The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
ウリケ・シェーデ・著“シン・日本の経営―悲観バイアスを排す” を読んで
日本の政界では年収の壁が焦点の話題になっている。
先週は自民党がまるで競合する野党の一本釣りをしているかのような振る舞いをし始めた。維新の前原氏は国民との共同歩調を強調しているが、今後の見通しははっきりしない。178万円の壁は、その税源を巡っての議論になっている。落としどころは140万円なのか。だが、限りなく178万円の壁を取り払う戦略が必要なのではないか。壁があること自体問題ではないのか。
大きな問題は労働分配率の長期的低減にあるのではないか。データで見ると短期的に上下動もあるが、マクロ的視点では低減傾向にあるとされる。さらに問題はこのデータに派遣労働者のデータが確実に正確に込められているのだろうか、ということにあるように感じる。
超マクロ的に言えば、その影響は計り知れないのではあるまいか。日本が不況から脱却できないでいる遠因であろう。この派遣体制を積極的に日本経済に導入したのは竹中平蔵氏である。その罪はこれ又計り知れない。
しかし、最近は人で不足の傾向にあり、派遣の世界も少しづつ変化してきているのではあるまいか。それを言うと、それこそ自由経済の良さだと竹中氏は強弁するだろう。だが、その所得レベルの低さはかつてのジャパン・アズ・ナンバー・ワンの時代と比べると情けないものではあるまいか。私達中堅社員の所得レベルは、米国の自宅にプールを持っているような層と大差ないと言われていたほどのものだった。今や雲泥の差なのだ。それも円安のせい。円安は何が原因か・・・・・。
さて、今回はここで、ウリケ・シェーデ:著・渡部 典子:訳“シン・日本の経営―悲観バイアスを排す”を紹介したい。この本を読むと涙がでるほど日本の企業に対するイメージが変わってくる。この本は何のTV番組だったかは覚えていないが、その番組の紹介で知った。日本経済・日本企業の経営が再浮上している?という本なのだ。どんなところで、どんなふうに復活しているのか、否、浮上している企業は新たな参入者で、企業の新陳代謝によるものなのか、それが知りたくて読もうと思ったのだった。先ずは、紀伊国屋書店紹介文と出版社紹介文を次に提示しておく。
【出版社内容情報】
経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏 推薦!
これは21世紀版「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だ。
日本企業の逆襲が始まった。「舞の海戦略」が世界を制す。日本企業再興の方法論はこれで決まりだ。ニッポン再生の経営論はすべてここに書かれている。本書は私のシン戦略論の教科書。必読の書です。
長年にわたり、日本企業を研究してきた気鋭の経営学者による、これまでにない新鮮な見方を提供する日本企業論です。
日本企業は世間で言われるよりもはるかに強い。グローバルな最先端技術の領域で事業を展開する機敏で賢い数多くの企業。その顔ぶれ、昭和の経営から令和の経営への転換、イノベーターとしての競争力、見えざる技術・製品をベースとする事業戦略、タイトなカルチャーのもとでの変革マネジメントを解説します。
■本書のメッセージ
1990年代から2010年代は「失われた時代」ではない。産業構造または企業経営と戦略が大きく変わるシステム転換期だ。
遅いのは停滞ではない。日本の先行企業は改革を重ねて現在、再浮上している。「遅い」のは、安定と引き換えに日本が支払っている代償である。
日本企業が世間で言われるよりもはるかに強い理由は、「ジャパン・インサイド」にある。グローバルな最先端技術の領域で事業を展開する機敏で賢い企業が新たに出てきたのだ。
技術の最前線で競争し、飛躍的イノベーションに貢献する方向へと進む行動変革の道筋への転換を、「技のデパート」=「舞の海戦略」と呼ぶことにした。
シン・日本企業は収益性が高く、戦略、企業カルチャー、リーダーシップなどで共通する7つの特徴がある。
「タイト・ルーズ」理論を使うと、日本の変革が「タイトな文化」の中で起きていることが理解しやすくなる。日本企業は「ルーズな文化」のアメリカとは異なる形で変革してきたのだ。
シリコンバレーやユニコーンなどは日本のイノベーションのお手本にはならない。日本独自のスタートアップ創出の試みが注目される。
【内容説明】
日本企業は世間で言われるよりもはるかに強い。グローバルな最先端技術の領域で事業を展開する機敏で賢い数多くの企業。その顔ぶれ、昭和の経営から令和の経営への転換、イノベーターとしての競争力、見えざる技術・製品をベースとする事業戦略、タイトなカルチャーのもとでの変革マネジメントを解説する。
【目次】
第1章 再浮上する日本
第2章 2020年代は変革の絶好の機会である
第3章 「舞の海戦略」へのピボット
第4章 優れたシン・日本企業に共通する「7P」
第5章 「舞の海戦略」の設計
第6章 日本の「タイト」なカルチャー―なぜ変化が遅いのか
第7章 日本の企業カルチャー―タイトな国でいかに変革を進めるか
第8章 日本の未来はどうなるのか―日本型イノベーション・システムへ
第9章 結論「シン・日本の経営」の出現
【著者等紹介】
ウリケ・シェーデ[Ulrike Schaede]
米カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院教授。日本を対象とした企業戦略、組織論、金融市場、企業再編、起業論などが研究領域。一橋大学経済研究所、日本銀行などで研究員・客員教授を歴任。9年以上の日本在住経験を持つ。著書にThe Business Reinvention of Japan(第37回大平正芳記念賞受賞、日本語版:『再興 The KAISHA』2022年、日本経済新聞出版)など。ドイツ出身
【訳者紹介】渡部典子[ワタナベノリコ]
ビジネス書の翻訳,執筆,編集等に従事。 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。研修サービス会社等を経て独立。翻訳書:『グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業』(中央経済社) 『価格の掟』(中央経済社) 『最強の商品開発』(中央経済社) 『両利きの経営』(東洋経済新報社)
この本は日本経済に対する次の疑問から始まる。
“日本が本当に「失われた30年」に苛まれてきたとすれば、なぜいまだにGDP(国内総生産)で世界3位の経済大国なのか(直近のデータではドイツに次いで第4位だが、順位の低下は円安による為替レート変動の影響が大きい)。日本企業の海外生産ネットワークは急成長を遂げているが、そうした国外での活動はGDPに含まれない。また、日本の人口規模は世界で12番目だが、それでも世界3位の経済大国である。そうだとすれば何かがうまくいっているに違いないのだ。”
その上手く行っている部分を探って行きたい、というのだ。“大リーグにとどまり続けている日本の成功企業はどんな顔ぶれで、どこにいるのか。どのように昭和の経営から令和の経営へ転換したのか。なぜ最先端の領域でイノベーターとして力強く競争できるのか。また、シン・日本企業の戦略と企業カルチャーの変革マネジメントについて、成功企業からどんなことを学べるのか。”というのだ。
果たして、そんな“成功企業”が日本にいるというのか?何だか、涙が出そうになる言い方ではないか。“日本の成功企業はどんな顔ぶれで、どこにいるのか。”是非、教えて頂きたいものだ、との思いに駆られるではないか。
確かに日本経済は、“直近のデータではドイツに次いで第4位だが”、ドイツ自身もその自覚にない、という。それは“円安による為替レート変動の影響が大きい”ためだというのが真相だ。だが、何故円安なのか。かつて1ドル75円だった為替が今や150円台で、円の価値が半分にまで目減りしている。(円高の時一部のエコノミストは円安を期待し、それが日本繁栄の道だとまで断言していた、がそれがウソだと分かった時はもう遅いのか。)それは日本経済の弱体化を端的に示すものではないのか。この謎はどう解き明かされるのか!
著者は、第9章 結論で“日本に対する見方を変える必要がある”と言って、“日本の優れた大企業の取り組みを見れば、今日の日本が前進しているという洞察がより明確になる。またタイトな文化の国という観点で現行の変革を分析すれば、遅いことが停滞ではないことがわかってくる。遅いことは変革を勧めながら社会を打撃から守る意図的な選択なのだ。”
ここで、“タイトな文化の国”がキイ・ワードになる。著者が初めて日本にやって来た時に気付いたのが“「安全第一」日本”だったという。多くの日本の工場で「安全第一」と書かれた旗を見たという。そのため“日本では諸外国に比べて規則や規制が多い”という。東京駅の例を挙げて説明している。“禁煙”、“集会禁止”、“第三者に迷惑をかけるな”、“地域の景観を守ろう”まで12種類の注意書きがあったという。日本人はこれら注意事項をよく守っている。慎重でルールを守ることは、日本の企業にも見ることができる。(へぇ!ドイツ人の目から見てそうなんだ。)
その国や組織の歴史的な経験、伝統、宗教、教育制度、環境、天候などが国民や組織構成員の行動様式を形作っているが、それをcultureと呼んでいる。このcultureは、人々の正しい行動だとすることに対し、逸脱する者にどれだけ寛容かによって、厳しければタイトなcultureであり、寛容であればルーズなcultureであるとする、“タイト/ルーズ理論”という枠組みがある。“民主主義の先進国に限定すると、日本は最もタイトな国に、アメリカは最もルーズな国に入る。”
そして、“タイトとルーズは善し悪しの評価ではなく、単なる違いだ。・・・タイトは大量生産や細部へのこだわりと相性が良いのに対し、ルーズは迅速なイノベーションに向いている”。日本のタイトな文化は自然災害の試練の多い日本人にもたらされた第二の天性だろうと著者は言っている。“ポジティブに見れば、日本の多くの規則や規制には、カルフォルニアのような他の国よりも、日常生活をはるかに整然と定型化させる意図がある。ネガティブに見れば、そのせいで変革が一気呵成に進まない可能性がある。”と言う。だからこそ日本はシリコンバレーには絶対にならない。“「安全第一」の社会で・・・経済的な繁栄と安定した社会を両立させる新しいシステムを見つけるという、日本独自の道につながっている。”こうしたことが日本企業にも当てはまると言い、AGCの事例をあげて着実な企業変革の様子を伝えている。
タイトな国、日本では人々の信頼を得るために①常に礼儀正しく思いやりを持つ②常に適切である③決して他人に迷惑を掛けない、である態度が必要だが、必ずしも3つとも満足させる必要はないのではないか。“3つの内の2つ”満足させればよいのではないか。むしろその方が完璧ではなく好かれるのではないかと言っている。それが変革のドライビング・フォースになるのではないか、という。
“タイトな文化の中で人々に多様性を受容させリスクを取らせるためには、逆説的だが、高度に構造化された体系的な手順が必要になることだ。たとえば、入念なナッジ(後押し)、体系的なセミナー、ワークショップ、リトリート(合宿研修)などを用いて計画的に横展開していく、かなりの時間と労力がかかるが、ひとたび従業員が新しい方向性を受け入れれば、最大速度で前進していく可能性は高い。”
こうしたタイトな企業カルチャー変革のモデルとしては、オライリーのLEASHモデルがある。
Lリーダーの行動(Leader Actions)強力なリーダーシップの下、何が新しい正しい行動かを一貫して示す
E従業員の参画(Employee Involvement)従業員に積極的に変革に参加させる
A連動した報酬(Aligned Rewards)新しい企業カルチャーに即した行動を公に認めて紹介し褒めること
Sストーリーと象徴(Stories and Symbols)新しい行動の必要性を語るストーリーのPR、社名・ロゴ変更、新スローガン
H人事制度の確立(HR System Alignment)新しい行動様式に沿ってどんなことをして昇進していくかを従業員に示す
この5つのレバーは変革にはどれも必須であり、何一つ欠けてはならない。
第4章で7Pが重要だと説いていた、Profit(利益)、Plan(戦略)、Paranoia(危機意識)、Parsimony(効率性)、PR(Public Relations:情報の透明性)、People(リーダーシップ)、Pride(幸福感)のAGCへの適用を説明している。
経営陣は中核となるProfit(利益)の源泉を明示した。
Plan(戦略)は第5章で説明していた2×2のマトリックスに沿って、“新市場×新技術でボックス4の「未来」事業を探索し投資する方法について計画を立案した。” 2×2のマトリックスとは“イノベーション・ストリーム・マトリックス”という①自分たちはどのような企業で現在のコア・コンピタンスは何か②このコア・コンピタンスを独創的で参入困難な新規事業にどのように拡張するかを考える手掛かりとするもので、目標はボックス4になる。そして、1~4の過程を繰り返して進化し続けるというもので、それを著者は相撲の“舞の海戦略”と称している。舞の海は常に技を磨き開発し、ついに相手の意表を超える手法で勝利を治めた、というのだ。AGCに限らず日本のほとんどの化学メーカーはこうやって革新を遂げているというのだ。
Paranoia(危機意識)では、経営トップは主力の基礎化学品などはコモディティ化して国際競争力を早晩失うと全従業員に説明して、変わらなければならないと説明した、と。
Parsimony(効率性)はコスト削減。企業カルチャーの革新により全従業員の交流がオープンに実施されコミュニケーションと業務フローが効率化したという。
PR(Public Relations:情報の透明性)では社名を旭硝子からAGCに変更した。
People(リーダーシップ)、Pride(幸福感)は企業カルチャーの変革によって、従業員は再び希望にあふれるようになった、という。企業カルチャーの変革はトップが、全従業員にメールを送り、目標を告げ、廃止したい“リーダーが改めるべき20の悪癖”というメモも添えたという。“そこには、「いや」、「しかし」、「でも」で話を始める、言い訳をする、情報を教えない、過去にしがみつく、人の話を聞かない、感謝の気持ちを表さない、といった項目が含まれていた。”
AGCの例に見るように、会社の変革は“秩序ある手順や体系的なイベントが必要だ。”だから熟慮された統合的計画によらなければならなく、かなり面倒なことではあるが、日本のようなタイトな文化の中でも可能なことは分かる。
“21世紀の競争に欠かせない新しいイノベーション戦略や手順を構築するためには企業カルチャーの変革が必要だ。”その変革を“AGCや日立のような大企業にできるなら、もっと多くの企業にもできるはずだ。”そしてそのような新しいタイプの経営者が出てきているという。
“日本やドイツといったタイト文化の国は一般的にペースが遅く、活気もなく、より慎重でリスク回避的だとみなされている。起業家にとって資金調達が難しく、多くの場合、長期に調達するので、いつまでに何を提供しなければならないかという期待値も異なる。この遅いペースは市場参入には不利だが、ディープテック*を用いたイノベーションの実現には向いているかもしれない。だからこそ、化学や機械における現在の主要な発明品の一部は、シリコンバレーではなく、ヨーロッパや日本で生み出されているのだ。”
*“イノベーションは、ディープテックとシャロ―テックに分類される。「ディープテック」とはかなり科学的、工学的な課題に取り組む発明を指す。・・・通常、特定の業界での経験や暗黙知に加えて、広範な科学的知識が求められる。この種のイノベーションが市場に出るまでに10年かかることもある。「シャロ―テック」は、より簡単にすばやく実行できるイノベーションで、おそらく模倣もしやすい。深く研究する必要がないため、市場投入までのペースははるかに速く、通常は2年ほどだ。エグジット(投資回収)は多くの場合、事業売却の形をとる。”
日本のシャロ―テックの代表は文房具だ。世界でも中小企業が多くレッドオーシャンと見られるためかあまり参入はされていない印象を持つ。
このあたりの解説は微妙な印象である。何より、“ディープテックの主要な発明品の一部は、シリコンバレーではなく、ヨーロッパや日本で生み出されている”、というのは最先端のChatGPTに代表される生成AIは米国で発明された。オープンAI社の本社はシリコンバレーのあるサンフランシスコにあった。
だが、しかし本書のP25あたりで示されている“ハーバード大学グロースラボの「経済複雑性ランキング」を見ると、日本は過去30年にわたって世界第1位だ。これは世界各国の「生産的知識」をランキングにしたもので、2つの指標に基づいている。1つ目は、その国の輸出品の多様性と複雑性だ。2つ目が製品の「偏在性」―どれだけ多くの国でその製品をつくれるかだ。”この“複雑性に満ちた製品”を具体的に示されていないので、イメージし難いのが残念であるが、それが事実ならAI以外の分野での日本の世界経済におけるポジションは断トツとなるはずだ。それを端的に示すのが、藻谷氏が示した日本の対外経常収支の軒並みの黒字なのかも知れない。客観数字はピタリ符合しているではないか。涙が出そうな話だ。何故、このような事実が広く喧伝されないのか。
“日本では(ヨーロッパ大陸と同じく)、大勢の犠牲の上に一握りの人が豊かになるような「焼き畑」方式に対してあまり寛容ではない。・・・製品は往々にして、発売前に非の打ちどころがないほどに完璧かつ安全であることを確認する必要がある。・・・しつこいほど検証を繰り返すうちに進展を阻んでしまうことが多い。日本の仕組みはこのような違いを引きずりながら形成されているので、シリコンバレーのようにルーズな文化の仕組みを模倣しようとしても、成功の可能性は低下してしまうのだ。”
こうした理由で、日本ではユニコ―ン企業は育ち難い。しかし大企業の下で育ちつつある新分野や未公開特許を売却したり、逆に外部や海外の技術者を雇用する“オープンイノベーション”を活用する事例も増えてきていると著者は指摘している。
米国などではスタートアップはM&Aが主だが、主流の日本ではIPO(新規株式公開)が主流となっている。当然のように“その結果、平均公募価格は下がり、結果的に「ホームラン(大成功)」案件やユニコーンの数が減ってしまう。”という。
さらに米国では“失敗への恐怖心がイノベーションの原動力になる。”しかし、それが日本では“失敗を恐れるあまりにイノベーションが阻害されている。したがって、日本のイノベーション・システムが起業家にある種の安全保障を与えて、より多くのリスクを取り、きぎょうをめぐる不確実性を受け入れやすくすれば”効果的だろうと、指摘する。そこで、終身雇用制とのジレンマがでてくるという。
その解決策として「総合職兼業」という新制度が生まれつつあるという指摘だ。“2015年の働き方改革の法改正に伴うもので、正社員が2社で一時的に働くことができる、総合職の正社員が対象”の制度だ。これによって大企業の下で新規事業を展開する素地が生まれ始めているという指摘だ。これによって優秀な人材を集め、“リスクをとる意欲を高め、日本独自のイノベーション・スタイルの成長を促進”しているというのだ。タイトな文化の国で“遅いことは変革を進めながら社会を打撃から守る意図的な選択なのだ”という。こうして著者の結論としての日本の“現在進行形の変革はゆっくりだが着実に進行している”ということだ。
そして次のように付け加えている。“アメリカはもはや、日本にとってのお手本でも、追い越そうという野心を抱く対象ですらない。というのも、経済や社会だけでなく政治の面でも、アメリカはまったく異なる道を歩んでいるからだ。”
だが結論的に言えば、どうやら日本の企業革新は既存の大企業から始まっているようだ。ユニコーンも大企業の傘下から生まれる可能性が高いようだ。純然たる新興勢力は数少ないようだ。
この本には書かれてはいないし、日本の賢くないマスコミも中々伝えていないが、日本企業の革新は、資金調達の株式市場でも推進されて来ている。ここでは既に小さな優勝劣敗が起きている。当初上場していた市場から退出させられる企業も出てきているのは事実だ。否、それよりも2021年にはコーポレートガバナンス・コードも改訂されより厳しく企業統治の在り方が求められるようになった。だからハラスメントも問題になるので、中間管理職も日常で変わらなければならなくなってきている。それだけでも企業文化は大きく変化するはずだ。
この本を読めば著者に勇気づけられる思いで一杯になる。確かに、最近のスポーツ界での若い日本人の活躍をみれば、旧態依然の教育界も変革してきているのかなぁと思わざるを得ない。野球でのメジャーへの進出、サッカーの世界への進出、バスケット・バレー・・・・その結果としてのオリンピックでのメダルの獲得数には目を見張るものがある。スポ根全盛の昔からは考えられない。この背景にはじわりと育成・教育の変革が密かに着実に進んでいるためと思わざるを得ない。
この曙光が日本全国に拡大すればどのような国になるのか、想像すらできない。の再浮上なのだ!今度再浮上すれば、それは旧態の反省を踏まえているので最強のマッチョではないか。
しかし、政治的には弱いのが、それが最大の懸案問題なのだ。それも世代が進めば自動的に解消するのかもしれない。最近の選挙でのIT活用がその糸口なのかもしれない。
先週は自民党がまるで競合する野党の一本釣りをしているかのような振る舞いをし始めた。維新の前原氏は国民との共同歩調を強調しているが、今後の見通しははっきりしない。178万円の壁は、その税源を巡っての議論になっている。落としどころは140万円なのか。だが、限りなく178万円の壁を取り払う戦略が必要なのではないか。壁があること自体問題ではないのか。
大きな問題は労働分配率の長期的低減にあるのではないか。データで見ると短期的に上下動もあるが、マクロ的視点では低減傾向にあるとされる。さらに問題はこのデータに派遣労働者のデータが確実に正確に込められているのだろうか、ということにあるように感じる。
超マクロ的に言えば、その影響は計り知れないのではあるまいか。日本が不況から脱却できないでいる遠因であろう。この派遣体制を積極的に日本経済に導入したのは竹中平蔵氏である。その罪はこれ又計り知れない。
しかし、最近は人で不足の傾向にあり、派遣の世界も少しづつ変化してきているのではあるまいか。それを言うと、それこそ自由経済の良さだと竹中氏は強弁するだろう。だが、その所得レベルの低さはかつてのジャパン・アズ・ナンバー・ワンの時代と比べると情けないものではあるまいか。私達中堅社員の所得レベルは、米国の自宅にプールを持っているような層と大差ないと言われていたほどのものだった。今や雲泥の差なのだ。それも円安のせい。円安は何が原因か・・・・・。
さて、今回はここで、ウリケ・シェーデ:著・渡部 典子:訳“シン・日本の経営―悲観バイアスを排す”を紹介したい。この本を読むと涙がでるほど日本の企業に対するイメージが変わってくる。この本は何のTV番組だったかは覚えていないが、その番組の紹介で知った。日本経済・日本企業の経営が再浮上している?という本なのだ。どんなところで、どんなふうに復活しているのか、否、浮上している企業は新たな参入者で、企業の新陳代謝によるものなのか、それが知りたくて読もうと思ったのだった。先ずは、紀伊国屋書店紹介文と出版社紹介文を次に提示しておく。
【出版社内容情報】
経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏 推薦!
これは21世紀版「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だ。
日本企業の逆襲が始まった。「舞の海戦略」が世界を制す。日本企業再興の方法論はこれで決まりだ。ニッポン再生の経営論はすべてここに書かれている。本書は私のシン戦略論の教科書。必読の書です。
長年にわたり、日本企業を研究してきた気鋭の経営学者による、これまでにない新鮮な見方を提供する日本企業論です。
日本企業は世間で言われるよりもはるかに強い。グローバルな最先端技術の領域で事業を展開する機敏で賢い数多くの企業。その顔ぶれ、昭和の経営から令和の経営への転換、イノベーターとしての競争力、見えざる技術・製品をベースとする事業戦略、タイトなカルチャーのもとでの変革マネジメントを解説します。
■本書のメッセージ
1990年代から2010年代は「失われた時代」ではない。産業構造または企業経営と戦略が大きく変わるシステム転換期だ。
遅いのは停滞ではない。日本の先行企業は改革を重ねて現在、再浮上している。「遅い」のは、安定と引き換えに日本が支払っている代償である。
日本企業が世間で言われるよりもはるかに強い理由は、「ジャパン・インサイド」にある。グローバルな最先端技術の領域で事業を展開する機敏で賢い企業が新たに出てきたのだ。
技術の最前線で競争し、飛躍的イノベーションに貢献する方向へと進む行動変革の道筋への転換を、「技のデパート」=「舞の海戦略」と呼ぶことにした。
シン・日本企業は収益性が高く、戦略、企業カルチャー、リーダーシップなどで共通する7つの特徴がある。
「タイト・ルーズ」理論を使うと、日本の変革が「タイトな文化」の中で起きていることが理解しやすくなる。日本企業は「ルーズな文化」のアメリカとは異なる形で変革してきたのだ。
シリコンバレーやユニコーンなどは日本のイノベーションのお手本にはならない。日本独自のスタートアップ創出の試みが注目される。
【内容説明】
日本企業は世間で言われるよりもはるかに強い。グローバルな最先端技術の領域で事業を展開する機敏で賢い数多くの企業。その顔ぶれ、昭和の経営から令和の経営への転換、イノベーターとしての競争力、見えざる技術・製品をベースとする事業戦略、タイトなカルチャーのもとでの変革マネジメントを解説する。
【目次】
第1章 再浮上する日本
第2章 2020年代は変革の絶好の機会である
第3章 「舞の海戦略」へのピボット
第4章 優れたシン・日本企業に共通する「7P」
第5章 「舞の海戦略」の設計
第6章 日本の「タイト」なカルチャー―なぜ変化が遅いのか
第7章 日本の企業カルチャー―タイトな国でいかに変革を進めるか
第8章 日本の未来はどうなるのか―日本型イノベーション・システムへ
第9章 結論「シン・日本の経営」の出現
【著者等紹介】
ウリケ・シェーデ[Ulrike Schaede]
米カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院教授。日本を対象とした企業戦略、組織論、金融市場、企業再編、起業論などが研究領域。一橋大学経済研究所、日本銀行などで研究員・客員教授を歴任。9年以上の日本在住経験を持つ。著書にThe Business Reinvention of Japan(第37回大平正芳記念賞受賞、日本語版:『再興 The KAISHA』2022年、日本経済新聞出版)など。ドイツ出身
【訳者紹介】渡部典子[ワタナベノリコ]
ビジネス書の翻訳,執筆,編集等に従事。 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。研修サービス会社等を経て独立。翻訳書:『グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業』(中央経済社) 『価格の掟』(中央経済社) 『最強の商品開発』(中央経済社) 『両利きの経営』(東洋経済新報社)
この本は日本経済に対する次の疑問から始まる。
“日本が本当に「失われた30年」に苛まれてきたとすれば、なぜいまだにGDP(国内総生産)で世界3位の経済大国なのか(直近のデータではドイツに次いで第4位だが、順位の低下は円安による為替レート変動の影響が大きい)。日本企業の海外生産ネットワークは急成長を遂げているが、そうした国外での活動はGDPに含まれない。また、日本の人口規模は世界で12番目だが、それでも世界3位の経済大国である。そうだとすれば何かがうまくいっているに違いないのだ。”
その上手く行っている部分を探って行きたい、というのだ。“大リーグにとどまり続けている日本の成功企業はどんな顔ぶれで、どこにいるのか。どのように昭和の経営から令和の経営へ転換したのか。なぜ最先端の領域でイノベーターとして力強く競争できるのか。また、シン・日本企業の戦略と企業カルチャーの変革マネジメントについて、成功企業からどんなことを学べるのか。”というのだ。
果たして、そんな“成功企業”が日本にいるというのか?何だか、涙が出そうになる言い方ではないか。“日本の成功企業はどんな顔ぶれで、どこにいるのか。”是非、教えて頂きたいものだ、との思いに駆られるではないか。
確かに日本経済は、“直近のデータではドイツに次いで第4位だが”、ドイツ自身もその自覚にない、という。それは“円安による為替レート変動の影響が大きい”ためだというのが真相だ。だが、何故円安なのか。かつて1ドル75円だった為替が今や150円台で、円の価値が半分にまで目減りしている。(円高の時一部のエコノミストは円安を期待し、それが日本繁栄の道だとまで断言していた、がそれがウソだと分かった時はもう遅いのか。)それは日本経済の弱体化を端的に示すものではないのか。この謎はどう解き明かされるのか!
著者は、第9章 結論で“日本に対する見方を変える必要がある”と言って、“日本の優れた大企業の取り組みを見れば、今日の日本が前進しているという洞察がより明確になる。またタイトな文化の国という観点で現行の変革を分析すれば、遅いことが停滞ではないことがわかってくる。遅いことは変革を勧めながら社会を打撃から守る意図的な選択なのだ。”
ここで、“タイトな文化の国”がキイ・ワードになる。著者が初めて日本にやって来た時に気付いたのが“「安全第一」日本”だったという。多くの日本の工場で「安全第一」と書かれた旗を見たという。そのため“日本では諸外国に比べて規則や規制が多い”という。東京駅の例を挙げて説明している。“禁煙”、“集会禁止”、“第三者に迷惑をかけるな”、“地域の景観を守ろう”まで12種類の注意書きがあったという。日本人はこれら注意事項をよく守っている。慎重でルールを守ることは、日本の企業にも見ることができる。(へぇ!ドイツ人の目から見てそうなんだ。)
その国や組織の歴史的な経験、伝統、宗教、教育制度、環境、天候などが国民や組織構成員の行動様式を形作っているが、それをcultureと呼んでいる。このcultureは、人々の正しい行動だとすることに対し、逸脱する者にどれだけ寛容かによって、厳しければタイトなcultureであり、寛容であればルーズなcultureであるとする、“タイト/ルーズ理論”という枠組みがある。“民主主義の先進国に限定すると、日本は最もタイトな国に、アメリカは最もルーズな国に入る。”
そして、“タイトとルーズは善し悪しの評価ではなく、単なる違いだ。・・・タイトは大量生産や細部へのこだわりと相性が良いのに対し、ルーズは迅速なイノベーションに向いている”。日本のタイトな文化は自然災害の試練の多い日本人にもたらされた第二の天性だろうと著者は言っている。“ポジティブに見れば、日本の多くの規則や規制には、カルフォルニアのような他の国よりも、日常生活をはるかに整然と定型化させる意図がある。ネガティブに見れば、そのせいで変革が一気呵成に進まない可能性がある。”と言う。だからこそ日本はシリコンバレーには絶対にならない。“「安全第一」の社会で・・・経済的な繁栄と安定した社会を両立させる新しいシステムを見つけるという、日本独自の道につながっている。”こうしたことが日本企業にも当てはまると言い、AGCの事例をあげて着実な企業変革の様子を伝えている。
タイトな国、日本では人々の信頼を得るために①常に礼儀正しく思いやりを持つ②常に適切である③決して他人に迷惑を掛けない、である態度が必要だが、必ずしも3つとも満足させる必要はないのではないか。“3つの内の2つ”満足させればよいのではないか。むしろその方が完璧ではなく好かれるのではないかと言っている。それが変革のドライビング・フォースになるのではないか、という。
“タイトな文化の中で人々に多様性を受容させリスクを取らせるためには、逆説的だが、高度に構造化された体系的な手順が必要になることだ。たとえば、入念なナッジ(後押し)、体系的なセミナー、ワークショップ、リトリート(合宿研修)などを用いて計画的に横展開していく、かなりの時間と労力がかかるが、ひとたび従業員が新しい方向性を受け入れれば、最大速度で前進していく可能性は高い。”
こうしたタイトな企業カルチャー変革のモデルとしては、オライリーのLEASHモデルがある。
Lリーダーの行動(Leader Actions)強力なリーダーシップの下、何が新しい正しい行動かを一貫して示す
E従業員の参画(Employee Involvement)従業員に積極的に変革に参加させる
A連動した報酬(Aligned Rewards)新しい企業カルチャーに即した行動を公に認めて紹介し褒めること
Sストーリーと象徴(Stories and Symbols)新しい行動の必要性を語るストーリーのPR、社名・ロゴ変更、新スローガン
H人事制度の確立(HR System Alignment)新しい行動様式に沿ってどんなことをして昇進していくかを従業員に示す
この5つのレバーは変革にはどれも必須であり、何一つ欠けてはならない。
第4章で7Pが重要だと説いていた、Profit(利益)、Plan(戦略)、Paranoia(危機意識)、Parsimony(効率性)、PR(Public Relations:情報の透明性)、People(リーダーシップ)、Pride(幸福感)のAGCへの適用を説明している。
経営陣は中核となるProfit(利益)の源泉を明示した。
Plan(戦略)は第5章で説明していた2×2のマトリックスに沿って、“新市場×新技術でボックス4の「未来」事業を探索し投資する方法について計画を立案した。” 2×2のマトリックスとは“イノベーション・ストリーム・マトリックス”という①自分たちはどのような企業で現在のコア・コンピタンスは何か②このコア・コンピタンスを独創的で参入困難な新規事業にどのように拡張するかを考える手掛かりとするもので、目標はボックス4になる。そして、1~4の過程を繰り返して進化し続けるというもので、それを著者は相撲の“舞の海戦略”と称している。舞の海は常に技を磨き開発し、ついに相手の意表を超える手法で勝利を治めた、というのだ。AGCに限らず日本のほとんどの化学メーカーはこうやって革新を遂げているというのだ。
Paranoia(危機意識)では、経営トップは主力の基礎化学品などはコモディティ化して国際競争力を早晩失うと全従業員に説明して、変わらなければならないと説明した、と。
Parsimony(効率性)はコスト削減。企業カルチャーの革新により全従業員の交流がオープンに実施されコミュニケーションと業務フローが効率化したという。
PR(Public Relations:情報の透明性)では社名を旭硝子からAGCに変更した。
People(リーダーシップ)、Pride(幸福感)は企業カルチャーの変革によって、従業員は再び希望にあふれるようになった、という。企業カルチャーの変革はトップが、全従業員にメールを送り、目標を告げ、廃止したい“リーダーが改めるべき20の悪癖”というメモも添えたという。“そこには、「いや」、「しかし」、「でも」で話を始める、言い訳をする、情報を教えない、過去にしがみつく、人の話を聞かない、感謝の気持ちを表さない、といった項目が含まれていた。”
AGCの例に見るように、会社の変革は“秩序ある手順や体系的なイベントが必要だ。”だから熟慮された統合的計画によらなければならなく、かなり面倒なことではあるが、日本のようなタイトな文化の中でも可能なことは分かる。
“21世紀の競争に欠かせない新しいイノベーション戦略や手順を構築するためには企業カルチャーの変革が必要だ。”その変革を“AGCや日立のような大企業にできるなら、もっと多くの企業にもできるはずだ。”そしてそのような新しいタイプの経営者が出てきているという。
“日本やドイツといったタイト文化の国は一般的にペースが遅く、活気もなく、より慎重でリスク回避的だとみなされている。起業家にとって資金調達が難しく、多くの場合、長期に調達するので、いつまでに何を提供しなければならないかという期待値も異なる。この遅いペースは市場参入には不利だが、ディープテック*を用いたイノベーションの実現には向いているかもしれない。だからこそ、化学や機械における現在の主要な発明品の一部は、シリコンバレーではなく、ヨーロッパや日本で生み出されているのだ。”
*“イノベーションは、ディープテックとシャロ―テックに分類される。「ディープテック」とはかなり科学的、工学的な課題に取り組む発明を指す。・・・通常、特定の業界での経験や暗黙知に加えて、広範な科学的知識が求められる。この種のイノベーションが市場に出るまでに10年かかることもある。「シャロ―テック」は、より簡単にすばやく実行できるイノベーションで、おそらく模倣もしやすい。深く研究する必要がないため、市場投入までのペースははるかに速く、通常は2年ほどだ。エグジット(投資回収)は多くの場合、事業売却の形をとる。”
日本のシャロ―テックの代表は文房具だ。世界でも中小企業が多くレッドオーシャンと見られるためかあまり参入はされていない印象を持つ。
このあたりの解説は微妙な印象である。何より、“ディープテックの主要な発明品の一部は、シリコンバレーではなく、ヨーロッパや日本で生み出されている”、というのは最先端のChatGPTに代表される生成AIは米国で発明された。オープンAI社の本社はシリコンバレーのあるサンフランシスコにあった。
だが、しかし本書のP25あたりで示されている“ハーバード大学グロースラボの「経済複雑性ランキング」を見ると、日本は過去30年にわたって世界第1位だ。これは世界各国の「生産的知識」をランキングにしたもので、2つの指標に基づいている。1つ目は、その国の輸出品の多様性と複雑性だ。2つ目が製品の「偏在性」―どれだけ多くの国でその製品をつくれるかだ。”この“複雑性に満ちた製品”を具体的に示されていないので、イメージし難いのが残念であるが、それが事実ならAI以外の分野での日本の世界経済におけるポジションは断トツとなるはずだ。それを端的に示すのが、藻谷氏が示した日本の対外経常収支の軒並みの黒字なのかも知れない。客観数字はピタリ符合しているではないか。涙が出そうな話だ。何故、このような事実が広く喧伝されないのか。
“日本では(ヨーロッパ大陸と同じく)、大勢の犠牲の上に一握りの人が豊かになるような「焼き畑」方式に対してあまり寛容ではない。・・・製品は往々にして、発売前に非の打ちどころがないほどに完璧かつ安全であることを確認する必要がある。・・・しつこいほど検証を繰り返すうちに進展を阻んでしまうことが多い。日本の仕組みはこのような違いを引きずりながら形成されているので、シリコンバレーのようにルーズな文化の仕組みを模倣しようとしても、成功の可能性は低下してしまうのだ。”
こうした理由で、日本ではユニコ―ン企業は育ち難い。しかし大企業の下で育ちつつある新分野や未公開特許を売却したり、逆に外部や海外の技術者を雇用する“オープンイノベーション”を活用する事例も増えてきていると著者は指摘している。
米国などではスタートアップはM&Aが主だが、主流の日本ではIPO(新規株式公開)が主流となっている。当然のように“その結果、平均公募価格は下がり、結果的に「ホームラン(大成功)」案件やユニコーンの数が減ってしまう。”という。
さらに米国では“失敗への恐怖心がイノベーションの原動力になる。”しかし、それが日本では“失敗を恐れるあまりにイノベーションが阻害されている。したがって、日本のイノベーション・システムが起業家にある種の安全保障を与えて、より多くのリスクを取り、きぎょうをめぐる不確実性を受け入れやすくすれば”効果的だろうと、指摘する。そこで、終身雇用制とのジレンマがでてくるという。
その解決策として「総合職兼業」という新制度が生まれつつあるという指摘だ。“2015年の働き方改革の法改正に伴うもので、正社員が2社で一時的に働くことができる、総合職の正社員が対象”の制度だ。これによって大企業の下で新規事業を展開する素地が生まれ始めているという指摘だ。これによって優秀な人材を集め、“リスクをとる意欲を高め、日本独自のイノベーション・スタイルの成長を促進”しているというのだ。タイトな文化の国で“遅いことは変革を進めながら社会を打撃から守る意図的な選択なのだ”という。こうして著者の結論としての日本の“現在進行形の変革はゆっくりだが着実に進行している”ということだ。
そして次のように付け加えている。“アメリカはもはや、日本にとってのお手本でも、追い越そうという野心を抱く対象ですらない。というのも、経済や社会だけでなく政治の面でも、アメリカはまったく異なる道を歩んでいるからだ。”
だが結論的に言えば、どうやら日本の企業革新は既存の大企業から始まっているようだ。ユニコーンも大企業の傘下から生まれる可能性が高いようだ。純然たる新興勢力は数少ないようだ。
この本には書かれてはいないし、日本の賢くないマスコミも中々伝えていないが、日本企業の革新は、資金調達の株式市場でも推進されて来ている。ここでは既に小さな優勝劣敗が起きている。当初上場していた市場から退出させられる企業も出てきているのは事実だ。否、それよりも2021年にはコーポレートガバナンス・コードも改訂されより厳しく企業統治の在り方が求められるようになった。だからハラスメントも問題になるので、中間管理職も日常で変わらなければならなくなってきている。それだけでも企業文化は大きく変化するはずだ。
この本を読めば著者に勇気づけられる思いで一杯になる。確かに、最近のスポーツ界での若い日本人の活躍をみれば、旧態依然の教育界も変革してきているのかなぁと思わざるを得ない。野球でのメジャーへの進出、サッカーの世界への進出、バスケット・バレー・・・・その結果としてのオリンピックでのメダルの獲得数には目を見張るものがある。スポ根全盛の昔からは考えられない。この背景にはじわりと育成・教育の変革が密かに着実に進んでいるためと思わざるを得ない。
この曙光が日本全国に拡大すればどのような国になるのか、想像すらできない。の再浮上なのだ!今度再浮上すれば、それは旧態の反省を踏まえているので最強のマッチョではないか。
しかし、政治的には弱いのが、それが最大の懸案問題なのだ。それも世代が進めば自動的に解消するのかもしれない。最近の選挙でのIT活用がその糸口なのかもしれない。
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