近隣の中学校の校医を引き受けることになりました。
小児科医院には中学生はあまり来ません。
そこで、予習もかねて日本思春期学会に参加してみました。
新型コロナ禍以降、学会がWEB配信されるようになったので、
現地に行かなくてもお金を払えば簡単に視聴できるのです。
これは持病を抱えたアラ還のおじさんにとって朗報です。
今まで縁のなかった“性教育”に関するレクチャーを中心に視聴しました。
すると、ある問題が浮かび上がってきました。
日本の学校では“性教育”が禁止されているのです。
具体的には性交渉について授業で教えてはならない、
性交渉に付随すること(避妊や性感染症)についても触れてはならない、
というルールがあることを初めて知りました。
少し詳しく説明すると、
日本の「学習指導要領」には以下のように学年で教えるべき内容が決められています。
(小学2年生)へそ
(小学4年生)月経・射精
(小学5年生)ヒトの誕生
(小学6年生)二次性徴
(中学1年生)生殖にかかわる働きの成熟、性への関心と行動
(中学3年生)性感染症・コンドーム
(高校生) 避妊
「な~んだ、ちゃんと教えてるじゃん」
と思うなかれ。
上記内容には「はどめ規定」というモノが存在し、
「セックス・性交渉・性行為」は扱ってはならないんだそうです。
つまり、セックスの説明抜きにコンドームの使い方を教えろということ。
誰が考えても無理ですよね。
思春期学会のシンポジウムでも、
性犯罪対策や性感染症対策を子どもに教えなければならないのに、
このジレンマの解決法が見いだせず、悩みに悩んでいる様子でした。
実は、昔の日本には“性教育”システムがありました。
そのことについて書いてみます。
私はふつうの人々の歴史を研究する民俗学が好きで、
ときどきその系統の本を読んでいます。
江戸時代まで、村々には「若者組」という組織があったそうです。
基本的に15歳で入り、結婚すると抜けるシステムで、
その間、農業・林業を担い、
祭りの実働部隊や、村の警備なども担当したようです。
その中で、年長者から新入りに“性教育”も施されました。
昔の日本では、性の知識の入手先は、
家庭でもなく、学校でもなく、悪友からでもなく、
当然、メディアでもなく、
人生の先輩からだったのです。
まあ、自然ですよね。
若者組を卒業すると、一人前の大人として見なされ、
村の中で一定の役割を担うようになりました。
勉学は学校で、社会性は若者組で育んだのですね。
このようなシステムは、世界を見渡すと各民族に存在するようです。
アフリカの草原に生きる某民族では、
思春期になると“若者組”に似た組織に入り、集団で旅に出ます。
狩猟や生活の知識をそこで育み、一人前の男になって帰ってくるのです。
そのドキュメンタリーでは、
「思春期のほとばしるエネルギーと創造力は、
大人や既存社会とぶつかることは目に見えている」
「それを避けつつ、逆にいかす方法を編み出した」
と説明されていました。
ああ、やはり思春期男子を家庭内に囲ってはいけないんだ、
家族の殻を突き破ろうとするエネルギーを押さえつけてはいけないんだ、
外に向かって放出し、創造力を生かすべきなんだ、
とそのとき感じました。
女性はどうだったか?
女子にも「乙女組」というシステムがあり、
13歳頃に入り、結婚すると抜けるルール。
その間、裁縫や手仕事を習い、
やはり性の知識も伝授されたものと思われます。
明治維新以降、若者組も乙女組も解散されました。
一部は「青年団」へ移行しましたが、
悲しいことにそれは富国強兵政策に利用されました。
戦後、青年団が機能している自治体は見聞きしませんね。
地域での縦の繋がりが存在しない現在、
学校も家庭も性教育に躊躇している現在、
子ども達はインターネット上の怪しい性の情報に翻弄され、
誤った知識で頭がいっぱいになりがちです。
無理解と誤った知識は、誤った行動に繋がりがちです。
どうすればいいのでしょう?
ひとつの答えとして、SNSを利用した啓蒙があります。
学校における性教育の「はどめ規定」の範囲外であることを、
逆に利用するのですね。
学会レベルでの活動を報告しておきます。
世界標準から遅れに遅れ、何とかせねば、という動きはあり、
こんなHPが作られました。
これは「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に準拠して、
日本に合うようアレンジした内容で、
年齢で分けられた各ステージ別に学習目標が掲げられています。
(レベル1)5~8歳
(レベル2)9~12歳
(レベル3)12~15歳
(レベル4)15~18歳
(レベル5①)18~40歳代前半
(レベル5②)40歳以上
ぜひ一度、覗いてみてください。
すごく充実していて、各レベルに複数の、
が用意され、至れり尽くせり。
ただ、レベル2~4は鋭意製作中で、2023年度に完成予定だそうです。
肝心の性交渉も扱い、コンドームの正しい装着方も「別冊」としてイラスト入りで解説される予定です。
こうご期待。
<参考>
・三重県答志島の青年宿・寝屋子制度と青年期発達に関する基礎的資料
・若者・青年組織の民俗 ― 近代愛媛の事例 ―