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“ISOを活かす―62. ISO9001の「序文」とISO9000が重要?”


今回は ISO9001マネジメントの精神というか 考え方の基礎についての説明になっています。

【組織の問題点】
あるOA機器メーカーの定期審査において、管理責任者から“ISO9001認証を取得したが顧客のクレームは減らない”との話がありました。そこで 著者はその管理責任者に“ISO9001の序文を読んだことがありますか。またISO9000規格を読んだことがありますか”と尋ねたのですが、読んだことはないということだった、という話題です。

【磯野及泉のコメント】
“ISO9001の序文やISO9000規格を読む”ことで、顧客クレームは減るのでしょうか。著者・岩波氏は何を言わんとしているのでしょう。岩波氏はISO9001の序文には次の事項が書かれていると指摘しています。

(1)品質マネジメントシステムの構造の均一化又は文書の画一化が、この規格の意図ではない。[01. 一般]
(2)この規格が規定する品質マネジメントシステムについての要求事項は、製品に対する要求事項を補完するものである。[01. 一般]
(3)品質マネジメントの有効性を改善する際にプロセスアプローチを採用することを奨励している。[02. プロセスアプローチ]
(4)ISO9004はトップマネジメントが、この規格(ISO9001)で規定する要求事項の範囲を超えて、組織の実施状況の継続的な改善を目指そうとする場合の手引きとして推奨される。[03. ISO9004との関係]
そして、ISO9000規格には“ISO9000ファミリー規格全般の目的や主旨のほか、「品質マネジメントの8原則」やISO9000ファミリー規格の用語の定義についても述べています。”とも著者は指摘しています。

OA機器メーカーの管理責任者の悩みの“顧客クレームが減少しない”悩みに対し、岩波氏の問いかけは意味がないような気がします。しかし、多分、著者は この会社でのISO9001マネジメントシステムの運営が基本的に上手く行っていないことを感じ取ったのでしょう。そこでISO9001マネジメントシステムの運営の方向性について、考え方の基礎が “ISO9001の序文やISO9000規格”にあると 説明したかったものだと思います。私も この指摘は重要だと思います。

しかし、上記の(1)については、私は 少し違和感を覚えます。品質システムマネジメントをISO9001という規格に規定することは、“品質マネジメントシステムの構造の均一化”を狙ったものと考えられます。でなければ、規格化の意味はありません。
ここでは それよりも“文書の画一化が、この規格の意図ではない”に重点があり、そういう文書上での“品質マネジメントシステムの構造の均一化が、この規格の意図ではない”と読めるのでしょうか。

(2)は 当然のことです。このことはISO9001の7.2.1の“製品に関連する要求事項の明確化”に もう一度 より具体的に細かく規定しています。この部分はISO9001の核心部分だと思うのです。



(3)での“プロセスアプローチの奨励”については“組織の実施状況の継続的な改善”のためには重要であると思います。まさに、この“OA機器メーカーの管理責任者の悩み”の解決のための手法がここに秘められていると思うべきでしょう。個々の“顧客クレーム”の原因を深く掘り下げ、再発防止(是正処置)を実施する機能が有効でないことについて 現状の是正処置プロセスまたは そのシステムについて十分に分析するべきでしょう。著者・岩波氏は実は 他のことはさておき、この部分こそを強調するべきだったでしょう。

岩波氏が指摘するように 読んでみると分かることなのですが、ISO9004には、“継続的な改善を目指そうとする場合の手引き”となるような 具体的施策へのヒントが色々書かれています。組織の規模によって実施が困難な内容も含まれていますので、“推奨事項”となっているのだと思われます。書かれていることで、実施すれば効果的だと思える事項は トップマネジメントは積極的に検討するべきでしょう。

「品質マネジメントの8原則」は 重要です。その8原則において、そのほとんどは それ以外の部分でも繰り返し出てくる内容なのですが、一つだけ この8原則でしか指摘されていない原則が有ります。それは h)項の“供給者との互恵関係”です。この指摘は 忘れられることが多いのですが、重要だと思っています。“組織及びその供給者は独立しており、両者の互恵関係は両者の価値創造力を高める。” つまり “組織は良い製品を作るためには 供給者の心からの協力を得られるようにするべきで、供給者の責任ばかりを追及だけでは ダメだ。” ということだと思うのです。そのために 何をするべきか、お互いの尊重、尊敬が大切です。

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コメント
 
 
 
マルテンサイト変態千年グローバル (サムライ鉄の道グローバル)
2024-11-29 15:55:14
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、トレードオフ関係の全体最適化に関わる様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
 
 
 
確率密度関数 (アジャイル開発)
2024-12-06 12:53:37
「材料物理数学再武装」なつかしいですね。これを読んだのは非正規分布系の確率密度関数に興味を持ったからだ。品質工学かんけいの怪しげなサイトで「ドミノ理論」なる政治的なにおいのぷんぷんする内容が大体的に語られていたころだった。破壊力学的な確率密度関数がそれにあたるが、ワイブル関数も一つの近似形態だという認識だったのは感動した。あと等確率の原理から微分方程式により正規分布を導出あたりも新鮮だった記憶があります。
 
 
 
関数接合論 (プラントメンテナンス関係)
2024-12-06 12:58:45
「材料物理数学再武装」の原典ははマテリアルズインフォマティクスの専門家で、元島根大学客員教授でプロテリアル製高級特殊鋼SLD-MAGICの発明者の久保田邦親博士(工学)の大学での講義資料名ですね。その方によればよれば世間でいう4層以上の多層ニューラルネットワークだけの説明はディープラーニングの説明は片手落ちで、ドロップアウトという設定確率に沿ってニューロンを切断することで求解速度が高まったという。もともとどんなプログラミングも数学を基礎としているので例えば、人工知能というものの起源をパーセプトロンに求めるが、関数を継ぎ足すという視点(関数接合論)でながめると材料力学・破壊力学の長い亀裂の応力集中係数の求め方にその発祥があるとも。なかなか奥が深いものだ。
 
 
 
多様性 (パーソネル分野)
2024-12-06 13:07:22
多神教というか、多様性(ダイバーシティやインクルージョン)というものが最近の企業で求められているけど、最先端の知の分野の変化とも連動していたんですね。
 
 
 
確率密度関数 (インスペクション部門)
2024-12-06 13:18:22
私の場合「材料物理数学再武装」を読んだのが非正規分布系の確率密度関数に興味を持ったからだ。品質工学かんけいの怪しげなサイトで「ドミノ理論」なる政治的なにおいのぷんぷんする内容が大体的に語られていたころだった。破壊力学的な確率密度関数がそれにあたるが、ワイブル関数も一つの近似形態だという認識だったのは感動した。あと等確率の原理から微分方程式により正規分布を導出あたりも新鮮だった記憶があります。
 
 
 
今年のノーベル賞 (物理化学(化学工学)関係)
2024-12-06 13:25:10
日経クロステックの記事に今年のノーベル賞は「「AIの父」ヒントン氏にノーベル賞、深層学習(ディープラーニング)の基礎を築いた業績をまとめ読み」と題して紹介されていましたが、物理学賞、化学賞ともにAIがらみあったんですね。しかしながらブラックボックス問題の解明には至っていないようです。
 
 
 
神は細部に宿る (オイルチューニング関係)
2024-12-06 13:28:12
まあ、そうはいってもやはりCCSCモデルはノーベル賞級の境界潤滑理論だといえますね。なにしろ極圧添加剤の作用機構の原因物質が、グラファイト層間化合物であることを世界で初めて明らかにした業績は素晴らしいものがある。あとなにやら鉄鋼のリサイクル技術にも関連した話があるということだ。
 
 
 
AI半導体の動向 (AI革命の旗手リスペクト)
2024-12-06 13:31:36
AI半導体大手のNVIDIAのCEOも「AIと日本の優れた製造業、ロボット技術を合わせれば、日本は新しい産業革命を起こせる」と述べ、日本が持つ可能性に対して強い期待感を表明している。このようなAI技術は地球環境問題だけでなく人口減少に伴う労働力不足の解決策ともなろう。今後ロボットは高度な多軸、多関節化がおこることが予想されるため日本人の経営者もリーダーシップを発揮すべきでは。
 
 
 
プロの魂 (AIインストラクター)
2024-12-11 22:08:31
なるほど、「材料物理数学再武装」なかなか面白いですね。AI数学の理論基礎をトライボロジーにおけるストライベック線図にもとめ、そこでAIに使われるシグモイド関数の意義を明確化している。アルゴリズム教育として一種のグローバルスタンダード的な価値創造が見受けられますね。
 
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