小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

アナフィラキシーその4:全例入院が必要?

2025年02月24日 13時07分50秒 | アナフィラキシー
アナフィラキシーシリーズその4(最終回)は「入院適応」です。
昔から「重症のアナフィラキシーは症状が二相性に出ることがあり帰してはいけない」
とされ、様子観察目的で一泊入院が普通でした。

さて、記事ではどのように話が展開するのでしょう。
意外な視点がありました。

<ポイント>
・1泊の経過観察目的入院が妥当だが、必ずしも患者が入院を受け入れてくれるとは限らない。
・初期対応が十分に行われた例は、諸般の条件(病院へのアクセス、連絡可能かどうか、等)が整えば帰宅させる選択も間違いではない。
・「二相性反応」とはアナフィラキシー症状の消失後、抗原に再曝露しない状態で、48時間以内に症状が再発すること(最大で72時間とする報告もある)。頻度は、以前は20%程度といわれていたが、前向きの研究では1~7%程度とされている。
・二相性反応が起こりやすい時間は10時間前後が一般的。基本的に一相目を超える反応は認めない。アドレナリン投与が必要なケースもあるもののその頻度はまれで、死亡率は高くない。
・「アドレナリンが初療で投与されていなかった」「抗ヒスタミン薬やステロイドの投与を優先し、アドレナリン投与までに時間が掛かってしまった」といった例では二相性反応が起こりやすい。発症から30分以内にアドレナリンを投与することが1つの目安。
・二相性反応の出現率は重症度の他に「発症時に適切な医学的介入ができたかどうか」により左右される。
・ステロイド薬投与は必須ではない。ステロイドが二相性反応を予防するというエビデンスは乏しく、ルーチンには推奨されない。アドレナリンを繰り返し投与する必要がある症例や、二相性反応のリスクが高い場合には投与を検討してもよいが、アドレナリンよりも優先すべきものではない。

・・・初期治療が重要で、その後の経過に影響するのですね。
でも「30分以内のアドレナリン投与」は造影剤によるショックなど病院内の出来事なら可能かもしれませんが、ハチに刺されたとか、食物アレルギーにより誘発された例とかは、エピペン以外は困難です。


▢ アナフィラキシーその4:アナフィラキシーは全例入院が必要か
坂本壮(国保旭中央病院救急救命科医長)
2024/04/25:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
Case
 64歳女性。友人宅で食事を摂ったところ、頸部や腹部に蕁麻疹様の皮疹が出現。息苦しさも自覚したため、救急外来を受診した。
バイタルサイン:意識清明、血圧98/50mmHg、脈拍数112回/分、呼吸数24回/分、SpO2 96%(室内気)、体温36.6℃
既往歴:高血圧
服薬歴:アムロジピン
アレルギー歴:甲殻類

 皮膚症状に加え、息苦しさがあり、聴診上喘鳴も聴取したため、アナフィラキシーと判断し、大腿外側広筋にアドレナリン0.5mgを筋注した。その後、数十分後には自覚症状は消失。バイタルサインも普段通りへ改善した。
・・・
 本稿では、初期対応後の経過観察を取り上げます。冒頭の症例に遭遇した場合、アドレナリンを使用しているから経過観察のために入院が妥当なのでは? 二相性反応が起こる可能性があるからやはり入院が必要……? こう考える方が多いのではないでしょうか。
 結論からお伝えすると、1泊の経過観察目的入院が妥当ですが、必ずしも患者が入院を受け入れてくれるとは限りません。中には、仕事やペットの世話などを理由に帰宅を希望される人もいます。また、ベッドが埋まっていてどうしても入院できない──そんなことも少なくありません。「経過観察目的に転院」「救急外来で長時間の経過観察」なども選択肢になりますが、全例で必要かというと……。根拠を持って経過観察時間を設定するために、知識を身に付けておきましょう。

▶ 二相性反応の疫学
 二相性反応は、アナフィラキシー症状の消失後、抗原に再曝露しない状態で、48時間以内に症状が再発することとされます。頻度は、以前は20%程度といわれていましたが、前向きの研究では1~7%程度とされており、本邦の報告でも同様の数字となっています1、2)。アドレナリン投与が必要なケースもあるものの、その頻度はまれで、死亡率は高くありません。
 二相性反応が起こりやすい時間としては、最大で72時間とする報告もありますが、10時間前後が一般的です2、3)。そのため、アナフィラキシー症例では、1泊の経過観察目的入院が妥当とされます。しかし、そもそも二相性反応の頻度はそれほど高くない上に、基本的に一相目を超える反応は認めません。「一律に入院」ではなく、入院すべきかを患者ごとに判断することはできないのでしょうか?

▶ 二相性反応が起こりやすい患者って?
 では、どんな患者で二相性反応が起こりやすいのでしょうか? 「難治性の症例」「原因不明の症例」など、いくつかのリスク因子が報告されていますが、最も重要な因子は「発症時に適切に介入できたか否か」です4)。
 例えば、「アドレナリンが初療で投与されていなかった」「抗ヒスタミン薬やステロイドの投与を優先し、アドレナリン投与までに時間が掛かってしまった」といった症例では、二相性反応が起こりやすいことが分かっています。発症から30分以内にアドレナリンを投与することが1つの目安です。アナフィラキシーを早期に認識するとともに、速やかにアドレナリンを投与することが欠かせません5)。
 適切な初期対応を行うことが大前提ではありますが、中にはうまくいかないケースもあるでしょう。前述の通り、二相性反応が起こりやすいかは、重症度に加え、発症から介入までの時間が影響します。以下の2症例について考えてみましょう。

Ex. 1
 66歳女性。腹痛の精査のために造影CT検査を実施した。検査終了後から喉の違和感を訴え、その後意識消失した。収縮期血圧が70mmHg以下に低下、体幹部の皮疹に加え、喘鳴も認め、CT室から救急外来へ移動となった。

Ex. 2
 71歳男性。自宅の庭で蜂に刺され、患部を冷やし自宅で様子を見ていた。刺された部位の痛みは改善したが、全身にかゆみを伴う皮疹と、嘔気・嘔吐を認めたため、心配した家族とともに救急外来を受診した。意識は清明で、血圧も普段と変わらない。

 いずれもアドレナリンを大腿外側部に0.5mg筋注し、症状が改善したとすると、どちらの方が二相性反応が起こりやすいでしょうか? 
 Ex. 1は造影剤によるアナフィラキシーショックが考えられるのに対して、Ex. 2はショックに陥ってはいなさそうです。初動の迅速性に関しては、Ex. 1は、アナフィラキシーを速やかに把握し、的確に対応できている一方、Ex. 2は症状の出現後、ある程度時間が経過してから来院しています。重症度とアドレナリン投与までの時間の2軸で判断すると、Ex. 1とEx. 2どちらで二相性反応が生じる可能性が高いかは明言できないのが実情でしょう。
 ちなみに、ステロイドが二相性反応を予防するというエビデンスは乏しく、ルーチンには推奨されません6)。アドレナリンを繰り返し投与する必要がある症例や、二相性反応のリスクが高い場合には投与を検討してもよいですが、アドレナリンよりも優先すべきものではありません。「アナフィラキシー→アドレナリン+抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー&H2ブロッカー)+ステロイド」とセット展開するのではなく、まずはアドレナリンを投与した上で、使用する必要があるかをきちんと吟味しましょう。

Gem of Advice
初期対応が超重要! アドレナリンを適切に使用し、二相性反応を回避せよ!

▶ 実践的な経過観察時間は?
 アナフィラキシー症例における経過観察時間は、二相性反応の観点からいうと、前述の通り、一相目の発現後10時間程度で起こりやすいので入院が妥当です。しかし、二相性反応が生ずる割合は決して高くないため、重症度と症状出現からアドレナリン投与までの時間を考慮して対応する必要があります。また、高齢者、独居といった患者背景にも配慮しなければいけません。
 私は、初動で適切に介入することができたアナフィラキシー症例では、4〜6時間を目安に経過観察を行い、「家族や友人など経過を見ることができる人がいるか」「病院へのアクセスが困難ではないか」なども検討し、最終的に帰宅可能か否かを判断しています診療所でアナフィラキシーに遭遇した場合には、アドレナリン筋注や細胞外液投与を実施しつつ、転院の上、経過観察するのがよいでしょう。

Gem of Advice
重症度だけでなく、アドレナリン投与までの時間も考慮して経過観察時間を決定しよう!

Caseの経過
 皮膚症状に加え、循環、呼吸の異常を認めており、アナフィラキシーの典型症例といえます。来院後、比較的早期にアドレナリン0.5mgを筋注し、症状は改善しています。今回のように即座にアナフィラキシーを認識してアドレナリンを使用、その後速やかに症状が軽快している例では、二相性反応が起こる割合は数%程度でしょう。救急外来で4~6時間程度の経過観察を行い、帰宅の判断をすることとしました7)。

まとめ
 二相性反応が起こるか否かは正直分かりません。大切なのは、とにかく初療でアナフィラキシーを適切に認識し、アドレナリンを早期に投与することです。また、経過観察時間に明確な決まりはありませんが、根拠を持って帰宅の判断ができるようになる必要があります。重症度だけでなく、症状出現からアドレナリン投与までの時間、さらには患者の生活状況なども考慮して対応するようにしましょう。

<参考文献>
1)Zeke A,et al. Emerg Med Pract.2022;24:1-24.
2)Oya S,et al. J Emerg Med.2020;59:812-9.
3)Douglas DM,et al. J Allergy Clin Immunol.1994;93:977-85.
4)Shaker M,et al. JAMA Netw Open.2019;2:e1913951.
5)Liu X,et al. J Allergy Clin Immunol Pract.2020;8:1230-8.
6)Nagata S,et al. Int Arch Allergy Immunol.2022;183:939-45.
7)Kim TH,et al. Int Arch Allergy Immunol.2019;179:31-6.
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アナフィラキシーその3:小児のアナフィラキシー

2025年02月24日 12時44分38秒 | アナフィラキシー
アナフィラキシーシリーズ、第3回は「小児のアナフィラキシー」です。
私は小児科医ですので、一応の知識はあります。

小児で問題になるのは、
・乳幼児では自分から症状を訴えることが難しい。
・バイタルサインの正常範囲が成人と異なる。
・使用するアドレナリンの量は体重換算で変化する。
・血管が細く輸液路の確保が難しい。
ですね。

記事を読んで、他にもポイントがありました。

<ポイント>
・小児のアナフィラキシーの誘因は食物の頻度が高く、原因物質としては、欧米では落花生や木の実類、日本では鶏卵、乳製品、小麦、木の実類が多い。
・アナフィラキシーショックによる死亡原因で有名なのはハチ刺傷や医薬品ですが、実は小児ではこれらはあまり見られない。小児のアナフィラキシーは命に関わることはまれで、大半が軽症〜中等症なのが特徴。
・筋肉注射1回投与量として覚えておくべきは「0.01mg/kg(小児は最大0.3mg)」で、投与量計算のためには体重が重要。
・エピペンは、アドレナリン自己注射薬のことで、アナフィラキシーの症状があると判断された場合に、医療関係者だけでなく、処方された患者、家族、教職員、保育士、救急救命士なども使用することができる。

そもそも、アナフィラキシーの原因が成人と異なることを忘れていました。
開業小児科医では、食物アレルギーかワクチン接種後によるものがほとんどなので。
勉強になりました。


▢ アナフィラキシーその3小児のアナフィラキシー、成人と異なる3つのポイント
竹井寛和(兵庫県立こども病院救急科医長)
2024/04/24:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
Case
 6歳男児。2週間前に小学校に入学したばかり。給食を食べた後から気分不良を訴え、トイレに向かう途中に1度嘔吐。会話は可能だが、ぐったりした様子であることから、教師が救急要請した。救急隊到着時、本人は嘔気を訴えている。
バイタルサイン:意識晴明、血圧75/35mmHg、脈拍数138回/分、呼吸数30回/分、SpO2 95%(室内気)、体温36.4℃
既往歴:気管支喘息で入院歴あり
服薬歴:定期内服薬なし
アレルギー歴:卵アレルギーあり

 経過や症状からは、アナフィラキシーが疑われますね。診察する相手が子どもというだけで身構えてしまいそうですが、救急外来の初療で意識することは、基本的に成人と変わりません。一方で、小児ならではのポイントもあります。小児のアナフィラキシーについて、成人とどんな点が異なるのか、そしてそれを踏まえてどう対応すべきかを解説します。

▶ 成人との相違点(1):バイタルサインの基準値が異なる!
 アナフィラキシーに限った話ではありませんが、気道、呼吸、循環、意識……と評価していく中で、小児の診療に慣れていない場合、まず困るのが「小児のバイタルサインの基準値」でしょう。小児では生理学および解剖学的な理由から、年齢によって、バイタルサインの正常範囲が細かく分かれています。
 小児のバイタルサインの基準値を全て覚えておく必要はありませんが、米国心臓協会(AHA)のPALS(小児二次救命処置)プロバイダーマニュアル1)に示された収縮期血圧の下限(表1)や、カナダの救急患者緊急度判定支援システムCTAS(Canadian Emergency Department Triage and Acuity Scale)の心拍数、呼吸数の基準値(表2)などを参考にすることをお勧めします2)。
 「アナフィラキシーガイドライン2022」の診断基準では、乳幼児・小児の血圧低下の定義は「本人のベースライン値に比べて30%を超える収縮期血圧の低下が見られる場合」または「収縮期血圧が(70+[2×年齢(歳)])mmHg未満」と記載されています3)(関連記事その1)。


表1 小児の収縮期血圧の下限(文献1より)


表2 小児の心拍数、呼吸数の基準値(文献2を基に筆者作成)

▶ 成人との相違点(2):アナフィラキシーの原因が異なる!
 日本での実態調査によると、院内発症または救急外来を受診したアナフィラキシー患者767例中、18歳未満が70%以上を占めていました4)。小児のアナフィラキシーの誘因は食物の頻度が高く、原因物質としては、欧米では落花生や木の実類、日本では鶏卵、乳製品、小麦、木の実類が多いといわれています。小児では、成人以上に積極的にアナフィラキシーを鑑別に挙げること、誘因として特に食物に注目して情報収集する意識を持つことが重要です。
 アナフィラキシーショックによる死亡原因で有名なのはハチ刺傷や医薬品ですが、実は小児ではこれらはあまり見られません。小児のアナフィラキシーは命に関わることはまれで、大半が軽症〜中等症なのが特徴です。

Gem of Advice
小児ではより積極的にアナフィラキシーを鑑別に挙げ、特に食物に注目して情報収集する。

▶ 成人との相違点(3):アドレナリンの投与量が異なる!
 最後に取り上げる相違点は、アナフィラキシー治療薬の王様、アドレナリンについてです。投与部位は成人と同じく大腿部中央の前外側部分(関連記事その2)ですが、推奨投与量が異なります。
 筋肉注射1回投与量として覚えておくべきは「0.01mg/kg(小児は最大0.3mg)」で、投与量計算のためには体重が重要になります。救急隊から小児症例の搬入依頼を受けたら、必ず体重も尋ねます。体重が不明であれば、表3を参考にしてもよいでしょう3)。なお、1000倍希釈のアドレナリン(1mg/mL)を用いる場合、0.01mgは0.01mLに相当します。


表3 年齢別アドレナリン推奨投与量(文献3より)

▶ エピペンの基本事項は頭に入れておこう!
 エピペンについても少し触れておきます。エピペンは、アドレナリン自己注射薬のことで、アナフィラキシーの症状があると判断された場合に、医療関係者だけでなく、処方された患者、家族、教職員、保育士、救急救命士なども使用することができます
 患者の大腿の付け根から膝までの中間部分、やや外側に筋肉注射します。小児の場合、注射を打とうとすると逃げてしまうこともあるので、しっかり固定することが重要です。ペンの中央を鷲掴みにして持ち、オレンジ色の先端をカチッと音がするまで強く垂直に押し付けて打ちましょう3)。

Caseの経過
 6歳の収縮期血圧の下限は「(70+[2×年齢(歳)])mmHg」であり、82mmHgになります。本症例の収縮期血圧は75 mmHgでこれを下回ることから、アナフィラキシーショックと判断しました。
 気道確保、酸素投与、静脈路確保などのショックに対する蘇生を進めつつ、アドレナリン筋注をできるだけ早期に行う必要があります。体重は25kgであったため、0.25mgを右大腿に筋注したところ、症状は改善。
 付き添いの教師に話を聞くと、給食にプリンが出ていたことが分かりました。小学校に入学したばかりだったため、卵アレルギーの情報がきちんと共有されていなかったようです。

まとめ
 成人との相違点を中心に、小児のアナフィラキシーを取り上げました。過去にアナフィラキシーを起こしたことのある小児では、その後のアレルギー管理や再発予防も重要になります。本人や保護者だけでなく、保育園、幼稚園、学校関係者などにも生活における原因除去や適切な対処法について共有しておく必要があるのも成人とは違うポイントですね!

<参考文献>
1)American Heart Association『PALSプロバイダーマニュアル AHAガイドライン2020準拠』(シナジー、2022)
2)Bullard MJ,et al. CJEM.2014;16(6):485-9.
3)日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」
4)佐藤さくら他 アレルギー 2022;71:120-9.


・・・私はアレルギー学会認定専門医であり、当院はアレルギー科を標榜していますので、食物アレルギーの相談がよくあります。
ただし、アナフィラキシーのリスクのある患者さんは、当院での診療で終わりにせず、救急対応可能な総合病院を紹介しています。
なぜかというと、当地域の基幹病院小児科病棟が閉鎖され、救急対応ができない状況だからです。

遠方でもいざという時駆け込める病院に管理してもらっていた方が、患者さんも安心だし、医療側もカルテに情報があるので診療がスムーズであることに期待して。
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アナフィラキシーその2:アドレナリン投与のタイミング

2025年02月24日 09時18分23秒 | アナフィラキシー
アナフィラキシー患者には治療としてアドレナリン(ボスミン®)を筋肉注射します。
血圧が上昇して意識が回復するはずですが・・・
反応が悪い、あるいは一旦よくなっても再度悪化した場合、
2回目のアドレナリンをどのタイミングで再投与すべきか、現場では悩ましい問題です。

さて、シリーズのアナフィラキシー特集ではどう書かれているでしょうか。

<ポイント>
・アナフィラキシーを疑う、もしくは診断したら、一刻も早いアドレナリンの投与が必要。
・アドレナリンは最も有効なアナフィラキシーの治療薬である一方で、使い方を1つ間違えると非常に危険な薬剤。
・アナフィラキシーを発症した患者に対するアドレナリンの投与量は0.01mg/kgで、成人の最大投与量は0.5mg(参考書によっては0.3~0.5mgと幅を持たせているものも)。0.3mgと0.5mgを比較した研究では、0.5mgの方がより吸収が良好であり、重大な副作用の出現もないことが報告されている。
・アドレナリンの投与経路は、大腿部中央の前外側部分(「気を付け」の姿勢をした際にちょうど手が来る部分)への筋注。
・まず患者をベッドに横にしてモニタリングを開始。そして、すぐさまアドレナリン0.5mgを筋注。末梢ラインの確保はアドレナリン投与後に速やかに行う。
・心停止時はアドレナリン1mgを静脈内注射するが、アナフィラキシー患者には決して1mgを静脈内注射してはいけない。致死的不整脈を誘発し、心停止に陥る可能性がある。
・アドレナリンはアンプルタイプではなく、シリンジタイプを使用すべし。シリンジタイプを用いるメリットは、製剤に直接針を装着できる簡便さに加え、使用する分の薬液を吸い上げるよりも、必要量を押し出してから残りを廃棄する方が分量の調整がしやすい。
・初回投与を受けた10~20%の患者は投与量不足が原因で再投与を要する。
・「アナフィラキシーガイドライン2022」では、投与の間隔は5~15分と記載されている。投与後5分経過した時点で患者の症状やバイタルサインが全く改善していないようであれば、速やかに2回目の投与を行うべし。改善が見られるようなら5分の時点では投与せず、15分まで経過を見て、そのときに残存している症状の程度に応じて2回目の投与を検討する。

最後の一文にすべて集約されていると思います。
シリンジ型のアドレナリン、当院でも導入すべきか検討したいと思います。


▢ アナフィラキシーその2アナフィラキシーへのアドレナリン、2回目を投与すべきか見極めるのは何分後?
北井勇也(練馬光が丘病院総合救急診療科救急部門科長)
2024/04/23:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
Case
 40歳女性。食事中、体のかゆみを自覚したが、気にせず食べていた。食後からかゆみが増強するとともに喉の違和感が出現し、息苦しさも出てきた。様子を見ていたものの改善しないため、救急外来をウォークインで受診した。
バイタルサイン:意識清明、血圧110/74mmHg、脈拍数94回/分、呼吸数24回/分、SpO2 96%(室内気)、体温37.0℃
既往歴:特記事項なし
服薬歴:定期服薬なし
アレルギー歴:特記事項なし
身体所見:口唇浮腫あり、呼気時喘鳴聴取、腸蠕動音亢進、全身に膨疹あり
その他:診察中に嘔吐あり

 アナフィラキシーが疑われるため、アドレナリンを投与することとした。

 今回の症例は、食事摂取中に蕁麻疹が出現し、呼吸器症状と消化器症状を伴っていることから、アナフィラキシーが第一に考慮されます。アナフィラキシーを疑う、もしくは診断したら、一刻も早いアドレナリンの投与が必要となります。
 「アナフィラキシーにはアドレナリン投与」は知っていても、実際に投与経験がある方はそう多くないかもしれません。アドレナリンは最も有効なアナフィラキシーの治療薬である一方で、使い方を1つ間違えると非常に危険な薬剤でもあります。いざというときに適切にアドレナリンを投与できるように、事前に知識を身に付けておきましょう。

▶ 成人にはアドレナリンを0.5mg投与!
 アナフィラキシーを発症した患者に対するアドレナリンの投与量は0.01mg/kgで、成人の最大投与量は0.5mgです(表1)1)。


 表1 年齢別アドレナリン推奨投与量(文献1より)

 参考書によっては0.3~0.5mgと幅を持たせているものもあります。また、慣習的に0.3mgと教わった方もいるでしょう(筆者もその1人です)。そういった場合、0.5mgを投与することにためらいを覚えるかもしれませんが、0.3mgと0.5mgを比較した研究では、0.5mgの方がより吸収が良好であり、重大な副作用の出現もないことが報告されています2)。正確な体重が分からなくても、成人であれば「0.5mgを投与する」と覚えておきましょう。

Gem of Advice
成人のアナフィラキシーではアドレナリンを0.5mg投与!
(※0.01mg/kgで用量決定してもよい)

▶ 投与経路は大腿部中央の前外側に筋肉注射!
 アドレナリンの投与経路は、大腿部中央の前外側部分への筋注です。「気を付け」の姿勢をした際にちょうど手が来る部分と覚えておくとよいでしょう。
 アナフィラキシーを疑った場合の流れとしては、まず患者をベッドに横にしてモニタリングを開始。そして、すぐさまアドレナリン0.5mgを筋注します。このとき、患者への説明を忘れてはいけません。たとえ緊急事態であっても、いきなり衣服を下げて大腿部をむき出しにするようなことは避けるべきです。患者の羞恥心に配慮し、治療の必要性を簡潔に伝えて理解を得ましょう。末梢ラインの確保はアドレナリン投与後に速やかに行います

 アドレナリンの投与経験としては、アナフィラキシーよりも心停止の場面の方が多いかもしれません。心停止時はアドレナリン1mgを静脈内注射しますが、アナフィラキシー患者には決して1mgを静脈内注射してはいけません致死的不整脈を誘発し、心停止に陥る可能性があるからです。

 迅速なアドレナリン筋注を行うために実際に筆者が行っている5つのステップを紹介します(表2)。アドレナリンはアンプルタイプ(写真1)ではなく、シリンジタイプを使用します(写真2)。


表2 アドレナリン筋注の5ステップ


写真1 アンプルタイプのアドレナリン(提供:第一三共)


写真2 シリンジタイプのアドレナリン(提供:テルモ)

 シリンジタイプを用いるメリットは、製剤に直接針を装着できる簡便さに加え、使用する分の薬液を吸い上げるよりも、必要量を押し出してから残りを廃棄する方が分量の調整がしやすいことです。デメリットとしては、余った分を捨てることになる点が挙げられます。ただし、初回投与を受けた10~20%の患者は投与量不足が原因で再投与を要するとされています3)。再投与を防ぐ視点でも、適切に0.5mgを投与することが重要だと考えます。

▶ 2回目を投与するかを見極める目安は5分!
 「アナフィラキシーガイドライン2022」1)では、投与の間隔は5~15分と記載されています。幅があるので、実際にどのタイミングで投与すればよいのか、現場では悩むのではないでしょうか。
 アドレナリンの効果発現は迅速です。投与後、5分経過した時点で患者の症状やバイタルサインが全く改善していないようであれば、速やかに2回目の投与を行いましょう。改善が見られるようなら5分の時点では投与せず、15分まで経過を見て、そのときに残存している症状の程度に応じて2回目の投与を検討します。
 アドレナリンを投与したらそれで終わりではなく、投与後はベッドサイドで患者の容態とバイタルサインを観察し、変化をいち早く捉えられるようにしておきます。なお、2回目の投与に備えて、シリンジタイプのアドレナリンを2本以上準備しておくことをお勧めします。

Gem of Advice
アドレナリン投与後はベッドサイドで観察し、5分経過時点で再投与を判断。

Caseの経過
 アレルゲンは不明でしたが、食事中に発症した蕁麻疹+呼吸器症状+消化器症状であり、アナフィラキシーと判断してアドレナリン0.5mgを大腿部中央の前外側部分に筋注しました。投与後、徐々に咽頭違和感、息苦しさは軽減。浮腫も改善し、喘鳴も消失しました。救急外来で経過を観察、症状の再燃がないことを確認の上、帰宅となりました。

まとめ
 アナフィラキシーと診断した後のアドレナリンの投与方法について解説しました。ポイントは投与量、投与経路、投与間隔です。突然、アナフィラキシーに遭遇した場合にも適切に対応できるように、実際に投与するイメージを持っておくようにしましょう。

<参考文献>
1)日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」
2)Dodd A,et al. Resuscitation.2021;163:86-96.
3)Boyce JA,et al. J Allergy Clin Immunol.2010;126:S1-58.


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アナフィラキシーその1:基礎編

2025年02月24日 08時48分08秒 | アナフィラキシー
医師にとってアナフィラキシーは出会いたくない疾患の一つです。
稀だけれど、短時間に命に関わるケースがあるから。

だから救急外来以外の医師でも、
日頃からシミュレーションを繰り返して再確認する必要があります。
火災訓練や防災訓練と同じですね。

さて、アナフィラキシーを取りあげたシリーズの医療記事が目に留まりましたので、
復習がてら読んでみました。
備忘録としてメモを残しておきます。

<ポイント>
・典型例では診断は難しくないものの、中には皮膚症状を伴わない非典型的なケースもある。
・ショックを見たらアナフィラキシーの可能性を考えるべし。
・アナフィラキシーによって呼吸停止、心停止に陥る場合、掛かる時間は
 ✓ 薬剤で5分
 ✓ ハチ毒で15分
 ✓ 食物で30分
・アナフィラキシー診療のポイントは、急性の『皮膚症状』『呼吸器症状』『循環器症状』『消化器症状』のいずれかを認めたら、アナフィラキシーを想起し、他の症状がないかをパッと確認すること。
・皮膚症状の頻度は高いものの全例で認められるわけではないため、皮膚症状を伴わないからといってアナフィラキシーを除外してはいけない、消化器症状からもアナフィラキシーを疑う視点を忘れない。
・アナフィラキシーは他のショックとは異なり、アドレナリンの早期投与が極めて重要。

ショックというと「血圧低下・意識消失」というイメージがありますが、
アナフィラキシー・ショックではアレルギー症状を伴うところが異なります。
逆にアレルギーというとじんましんなどの皮膚症状がイメージされますが、
重症アレルギー反応でも腹部症状が前面に出ることもあり、
必ず皮膚症状があるとは限らないところが悩ましい。
アレルギーには原因がありますから、それを突き止める作業も必要となりますね。


▢ その1〜ショック、急性発症の消化器症状で考えるべき病態は?
坂本壮(国保旭中央病院 救急救命科医長)
2024/04/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 アナフィラキシーは医療機関だけでなく、学校やワクチン接種会場などでも遭遇するコモンな反応です。典型例では診断は難しくないものの、中には皮膚症状を伴わないケースもあります。しかし、見逃して対応が遅れれば命に関わりかねません。また、アドレナリンの投与経路や投与部位、投与量などが不適切なために望ましい効果が得られないケースもあります。・・・

Case
 44歳男性。建築現場で現場監督を行っていた。昼すぎ、仮設トイレで排便中に気分が悪くなり、同僚に助けを求め、救急要請となった。
 救急隊到着時、本人は腹痛、嘔気を訴えていた。バイタルサインなどは以下の通り。
バイタルサイン:意識清明、血圧78/34mmHg、脈拍数110回/分、呼吸数22回/分、SpO2 96%(室内気)、体温36.1℃
既往歴:特記事項なし
服薬歴:定期服薬なし
アレルギー歴:特記事項なし

・・・ショックの原因として最も頻度が高いのは、敗血症に代表される血液分布異常性ショックです。次いで、出血などに伴う循環血液量減少性ショック、心原性ショック、閉塞性ショックと続きます。血圧が低いなどのショック徴候が認められる患者の初期対応としては、基本的には上述の通りで問題ありません。しかし1つ、意識しておくべき事項があります。それが、今回のテーマである「アナフィラキシー」の可能性を早期に考えるということです。

▶ Gem of Advice
ショックを診たら、アナフィラキシーの可能性を1度は考えよう。

▶ アナフィラキシーの実態
 「ワクチン接種後にかゆみを伴う皮疹と呼吸困難を認める」「蜂に刺された後から痛みに加え、皮疹、気が遠くなる感じが出現」……このような症例であれば、誰もがアナフィラキシーを想起しますよね。しかし、アナフィラキシーで必ずしも皮膚症状が見られるわけではありません。また、アナフィラキシーに対する唯一の治療薬はアドレナリンですが、投与経路や投与部位、投与量などが不適切であるがゆえに望ましい効果が得られていないケースもあります。
 アナフィラキシーによって呼吸停止、心停止に陥る場合、掛かる時間は薬剤で5分、ハチ毒で15分、食物で30分とされています1)。早期にアナフィラキシーを認識し、適切な初期対応を行わなければ致死的となる可能性があります。・・・

▶ アナフィラキシーの症状と診断基準
・・・

表1 アナフィラキシーの症状(文献2を基に筆者和訳)


表2 アナフィラキシーの診断基準(文献3を基に筆者作表)

 アナフィラキシー診療のポイントは、
「急性の『1)皮膚症状』『2)呼吸器症状』『3)循環器症状』『4)消化器症状』
のいずれかを認めたら、アナフィラキシーを想起し、他の症状がないかをパッと確認する
ことだと感じています。
 表1の通り、皮膚症状の頻度は高いものの、全例で認められるわけではないため、皮膚症状を伴わないからといってアナフィラキシーを除外してはいけません。また、消化器症状からもアナフィラキシーを疑う視点を忘れないようにしましょう。

Gem of Advice
急性発症の消化器症状を診たら、アナフィラキシーの可能性を1度は考えよう。
(※急性発症の消化器症状では中毒も考える)

Caseの経過
 排便後にショック徴候を認めたとなると、血管病変や消化管穿孔などを考えるかもしれません。もちろんその可能性もあるでしょうが、前述の通り、急性経過の消化器症状ではアナフィラキシーの可能性を早期に1度は検討します。

 病歴を確認すると、仕事で腰を痛めたため、近くのコンビニエンスストアでロキソプロフェン(商品名ロキソニン他)を購入し、コンビニ弁当を食べた後に内服したそうです。その後、腹部の違和感、嘔気を自覚し、トイレに行ったという経過でした。

 アナフィラキシーを疑い、腹部を観察してみると、わずかではあるものの皮疹を確認。急性発症の消化器症状、皮疹に加え、血圧も低下していることからアナフィラキシーと判断し、アドレナリンを大腿外側部に筋注したところ、症状は速やかに回復しました。

 ショックの初期対応としては、細胞外液投与など、他にも考慮すべき処置は多々ありますが、アナフィラキシーは他のショックとは異なり、アドレナリンの早期投与が極めて重要です。ショックを診たら、「アナフィラキシーを鑑別に挙げる」ことはぜひ意識しておいてください。

まとめ
 アナフィラキシーは致死的な反応ですが、初期対応がきちんとなされれば、予後は決して悪くありません。アドレナリン投与の遅れは転帰不良と直接的に関連するため、まずは「アナフィラキシーかもしれない?!」と早期に疑い、“アナフィラキシーらしさ”を評価することが重要です。意識して観察すると、淡い紅斑や服の下の皮疹に気付いたり、強制呼気で喘鳴を聴取したりすることもあるでしょう。疑わなければ探しにいきませんからね。

<参考文献>
1)Pumphrey RS. Clin Exp Allergy. 2000;30:1144-50.
2)Joint Task Force on Practice Parameters,et al. J Allergy Clin Immunol. 2005;115:S483-523.
3)日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」

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