小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(フルミスト®)〜自己投与解禁(アメリカ)!

2024年11月20日 07時54分57秒 | 予防接種
一般啓蒙用ではなく、医療関係者向けのフルミスト®解説を見つけました。

このワクチンの特徴は、
・痛くないこと
・生ワクチンであること
・乳児には適応がないこと(副反応出現のため認可されなかった)
・成人には適応がないこと(効果が期待できない)
・アメリカでは一時、推奨から外れたこと
に集約されると思います。

…と思って読んでいたら、
アメリカでは自己投与が認可された
という驚くべき記載がありました。

当院でもこのワクチンを接種していますが、
確かに手技は簡単で、医療関係者でなくても可能なレベルと思います。
将来、日本でも自己投与が可能になるときが来るのでしょうか…

<ポイント>
・米国FDAは,2024年9月に経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(以降,生ワクチンと略す)の自己投与,介護者による投与を認め、医療従事者による投与を必要としない初のワクチンとなった(ただし2~17歳は生ワクチンの自己投与はできず,介護者が投与する)。
・生ワクチンは細胞培養(Vero細胞)で増殖させた,A型としてA(H1N1)pdm09とA(H3N2)の2種の亜型,B型としてビクトリアと山形の2系統,計4種類のワクチン株を含む4価ワクチン。
 → 日本で接種されるワクチンは3価です。
・米国では2015~16年シーズンに,生ワクチンと不活化ワクチンの効果比較試験が実施され,その結果から,一時,生ワクチンであるFluMist®の使用が中止された。
・肺・気管支などに疾患がある場合,特に喘息児では接種は慎重にすべき。

…以上の内容から、生ワクチンの登場により「インフルエンザ流行が一気に解決!」は期待できないようです。
 当院では喘息児や卵アレルギー児が多く通っているので、その点に注意しながら接種をしています。


▢ 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンについて
菅谷憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院名誉参事,前神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センター長,WHO Public Health Research Agenda for Influenza委員)
2024-11-06:日本医事新報社)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(商品名フルミストⓇ点鼻液)は,日本でも2023年3月に認可され,2024年秋から,2歳以上19歳未満を対象に接種が開始された。本論文では,フルミストⓇ点鼻液の審議結果報告書1)を解説し,約10年前に米国で接種が中止になった経緯,不活化ワクチンとの効果の比較などを紹介する。

1. 米国での経鼻弱毒生ワクチン自己投与の承認
 米国FDAは,2024年9月に経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(以降,生ワクチンと略す)の自己投与,介護者による投与を認めた。オンライン薬局を通じての注文,購入希望者の適格性の判断,処方箋の発行,生ワクチンの発送などが決められた2)。米国では生ワクチンは,2~49歳の個人におけるインフルエンザ疾患予防に承認されているが,今回の決定により,医療従事者による投与を必要としない初のワクチンとなった。しかし,2~17歳は生ワクチンの自己投与はできず,介護者が投与することとなっている。

2. 経鼻弱毒生ワクチン
 生ワクチンは細胞培養(Vero細胞)で増殖させた,A型としてA(H1N1)pdm09とA(H3N2)の2種の亜型,B型としてビクトリアと山形の2系統,計4種類のワクチン株を含む4価ワクチンである。新型コロナワクチン出現以降,B型の山形系統は世界で分離されないので,日本では山形株は除かれる。2歳以上19歳未満では,0.2mL(各鼻腔内に0.1mL)を1回噴霧する。
 用いられる生ワクチン株は,以下の通りである。
  1. 32℃前後で増殖しやすい低温馴化株である(低温の鼻腔で増殖しやすい)。
  2. 37℃以上では増殖しにくい温度感受性株である(高温の下気道では増殖しない)。
  3. 動物モデルでインフルエンザ症状を呈さないという特性を持つ弱毒株である。
 生ワクチン株は,上記の特徴を持つA型のA/Ann Arbor株,B型のB/Ann Arbor株とWHOから選定された候補株の遺伝子再集合により作製される。したがって,生ワクチンのHA(hemagglutinin)とNA(neuraminidase)のスパイクは,WHOの候補株と同一である。
 1噴霧容器当たり(0.2mL)4種の各ウイルスが,1種当たり7log10FFU含まれている。通常,小児の鼻腔からは,4~6log10FFUのウイルスが分離されるので,生ワクチン株は,インフルエンザに自然感染した小児の鼻腔内よりも10倍から100倍多いウイルス量となる。

3. 弱毒生ワクチンの安全性
 2014年に安全性の検討を目的に,2~6歳の日本人健康小児100人に非盲検非対照試験が実施された(007試験)1)。有害事象として,鼻咽頭炎,胃腸炎,皮膚乾燥などが認められたが,重篤な事象はなかった。

4. 弱毒生ワクチンは低年齢小児で有効ではなかった
 2016年10月~2017年5月に,国内第3相試験である無作為化二重盲検プラセボ対照試験が,2〜18歳を対象に実施された(J301試験)1)。治験薬は4価の生ワクチンで,0.2mLを鼻腔内に1回噴霧した。ワクチン効果は,生ワクチン接種群と非接種群(プラセボ)にわけて,各群でのインフルエンザ発症率を比較した。インフルエンザ診断はPCR法による。
 2016~17年シーズンの流行ウイルスは,A型はA(H3N2)で,B型はビクトリアと山形系統が混合していた。生ワクチン接種群では595例中152例がインフルエンザを発症し(25.5%),プラセボ群では290例中104例が発症した(35.9%)。したがって,すべてのインフルエンザ(A型とB型の合計)に対する発症防止効果は,28.8%〔95%信頼区間(CI):12.5~42.0〕となった。A(H3N2)に対する発症防止効果は28.8%(95%CI:9.0~43.1)であったが,A(H1N1)pdm09については,症例が4例のみで評価はできなかった。またB型に対する効果は,ビクトリアと山形系統を合計して22例で,統計的に有意ではなかった。
 年齢群別での,すべてのインフルエンザに対する発症防止効果は,2~6歳群で21.6%(95%CI:−8.6~43.4),7~12歳群で30.6%(95%CI:6.7~48.2),13~18歳群で41.4%(95%CI:−9.6~68.7)であり,2~6歳群と13~18歳群では統計的に有意ではなかった。
 J301試験の結果を見ると,生ワクチンのインフルエンザ発症防止効果が28.8%と低く,経鼻生ワクチンの接種対象として期待される低年齢層(2~6歳群)で,有意な結果が得られなかった点が問題である。また抗原性一致株と不一致株にわけてワクチン効果を解析し,すべてのインフルエンザでは36.6%としているが,2016〜17年シーズンは特に抗原変異はなく,その上,方法などが提示されていないので,評価できない。

5. 不活化ワクチンの発症防止効果は低年齢小児で高い
 J301試験と同時期(2016~17年)に,日本で実施された4価の不活化ワクチンの発症防止効果が,慶應小児インフルエンザ研究グループ(代表:菅谷憲夫)から発表されている。6カ月~15歳の3869例の小児発熱患者を対象に,発症防止効果をtest-negative case-control design(以下,TND法と略す)で検証し,診断は迅速診断キットによって行われた3)。
 すべてのインフルエンザに対する発症防止効果は,39%(95%CI:28~49)で,A型は41%(95%CI:32~50),B型は41%(95%CI:21~56)であった。慶應の報告はTND法であり,一方のJ301試験はコホートという違いはあるが,生ワクチンに比べ,不活化ワクチンの安定した高い効果が示されている。特に1~2歳群の発症防止効果は高く,A型は46%(95%CI:2~60),B型は69%(95%CI:26~87)であった3)。慶應の不活化ワクチンの成績では,低年齢層での効果が全年齢層を通じて最も高いことが示された3)。学童や中学生よりも,1~6歳児での効果が高い。

6. 米国での弱毒生ワクチンの使用中止の経緯
 米国では2015~16年シーズンに,生ワクチンと不活化ワクチンの効果比較試験が実施され,その結果から,一時,生ワクチンであるFluMist®の使用が中止された。試験の1つは,New England Journal of Medicine(NEJM)誌に報告された4)。TND法で実施され,診断はPCR法による。2~17歳の小児を対象として(n=2047),インフルエンザが陽性反応を示した大部分がA(H1N1)pdm09とB型であった。すべてのインフルエンザに対する不活化ワクチンの発症防止効果は60%(95%CI:47~70)と高く,一方,生ワクチンは5%(95%CI:−47~39)と効果は認められなかった。
A(H1N1)pdm09に対する発症防止効果は,不活化ワクチンでは63%(95%CI:45~75)と高く,生ワクチンでは−19%(95%CI:−113~33)と効果はなかった。B型に対しては,不活化ワクチンは54%(95%CI:31~69)と高い効果で,生ワクチンは18%(95%CI:−52~56)と統計的に有意ではなかった。本論文によれば,2015~16年シーズンにおいて,小児では,不活化ワクチンは,A(H1N1)pdm09とB型に高い効果があったが,生ワクチンはどちらにも効果が認められず,特にA(H1N1)pdm09にはまったく効果がなかった。
 もう1つの試験は,同シーズンに外来患者1012例(2~17歳)を対象に,生ワクチンと不活化ワクチンの効果比較を,NEJMと同様の方法で実施したものである5)。結果は,A(H1N1)pdm09に対し,生ワクチンは50%(95%CI:−2~75)で統計的に有意ではなかったが,不活化ワクチンでは71%(95%CI:51~82)と高い有効率を示した。
2015~16年シーズンに,米国では2つの比較試験が実施されたが,A(H1N1)pdm09に対する発症防止効果は認められなかった。そのため,2016~17年と2017~18年シーズンは,米国では生ワクチンを使用しないよう米国CDCが勧告を出した。

7. 日本小児科学会の不活化ワクチン効果の見解
 審議結果報告書1)では,20年も前の2004年の日本小児科学会の見解6)を引用しているが,そこではわが国では,「1歳以上6歳未満の乳児については,インフルエンザによる合併症のリスクを鑑み,有効率20%~30%であることを説明した上で任意接種としてワクチン接種を推奨することが現段階で適切な方向である」としている。この見解を引用したのは,J301試験での生ワクチンのインフルエンザ発症防止効果が28.8%と低く,生ワクチン接種の意義があるかという疑問の出るレベルであるが,学会見解には合致しているとしたいのであろうか。しかし,学会見解の根拠とした報告は,返信用ハガキにより,発熱,咳などについてアンケート調査したものであり,インフルエンザ検査診断を実施していないので,現代のワクチン研究のレベルでは通用しない。
 さらに報告書では,「患者の年齢が低下すると,不活化インフルエンザワクチンの効果は低下する」としているが1),慶應小児科の2013~14年シーズン以来のデータでは3)7)8),1~6歳未満の年齢群では,全年齢層で最もインフルエンザ発症防止効果が高いことは明らかである。

8. 今後の弱毒生ワクチンの評価
 生ワクチンは,米国でA(H1N1)pdm09には無効であったことが,NEJMなどの雑誌に報告され,2シーズンにわたり使用中止となり,現在はあまり使用されていないことを考えると,今後,生ワクチン効果の慎重な見きわめが必要となる。日本では,低年齢児(2~6歳)には有効性は証明されておらず,A(H1N1)pdm09やB型については効果の検証もされていない。
 接種の注意として,生ワクチンのため妊婦には禁忌であり,水平感染の可能性から授乳中の母親は接種後1~2週は乳児との接触を控えることが挙げられる。また,肺・気管支などに疾患がある場合,特に喘息児では接種は慎重にすべきである。さらに,ゼラチンに強いアレルギーのある場合は禁忌となる。生ワクチンという特性から,アスピリン内服中の人は接種できず,接種後4週はアスピリンの使用は避けるべきである9)。なお安全性などについては,日本小児科学会からも見解が出されている10)。

【文献】
1)医薬品医療機器総合機構:審議結果報告書. 2023.3.6.
https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20230424001/430574000_30500AMX00102_A100_1.pdf
2)FDA News Release:FDA Approves Nasal Spray Influenza Vaccine for Self- or Caregiver-Administration. 2024.
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-nasal-spray-influenza-vaccine-self-or-caregiver-administration
3)Shinjoh M, et al:Vaccine. 2018;36(37):5510-8.
4)Jackson ML, et al:N Engl J Med. 2017;377(6):534-43.
5)Poehling KA, et al:Clin Infect Dis. 2018;66(5):665-72.
7)Shinjoh M, et al:PLoS One. 2015;10(8):e0136539.
8)Sugaya N, et al:Vaccine. 2018;36(8):1063-71.
9)Pharmacy Obo:Protocol for Live Attenuated Influenza Vaccine(FluMist® Quadrivalent). 2023.
10)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会;経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方~医療機関の皆様へ~. 2024.

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小児喘息 アップデート2024

2024年11月16日 06時35分45秒 | 予防接種
日本アレルギー学会主催の研修講習会で小児喘息に関するレクチャーを聴講しました。
知識をアップデートするよい機会になりました。
主に改定されたガイドライン(小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023)の内容ですね。

備忘録としてポイントをメモしておきます。
講師は手塚順一郎Dr.です。

▢「喘息と鑑別を要する疾患」に追加されたもの
・線毛機能不全症候群
・誘発性喉頭閉塞症(inducible laryngeal obstruction, ILO)…アイロと読むそうです。
・びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis, DPB)

▢ 乳幼児喘息の診断は難しい
・検査で診断できない乳幼児は診察・所見で判断せざるを得ない。従来は治療不足・過剰診断が少なからず経験されたため、積極的に診断して治療していこうという方針に舵が切られた。「診断的治療」という選択肢もある。
・5歳以下の反復性喘鳴のうち、以下を満たす例;
 ① 明らかな24時間以上続く呼気性喘鳴
 ② 3エピソード以上繰り返す
 ③ β2刺激薬(ベネトリンやメプチン)吸入後に呼気性喘鳴や努力性呼吸・酸素飽和度(SpO2)の改善が認められる
・β2刺激薬に反応が乏しいものの呼気性喘鳴を認める例に対しては「診断的治療」を用いる。
・診断的治療:重症度に応じた長期管理薬を1ヶ月間投与(喘鳴がコントロールできた時点で投与を中止)して経過観察し、増悪した場合には投与を再開して喘鳴コントロールの可否を判断する。治療を実施している間は症状がなく、中止している間に症状が再燃する場合を「乳幼児喘息」と診断する。

▢ 急性増悪(発作)の見分け方
・SpO2の目安;
 小発作: ≧ 96%
 中発作:92-95%
 大発作: ≦91%
・呼吸数の目安;
 小発作:正常〜軽度増加
 中発作:正常〜軽度増加
 大発作:増加
※ 年齢別標準呼吸数(回/分)
 0-1歳:30-60
 1-3歳:20-40
 3-6歳:20-30
 6-15歳:15-30
 15歳以上:10-30

▢ 吸入β2刺激薬は体格・体重により減らさない
…以前は、0.1mL/10kgが目安とされていましたので大きな変更です。

・吸入液;
 生理食塩水2mL または DSCG1アンプル
   +
 サルブタモール(ベネトリン®)または プロカテロール(メプチン®)
  乳幼児:0.3mL、学童以上:0.3-0.5mL
※ 小児では0.3mLを超える用量は保険適応がない

・pMDI; 
 サルブタモール(サルタノール®)またはプロカテロール(メプチン®)1-2パフ

▢ 全身性ステロイド薬の投与量と注意事項
…急性増悪(発作)時の治療3原則はは吸入+酸素+全身性ステロイド薬。
(静脈内)省略
(経口・内服)
・プレドニゾロン(プレドニン®): 1-2mg/kg/日(分1-3)
・デキサメタゾン(デカドロン®)、ベタメタゾン(リンデロン®):0.05-0.1mg/kg/日(分1-2)

注)
・最大使用量:PSL(プレドニゾロン)換算 2mg/kg/日(max 60mg/日)
・静脈内投与と経口投与で効果に差がない。
・全身性ステロイド薬の投与期間は3-5日間を目安とし、漫然と投与しない。
・投与期間が7日以内であれば中止にあたって漸減の必要はない。

▢ 重症度評価(成人と小児ではズレがある)
▶ 発作が週1回未満
 → 小児:間欠型(数回/年)、軽症持続型(1回/月以上)
 → 成人:軽症間欠型(週1回未満)
▶ 発作が1回/週以上だが毎日ではない
 → 小児:中等症持続型
 → 成人:軽症持続型

▢ 重症度評価と吸入ステロイド薬の適応
▶ 小児;
(軽症持続型)低用量(100)
(中等症持続型)中用量(200)
▶ 成人;
(軽症間欠型)低用量(100-200)
(軽症持続型)低〜中用量(200-400)



(略称)
LTRA:ロイコトリエン受容体拮抗薬
ICS:吸入ステロイド薬
ICS/LABA:吸入ステロイド薬/長時間作用性吸入β2刺激薬配合剤
FP:フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルタイド®)
BDP:ベクロメタゾン(キュバール®)
CIC:シクレソニド(オルベスコ®+インヘラー)
BUD:ブデソニド(パルミコート®+タービュヘイラー)
BIS:ブデソニド吸入混濁液(パルミコート吸入液®)
SLM:サルメテロール(セレベント®)
SFCFP/SLM):フルチカゾンプロピオン酸エステル/サルメテロール配合剤(アドエア®)
FM:ホルモテロール
FFCFP/FM):フルチカゾン/ホルモテロール配合剤(フルティフォーム®)

(追加)その他の吸入ステロイド薬:
・モメタゾン(アズマネックス®+ツイストヘラー)
・フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アニュイティ®+エリプタ)
・ブデソニド/ホルモテロール(シムビコート®)
・フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ビランテロール(レルベア®+エリプタ)

記号ではわかりにくいので、商品名を組み合わせてみました;

・・・開業小児科医でカバーするのは「(中等症持続型)中用量(200)」までと考えられるので、

5歳以下の治療ステップ3:低用量ICS、コントロール不良なら低用量ICS/LABA
  → フルタイド/キュバール/オルベスコ100μg/日、コントロール不良ならアドエア/フルティフォーム100μg/日
6〜15歳の治療ステップ3:低用量ICS/LABA、あるいは中用量ICS
  → アドエア/フルティフォーム100μg/日、あるいはフルタイド/キュバール/オルベスコ200μg/日

となります。
変更点として、6〜15歳ステップ3の推奨では、低用量ICS/LABAが中用量ICSの上、
つまり優先されるイメージになったことですね。

これは、局所ステロイド薬(吸入、軟膏)でも十分量を長期間使用すると全身への影響(成長障害等)が無視できないことが近年報告されてきたからです。
ただ、アレルギー疾患の症状でつらい思いをして小児期を過ごすことと、成人した際の最終身長が1cm少なくなることと、どちらを取るかと問われると・・・正解はなさそうです。

小児喘息の長期管理プラン
・吸入ステロイド薬導入中の患児のコントロール不良の際のステップアップは、
 以前はステロイド増量であったが、2023年版ではステロイド/LABA混合薬を優先するよう変更された。
・ダニによるアレルギー性鼻炎を合併している例では、ダニ舌下免疫療法併用を推奨。

▢ 肺機能検査(フロー・ボリューム曲線)による気管支拡張薬反応性検査
・改善率
 (吸入後のFEV1ー吸入前のFEV1)/吸入前のFEV1 ×100
・改善量
 吸入後のFEV1ー吸入前のFEV1(mL)
 → 改善率12%以上かつ改善量200mL以上で有意な可逆性ありと判定

▢ FeNO(呼気一酸化窒素濃度)に影響を与えるもの
▶ 増加
・ウイルス性気道感染症
・アレルギー性鼻炎
・アトピー性皮膚炎
・硝酸塩が豊富な食べ物(レタス、ほうれん草など)
・気管支拡張薬
▶ 減少
・呼吸機能検査の実施
・線毛機能不全
・肺高血圧
・気管支収縮
・運動
・飲酒
・喫煙
・吸入ステロイド薬


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「食物アレルゲンの検査(IgE抗体)陽性だから除去してください」は正しい?

2024年11月13日 15時19分24秒 | 食物アレルギー
食物アレルギーを心配して受診する患者さんは、
数字で白黒つけたいと血液検査(特異的IgE抗体)を希望されます。

また、乳幼児に給食を提供する保育園からは、
「保育園で出すすべての食材のアレルギー検査をしてください」
なんてとんでもない要求もありました。

アレルギー検査で陽性でも、
実際に食べて症状が出るとは限りません。
食べて症状が出なければそれが真実です。

ですから当院では、
「食べても症状が出ない食材は検査しない」
という方針です。

これがなかなか理解されず、
「検査してくれなかった」
と悪い口コミを何度書き込まれたことか…。

逆に、花粉症が心配でアレルギーのスクリーニング検査をした際、
食物アレルゲンの項目で陽性になるものがあっても、
実際に食べて症状が出なければ食物アレルギーと診断しません。
検査の機会がなければ、その患者さんは食物アレルギーと縁のない生活を続けていたはずですから。

つまり、症状とアレルギー検査の間にはギャップ・ブラックボックスが存在するのです。
ちょっと複雑ですが、解説を試みてみます。


1.アレルゲン・コンポーネント

一つの食材に存在するアレルゲン(アレルギーの原因成分)は一つではありません。
たいてい複数のアレルゲンが存在し、
その一つ一つを“アレルゲン・コンポーネント”と呼んでいます。

そして各コンポーネントは、アレルギー反応を起こす力も異なります。
つまり、
このコンポーネントに反応するヒトは激しい症状を起こし、
こちらのコンポーネントに反応するヒトは軽い症状で済む、
あちらのコンポーネントに反応する人は症状が出ない、
という現象があり得るのです。

さらに各コンポーネントは、その食材に同量含まれているわけではありません。
多かったり、少なかったり。

アレルギー検査に用いるアレルゲンは、
その食材をすりつぶして抽出したモノなので、
多量含まれれば陽性に出やすいし、
少量しか含まれなければ陽性に出にくい、
という事情もあります。

以上、単純でないことがおわかりいただけたと思います。
すると以下のような現象に遭遇することがあります;

例1)アレルギー検査(特異的IgE抗体)陽性だけど、食べても無症状。
 → アレルゲン性のないコンポーネントに反応するタイプ。

例2)アレルギー検査(特異的IgE抗体)弱陽性だけど、微量食べるとアナフィラキシー。
 → 症状が強く出るアレルゲン・コンポーネントに反応するヒトで、
 かつそのコンポーネントは食材に少ししか含まれていないので強陽性になりにくい。

2.検査試薬は生のアレルゲンから抽出している

アレルギー検査に用いる試薬は、生の食材から抽出しています。
しかし我々は、その食材を生のまま食べるとは限りません。

そしてアレルゲンは加熱・加工により変性し、
アレルゲン性が弱くなることがよくあります。

例えば「コメ」。
ふつう、炊いて食べます。
生で食べるヒトはいないですよね。
しかし検査試薬は生のコメから抽出したモノなので、
アレルギー反応を起こさない成分を検出している可能性があります。

3.IgG4抗体の存在

アレルギー症状を引き起こす血液中の抗体は「IgE抗体」です。
でも血液中にはこのIgE抗体の反応を邪魔する抗体が存在し、
それが「IgG4抗体」です。
英語では blocking antibody,  日本語では“遮断抗体”とか呼ばれます。

アレルゲンが二つのIgE抗体と結合すると、アレルギー反応が始まります。
でもそれを邪魔するIgG4抗体が存在し、
アレルゲンがIgG4抗体と結合してしまうと、
IgE抗体をたくさん持っていても反応できません。

血液検査ではIgE抗体だけ測定しています。
IgG4抗体は保険適応がないので検査できません。

つまりIgE抗体だけを測定しても、
その人がアレルギー反応を起こすかどうか、
正確にはわからないのです。

このIgG4抗体は「食べることによって産生される」抗体です。
ですから、「少量食べても無症状、たくさん食べると症状が出る場合」は、
症状が出ない程度の量を食べ続ける方が有利、
IgG4抗体が増えてくればいずれたくさん食べられるようになる(耐性獲得)可能性が高くなります。
少量食べられるのに「検査が陽性だから完全除去」では治りが遅くなります。

これは近年判明してきた事実であり、
「症状が出ない程度の量を食べ続けると、将来の治りがよくなる(食べられるようになる)」
ことがアレルギー専門医の常識となっています。

4.腸管消化吸収能力の発達

アレルゲンとして作用するタンパク質の分子量は1万〜7万程度とされています。
これより大きくても小さくても、IgE抗体が捉えることができないので、
アレルギー反応が起こりにくい、つまり症状が出にくいことになります。

乳児期は消化吸収能力が低いためタンパク質が分解しきれず、
アレルゲンとして作用しやすい分子量のまま吸収されてしまいます。

しかし1歳以降はその能力が発達し、
1歳半の離乳食完了頃には大人と同じものを食べられる、
すなわち大人と同程度の消化吸収能力になるため、
アレルゲンとして作用しやすい分子量よりさらに小さく分解されて吸収されるようになります。

するとIgE抗体があっても、反応する大きさのアレルゲンが入ってこないのですから、
アレルギー反応は起こらず、アレルギー症状は出ません。


…以上の4つの理由により、特異的IgE抗体陽性でも症状が出ない状況があり得るのです。
アレルギー検査の評価方法は単純ではないことがおわかりいただけたでしょうか?

最後に最新の食物アレルギーの治療・管理方法を紹介します。
基本原則は「正しい診断による必要最小限の原因食物の除去」です。

では「正しい診断」とは?
 → 食べて症状が出ること(食物負荷試験を含む)+ 特異的IgE抗体陽性

では「必要最小限の除去」とは?
 → 食べると症状が出る食物だけを除去、
 原因食物でも症状が出ない程度の量を食べ続ける

ということです。

同じ食物アレルギー患者さんの中でも、
重症度は異なり食べられる量も異なります。

例えば「卵」。
卵アレルギー患者さんの中で症状が出てしまう卵白量は、
 微量(0.2-0.3g) → 5%
 少量(4g)     → 50%
 中等量(20g)  → 90%
というデータがあります。
逆に上記の数字以外のヒトは卵アレルギーと診断されているけど食べられます。
つまり卵アレルギー患者さんの95%は微量(0.2-0.3g)食べても無症状、
そして10%の患者さんは20g(卵半分)食べても大丈夫。

例えば「牛乳」。
牛乳アレルギー患者さんで症状が出てしまう量は、
 微量(0.1-0.2mL) → 5%
 少量(4mL)     → 50%
 中等量(50mL)  → 90%
であり、牛乳アレルギー患者さんの95%は微量(0.1-0.2mL)を飲んでも無症状です。

ただし、あなたが上記のどれに当てはまるか自己判断して食べる・飲むのは危険です。
主治医に相談してください。
なぜかというと、食物アレルギーにアトピー性皮膚炎や気管支喘息を合併している場合、
それらの治療を十分に行うことが食物アレルギー診療の前提だからです。

さて、この項目のテーマである、
「食物アレルゲンの検査(IgE抗体)陽性だから除去してください」は正しい?
の答えは、
「検査で陽性だけでは除去が必要かどうか判断できません」
「食べて症状が出るヒトにのみ検査に意味があります」
となります。

<参考>
▢ 食物アレルギーの治療・管理の原則は「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去」(食物アレルギー研究会)
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Q. 食物アレルギーは予防できますか? A.できます。

2024年11月12日 15時28分57秒 | 予防接種
私が小児アレルギーをサブ・スペシャリティとして選択した当時(1992年頃)は、
アレルギー学会の食物アレルギーのセクションを覗くとそこは一種異様な雰囲気で、
あまり科学的な印象を持てませんでした。

それを論理立てて再構築した功績は昭和大学小児科教授の故・飯倉洋二先生ですね。
少々強引なところもありましたが、食物アレルギー分野を牽引したことは確かです。

その弟子達は四天王と呼ばれ、小児アレルギー分野で大活躍しました。
そして弟子の弟子達が現在活躍しています。

それはさておき。

先日、食物アレルギー診療のセミナー(講師は福家先生)を視聴したので、
ポイントをメモ書きとして残しておきます。

Q.母親の私はアレルギー疾患があるのですが、生まれてくる赤ちゃんもアレルギー体質になりやすいですか?
A.はい、アレルギーのないご両親の赤ちゃんと比べると確率は数倍高くなります。

…親や兄弟にアレルギー疾患があると、無い場合に比べてアレルギー疾患を発症する割合が数倍高くなります。
しかし、アレルギー体質をつくる決定的な遺伝子の存在は確認されていません。
だからメンデルの法則のように「何%の確率でアレルギー体質になる」と計算できないタイプです。

ただ、影響を及ぼすフィラグリン遺伝子は知られています。
フィラグリン遺伝子が欠けていると乾燥肌になりやすく、
アトピー性皮膚炎、食物アレルギーや気管支喘息、アレルギー性鼻炎のリスクが上がります。


Q.母親の私はアレルギー疾患がある場合、生まれてくる赤ちゃんのアレルギー疾患は予防できますか?
A.(一部)可能です。

…人が生まれてから発症するアレルギー疾患は、
年齢によりある程度順番が存在することが昔から知られていました。
 乳児期:アトピー性皮膚炎と食物アレルギー、
 幼児期:気管支喘息、
 学童期:アレルギー性鼻炎、花粉症…

しかし、どうしてこの順番になるのかは不明で、
とくにアトピー性皮膚炎と食物アレルギーはほぼ同時に存在し、
どちらが原因でどちらが結果なのか、
皮膚科と小児科で喧々顎学の議論が数十年続いていました。

その結論が出たのが2000年代後半。
アトピー性皮膚炎が先(原因)で、
食物アレルギーが後(結果)、
ということがわかったのです。

湿疹(バリアの壊れた皮膚)部位から食物抗原が繰り返し侵入することにより(経皮感作)、
食物抗原に反応する体質(=食物アレルギー)になるのです。

逆に言うと、アトピー性皮膚炎の湿疹が現れたら早期に治療することにより、
食物アレルギーが予防できる可能性があります。

実際にそのような研究がなされ、実績を上げています。
ずっと謎だった“アレルギー疾患予防”の扉が開かれました。

具体的な数字を提示します。
湿疹が出始めてから治療開始までの期間により、
食物アレルギーの発症率が異なることが国立成育医療センターから報告されています。

 湿疹発生後1ヶ月 → 13%
 湿疹発生後2ヶ月 → 24%
 湿疹発生後3ヶ月 → 31%
 湿疹発生後6ヶ月 → 31%
 湿疹発生後9ヶ月 → 64%
 湿疹発生後11ヶ月 → 100%

以上の数字を見ると、できるだけ早く湿疹の治療を開始した方が有利であることがわかります。

湿疹病変のある皮膚から侵入するアレルゲンは食物アレルゲンだけではなく、
吸入アレルゲン(ダニや花粉など)もあります。
こちらも気管支喘息やアレルギー性鼻炎・花粉症の原因になり得ます。

つまり、湿疹をしっかり治療して皮膚をキレイにしておけば、
食物アレルギーを含めたアレルギー疾患を予防できるのです。

逆に乳児期のアトピー性皮膚炎を長引かせてしまうとアレルギー体質が進んでしまう…
“ひどくなければいずれ落ちつくだろう”という甘い考えはいけません。
ここで大切なことは、湿疹を完全にゼロにして、皮膚をツルツルピカピカ状態に保つ必要があります。

どうも近隣の皮膚科医は「1歳ぐらいまでに落ちつきますよ」というスタンスで、
ひどくない程度の治療にとどめる先生が多く、
近年の「アレルギー予防」という考えが欠けている印象があります。

少し視点を変えます。

ヒトは生きるために食物を食べます。
食物はヒトにとって“異物”ですから、免疫システムが働いて排除してもおかしくないはず。
でもヒトは、気の遠くなるような長〜い年月をかけて、
口から入る食物を消化吸収して栄養分として取り込むシステム(免疫寛容)を作り上げました。

一方、皮膚から侵入するモノは、積極的に排除します。
100年昔までは、皮膚から侵入するモノは寄生虫とか病原体が多く、
免疫システムが働いて排除してきました。

戦後、生活環境が整い、寄生虫を心配せずに済む生活になりました。
そして現在、皮膚から侵入するモノは、生き物ではなくダニや食物の小さなカケラに代わりました。
それでも免疫システムはダニや食物のカケラを敵と見なし、
排除するよう働きます。
これを延々と繰り返していると、それらを受け付けない体質になってしまう、
これがアレルギーです。

さて、欧米では食物アレルギーの代表の一つはピーナッツアレルギーです。
今から約10年前(2015年)に以下のような研究が報告されました。

家族にアレルギー疾患のあるハイリスク乳児に、
ピーナッツを食べさせたグループと、
食べさせなかったグループを比較したところ、
5歳時点のピーナッツアレルギー発症率は、
 食べさせなかったグループ:17.3%
 食べさせたグループ   :0.3%
と意外なことに食べさせたグループの方が圧倒的に少なかったのです。

欧米ではみんなでピーナッツを食べるので、
部屋の中にはそのカケラがたくさんあります。
赤ちゃんの口から先に入るとアレルギーにならないけど、
赤ちゃんの皮膚から先に入るとアレルギーになることが証明された報告でした。

実はイギリスではこの報告がでるまでは、
「赤ちゃんにはピーナッツを食べさせないように」
という指導方針でした。

日本では卵で同様のことが報告されています。

アトピー性皮膚炎と診断された赤ちゃんを、湿疹の治療と並行して、
卵を食べさせないグループと食べさせるグループに分け、
1歳時点での卵アレルギー発症率を比べた報告です。
結果は、
 卵を食べさせないグループ:38%
 卵を食べさせたグループ :  8%
とこちらでも食べさせたグループの方が、卵アレルギーになりにくかったのです。

整理すると、
皮膚から侵入するモノは敵でアレルギーの原因となる(経皮感作)、
口から入るモノは消化吸収して栄養分となる(経口免疫寛容)。
この2つの事実から導き出せるアレルギー予防法は、
「湿疹があれば早期に治療し、食物アレルギーが心配な食物を早期に開始すべきである」
というものです。

ですから、
「食物アレルギーが心配だから卵や牛乳はまだあげていません」
という方針は間違いなのです。

現時点で推奨される離乳食の進め方は、
「いろんな食材を少しずつ赤ちゃんに食べさせる」
ことに尽きます。
その前提条件として、湿疹があれば早期に治しておくことが必須。
これは、ピーナッツや卵の食物アレルギーに限らず、
すべてのアレルギー疾患に当てはまることがわかっています。

<まとめ>
1.かゆい湿疹は早く完璧に治しましょう。
2.離乳食を遅らせてはいけません。ふつうのスケジュールで進めましょう。
3.バラエティ豊かな離乳食を心がけましょう。

日本の離乳食は世界標準から見るとかなり偏っていることが判明し、
小児科医は問題視しつつあります。
こちらの話題はまた別の機会に書きたいと思います。
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予防接種情報2024〜乳児をRSウイルスから守る戦略

2024年11月12日 07時49分07秒 | 予防接種
前項目で高齢者用のRSウイルス・ワクチンを紹介しました。

▶ 高齢者向けワクチン

使用するワクチン:アレックスビー筋注用®(グラクソ・スミスクライン社)
効果:RSウイルスによる感染症予防
用法:60歳以上に1回、0.5mLを筋肉内注射
国内製造販売承認:2023年9月25日(2024年1月販売開始)

上記ワクチンは乳児をRSウイルスから守る予防医療の一環でもあります。
現在構築されつつあるRSウイルス感染症の予防戦略を説明します。

2024年11月時点で、ハイリスク児に対するモノクローナル抗体製剤(ワクチンではありません)が2剤存在します。
接種方法、対象者が異なりますので要注意。

▶ 乳児に対する予防戦略(モノクローナル抗体)

①パリビズマブ(シナジス®)
用法:0.15mL/kg、流行期に「月1回」筋注(投与量は体重により異なる)

②ニルセビマブ(ベイフォータス®)
用法:流行期に「1回のみ」筋注

さらに妊婦にワクチンを接種して抗体を作り、
その抗体が胎盤を通して胎児に移行することにより、
出生児の命を守るという製剤も登場しました。

▶ 妊婦を介しての予防戦略(妊婦向けワクチン)

ワクチン:組み換えRSウイルス・ワクチン(アブリスボ®)ファイザー社
効果:妊婦への能動免疫による新生児及び乳児のRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防
用法:妊娠24週(推奨は28週)〜36週の妊婦、1回、0.5mL筋肉内注射
国内製造販売承認: 2024年1月18日(販売開始は未定)

なお、アブリスボとハイリスク児に対するシナジス、ベイフォータスは併用可能です。

<参考>
(日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会)
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予防接種情報2024〜大人のワクチン(肺炎球菌、RSウイルス)

2024年11月12日 06時25分21秒 | 予防接種
私は小児科医なので、成人のワクチンには縁がないのですが、
自分も還暦を迎え対象者に入りつつありますので、
情報をアップデートする必要があります。

ここでは肺炎球菌ワクチンとRSウイルス・ワクチンを取りあげます。
肺炎球菌ワクチンは2024年4月にルールが変更されました。

肺炎球菌ワクチン
従来の複雑な「65差異を超える方を対象として経過措置」は2024年3月31に終了し、
以下は2024年4月以降の定期接種のルールです;

接種対象
① 65歳の方(66歳以降は接種できないので忘れないように!)
② 60〜64歳で、心臓や腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活を極度に制限される方
③ 60〜64歳で、ひと免疫不全ウイルスによる免疫機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
※ 上記①②③を通して、生涯で1回のみです。
使用するワクチン:23価肺炎球菌ワクチン(23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン、ニューモバックスNP®、PPSV23)
※ 過去にこのワクチンを接種したことのある方は対象外です。

次はRSウイルスワクチンについて。
RSウイルスは乳児に重篤な急性細気管支炎を起こすことで有名ですが、
近年、高齢者にも重篤な気道感染症を起こすことが認知され、
それを予防するワクチンが登場しました。
いまのところ定期接種ではなく任意接種という位置づけで、
希望者が自己負担で接種する設定です。


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予防接種情報2024〜新型コロナワクチンの現在

2024年11月11日 14時16分58秒 | 予防接種
公費による接種(特別臨時接種)が2023年度いっぱい(2024.3.31)で終了し、
2024年4月1日から新型コロナワクチンは希望者がお金を払って接種するワクチンになりました。

制度としては対象者限定の定期接種(予防接種法のB類疾病)へ移行しました。
その規定は下記の通り;

対象者: 65歳以上または基礎疾患を有する60〜64歳
期間:  2024年10月1日〜2025年3月31日まで、1回接種
他のワクチンとの接種間隔:従来の14日間は撤廃

定期接種の場合、自己負担額が3000円くらいです。
任意接種の場合、自己負担額は15000〜16000円程度です。

私は60〜64歳で持病持ちなので、定期接種対象者に当てはまる…と思いきや、
障害者手帳をもつレベルでないと「基礎疾患を有する」に該当しないそうです。
なので私は任意接種対象者になります。

それから医療従事者という文言が見当たりませんが、
こちらも任意接種対象だそうです。

小児に関してはどうでしょか。
特定臨時接種期間は、「基礎疾患を有する小児に接種を推奨」というスタンスでしたが、
特定臨時接種終了後、情報が更新されず上記のままです。
今後の情報をチェックする必要があります。

さて現在使用可能な新型コロナワクチン、じつはたくさんあります(5種類)。
列記します;

コミナティRTU®(ファイザー社)  mRNAワクチン
スパイスバックス®(モデルナ社)  mRNAワクチン
ダイチロナ®(第一三共)      mRNAワクチン
コスタイベ®(Meiji Seika ファルマ) mRNAワクチン(レプリコンワクチン)
ヌバキソビット®(武田薬品)    組み換え蛋白ワクチン

対応する変異株はすべてに共通で「JN.1」です。
副反応は厚労省のHPで確認できますが、5つのワクチンの間で大きな差はありません。

レプリコンワクチンについては、
ワクチン反対派が騒ぎ、
看護師系のマイナーな学会が反対声明を出したり、
接種した人を“出禁”にする店舗が出てきたり、
製薬会社が反対声明を出す政治家を訴えたり、
一つの社会現象になっています。

私のスタンスは、
他の医薬品同様、国が審査し有効性と安全性を認めて認可された医薬品であり、
トラブルが生じた際は国が責任を持つことになるので、
現場では与えられた条件で粛々と接種するのみです。

反対する人たちは、
つまるところ、日本の厚生労働省、ひいては日本の政府を信頼していないということなのでしょう。
これは今まで医療問題を積極的に解決してこなかった日本政府の引き起こした現象であり、
水俣病や薬害エイズ問題の後遺症でもあります。

この不安を解消するには、
長い年月をかけて「国は国民の命を守っている」ことを実行し続けるしかありません。



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予防接種情報2024〜経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(フルミスト®)登場

2024年11月11日 13時41分37秒 | 予防接種
アメリカでは以前から導入されていた「経鼻弱毒生インフルエンザワクチン」。
ようやく今シーズン(2024/2025)から日本でも接種できるようになりました。
今までも志ある小児科医たちが輸入して接種してきた実績もあります。

実際のワクチン製剤を見てみると…
注射器に入ってます。
が、針がありません。

当院でも希望者に接種をはじめていますが、
身構えていた子どもたちも、
鼻の穴に注射器の先を入れてシュッ、シュッと噴霧するだけなので、
「え、もう終わり?」
という反応です。

フルミスト®の基本情報を列挙します;

対象:  2歳以上、19歳未満
用量:  0.2ml(各鼻腔内に0.1mlずつ)を鼻腔内に噴霧
     1シーズンに1回のみ
接種間隔:他のワクチンの接種間隔制限なし、同時接種も可
副反応: 鼻漏・鼻閉(59.2%)、咳嗽、咽頭痛など
その他: 免疫不全者や妊婦、その他リスクのある例は禁忌

…ん?生ワクチンなのに、他ワクチンとの接種間隔に制限なし?
と一旦は疑問に思いましたが、これは投与経路が異なるからと理解できます。


<参考>
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予防接種情報2024〜風疹ワクチンキャッチアップ接種

2024年11月11日 06時39分10秒 | 予防接種
一般市民にとって風疹とは、発疹の出る一過性の感染症ですが、
小児科医にとっては「先天性風疹症候群」を引き起こす恐い感染症です。
妊婦さんが風疹に罹ると、お腹の赤ちゃんに影響が出て病気を持って生まれてくるのです。

歴史上、それが繰り返されてきました。
風疹が流行した翌年、先天性風疹症候群の発生がニュースになり、
その度にガッカリします。

風疹はワクチンで予防できる感染症で、
その効果は90%以上!
…それなら簡単、と思いきや、そのワクチンを接種していない世代があります。

日本の予防接種行政の穴が原因です。
現在の中年男性の多くが、風疹ワクチンを受けていません。

そして中年男性が風疹に罹ると、
その奥さんが風疹をもらってしまい、
その奥さんが妊娠中であればお腹の赤ちゃんに病気が発生…

この悪循環を断ち切るために政府は、
「風疹キャッチアップ接種」
というシステムを設けました。

風疹ワクチンを接種する機会がなかった成人男性に、
ワクチンを打ちましょう、と呼びかけるキャンペーンです。

しかし成人男性は生産世代で社会活動の中心を担い、
平日病院へ行ってワクチン接種、という構図はハードルが高く、
やはり実績が出せていないのが現状です。

このキャッチアップ接種、正式には「風疹第5期」と設定されています。
昭和37年4月2日〜昭和54年4月1日生まれの男性が対象(現在、45歳〜62歳
2024年度末までに大正世代の男性の抗体保有率を90%に引き上げる
ことを目標にしています。

対象者の男性で、まだ抗体検査・ワクチン接種が住んでいない方は、
こちらからお住まいの自治体の問い合わせ先を確認し、
未来の子どもたちのために行動を起こしましょう。

実は私自身、接種対象者世代の男性です。
30数年前、小児科医は医師として働く際に、
各ウイルス感染症の抗体価を測定し、
すると全部抗体価の上昇が確認できました。
つまり、風疹も感染既往があったということ。
はて、いつ罹ったんだろう…親に聞いても「?」でした。

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予防接種情報2024〜HPVワクチンの現状

2024年11月09日 07時15分04秒 | 予防接種
HPVワクチン(≒ 子宮頚がんワクチン)が2022年4月に復権しました。
長らく続いた「定期接種勧奨停止」状態が解除されたのです。

つまり、「定期接種勧奨」に戻ったということ。
これで世界標準となり、たくさんの日本人女性の命が助かります。
なにせ、子宮頚がんで毎年3000人弱の日本人女性が死亡しているのですから。

以前から感じていることですが、
日本人は国民皆保険で医療が発達している副作用なのか、
予防医学に対する関心と価値観が乏しいですね。
そして予防医学、特にワクチンの副作用(副反応)には過剰反応を示します。

これって「平和ボケ」という側面もあるかと。

日本人には、
「病気になったら医者にかかればいい」
という観念が根底にありますよね。

しかし世界を見渡すと、適切な医療に手が届かない国民・民族がたくさん存在します。

「病気になっても医者にかかることができない」
そこでワクチンが重視される背景には、
「命に関わる病気を予防できるワクチンがあればそれが優先される」
という単純な論理があります。

さらに「ワクチン反対」を称えて金儲けをする輩も暗躍しています。
amazonで「ワクチン」と検索すると、
ワクチン反対本が上位を占め、評価が異常に高いことがわかります。
…人の不安・弱みにつけ込む商売は反社会勢力と同じニオイを感じます。

さて、本題に入ります。

HPVワクチンは3種類存在します。
それぞれ、含んでいるサブタイプ(血清型)の数が異なります。
発売された順に、含まれる血清型の数が増えてきました。

1.サーバリックス®(2価):16、18
2.ガーダシル®(4価):6、11、16、18
3.シルガード9®(9価):6、11、16、18、31、33、45、52、58

なお、6と11は子宮頚がんではなく尖圭コンジローマをターゲットとしています。

子宮頚がんの原因ウイルスの血清型は16と18で70%をカバーし、
シルガード9に含まれる血清型全部では90%以上をカバーするとされています。

そして3つのワクチンすべてが定期接種として、
小学6年生女子〜高校2年生女子に勧奨されています。

海外では男子も接種対象ですが、
現時点では日本では対象外です。

この3つのワクチン、
面倒くさいことに接種対象と接種間隔の設定が微妙に異なります。

1.サーバリックス:10歳以上
 1回目と2回目の間隔は1ヶ月
 2回目と3回目の間隔は2ヶ月半

2.ガーダシル:9歳以上
 1回目と2回目の間隔は1ヶ月
 2回目と3回目の間隔は3ヶ月
※ 男性も任意接種可

3.シルガード9:9歳以上
 1回目と2回目の間隔は1ヶ月
 2回目と3回目の間隔は3ヶ月
※ 15歳未満で開始した場合、5ヶ月以上間隔で2回接種で可

いつも思うのですが、予防接種行政ってこのズレを統一できないんでしょうか?
上記ルールから1日でもはずれると医師は犯罪者のように扱われ、
「定期接種外になるので補助は受けられません」
と開業医が持ち出しで費用を負担する❌️が発生します。
…予防接種に関してはあちこちにトラップがあると構えて日々対処する必要があります。

それからHPVワクチンに関しては、
キャッチアップ接種」が話題となっています。
積極的勧奨停止で接種する機会を逃した女性に対する救済措置です。
その対象者は、

1997年4月2日〜2006年4月1日生まれの女性
(=2024年度に19〜27歳の誕生日を迎える女性)
過去にHPVワクチン接種を合計3回受けていないことが条件
 → 2022年4月から2025年3月までの3年間、公費接種可能

という内容です。

以上が現状ですが、複数のワクチンが存在する故の素朴な疑問が発生してきます。

Q.2価または4価ワクチン接種完了後(つまり子宮頚がん原因ウイルスの7割カバー)、さらなる効果を求めて9価ワクチン(子宮頚がん原因ウイルスの9割カバー)を追加可能か?
A.推奨しない。

Q.途中からほかのHPVワクチンに変更可能か?
A.原則として同じワクチンを接種(ただし医師と相談の上で変更可能)。

これを読むと、2025年3月までに3回接種終了するためには6ヶ月必要、
つまり2024年9月が実質上のタイムリミットになるはずでした…が!

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