一昨日の続きです。
三千代(原節子)が降り立ったのは、
「矢向駅」とあります。いったいこの駅は何処に?と思って調べてみたら、東京ではなく神奈川県は横浜市の鶴見区にある南武線の駅でした。東海道線を川崎で降り、南武線に乗り換え二つ目の駅です。
調べついでに、現在の駅がどう大変貌を遂げているのかと思い、グーグルのストリートビューで見たら、何と、何と、60数年の歳月が過ぎているのに、ほとんど当時のままでした。
映画と近い角度で見ると、こんな感じで、駅舎は外壁を白く塗装しただけで、昔のままです。駅前の樹もそのままです。
話しを戻します。
実家に近づき笑顔になる原節子、やはり笑顔が似合います。
駅前の風景が、もう、堪らなく、とても、懐かしいです。こういう風景は、落ち着くというか、馴染んじゃうというか、こころの風景と云うか・・・。
店先から中を覗くカット、地面は未舗装でデコボコで石ころがちらほら、こういう感じでしたよ、当時わたしが住んで居た東京の外れ板橋区でも、でも、これはたぶんセット?
娘を優しい笑顔で向かい入れる母親“杉村春子”そのうちに怖い顔で娘を叱ると思っていたのですが・・・。
大阪には戻らない決意で居たが、職探しで訪ねた職安前の行列に、現実の厳しさを知り・・・。
行列を見つめるこのカットの原節子がイイ! 背景の高圧鉄塔がまたイイ!
職安前で出会った子連れの幼馴染み、敗戦後5年、未だ帰還しない夫、失業保険も残り3ヶ月、一人で生きていく事の厳しさを知り・・・。
男の子の髪型、とても懐かしいです。いわゆる“坊ちゃん刈り”当時はみんな男の子はこのスタイルでした。昔の自分が画面に居るようです。
自分の境遇を羨ましがられ・・・。
そんな、二人の前をチンドン屋がとおり、幼馴染みは“あれ御夫婦じゃない”“そんなこと、どうして分かるの”“だって歩き方があんなに巧くあうじゃない”
帰らぬ夫を待つ女、一人生きる厳しさ、一つの曲を奏で歩調を合わせ前に進む夫婦、ほんのすこし少し気持ちに変化が・・・。
このチンドン屋のシーン、夫婦のかたちを象徴したのでしょうが、二人だけのチンドン屋は何か、とても、不自然で寂しいです。
演じている二人の表情が硬いのです。当時、チンドン屋さんはもっとにこやかでした。これって、もしかして、ホンモノの方?映画初出演で緊張?
それでも、未だ、東京で職探しをするのです。東京で働く事は、ほぼ離婚を意識している訳で、銀行員の従兄弟に仕事の紹介を依頼すると云う事は・・・。
結婚前は互いにそれとなく意識していた二人です。でも、しかし、未だ独身の従兄弟に同情され、少し気持ちに変化が・・・。
少しずつ、少しずつ、気持ちの変化を重ねて、『あなたの側を離れると云うことは、どんなに不安に身を置くことか、やっと分かったのです・・・』と、夫宛の手紙を書く、でも、しかし、投函する直前でためらい引き返す。
手紙を投函しなかったことを知った母は、『わたしがいま初之輔さんのお母さんだったらね、あんな嫁のどこがいい、さっさと離縁してしまいなさい、そう言うかも知れないよ』と、笑顔で優しく忠告するのです。
その場に妹が銭湯から帰って来ます。
妹に声を掛ける母、しかし、姉はまったく雑誌から眼を上げません。そんな姉の態度に鋭い視線を向け心の内を読み取ろうとする母。
この時、妹から姉への視線の移動は素早く鋭くとても怖かったです。母親の優しさと厳しさを表現したカットでした。小津作品の杉村春子でした。
帰りたい、でも、帰れない、夫への愛情はあるが、あの退屈な日常に戻ることへの不安、そして、何も連絡をしてこない夫、どちらが先に折れるのか、このまま互いに意地を張り続けたら・・・破局?
こういう処が、とても、とても、ムズカシイ駆け引きなのです。兎に角、どちらかが謝ってしまえば事は解決するのですが、そも、そも、謝って済む問題ではないからムズカシイ。
夫としては、何がイケナイの?なのです。謝ったとしても、退屈な日常は変わらないのですから、戻って来てくれとは云えません。退屈な日常に嫌気がさして出て行った妻が変わらないと、状況は打開できないのです。
さあ、二人は、どうなるのか? 別れるのか? 元の鞘におさまるのか?
時代は60数年前、あの頃の男女の仲はどうだったのか? 戦前の意識を引き摺った解決か、戦後民主主義で、男女同権で、新しい自立する女的な解決になるのか?
公開時も結末には賛否両論があったようです。
この続きは次回。
それでは、また。
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