小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

モンテルカスト(キプレス®、シングレア®)はかぜ薬ではありません。

2025年02月28日 06時17分56秒 | くすり
近年、かぜ薬として抗アレルギー薬が処方されている例が目立ちます。
特に耳鼻科開業医に多いようです。

従来頻用していた鼻水止めが「2歳未満には熱性けいれんのリスクがあるので注意して使用すべし」という情報が流れたため、それを回避た結果でしょうか。

でもザイザルシロップはアレルギー性鼻炎の鼻水には効いても、
風邪の鼻水には手応えがないと患者さんが訴えて当科を受診します。

そのザイザルシロップでさえ、添付文書の注意事項には、
「てんかん等の痙攣性疾患又はこれらの既往歴のある患者には注意」
「痙攣を発現するおそれがある。」
とあります。
これを読んだ小児科医は、熱性けいれんを起こしたことのある患者さんには処方したくないですよね。
でも実際は処方されており、私はそのような医師に?と投げかけたくなります。

それから、「抗ロイコトリエン薬」も風邪患者さんによく処方されています。
プランルカスト(オノン®)やモンテルカスト(キプレス®、シングレア®)など。
これは鼻閉対策として処方されているようです。

しかし抗ロイコトリエン薬は「アレルギー性鼻炎の鼻閉」の薬であって、
風邪の鼻づまりには手応えがありません。
さらにモンテルカスト顆粒の適応病名は「気管支喘息」のみであって、
アレルギー性鼻炎には適応はありません(錠剤はあります)。

抗アレルギー薬は「アレルギー性鼻炎」という診断をつけないと処方できません。
つまり、風邪を引いて開業医院を受診したあなたのお子さんは、
保険診療上「アレルギー性鼻炎」と病名がついていることになり、
日本全国でアレルギー性鼻炎の小児が大量に発生するという不思議な現象が起きているはず。

「風邪にアレルギーの薬を処方していいの?」
「チェックするシステムはないの?」
と聞きたくなりますよね。

日本の保険診療チェックシステムはありますが、
チェックするのは「処方と病名が一致しているかどうか」のみ。
つまり、実際の患者さんが風邪であっても、アレルギー性鼻炎と診断名をつければ、
それが真実でなくてもすり抜けてしまうのです。

また、抗ロイコトリエン薬は「1歳未満の治験データがなく安全性は確保されていません」と添付文書に記載されています。
私はこの薬が発売された時を覚えていますが、
製薬会社は「適応年齢は1歳以上です」と連呼していました。

ただし、1歳未満に処方してはいけない、というほど強力なルールではなく、
「患者さんに上記を説明して同意を得れば処方可能」レベルです。
しかし、そのことを説明された患者さんの話を聞いたことがありません。

ネットで薬の情報も容易に手に入る時代になりました。
患者さん側も知識を持って、
「自分の子どもに処方されている薬は安全なのか?」
をチェックするスタンスが必要だと思います。

モンテルカストの副作用を取りあげた記事を紹介します。

<ポイント>
・以前からロイコトリエン受容体拮抗薬の有害事象として精神神経疾患が起こり得ることが報告されている。米食品医薬品局(FDA)は念のためアレルギー性鼻炎に対するモンテルカストの使用を減らすよう勧告している。
・今回、気管支喘息やアレルギー性鼻炎でロイコトリエン受容体拮抗薬のモンテルカストを使い始めた患者を対象に、有害事象である精神神経疾患の1年後までの発症率を検討し、モンテルカスト以外の薬を使い始めた患者に比べ、不安障害や不眠症のリスクが高かったことが判明した。


▢ モンテルカストは不眠や不安のリスクを高める喘息やアレルギー性鼻炎で処方された患者のコホート研究
大西 淳子=医学ジャーナリスト
2022/06/2:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 英国Oxford大学Warneford病院のTapio Paljarvi氏らは、気管支喘息やアレルギー性鼻炎で ロイコトリエン受容体拮抗薬のモンテルカストを使い始めた患者を対象に、有害事象である精神神経疾患の1年後までの発症率を検討し、傾向スコアをマッチさせたモンテルカスト以外の薬を使い始めた患者に比べ、不安障害や不眠症のリスクが高かったと報告した。結果は2022年5月24日のJAMA Network Open誌電子版に掲載された。
 ロイコトリエン受容体拮抗薬の有害事象として精神神経疾患が起こり得ることは、観察研究から報告されていたが、交絡因子の影響を調整できていないなど方法論的に問題があり、研究によって結果も異なるため、結論が出ていなかった。しかし、米食品医薬品局(FDA)は念のためアレルギー性鼻炎に対するモンテルカストの使用を減らすよう勧告している(モンテルカストの副作用にFDAが再警告)。
 市販後の安全性に関する調査では、重症の精神神経疾患の発生が見られており、投与中止後の投与再開により、いったん消失した有害な症状が再発したという報告もあった。また、小児と思春期の患者に投与した場合の安全性に関するデータは多くあるのに対して、成人患者に関する有害事象のデータは少なかった。
 こうした状況を受けて著者らは、喘息患者とアレルギー性鼻炎の患者を対象として、モンテルカストの新規処方から1年間の精神神経疾患の発生率を比較することにした。これまでに行われた観察研究では不十分だったベースラインの交絡因子の調整を行うために、傾向スコアをマッチングさせたコホート研究を計画した。
・・・
 喘息またはアレルギー性鼻炎の患者群ではに、モンテルカストが新たに処方された日をindex dateとし、喘息患者の対照群では吸入ステロイドや吸入気管支拡張薬が新たに処方された日、アレルギー性鼻炎患者の対照群では抗ヒスタミン薬(セチリジン、フェキソフェナジン、ロラタジン)を処方された日をindex dateとした。各群のindex dateから12カ月後までの精神神経疾患の診断の有無を調べた。
・・・
 主要評価項目は、12カ月間の精神神経疾患の診断に設定し、精神病性障害、気分障害、不安/解離性/ストレス関連/身体表現性/その他の非精神病性障害、成人の人格障害と行動障害、睡眠障害、非致死的自傷について評価し、さらにより特異的な診断として、躁病エピソードまたは双極性障害、大うつ病、恐怖症性不安障害、全般性不安障害、その他の不安障害、強迫性障害、不眠症と断眠、過眠症、概日リズム睡眠障害、睡眠時異常行動(夢遊症、夜驚症、悪夢障害)、睡眠時随伴症とむずむず脚症候群、その他のまたは分類不能な睡眠障害についても調べた。
 傾向スコアがマッチする15万4946人の患者を分析対象とした。モンテルカストを処方されていた患者は7万7473人で、7万2490人が喘息患者の対照群(新規処方時の平均年齢は35歳、女性が61.7%)で、8万2456人がアレルギー性鼻炎患者の対照群(40歳、65.7%)だった。それらの人々を最長12カ月間追跡した。
 モンテルカスト使用者の、あらゆる精神神経疾患のオッズ比は、喘息患者が1.11(95%信頼区間1.04-1.19)、アレルギー性鼻炎患者では1.07(1.01-1.14)だった。最もオッズ比が高かった疾患は、喘息患者では不安障害のオッズ比1.21(1.05-1.20)で、アレルギー性鼻炎患者では不眠の1.15(1.05-1.27)だった。
 モンテルカストの使用は、あらゆる睡眠障害(オッズ比は喘息患者が1.13:1.02-1.25、アレルギー性鼻炎患者が1.10:1.01-1.20)のリスク増加に関係しており、睡眠障害の中では、不眠症(喘息1.13:1.01-1.27とアレルギー性鼻炎1.15:1.05-1.27)のリスク増加が有意だった。また、あらゆる不安関連障害(喘息1.21:1.05-1.20、アレルギー性鼻炎1.12:1.05-1.19)のリスク増加も認められ、追跡期間中に抗うつ薬の処方を受ける可能性(喘息1.16:1.07-1.14、アレルギー性鼻炎1.17:1.05-1.30)も有意に高かった。
 これらの結果から著者らは、喘息またはアレルギー性鼻炎の患者は、モンテルカスト使用開始後12カ月間に精神神経疾患と診断されるリスクが高かったと結論している。絶対リスクは小さいものの、モンテルカストを処方されている患者は非常に多いことから、医師はモンテルカスト使用中の患者の精神的な健康状態に注意し、特に既往歴がある患者は慎重にモニターすべきだと述べている。
 原題は「Analysis of Neuropsychiatric Diagnoses After Montelukast Initiation」、概要はJAMA Network Open誌のウェブサイトで閲覧できる。

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進化し続けているコロナウイルス2025

2025年02月27日 06時14分16秒 | 糖質制限
最近コロナウイルスが話題にならなくなりました。
2024年末にはA型インフルエンザが猛威を振るいましたが、
年が明けてから収束に向かい、2月末現在、チラホラいる程度です。

でも、コロナもチラホラいます。
インフルエンザは“流行”というメリハリがありましたが、
コロナはダラダラ続いている印象です。

今月、知人がコロナに罹りました。
2回目だそうで、重症化こそしていませんが、
1回目より症状が長引いてなかなか体調が戻らない、
とこぼしていました。

ところで、最近の流行株はどうなっているのでしょう?
と疑問を持ったところに、東大医科研から情報がありましたので紹介します。

「XEC株による感染拡大が主流&LP.8.1株が急速拡大中」とのこと。
どちらも初めて耳にする株の名前ですね。
両方ともJN.1株の子孫だそうです。

 JN.1 →  →  →  →   XEC
    → KP.3.1.1 → LP.8.1

そしてLP.8.1株の特徴は、
「LP.8.1がJN.1よりも感染力は低いが、より高い免疫逃避能を獲得し、現在主流のXECよりも高い伝播力(実効再生産数)を有する」
「LP.8.1は今後全世界に拡大し、主流株として台頭する恐れがある」
とのこと。
注視していく必要がありそうです。


▢ 拡大中のコロナ変異株LP.8.1のウイルス学的特性/東大医科研
2025/02/27:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
   2025年2月現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のJN.1の子孫株であるXEC株による感染拡大が主流となっており、さらに同じくJN.1系統のKP.3.1.1株の子孫株であるLP.8.1株が急速に流行を拡大している。東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan(The Genotype to Phenotype Japan)」は、LP.8.1の流行動態や免疫抵抗性等のウイルス学的特性について調査結果を発表した。LP.8.1は世界各地で流行拡大しつつあり、2025年2月5日に世界保健機関(WHO)により「監視下の変異株(VUM:currently circulating variants under monitoring)」に分類された1)。本結果はThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2025年2月10日号に掲載された。
 本研究ではオミクロンLP.8.1の流行拡大リスクおよびウイルス学的特性を明らかにするため、まずウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内におけるオミクロンLP.8.1の実効再生産数を推定し、次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価した。また、日本人の血清を用いて、オミクロン系統の流行株(JN.1とKP.3.3)の既感染もしくはブレイクスルー感染およびJN.1対応1価ワクチン接種により誘導された中和抗体が、LP.8.1に対して感染中和活性を示すか検証した。
 主な結果は以下のとおり。

・米国ではLP.8.1の実効再生産数はXECより1.067倍高かったが、日本ではLP.8.1とXECの実効再生産数の差は比較的小さく、1.019倍にとどまった。
・疑似ウイルス感染アッセイの結果、LP.8.1の感染力はJN.1よりも有意に低く(67%減少)、XECとJN.1の感染力は類似していた。
・中和アッセイを以下の3種類のヒト血清を用いて実施した:JN.1感染後の回復者血清、KP.3.3感染後の回復者血清、JN.1対応ワクチン接種者の血清。すべての血清群において、KP.3.1.1、XEC、LP.8.1は、JN.1に対してよりも高い免疫逃避能を示した。しかし、KP.3.1.1、XEC、LP.8.1の間で中和回避能力に有意な差は認められなかった。

 本結果により、LP.8.1がJN.1よりも感染力は低いが、より高い免疫逃避能を獲得し、現在主流のXECよりも高い伝播力(実効再生産数)を有することが明らかとなった。著者らによると、一部の国でLP.8.1がXECより優位になっている理由は、各国の免疫背景、SARS-CoV-2感染歴、ワクチン接種状況に依存している可能性があるという。LP.8.1は今後全世界に拡大し、主流株として台頭する恐れがある

<原著論文>
・Chen L, et al. Lancet Infect Dis. 2025 Feb 10. [Epub ahead of print]
<参考文献・参考サイト>
・東京大学医科学研究所:SARS-CoV-2オミクロンLP.8.1株 のウイルス学的特性の解明
1)WHO:Tracking SARS-CoV-2 variants


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「コロナに罹っていないはず」の無症状の子どもの36%がコロナ抗体陽性。

2025年02月26日 06時15分38秒 | 新型コロナ
新型コロナが登場した当時、「子どもは罹りにくい」とされていました。
しかし遺伝子変異によりウイルス株が変化して一旦広がると、
集団生活の場で感染者が続出しました。

3年連続で生徒の血液中抗体を検査した結果、
「罹っていないと思う」生徒の36%
「罹ったかもしれないが未検査で診断されていない」生徒の84%
ーーが抗体陽性であったという報告が入ってきました。

小児の感染者数、これまで考えられてきた数字より多いようですね。

そして、
・みんなで遊ぶことを好む
・低学年児
という要因が感染リスクにつながることも判明したとのこと。
まあ、カラダをすりあわせて遊ぶ乳幼児世代に感染症が流行りやすいことの証明でもありますね。


▢ 小児COVID-19「感染に気付かない」が多い傾向-千葉大
2025年02月19日:QLifePro) より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 実際にどれくらいの子が感染?どんな子が感染しやすい?
 千葉大学は2月6日、同大教育学部附属小学校の子どもたちとその卒業生から提供された血液を用いて、2020年度から2022年度の3回にわたる新型コロナウイルスの感染状況調査結果を発表した。・・・
 2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症は、世界中で拡大し、2024年2月に世界保健機関が発表した感染者数は累計約7億7,000人を超えた。当初、子どもは新型コロナウイルスに感染しにくいと考えられていたが、その後の調査により、子どももウイルスに感染はするが、無症状や軽症で済む場合が多いことがわかってきた。国や県では、検査を行った医療機関の報告に基づいて感染者数を把握している。しかし、症状があまり見られないなど、検査を受けていない感染者を把握することはできない。そのため、実際にどれくらいの子どもが新型コロナウイルスに感染しているのか、どんな子どもが感染しやすいのかについての十分なデータがなかった。

▶ 2020~2022年度、小中学生355人へ抗体検査+保護者へ行動調査
 今回の研究は、2020年12月の調査に参加した同大教育学部附属小学校の子ども355人を対象に実施(1年目調査:1年生51人、2年生64人、3年生69人、4年生68人、5年生49人、6年生54人)。2020年度、2021年度、2022年度の冬に抗体検査を行い、新型コロナウイルスに感染したことがある子どもの数を調べた。また、それぞれの子どもについて身長体重などの身体測定に加え、新型コロナウイルス感染症にかかったかどうか、他の子どもと遊ぶ傾向が強いか、兄弟の有無などについて、保護者へ質問票調査を行った

▶ 抗体検査「陽性」2022年は60.9%
 調査に参加した子どもの保護者の報告によると、2022年1月から新型コロナウイルス感染者が急激に増え、その動向は日本全国や千葉県での報告数の動向とほぼ一致していた。抗体検査で陽性の(一定量以上の抗体を持っている)子どもの割合は、
 1年目0.6%
 2年目2.2%
 3年目は60.9%
ーーで、半数以上の子どもたちが2022年に感染していたことがわかった。

▶ 2022年「かかっていないと思う」子36%が抗体検査陽性
 子どもが新型コロナウイルスにかかったかどうかを保護者に尋ね、抗体検査の結果と比較した。2022年の質問票調査において、「かかっていないと思う」という子どものうち36%が抗体検査陽性であった。また、「調べていないが、かかったかもしれないと思う症状があった」という子どもは83%が陽性であった。この結果から、新型コロナウイルスに感染しても、症状がないか、検査を受けていないために感染に気づかなかった子どもが多くいたことがわかった。

▶ 感染と関係する要因、他の子と遊ぶことを好む/学年が低い
 3年目の抗体検査で陽性となった子どもの中で、2年目の抗体検査が陰性だった者を対象として、3年目に陽性となったこと(2022年に感染したこと)にどのような要因が関連しているのかを調べた。いくつかの考えられる要因について調べた結果、感染した子どもたちには次の2つの傾向が高いことがわかった。
・1つ目は、一人でいるよりも他の子どもと遊ぶことを好むこと。他の子どもたちとの接触を通して感染した場合が多いと考えられる。
・2つ目は学年が低いこと。この時期までにワクチンを接種した子どもが少ないことや他者との距離が近くなりやすいことが関係していると考えられる。

▶ 今後、ワクチン接種・子の生活習慣など感染症対策の研究を
 2022年は、感染力が高いオミクロン株が流行したことに加え、熱中症予防のためのマスク着用の緩和、学校内外での活動が再開されるようになった。これらの状況と、無症状や軽症で感染に気づかない子どもたちが多いことから、急速に感染が広まったと考えられる。今後も新型コロナウイルス感染症だけでなくさまざまな感染症が流行し、基本的な感染対策が重要であることは言うまでもない。一方、子どもたちは、他の人達との交流を通して成長していくため、感染しやすいからといって、遊びや交流の機会を妨げることは望ましくない。ウイルス感染が起こりにくい屋外での遊びを推奨するなどの取り組みによる感染対策が望まれる。
 今回の研究により、
・2022年に子どもたちの中で新型コロナウイルス感染症が急速に広がったこと、
・感染に気づいていない場合が多かったこと、
・他の子どもたちとの遊びなどを通して感染が広がっている可能性があること、
ーーがわかった。
 これらは、子どもたちの中での感染の実態を示す重要な成果だとしている。同研究では、子どもたちの生活の様子を詳しく調査していないため、具体的にどのような生活が感染対策に結びつくかを明らかにすることはできていない。「今後は、ワクチン接種および子どもの生活習慣を含めた感染症対策について、さらなる研究が求められる」と、研究グループは述べている。

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コンゴの“新感染症”は重症マラリアではなかった?

2025年02月26日 05時44分40秒 | 感染症
昨年(2024年)末、コンゴでエボラ陰性の重症感染症で死亡者が相次ぎ、調査の結果“重症のマラリアだった”と報道されました。

▢ 謎の病気は重度のマラリア コンゴ、保健当局が発表
 【ナイロビ共同】アフリカのコンゴ(旧ザイール)南西部で広がったインフルエンザに似た原因不明の病気について、コンゴ保健当局は17日、調査の結果、重度のマラリアと判明したと発表した。ロイター通信が報じた。世界保健機関(WHO)から提供された抗マラリア薬を配布し、拡大抑止を急いでいる。
 WHOなどによると、高熱やせきを特徴とする病気が広がったクワンゴ州パンジ一帯はマラリアの流行地域。約600人の患者が発生し、9日時点で疑い例を含む70人以上の死亡が確認された。地元保健当局は、住民の栄養状態が悪く、呼吸器疾患を伴う重度のマラリアに対して脆弱になっていたと分析した。

そして2025年になった今、再度「原因不明の感染症で死亡者が相次ぐ」というニュースが入ってきました。
重症マラリアでは説明つかない病態なのでしょうか?

▢ 原因不明の病気で53人死亡 コンゴ北西部、WHO調査
2025/2/25:共同通信
 【ヨハネスブルク共同】コンゴ(旧ザイール)北西部で1月から高熱や出血を伴う原因不明の病気が広がり、24日までに53人が死亡した。AP通信が報じた。地元保健当局によると、患者から採取した検体は高致死率で知られるエボラ出血熱について陰性だったといい、世界保健機関(WHO)が原因を調べている。
 APによると、1月下旬に北西部の町ボロコでコウモリを食べた子ども3人が出血熱の症状を示して死亡。これまでに419人の患者が確認され、死者の多くは症状が現れてから48時間以内に亡くなったという。

・・・今回もコウモリが関与しているようです。エンドレスですね。

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またも“新型”コロナウイルス?

2025年02月25日 08時35分08秒 | 新型コロナ
いつしか“新型コロナ”ウイルスから“新型”が消えて「コロナ」と呼ぶようになりました。
そして今回、新たなコロナウイルスの報告が入ってきました。

情報源は旧“新型コロナ”の発源地「武漢」の研究所。
今でも旧“新型コロナ”ウイルスはここから流出したのではないかと疑われている、その研究所です。

情報を隠蔽すると後で責められるため、先手を打ったような印象を受けますね。

▢ 中国・武漢で新種のコウモリコロナウイルス衝撃…「ヒトに感染可能」
2025/2/23:中央日報)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 中国の研究陣がヒトに感染する可能性がある新たなコウモリコロナウイルスを発見したと明らかにした。 
 香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは21日、中国科学院武漢ウイルス研究所の研究員が18日に生命分野の学術誌「セル」に掲載した論文を通じて新たなコロナウイルス(HKU5-CoV-2)を発見したと伝えた。 このウイルスは新型コロナウイルスを誘発するウイルス(Sars-CoV-2)と同じくヒト受容体を通じて浸透でき、動物から人に感染する危険がある。 2012年から昨年5月まで世界で約2600人の患者が確認され、このうち36%が死亡した中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こすコロナウイルス群とも密接な関連がある。 
 研究陣はただ、新型コロナウイルスのようにヒトの細胞には簡単に浸透できないと説明した。 研究陣は「ヒトから検出されたものでなく実験室で確認されただけ。ヒトの集団で出現するリスクが誇張されてはならない」と指摘した。 
 研究陣が属する武漢ウイルス研究所は新型コロナウイルス起源説でもよく知られたところだ。コロナ禍を生んだウイルスがこの研究所の実験室から流出したというものだ。 研究を主導した石正麗博士は中国で「バットウーマン」と呼ばれるほどのコウモリウイルスの権威だ。 ・・・

・・・今のところ、ヒト-ヒト感染して拡大するような性質はなさそうですね。今後も中止していきたいと思います。
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食物アレルギーの最前線2025(by 伊藤浩明Dr.)

2025年02月25日 07時49分21秒 | 食物アレルギー
食物アレルギーの分野は日進月歩の勢いがあり、
アレルギー専門医といえどもアップデートを欠かせません。

2025.2.24に伊藤浩明Dr.の市民公開講座を視聴しました。
伊藤先生は小児食物アレルギーのリーダー&ご意見番の1人です。
今までに何回も講演を聴いたことがありますが、いつも新しい発見があります。
今回も講演メモを備忘録として残しておきます。

話題は、
・ナッツアレルギーが増えて、とくにクルミが激増
・全身症状を示す果物アレルギーのGRP
・FPIES
・乳児食物アレルギー発症の最重要因子は“本人の湿疹”
・各種アレルゲン粉末・風リーズドライ食品を利用した食物アレルギーへの介入
等々。

▢ IgE抗体が関与する食物アレルギーには4タイプ
1.食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎
・原因食物(鶏卵・牛乳・小麦など)を食べると湿疹が悪化する。
2.即時型症状
・原因食物を食べるとアレルギー症状(じんましん、咳、腹痛、アナフィラキシー)が出る。
3.口腔アレルギー症候群(OAS、oral allergy syndrome)
・果物や豆乳を摂取すると口の中がかゆくなる。
・花粉症が原因で発症する食物アレルギーという病態から花粉・食物アレルギー症候群(PFAS,  pollen-food allergy syndrome)と呼ばれることもあるが、ほぼ同義。
4.食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA,  food-dependent exercise-induced anaphylaxis)
・原因食物(小麦や甲殻類など)を食べた後に運動 → じんましん、呼吸困難、アナフィラキシーが出現。
・食べただけでは症状が出ない、運動しただけでは症状は出ない。

▢ エピペン®が必要な症状
 → 下記の症状の一つでも当てはまったら使用&救急車を要請すべし。
1.消化器症状:嘔吐反復、ガマンできない腹痛
2.呼吸器症状:喉・胸がしめつけられる、息がしにくい、声がかすれる、犬が吠えるような咳/持続する強い咳込み、ゼーゼーする呼吸
3.全身の症状:唇や爪が青白い、尿や便を漏らす、意識朦朧、ぐったり、脈が触れにくい/不規則、
★ 皮膚症状は参考にしないところがポイント!

▢ 即時型アレルギーで病院を受診した原因食物(2024年)
 → 木の実(とくにクルミ)が増えてきた。
①鶏卵:26.7%、②木の実類(クルミ:15.2%):24.6%、③牛乳:13.4%、④小麦:8.1%、⑤落花生:7.0%

▢ 増えてきた木の実アレルギーの特徴
・症状が激しいことが多い、少量でもアナフィラキシーを起こす(とくにカシューナッツ)。
・幼児期(2-3歳)ではじめて食べたときにアナフィラキシーを起こすことがある。
・クルミに反応するヒトはペカンナッツ(ピーカンナッツ)にも反応しやすい(交差反応)。
・カシューナッツに反応するヒトはピスタチオにも反応しやすい(交差反応)。
・ピスタチオはスイーツ系に入っていることが増えてきた。
・マカダミアナッツ・アレルギーも増えてきた。
・アーモンドは強い症状が出ることは少ない。

▢ 果物アレルギーが増えてきた、タイプを見分けるべし
 → PFASの病態を取ることがほとんどだがアレルゲン・コンポーネントにより症状の強さが異なることに注意
1.口の中の症状のみ:口腔アレルギー症候群
・シラカンバ・ハンノキ(PR-10) → リンゴ、モモ、サクランボ
・カモガヤ・ハルガヤ(プロフィリン) → トマト、スイカ、メロン、オレンジ
2.全身症状
・ヒノキ・スギ(GRP) → モモ、リンゴ、オレンジ
★ モモのアレルゲン・コンポーネントにはPR-10とGRPがあるが、反応するコンポーネントにより症状の強さが異なる。GRPに反応するヒトは加熱加工品でも強い全身症状が出る(最近増えてきている)。

▢ 他の珍しい野菜類アレルギー
・稀ではあるが、ネギ・タマネギ、ジャガイモ、カボチャ、エノキダケなどのアレルギーも存在する。
・ペクチン(ジャムで使用される半固形の増粘多糖類)アレルギーも存在し、カシューナッツと交差反応することが多い。

▢ 消化管アレルギー(新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症)
・原因食物;
 ✓ ミルク:新生児・乳児期早期(※)
 ✓ 卵黄(固形):離乳食期
・病型;
1.FPIAP(food protein-induced allergic protocolitis)血便のみ・・・軽症で早めに改善
2.FPE(food protein-induced enteropathy)持続する消化吸収不良(体重増加不良±嘔吐)・・・頻度は稀
3.FPIES(food protein-induced enterocolitis syndrome)嘔吐(±下痢、血便)・・・最も多い
・検査;特異的IgE抗体陰性、末梢血好酸球増多、ALST(アレルゲンリンパ球刺激試験)陽性
・治療;原因食物除去 → 多くは3歳までに寛解
※ 血便が出た乳児に対して除去解除する際に(1歳前後)、一度ミルク特異的IgE抗体をチェックすべし、約2割ほど陽性者が出る印象、それでも負荷試験で即時型反応が出ないことがあるが・・・(伊藤Dr.)

▢ 食物アレルギー発症の予測スコア
・リスク因子を点数化(合計20点)
 8点:本人の湿疹
 4点:兄姉の食物アレルギー
 3点:母の食物アレルギー
 2点:8-12月生まれ(秋冬生まれの赤ちゃんはアレルギーが多い)
 1点:第1子、父アトピー性皮膚炎、母アトピー性皮膚炎
・14点以上で発症率30%以上(乳幼児健診受診者の3%)

▢ 妊娠中のアレルゲン制限はマイナスに働く
・母乳中に鶏卵が検出された母親の子どもは鶏卵アレルギーが少ない。

▢ 生後すぐにスキンケアを始めるとアトピー性皮膚炎を予防できる
・湿疹/アトピー性皮膚炎の発症は1/3減少した → アトピー性皮膚炎発症は予防できる。
・鶏卵への感作は減らせなかった → 食物アレルギー発症は予防できない。

▢ 乳児アトピー性皮膚炎を早期に積極的に治療して食物アレルギーを予防
・卵アレルギーが減少した(41.9% → 31.4%)が圧倒的に有効というほどではない(PACI study)。

▢ アレルゲン食物早期摂取によるアレルギー発症予防は可能
・ピーナッツアレルギー減少:17.2% → 3.2%(5歳時)(LEAP study:アトピー性皮膚炎または卵アレルギー患者に生後4-10ヶ月よりピーナッツ蛋白6g/週以上)
・鶏卵アレルギー減少(12ヶ月時)40%弱 → 10%弱(PETIT study:アトピー性皮膚炎に生後6ヶ月から微量、生後10ヶ月から増量)
・牛乳アレルギー減少(6ヶ月時)約7% → 約1%(SPADE study:普通児に生後1-2ヶ月間ミルク10ml/日以上)

▢ 食物アレルギーの診断NOW
・誘発症状の確認+特異的IgE抗体の証明で診断する
・引き続き重症度診断と指導
 ✓ 安全摂取可能量を決定 ・・・少量でも食べられる量を続けることで早く治る
 ✓ 除去解除に向けた食事指導(経口免疫療法)

▢ (医療機関用)粉末・フリーズドライ食品を利用した負荷試験・経口免疫療法のメリット
1.医師にとって
・プロトコールの標準化が可能
・誤差の少ない微量摂取
・細かい指導の手間を削減する
・医師の責任の下で摂取する
2.養育者にとって
・調理・計量の手間を省略できる
・マスキングが容易
・自分が食べさせたもので、という自責の念が減る
3.患児にとって
・「食べ物」に対する負の感情を抱きにくい
・「食べること」を強要されない

▢ 粉末・フリーズドライ食品例:微量のアレルゲンをマスキングながら除去解除が可能
(株)たまこな:たまこな25、たまこな250、たまこな750
(株)fufumuPaquPa® ・・・ 加熱卵黄・卵白 0.5g/個
             ピーナッツ・ナッツ 0.2g/個
             えび・かに 0.5g/個
(株)ビー・ケースチャイルカップたまご 2.5mg加熱全卵タンパク
         ミルステップegg 1・2・3 

▢ 重症食物アレルギーの到達目標は完全寛解でなくても・・・
・ゼロとイチでは大違い:
 ✓ コンタミネーションを気にしなくてよい。
 ✓ 表示に書かれていなければ食べてよいと判断できる。
・1/4量(卵1/4個、牛乳50ml、パン1/4枚)食べられたら人生困らない
 ✓ 見た目で「食べたい」と思うものは何でも食べられる

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アナフィラキシーその4:全例入院が必要?

2025年02月24日 13時07分50秒 | アナフィラキシー
アナフィラキシーシリーズその4(最終回)は「入院適応」です。
昔から「重症のアナフィラキシーは症状が二相性に出ることがあり帰してはいけない」
とされ、様子観察目的で一泊入院が普通でした。

さて、記事ではどのように話が展開するのでしょう。
意外な視点がありました。

<ポイント>
・1泊の経過観察目的入院が妥当だが、必ずしも患者が入院を受け入れてくれるとは限らない。
・初期対応が十分に行われた例は、諸般の条件(病院へのアクセス、連絡可能かどうか、等)が整えば帰宅させる選択も間違いではない。
・「二相性反応」とはアナフィラキシー症状の消失後、抗原に再曝露しない状態で、48時間以内に症状が再発すること(最大で72時間とする報告もある)。頻度は、以前は20%程度といわれていたが、前向きの研究では1~7%程度とされている。
・二相性反応が起こりやすい時間は10時間前後が一般的。基本的に一相目を超える反応は認めない。アドレナリン投与が必要なケースもあるもののその頻度はまれで、死亡率は高くない。
・「アドレナリンが初療で投与されていなかった」「抗ヒスタミン薬やステロイドの投与を優先し、アドレナリン投与までに時間が掛かってしまった」といった例では二相性反応が起こりやすい。発症から30分以内にアドレナリンを投与することが1つの目安。
・二相性反応の出現率は重症度の他に「発症時に適切な医学的介入ができたかどうか」により左右される。
・ステロイド薬投与は必須ではない。ステロイドが二相性反応を予防するというエビデンスは乏しく、ルーチンには推奨されない。アドレナリンを繰り返し投与する必要がある症例や、二相性反応のリスクが高い場合には投与を検討してもよいが、アドレナリンよりも優先すべきものではない。

・・・初期治療が重要で、その後の経過に影響するのですね。
でも「30分以内のアドレナリン投与」は造影剤によるショックなど病院内の出来事なら可能かもしれませんが、ハチに刺されたとか、食物アレルギーにより誘発された例とかは、エピペン以外は困難です。


▢ アナフィラキシーその4:アナフィラキシーは全例入院が必要か
坂本壮(国保旭中央病院救急救命科医長)
2024/04/25:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
Case
 64歳女性。友人宅で食事を摂ったところ、頸部や腹部に蕁麻疹様の皮疹が出現。息苦しさも自覚したため、救急外来を受診した。
バイタルサイン:意識清明、血圧98/50mmHg、脈拍数112回/分、呼吸数24回/分、SpO2 96%(室内気)、体温36.6℃
既往歴:高血圧
服薬歴:アムロジピン
アレルギー歴:甲殻類

 皮膚症状に加え、息苦しさがあり、聴診上喘鳴も聴取したため、アナフィラキシーと判断し、大腿外側広筋にアドレナリン0.5mgを筋注した。その後、数十分後には自覚症状は消失。バイタルサインも普段通りへ改善した。
・・・
 本稿では、初期対応後の経過観察を取り上げます。冒頭の症例に遭遇した場合、アドレナリンを使用しているから経過観察のために入院が妥当なのでは? 二相性反応が起こる可能性があるからやはり入院が必要……? こう考える方が多いのではないでしょうか。
 結論からお伝えすると、1泊の経過観察目的入院が妥当ですが、必ずしも患者が入院を受け入れてくれるとは限りません。中には、仕事やペットの世話などを理由に帰宅を希望される人もいます。また、ベッドが埋まっていてどうしても入院できない──そんなことも少なくありません。「経過観察目的に転院」「救急外来で長時間の経過観察」なども選択肢になりますが、全例で必要かというと……。根拠を持って経過観察時間を設定するために、知識を身に付けておきましょう。

▶ 二相性反応の疫学
 二相性反応は、アナフィラキシー症状の消失後、抗原に再曝露しない状態で、48時間以内に症状が再発することとされます。頻度は、以前は20%程度といわれていましたが、前向きの研究では1~7%程度とされており、本邦の報告でも同様の数字となっています1、2)。アドレナリン投与が必要なケースもあるものの、その頻度はまれで、死亡率は高くありません。
 二相性反応が起こりやすい時間としては、最大で72時間とする報告もありますが、10時間前後が一般的です2、3)。そのため、アナフィラキシー症例では、1泊の経過観察目的入院が妥当とされます。しかし、そもそも二相性反応の頻度はそれほど高くない上に、基本的に一相目を超える反応は認めません。「一律に入院」ではなく、入院すべきかを患者ごとに判断することはできないのでしょうか?

▶ 二相性反応が起こりやすい患者って?
 では、どんな患者で二相性反応が起こりやすいのでしょうか? 「難治性の症例」「原因不明の症例」など、いくつかのリスク因子が報告されていますが、最も重要な因子は「発症時に適切に介入できたか否か」です4)。
 例えば、「アドレナリンが初療で投与されていなかった」「抗ヒスタミン薬やステロイドの投与を優先し、アドレナリン投与までに時間が掛かってしまった」といった症例では、二相性反応が起こりやすいことが分かっています。発症から30分以内にアドレナリンを投与することが1つの目安です。アナフィラキシーを早期に認識するとともに、速やかにアドレナリンを投与することが欠かせません5)。
 適切な初期対応を行うことが大前提ではありますが、中にはうまくいかないケースもあるでしょう。前述の通り、二相性反応が起こりやすいかは、重症度に加え、発症から介入までの時間が影響します。以下の2症例について考えてみましょう。

Ex. 1
 66歳女性。腹痛の精査のために造影CT検査を実施した。検査終了後から喉の違和感を訴え、その後意識消失した。収縮期血圧が70mmHg以下に低下、体幹部の皮疹に加え、喘鳴も認め、CT室から救急外来へ移動となった。

Ex. 2
 71歳男性。自宅の庭で蜂に刺され、患部を冷やし自宅で様子を見ていた。刺された部位の痛みは改善したが、全身にかゆみを伴う皮疹と、嘔気・嘔吐を認めたため、心配した家族とともに救急外来を受診した。意識は清明で、血圧も普段と変わらない。

 いずれもアドレナリンを大腿外側部に0.5mg筋注し、症状が改善したとすると、どちらの方が二相性反応が起こりやすいでしょうか? 
 Ex. 1は造影剤によるアナフィラキシーショックが考えられるのに対して、Ex. 2はショックに陥ってはいなさそうです。初動の迅速性に関しては、Ex. 1は、アナフィラキシーを速やかに把握し、的確に対応できている一方、Ex. 2は症状の出現後、ある程度時間が経過してから来院しています。重症度とアドレナリン投与までの時間の2軸で判断すると、Ex. 1とEx. 2どちらで二相性反応が生じる可能性が高いかは明言できないのが実情でしょう。
 ちなみに、ステロイドが二相性反応を予防するというエビデンスは乏しく、ルーチンには推奨されません6)。アドレナリンを繰り返し投与する必要がある症例や、二相性反応のリスクが高い場合には投与を検討してもよいですが、アドレナリンよりも優先すべきものではありません。「アナフィラキシー→アドレナリン+抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー&H2ブロッカー)+ステロイド」とセット展開するのではなく、まずはアドレナリンを投与した上で、使用する必要があるかをきちんと吟味しましょう。

Gem of Advice
初期対応が超重要! アドレナリンを適切に使用し、二相性反応を回避せよ!

▶ 実践的な経過観察時間は?
 アナフィラキシー症例における経過観察時間は、二相性反応の観点からいうと、前述の通り、一相目の発現後10時間程度で起こりやすいので入院が妥当です。しかし、二相性反応が生ずる割合は決して高くないため、重症度と症状出現からアドレナリン投与までの時間を考慮して対応する必要があります。また、高齢者、独居といった患者背景にも配慮しなければいけません。
 私は、初動で適切に介入することができたアナフィラキシー症例では、4〜6時間を目安に経過観察を行い、「家族や友人など経過を見ることができる人がいるか」「病院へのアクセスが困難ではないか」なども検討し、最終的に帰宅可能か否かを判断しています診療所でアナフィラキシーに遭遇した場合には、アドレナリン筋注や細胞外液投与を実施しつつ、転院の上、経過観察するのがよいでしょう。

Gem of Advice
重症度だけでなく、アドレナリン投与までの時間も考慮して経過観察時間を決定しよう!

Caseの経過
 皮膚症状に加え、循環、呼吸の異常を認めており、アナフィラキシーの典型症例といえます。来院後、比較的早期にアドレナリン0.5mgを筋注し、症状は改善しています。今回のように即座にアナフィラキシーを認識してアドレナリンを使用、その後速やかに症状が軽快している例では、二相性反応が起こる割合は数%程度でしょう。救急外来で4~6時間程度の経過観察を行い、帰宅の判断をすることとしました7)。

まとめ
 二相性反応が起こるか否かは正直分かりません。大切なのは、とにかく初療でアナフィラキシーを適切に認識し、アドレナリンを早期に投与することです。また、経過観察時間に明確な決まりはありませんが、根拠を持って帰宅の判断ができるようになる必要があります。重症度だけでなく、症状出現からアドレナリン投与までの時間、さらには患者の生活状況なども考慮して対応するようにしましょう。

<参考文献>
1)Zeke A,et al. Emerg Med Pract.2022;24:1-24.
2)Oya S,et al. J Emerg Med.2020;59:812-9.
3)Douglas DM,et al. J Allergy Clin Immunol.1994;93:977-85.
4)Shaker M,et al. JAMA Netw Open.2019;2:e1913951.
5)Liu X,et al. J Allergy Clin Immunol Pract.2020;8:1230-8.
6)Nagata S,et al. Int Arch Allergy Immunol.2022;183:939-45.
7)Kim TH,et al. Int Arch Allergy Immunol.2019;179:31-6.
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アナフィラキシーその3:小児のアナフィラキシー

2025年02月24日 12時44分38秒 | アナフィラキシー
アナフィラキシーシリーズ、第3回は「小児のアナフィラキシー」です。
私は小児科医ですので、一応の知識はあります。

小児で問題になるのは、
・乳幼児では自分から症状を訴えることが難しい。
・バイタルサインの正常範囲が成人と異なる。
・使用するアドレナリンの量は体重換算で変化する。
・血管が細く輸液路の確保が難しい。
ですね。

記事を読んで、他にもポイントがありました。

<ポイント>
・小児のアナフィラキシーの誘因は食物の頻度が高く、原因物質としては、欧米では落花生や木の実類、日本では鶏卵、乳製品、小麦、木の実類が多い。
・アナフィラキシーショックによる死亡原因で有名なのはハチ刺傷や医薬品ですが、実は小児ではこれらはあまり見られない。小児のアナフィラキシーは命に関わることはまれで、大半が軽症〜中等症なのが特徴。
・筋肉注射1回投与量として覚えておくべきは「0.01mg/kg(小児は最大0.3mg)」で、投与量計算のためには体重が重要。
・エピペンは、アドレナリン自己注射薬のことで、アナフィラキシーの症状があると判断された場合に、医療関係者だけでなく、処方された患者、家族、教職員、保育士、救急救命士なども使用することができる。

そもそも、アナフィラキシーの原因が成人と異なることを忘れていました。
開業小児科医では、食物アレルギーかワクチン接種後によるものがほとんどなので。
勉強になりました。


▢ アナフィラキシーその3小児のアナフィラキシー、成人と異なる3つのポイント
竹井寛和(兵庫県立こども病院救急科医長)
2024/04/24:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
Case
 6歳男児。2週間前に小学校に入学したばかり。給食を食べた後から気分不良を訴え、トイレに向かう途中に1度嘔吐。会話は可能だが、ぐったりした様子であることから、教師が救急要請した。救急隊到着時、本人は嘔気を訴えている。
バイタルサイン:意識晴明、血圧75/35mmHg、脈拍数138回/分、呼吸数30回/分、SpO2 95%(室内気)、体温36.4℃
既往歴:気管支喘息で入院歴あり
服薬歴:定期内服薬なし
アレルギー歴:卵アレルギーあり

 経過や症状からは、アナフィラキシーが疑われますね。診察する相手が子どもというだけで身構えてしまいそうですが、救急外来の初療で意識することは、基本的に成人と変わりません。一方で、小児ならではのポイントもあります。小児のアナフィラキシーについて、成人とどんな点が異なるのか、そしてそれを踏まえてどう対応すべきかを解説します。

▶ 成人との相違点(1):バイタルサインの基準値が異なる!
 アナフィラキシーに限った話ではありませんが、気道、呼吸、循環、意識……と評価していく中で、小児の診療に慣れていない場合、まず困るのが「小児のバイタルサインの基準値」でしょう。小児では生理学および解剖学的な理由から、年齢によって、バイタルサインの正常範囲が細かく分かれています。
 小児のバイタルサインの基準値を全て覚えておく必要はありませんが、米国心臓協会(AHA)のPALS(小児二次救命処置)プロバイダーマニュアル1)に示された収縮期血圧の下限(表1)や、カナダの救急患者緊急度判定支援システムCTAS(Canadian Emergency Department Triage and Acuity Scale)の心拍数、呼吸数の基準値(表2)などを参考にすることをお勧めします2)。
 「アナフィラキシーガイドライン2022」の診断基準では、乳幼児・小児の血圧低下の定義は「本人のベースライン値に比べて30%を超える収縮期血圧の低下が見られる場合」または「収縮期血圧が(70+[2×年齢(歳)])mmHg未満」と記載されています3)(関連記事その1)。


表1 小児の収縮期血圧の下限(文献1より)


表2 小児の心拍数、呼吸数の基準値(文献2を基に筆者作成)

▶ 成人との相違点(2):アナフィラキシーの原因が異なる!
 日本での実態調査によると、院内発症または救急外来を受診したアナフィラキシー患者767例中、18歳未満が70%以上を占めていました4)。小児のアナフィラキシーの誘因は食物の頻度が高く、原因物質としては、欧米では落花生や木の実類、日本では鶏卵、乳製品、小麦、木の実類が多いといわれています。小児では、成人以上に積極的にアナフィラキシーを鑑別に挙げること、誘因として特に食物に注目して情報収集する意識を持つことが重要です。
 アナフィラキシーショックによる死亡原因で有名なのはハチ刺傷や医薬品ですが、実は小児ではこれらはあまり見られません。小児のアナフィラキシーは命に関わることはまれで、大半が軽症〜中等症なのが特徴です。

Gem of Advice
小児ではより積極的にアナフィラキシーを鑑別に挙げ、特に食物に注目して情報収集する。

▶ 成人との相違点(3):アドレナリンの投与量が異なる!
 最後に取り上げる相違点は、アナフィラキシー治療薬の王様、アドレナリンについてです。投与部位は成人と同じく大腿部中央の前外側部分(関連記事その2)ですが、推奨投与量が異なります。
 筋肉注射1回投与量として覚えておくべきは「0.01mg/kg(小児は最大0.3mg)」で、投与量計算のためには体重が重要になります。救急隊から小児症例の搬入依頼を受けたら、必ず体重も尋ねます。体重が不明であれば、表3を参考にしてもよいでしょう3)。なお、1000倍希釈のアドレナリン(1mg/mL)を用いる場合、0.01mgは0.01mLに相当します。


表3 年齢別アドレナリン推奨投与量(文献3より)

▶ エピペンの基本事項は頭に入れておこう!
 エピペンについても少し触れておきます。エピペンは、アドレナリン自己注射薬のことで、アナフィラキシーの症状があると判断された場合に、医療関係者だけでなく、処方された患者、家族、教職員、保育士、救急救命士なども使用することができます
 患者の大腿の付け根から膝までの中間部分、やや外側に筋肉注射します。小児の場合、注射を打とうとすると逃げてしまうこともあるので、しっかり固定することが重要です。ペンの中央を鷲掴みにして持ち、オレンジ色の先端をカチッと音がするまで強く垂直に押し付けて打ちましょう3)。

Caseの経過
 6歳の収縮期血圧の下限は「(70+[2×年齢(歳)])mmHg」であり、82mmHgになります。本症例の収縮期血圧は75 mmHgでこれを下回ることから、アナフィラキシーショックと判断しました。
 気道確保、酸素投与、静脈路確保などのショックに対する蘇生を進めつつ、アドレナリン筋注をできるだけ早期に行う必要があります。体重は25kgであったため、0.25mgを右大腿に筋注したところ、症状は改善。
 付き添いの教師に話を聞くと、給食にプリンが出ていたことが分かりました。小学校に入学したばかりだったため、卵アレルギーの情報がきちんと共有されていなかったようです。

まとめ
 成人との相違点を中心に、小児のアナフィラキシーを取り上げました。過去にアナフィラキシーを起こしたことのある小児では、その後のアレルギー管理や再発予防も重要になります。本人や保護者だけでなく、保育園、幼稚園、学校関係者などにも生活における原因除去や適切な対処法について共有しておく必要があるのも成人とは違うポイントですね!

<参考文献>
1)American Heart Association『PALSプロバイダーマニュアル AHAガイドライン2020準拠』(シナジー、2022)
2)Bullard MJ,et al. CJEM.2014;16(6):485-9.
3)日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」
4)佐藤さくら他 アレルギー 2022;71:120-9.


・・・私はアレルギー学会認定専門医であり、当院はアレルギー科を標榜していますので、食物アレルギーの相談がよくあります。
ただし、アナフィラキシーのリスクのある患者さんは、当院での診療で終わりにせず、救急対応可能な総合病院を紹介しています。
なぜかというと、当地域の基幹病院小児科病棟が閉鎖され、救急対応ができない状況だからです。

遠方でもいざという時駆け込める病院に管理してもらっていた方が、患者さんも安心だし、医療側もカルテに情報があるので診療がスムーズであることに期待して。
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アナフィラキシーその2:アドレナリン投与のタイミング

2025年02月24日 09時18分23秒 | アナフィラキシー
アナフィラキシー患者には治療としてアドレナリン(ボスミン®)を筋肉注射します。
血圧が上昇して意識が回復するはずですが・・・
反応が悪い、あるいは一旦よくなっても再度悪化した場合、
2回目のアドレナリンをどのタイミングで再投与すべきか、現場では悩ましい問題です。

さて、シリーズのアナフィラキシー特集ではどう書かれているでしょうか。

<ポイント>
・アナフィラキシーを疑う、もしくは診断したら、一刻も早いアドレナリンの投与が必要。
・アドレナリンは最も有効なアナフィラキシーの治療薬である一方で、使い方を1つ間違えると非常に危険な薬剤。
・アナフィラキシーを発症した患者に対するアドレナリンの投与量は0.01mg/kgで、成人の最大投与量は0.5mg(参考書によっては0.3~0.5mgと幅を持たせているものも)。0.3mgと0.5mgを比較した研究では、0.5mgの方がより吸収が良好であり、重大な副作用の出現もないことが報告されている。
・アドレナリンの投与経路は、大腿部中央の前外側部分(「気を付け」の姿勢をした際にちょうど手が来る部分)への筋注。
・まず患者をベッドに横にしてモニタリングを開始。そして、すぐさまアドレナリン0.5mgを筋注。末梢ラインの確保はアドレナリン投与後に速やかに行う。
・心停止時はアドレナリン1mgを静脈内注射するが、アナフィラキシー患者には決して1mgを静脈内注射してはいけない。致死的不整脈を誘発し、心停止に陥る可能性がある。
・アドレナリンはアンプルタイプではなく、シリンジタイプを使用すべし。シリンジタイプを用いるメリットは、製剤に直接針を装着できる簡便さに加え、使用する分の薬液を吸い上げるよりも、必要量を押し出してから残りを廃棄する方が分量の調整がしやすい。
・初回投与を受けた10~20%の患者は投与量不足が原因で再投与を要する。
・「アナフィラキシーガイドライン2022」では、投与の間隔は5~15分と記載されている。投与後5分経過した時点で患者の症状やバイタルサインが全く改善していないようであれば、速やかに2回目の投与を行うべし。改善が見られるようなら5分の時点では投与せず、15分まで経過を見て、そのときに残存している症状の程度に応じて2回目の投与を検討する。

最後の一文にすべて集約されていると思います。
シリンジ型のアドレナリン、当院でも導入すべきか検討したいと思います。


▢ アナフィラキシーその2アナフィラキシーへのアドレナリン、2回目を投与すべきか見極めるのは何分後?
北井勇也(練馬光が丘病院総合救急診療科救急部門科長)
2024/04/23:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
Case
 40歳女性。食事中、体のかゆみを自覚したが、気にせず食べていた。食後からかゆみが増強するとともに喉の違和感が出現し、息苦しさも出てきた。様子を見ていたものの改善しないため、救急外来をウォークインで受診した。
バイタルサイン:意識清明、血圧110/74mmHg、脈拍数94回/分、呼吸数24回/分、SpO2 96%(室内気)、体温37.0℃
既往歴:特記事項なし
服薬歴:定期服薬なし
アレルギー歴:特記事項なし
身体所見:口唇浮腫あり、呼気時喘鳴聴取、腸蠕動音亢進、全身に膨疹あり
その他:診察中に嘔吐あり

 アナフィラキシーが疑われるため、アドレナリンを投与することとした。

 今回の症例は、食事摂取中に蕁麻疹が出現し、呼吸器症状と消化器症状を伴っていることから、アナフィラキシーが第一に考慮されます。アナフィラキシーを疑う、もしくは診断したら、一刻も早いアドレナリンの投与が必要となります。
 「アナフィラキシーにはアドレナリン投与」は知っていても、実際に投与経験がある方はそう多くないかもしれません。アドレナリンは最も有効なアナフィラキシーの治療薬である一方で、使い方を1つ間違えると非常に危険な薬剤でもあります。いざというときに適切にアドレナリンを投与できるように、事前に知識を身に付けておきましょう。

▶ 成人にはアドレナリンを0.5mg投与!
 アナフィラキシーを発症した患者に対するアドレナリンの投与量は0.01mg/kgで、成人の最大投与量は0.5mgです(表1)1)。


 表1 年齢別アドレナリン推奨投与量(文献1より)

 参考書によっては0.3~0.5mgと幅を持たせているものもあります。また、慣習的に0.3mgと教わった方もいるでしょう(筆者もその1人です)。そういった場合、0.5mgを投与することにためらいを覚えるかもしれませんが、0.3mgと0.5mgを比較した研究では、0.5mgの方がより吸収が良好であり、重大な副作用の出現もないことが報告されています2)。正確な体重が分からなくても、成人であれば「0.5mgを投与する」と覚えておきましょう。

Gem of Advice
成人のアナフィラキシーではアドレナリンを0.5mg投与!
(※0.01mg/kgで用量決定してもよい)

▶ 投与経路は大腿部中央の前外側に筋肉注射!
 アドレナリンの投与経路は、大腿部中央の前外側部分への筋注です。「気を付け」の姿勢をした際にちょうど手が来る部分と覚えておくとよいでしょう。
 アナフィラキシーを疑った場合の流れとしては、まず患者をベッドに横にしてモニタリングを開始。そして、すぐさまアドレナリン0.5mgを筋注します。このとき、患者への説明を忘れてはいけません。たとえ緊急事態であっても、いきなり衣服を下げて大腿部をむき出しにするようなことは避けるべきです。患者の羞恥心に配慮し、治療の必要性を簡潔に伝えて理解を得ましょう。末梢ラインの確保はアドレナリン投与後に速やかに行います

 アドレナリンの投与経験としては、アナフィラキシーよりも心停止の場面の方が多いかもしれません。心停止時はアドレナリン1mgを静脈内注射しますが、アナフィラキシー患者には決して1mgを静脈内注射してはいけません致死的不整脈を誘発し、心停止に陥る可能性があるからです。

 迅速なアドレナリン筋注を行うために実際に筆者が行っている5つのステップを紹介します(表2)。アドレナリンはアンプルタイプ(写真1)ではなく、シリンジタイプを使用します(写真2)。


表2 アドレナリン筋注の5ステップ


写真1 アンプルタイプのアドレナリン(提供:第一三共)


写真2 シリンジタイプのアドレナリン(提供:テルモ)

 シリンジタイプを用いるメリットは、製剤に直接針を装着できる簡便さに加え、使用する分の薬液を吸い上げるよりも、必要量を押し出してから残りを廃棄する方が分量の調整がしやすいことです。デメリットとしては、余った分を捨てることになる点が挙げられます。ただし、初回投与を受けた10~20%の患者は投与量不足が原因で再投与を要するとされています3)。再投与を防ぐ視点でも、適切に0.5mgを投与することが重要だと考えます。

▶ 2回目を投与するかを見極める目安は5分!
 「アナフィラキシーガイドライン2022」1)では、投与の間隔は5~15分と記載されています。幅があるので、実際にどのタイミングで投与すればよいのか、現場では悩むのではないでしょうか。
 アドレナリンの効果発現は迅速です。投与後、5分経過した時点で患者の症状やバイタルサインが全く改善していないようであれば、速やかに2回目の投与を行いましょう。改善が見られるようなら5分の時点では投与せず、15分まで経過を見て、そのときに残存している症状の程度に応じて2回目の投与を検討します。
 アドレナリンを投与したらそれで終わりではなく、投与後はベッドサイドで患者の容態とバイタルサインを観察し、変化をいち早く捉えられるようにしておきます。なお、2回目の投与に備えて、シリンジタイプのアドレナリンを2本以上準備しておくことをお勧めします。

Gem of Advice
アドレナリン投与後はベッドサイドで観察し、5分経過時点で再投与を判断。

Caseの経過
 アレルゲンは不明でしたが、食事中に発症した蕁麻疹+呼吸器症状+消化器症状であり、アナフィラキシーと判断してアドレナリン0.5mgを大腿部中央の前外側部分に筋注しました。投与後、徐々に咽頭違和感、息苦しさは軽減。浮腫も改善し、喘鳴も消失しました。救急外来で経過を観察、症状の再燃がないことを確認の上、帰宅となりました。

まとめ
 アナフィラキシーと診断した後のアドレナリンの投与方法について解説しました。ポイントは投与量、投与経路、投与間隔です。突然、アナフィラキシーに遭遇した場合にも適切に対応できるように、実際に投与するイメージを持っておくようにしましょう。

<参考文献>
1)日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」
2)Dodd A,et al. Resuscitation.2021;163:86-96.
3)Boyce JA,et al. J Allergy Clin Immunol.2010;126:S1-58.


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アナフィラキシーその1:基礎編

2025年02月24日 08時48分08秒 | アナフィラキシー
医師にとってアナフィラキシーは出会いたくない疾患の一つです。
稀だけれど、短時間に命に関わるケースがあるから。

だから救急外来以外の医師でも、
日頃からシミュレーションを繰り返して再確認する必要があります。
火災訓練や防災訓練と同じですね。

さて、アナフィラキシーを取りあげたシリーズの医療記事が目に留まりましたので、
復習がてら読んでみました。
備忘録としてメモを残しておきます。

<ポイント>
・典型例では診断は難しくないものの、中には皮膚症状を伴わない非典型的なケースもある。
・ショックを見たらアナフィラキシーの可能性を考えるべし。
・アナフィラキシーによって呼吸停止、心停止に陥る場合、掛かる時間は
 ✓ 薬剤で5分
 ✓ ハチ毒で15分
 ✓ 食物で30分
・アナフィラキシー診療のポイントは、急性の『皮膚症状』『呼吸器症状』『循環器症状』『消化器症状』のいずれかを認めたら、アナフィラキシーを想起し、他の症状がないかをパッと確認すること。
・皮膚症状の頻度は高いものの全例で認められるわけではないため、皮膚症状を伴わないからといってアナフィラキシーを除外してはいけない、消化器症状からもアナフィラキシーを疑う視点を忘れない。
・アナフィラキシーは他のショックとは異なり、アドレナリンの早期投与が極めて重要。

ショックというと「血圧低下・意識消失」というイメージがありますが、
アナフィラキシー・ショックではアレルギー症状を伴うところが異なります。
逆にアレルギーというとじんましんなどの皮膚症状がイメージされますが、
重症アレルギー反応でも腹部症状が前面に出ることもあり、
必ず皮膚症状があるとは限らないところが悩ましい。
アレルギーには原因がありますから、それを突き止める作業も必要となりますね。


▢ その1〜ショック、急性発症の消化器症状で考えるべき病態は?
坂本壮(国保旭中央病院 救急救命科医長)
2024/04/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 アナフィラキシーは医療機関だけでなく、学校やワクチン接種会場などでも遭遇するコモンな反応です。典型例では診断は難しくないものの、中には皮膚症状を伴わないケースもあります。しかし、見逃して対応が遅れれば命に関わりかねません。また、アドレナリンの投与経路や投与部位、投与量などが不適切なために望ましい効果が得られないケースもあります。・・・

Case
 44歳男性。建築現場で現場監督を行っていた。昼すぎ、仮設トイレで排便中に気分が悪くなり、同僚に助けを求め、救急要請となった。
 救急隊到着時、本人は腹痛、嘔気を訴えていた。バイタルサインなどは以下の通り。
バイタルサイン:意識清明、血圧78/34mmHg、脈拍数110回/分、呼吸数22回/分、SpO2 96%(室内気)、体温36.1℃
既往歴:特記事項なし
服薬歴:定期服薬なし
アレルギー歴:特記事項なし

・・・ショックの原因として最も頻度が高いのは、敗血症に代表される血液分布異常性ショックです。次いで、出血などに伴う循環血液量減少性ショック、心原性ショック、閉塞性ショックと続きます。血圧が低いなどのショック徴候が認められる患者の初期対応としては、基本的には上述の通りで問題ありません。しかし1つ、意識しておくべき事項があります。それが、今回のテーマである「アナフィラキシー」の可能性を早期に考えるということです。

▶ Gem of Advice
ショックを診たら、アナフィラキシーの可能性を1度は考えよう。

▶ アナフィラキシーの実態
 「ワクチン接種後にかゆみを伴う皮疹と呼吸困難を認める」「蜂に刺された後から痛みに加え、皮疹、気が遠くなる感じが出現」……このような症例であれば、誰もがアナフィラキシーを想起しますよね。しかし、アナフィラキシーで必ずしも皮膚症状が見られるわけではありません。また、アナフィラキシーに対する唯一の治療薬はアドレナリンですが、投与経路や投与部位、投与量などが不適切であるがゆえに望ましい効果が得られていないケースもあります。
 アナフィラキシーによって呼吸停止、心停止に陥る場合、掛かる時間は薬剤で5分、ハチ毒で15分、食物で30分とされています1)。早期にアナフィラキシーを認識し、適切な初期対応を行わなければ致死的となる可能性があります。・・・

▶ アナフィラキシーの症状と診断基準
・・・

表1 アナフィラキシーの症状(文献2を基に筆者和訳)


表2 アナフィラキシーの診断基準(文献3を基に筆者作表)

 アナフィラキシー診療のポイントは、
「急性の『1)皮膚症状』『2)呼吸器症状』『3)循環器症状』『4)消化器症状』
のいずれかを認めたら、アナフィラキシーを想起し、他の症状がないかをパッと確認する
ことだと感じています。
 表1の通り、皮膚症状の頻度は高いものの、全例で認められるわけではないため、皮膚症状を伴わないからといってアナフィラキシーを除外してはいけません。また、消化器症状からもアナフィラキシーを疑う視点を忘れないようにしましょう。

Gem of Advice
急性発症の消化器症状を診たら、アナフィラキシーの可能性を1度は考えよう。
(※急性発症の消化器症状では中毒も考える)

Caseの経過
 排便後にショック徴候を認めたとなると、血管病変や消化管穿孔などを考えるかもしれません。もちろんその可能性もあるでしょうが、前述の通り、急性経過の消化器症状ではアナフィラキシーの可能性を早期に1度は検討します。

 病歴を確認すると、仕事で腰を痛めたため、近くのコンビニエンスストアでロキソプロフェン(商品名ロキソニン他)を購入し、コンビニ弁当を食べた後に内服したそうです。その後、腹部の違和感、嘔気を自覚し、トイレに行ったという経過でした。

 アナフィラキシーを疑い、腹部を観察してみると、わずかではあるものの皮疹を確認。急性発症の消化器症状、皮疹に加え、血圧も低下していることからアナフィラキシーと判断し、アドレナリンを大腿外側部に筋注したところ、症状は速やかに回復しました。

 ショックの初期対応としては、細胞外液投与など、他にも考慮すべき処置は多々ありますが、アナフィラキシーは他のショックとは異なり、アドレナリンの早期投与が極めて重要です。ショックを診たら、「アナフィラキシーを鑑別に挙げる」ことはぜひ意識しておいてください。

まとめ
 アナフィラキシーは致死的な反応ですが、初期対応がきちんとなされれば、予後は決して悪くありません。アドレナリン投与の遅れは転帰不良と直接的に関連するため、まずは「アナフィラキシーかもしれない?!」と早期に疑い、“アナフィラキシーらしさ”を評価することが重要です。意識して観察すると、淡い紅斑や服の下の皮疹に気付いたり、強制呼気で喘鳴を聴取したりすることもあるでしょう。疑わなければ探しにいきませんからね。

<参考文献>
1)Pumphrey RS. Clin Exp Allergy. 2000;30:1144-50.
2)Joint Task Force on Practice Parameters,et al. J Allergy Clin Immunol. 2005;115:S483-523.
3)日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」

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