呆っと消えられるものなら、その方がずっといい。」
「つまらないわね。」
「いっそ、世界中の人間が、一日に二時間だけ働くようになればいいとおもうわ、あとは野や山に裸で踊れるじゃないの、生活とは?なんて、めんどくさい事考えなくてもいいのにね。」








ベンチに腰をかけて雨を灰のようにかぶって綿菓子をなめている女、その女の眼には遠い古里と、お母さんと男のことと、私のかんがえなんて、こんなくだらない郷愁しかないのだ!







私は生きる事が苦しくなると、故郷というものを考える。死ねる時は古里で死にたいものだとよく人がこんなことも云うけれども、そんな事を聞くと、私はまた故郷と云うものをしみじみと考えてみるのだ。








森々とよく蝉が啼きたてている。








本を読めば、本がすべてを語ってくれる。人の言葉はとらえどころがないけれども、本の中に書かれた文字は、しっかりと人の心をとらえてはなさない。








まア驚いた。トルストイと云う作家は、伯爵だったンだ。

おかあさん、ロシア人のトルストイは華族さんなんですよ。








いいことがあるように、私のことも考えて下さいなと亀に話しかけてみる。慾ばってはいかん。はい、承知いたしました。何が慾しい?はい、お金がどっさりほしいです。毎日心配なく御飯がたべられるほどお金がほしいです。男はいらぬか?はい、男はいりません。当分いりません。それは本当かね?はい、本当の事でございます。男はやっかいなものです。辛くて一緒にはおられません。私は何をしたら一番いいでしょう?それは知らん。あんまり薄情な事は云わないで下さい。
――亀と話をしているのは面白い。一人で私はぶつくさと亀と話をしている。








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外は雷豪雨でオリンピック日和

まず目覚めて女子の棒高跳び
先輩方の別格なタフさ

リアルタイムに400M
選手の地元の応援していた父やらおばあちゃんが出たけど、
みんな似てる!目元なんてそっくり(笑)

シンクロを見てたら涙が出た!天照大神

新体操の4本投げ!!!!
会場も沸いた。

トライアスロンの圧巻なスタート

女子ゴルフ 野村敏京3位タイ

そしてサッカー
ネイマール決めた!


タイムラグでの投稿だけど、オリンピックも終焉///

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D

2016-07-31 | 明治・大正・昭和


太宰治
『人間失格』★★★



ピンクの新装版
ケータイと同じ色で並んで置いてあるのをみて「強」

太宰治・・・玉川上水で入水自殺がインパクト
それも愛人と それも38歳で 黒歴史満載?

脚絆に「レギンス」とルビが振ってあって、そこで冷めた。
現代訳なのは分かるけど。



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お茶目



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「金の切れめが縁の切れめ、ってのはね、あれはね、解釈が逆なんだ。金が無くなると女にふられるって意味、じゃあ無いんだ。男に金が無くなると、男は、ただおのずから意気消沈して、ダメになり、笑う声にも力が無く、そうして、妙にひがんだりなんかしてね、ついには破れかぶれになり、男のほうから女を振る、半狂乱になって振って振って振り抜くという意味なんだね、金沢大辞林という本に依ればね、可哀そうに。僕にも、その気持わかるがね」



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「世間というのは、君じゃないか」



(それは世間が、ゆるさない)
(世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?)

(そんな事すると、世間からひどいめに逢うぞ)
(世間じゃない。あなたでしょう?)

(いまに世間から葬られる)
(世間じゃない。葬るのは、あなたでしょう?)



「冷汗、冷汗」



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(お前に罪はない)



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https://www.youtube.com/watch?v=ZWCB3hpJDXM&oref=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DZWCB3hpJDXM&has_verified=1
このPV好き。
ユーモアを忘れちゃいけないよね。
だから?反面教師的に「まとも」なカレにしがみつこうとしている。

色気が足りない?



本人の意思に関係なく心配してくれている人がいる。


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N

2013-08-18 | 明治・大正・昭和


夏目漱石
『坊ちゃん』★★

実家の本棚から。
裏表紙に鉛筆書きで「中学3年 夏」と記述があり、
一気に遠い夏の日を思い出す 記憶的に無理だったけど(笑)
本は茶色く変色していて古本のにおいがする。


「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない」

あぁなつかしい。

巻末の年譜の方がインパクトがあった。
病床に何度も倒れた漱石。。


わー2うるさい 世界陸上←

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K

2012-09-28 | 明治・大正・昭和




小泉八雲
『神々の国の首都 -小泉八雲名作選集』★★★


先月、出雲を旅行するのに気分を上げようと読み始めた。
まずどの書にしようか小泉八雲について調べていたらカレが日本人じゃないことを知った私。
ホント無知。。
手に取って決めようと本屋さんへ。
店員さんは「小泉八雲」=「ラフカディオ・ハーン」と熟知!さすがだわ!
5冊あった中から八重垣神社等ちょうど旅行ルートに含まれていたのもありこの本に。
噛みしめるように明治の出雲の情景を浮かべながら読み、終盤にちょうど旅立つ日になり出雲へ。
その地を巡りつつ八雲を読む。
自己満足ネ(笑)
過去の作品に触れるよい機会だった。


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