小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

アレルギー性結膜炎に“塗る点眼薬”登場

2025年01月26日 05時14分48秒 | 花粉症
花粉症に関する某セミナーを視聴していて知りました。
抗アレルギー薬の“塗る点眼薬、アレジオン眼瞼クリーム”が認可されたとのこと。

・適応はアレルギー性結膜炎(花粉症を含む)であり、眼瞼湿疹(アトピー性眼瞼炎)ではない。
・夜寝る前に上下のまぶた(上だけではないと強調)に塗れば、点眼薬と同じ効果が期待できる。
・翌日は1日中効果がもつので手間なし、つらさなし。
・塗る場所の皮膚が荒れている場合は、その治療を優先すべし。

こんな内容でした。
私は「点眼を怖がって拒否する子どもにいい薬だな」と感じました。
この薬を扱った記事を紹介します。

▢ 眼瞼に塗る抗ヒスタミン薬が登場、花粉による目の痒みにどう対応する?
2025/01/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 年々患者が増加し、今や国民病とも言われる花粉症。鼻水や鼻づまりなどの症状と合わせて「目の痒み」を訴える患者も多く、2017年に日本眼科学会が行った調査では、国民の4割弱はスギやヒノキによる季節性アレルギー性結膜炎を有していると報告されている。アレルギー性結膜炎に対しては、まず抗アレルギー点眼薬を処方することが多いが、2024年5月に、新剤形のアレジオン眼瞼クリーム0.5%(一般名エピナスチン)が発売された。
 アレジオン眼瞼クリームは、上下のまぶたに塗布することで、経皮から吸収され、眼瞼結膜や眼球結膜に持続的に作用するよう設計された薬剤アレルギー性結膜炎を適応とし、スギなどによる季節性アレルギー性結膜炎にも使用できる。主成分のエピナスチンは、抗ヒスタミン作用とメディエーター遊離抑制作用を併せ持ち、アレルギー性結膜炎による痒みや充血を抑える。同じエピナスチンの点眼液には、1日4回点眼のアレジオン点眼液0.05%、1日2回点眼のアレジオンLX点眼液0.1%などがある(関連記事:【漫画】世界初の新剤型!眼瞼クリームとは)。
 既に、通年性アレルギー性結膜炎患者などに対してアレジオン眼瞼クリームを使用している庄司眼科医院(千葉県木更津市)院長の庄司純氏は、「スギやヒノキによるアレルギー性結膜炎のシーズンはまだ経験していないので、手放しに推奨することはできないが、眼科専門医でなくても比較的安全に処方することができるだろう」と話す。

▶ 「点眼の負担が軽減できる」との声も、ネックは薬価?
 アレジオン眼瞼クリームの用法は1日1回であるため、1日2~4回点眼する必要がある抗アレルギー点眼薬と比較して、患者の負担が少ないのが特徴だ。庄司氏は、「これまで、仕事や学校で忙しい日中に点眼を忘れたり、化粧崩れが嫌で点眼を避けたりして、用法用量が順守できず十分な効果が得られない患者は少なくなかった。アレジオン眼瞼クリームは1日1回の塗布で効果が24時間続くため、使用した患者からは負担軽減を実感する声が上がっている」と説明する。
 点眼が困難な小児や高齢者にも、クリーム製剤のメリットは大きい。特に、高齢者は緑内障などの他疾患に対して既に点眼薬を処方されている場合があり、花粉による目の痒みには「塗り薬」を出すことで、患者の混乱を防げるケースもあるという。一方、庄司氏は「アトピー性皮膚炎患者や、アトピー性皮膚炎の既往がある患者には使用を避けた方がよい。明確な原因は分かっていないが、眼瞼に発赤が生じることがある」と自身の臨床経験を語る。
 ただ、アレジオン眼瞼クリームの薬価は、1gあたり1686.7円。1カ月間で2gチューブを1本使うとすると、後発品がある抗アレルギー点眼薬よりは割高になる。また、クリーム製剤より点眼薬の使用感を好む患者も一定数いるため、患者に選択肢を提示し、希望を聞いた上で処方を決定するとよいだろう。

▶ まずは「寝る前に塗布」、慣れたら患者に合ったタイミングで
 アレジオン眼瞼クリームを処方する際には、幾つか指導すべきポイントがある。まず、片眼あたり約1.3cm長(成人の人さし指先端から第一関節までの長さの半分程度)を指先に取り、上下の眼瞼に半量ずつ乗せてからなじませるような塗り方が推奨されている(外部リンク:参天製薬ウェブサイト)。さらに、「患者処方箋を用いて塗り方を説明しても、アレルギー性結膜炎では初の経皮薬ということもあり、用法用量を理解できない患者もいる。その場合、眼内に点入してはいけないことを強調する必要がある。また、使用しているうちに1回あたりの塗布量が減少したり、症状がない時に塗らない患者もいるため、1本を1カ月程度で使い切るという目安もきちんと伝えた方がよい」(庄司氏)という。
 塗布のタイミングについては、「『いつでもよい』と言うと患者が混乱してしまうことがあるため、アレジオン眼瞼クリームが初めての患者には、まず、就寝前の使用を勧めている」と庄司氏。患者が慣れてきたら、毎日塗ることができる自分なりの良いタイミングを探すよう指導しており、夜勤終わりや、スキンケアのルーティンを妨げない化粧前など、患者によって様々なタイミングで使用しているという。

▶ 「目が痒い」だけでアレルギー性結膜炎と判断してよいのか?
 花粉の飛散時期に、患者から「目が痒い」との訴えがあると、花粉によるアレルギー性結膜炎だとすぐ判断しがち。だが、中には別の疾患が隠れている可能性もあるため注意が必要だ。「特に、花粉症シーズンに間違えやすいのは、ウイルスや細菌による感染性結膜炎で、細隙灯顕微鏡検査を行わない眼科以外の診療科の医師では、見分けることが困難な症例も少なくない」と庄司氏は指摘する。
 非専門医が、アレルギー性結膜炎を見極める上でまず重要なのは、問診で、「痒み」と「既往歴」を確認することだ。花粉によるアレルギー性結膜炎は、ほぼ100%の症例で痒みを伴う。さらに、過去にアレルギー性結膜炎や花粉症、他のアレルギー疾患の既往がある患者はアレルギー性結膜炎の可能性が高い。順天堂大学医学部附属浦安病院眼科教授の海老原伸行氏は、「痒みと既往歴がそろったら、臨床的にアレルギー性結膜炎と診断し、抗アレルギー薬を処方してもよいだろう。逆に、目に痛みがあったり、見え方に異常があったりする患者には、感染性角結膜炎など他の疾患が隠れているかもしれない」と説明する。
・・・
 アレルギー性結膜炎の確定診断を行う場合は、I型アレルギー反応を証明するため、涙液中総IgE抗体を測定する必要がある。一方、流行性角結膜炎の確定診断にはアデノウイルスなどの抗原検査キットを用いてもよい(関連記事:非眼科医でも抗アレルギー点眼薬の積極処方を)。
 庄司氏は、「専門医による確定診断が必要な患者や、重症のアレルギー性結膜炎の患者は紹介の対象になる」と言う。重症のアレルギー性結膜炎とは、日中でも拭わなければならないほどの眼脂が出たり、外用の抗アレルギー薬で十分な効果が得られなかったりするケースを指すという。海老原氏は、「重症患者には、ステロイド点眼薬などで対応するが、眼圧計などのない医療機関では十分な対応が難しい。外用の抗アレルギー薬を1週間使用しても症状が緩和しない場合は、専門医への受診を勧めてほしい」と話している。


・・・上記に追加して以下の特徴を追記しておきます:

・高価!
・処方前にアレルギー性結膜炎と確定診断する必要がある。



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鼻水止め(抗ヒスタミン薬)と子どもの熱性けいれんとの関連

2025年01月25日 18時58分28秒 | 小児医療
昔からこの話題が繰り返し議論されてきました。
このブログでも何回か取りあげた記憶があります。

近年、リスク回避のため小児科医は鼻水止めを処方しなくなってきています。
しかし厚労省が処方禁止にしているわけではありません。
小児科医が一番多く処方している「ペリアクチン(=シプロヘプタジン)」の添付文書には以下のように記載されています(下線は私が引きました);

9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.7.2 乳児又は幼児
年齢及び体重を十分考慮し、用量を調節するなど慎重に投与する こと。過量投与により副作用が強くあらわれるおそれがある。抗 ヒスタミン剤の過量投与により、特に乳・幼児において、幻覚、 中枢神経抑制、痙攣、呼吸停止、心停止を起こし、死に至ること がある

11. 副作用
11.1.2 痙攣(頻度不明)

13. 過量投与
中枢神経症状、アトロピン様症状、消化器症状があらわれるおそ れがある。特に乳・幼児では中枢神経症状があらわれるおそれが あるので注意すること。なお、処置として中枢興奮剤は使用しな いこと。

以上より読み取れることは、
ペリアクチンは過量投与で痙攣を含めた中枢神経症状が出る可能性がある
のみです。
ふつうに処方されたペリアクチンを飲んでも危険はないということ。

ではなぜ小児科医が処方を控える傾向があるのか?
答えは「なんとなく恐いから」「触らぬ神にたたりなし」というレベルなのでしょうか。
それを扱った記事を紹介します;


▢ 乳幼児への抗ヒスタミン薬使用と熱性痙攣
2015.1.3:日本医事新報社)より一部抜粋(下線は私が引きました);

Q.   熱性痙攣の閾値が下がるとの理由で,乳幼児への抗ヒスタミン薬(特に第一世代)の投与を控える傾向がある。乳幼児への抗ヒスタミン薬使用と熱性痙攣の関連について。また発熱性疾患以外(皮膚疾患やアレルギー疾患)でも控えたほうがいいのか。可能であれば推奨薬,非推奨薬についても。

A.   抗ヒスタミン薬は,局所のH1受容体と結合する作用により鼻汁や㿋痒を抑制させる目的で小児アレルギー疾患において汎用されるが・・・熱性痙攣誘発の可能性が高い。
 発熱で救急外来を受診した小児(平均年齢1.7~1.8歳)では,熱性痙攣が認められた群では抗ヒスタミン薬を45.5%が内服しており,熱性痙攣を認めなかった群の抗ヒスタミン薬の内服率22.7%の約2倍であった(文献1)。そのため,幼少児(特に2歳未満)の患児への投与には十分な注意が必要である。
 抗ヒスタミン薬が痙攣を誘発する機序は,脳内へ薬剤が移行することでヒスタミン神経系の機能を逆転させてしまうことによる。・・・ヒスタミンも痙攣抑制的に作用する神経伝達物質であるため,抗ヒスタミン薬が脳内へ移行し,拮抗することは望ましくない。
 これらの理由で,厚生労働省のPMDA重篤副作用疾患別対応マニュアル「小児の急性脳症」編(平成23年4月28日)において,患者・保護者に対しては,「お薬の副作用として急性脳症の症状が現れることがまれにあります。アスピリンなどの熱さまし,抗ヒスタミン薬を含むかぜ薬や,気管支を広げるためのぜんそくの薬などの他,てんかんを治す薬や免疫を抑える薬などの一部の薬が,小児の急性脳症の発症に関係のある場合があります」とある。
 医療関係者に対しては,「抗ヒスタミン薬が痙攣を発症する機序は,脳内へ薬剤が移行することでヒスタミン神経系の機能を逆転させてしまう機序による。ヒスタミンも痙攣抑制的に作用する神経伝達物質であるため,抗ヒスタミン薬が脳内へ移行し拮抗することは望ましくない」と注意喚起されている。
・・・ 発育途中の脆弱な脳を持つ小児期に抗ヒスタミン薬を長期に使用する場合は,悪影響を及ぼす可能性を危惧して(文献7) ,脳内へ移行しにくい新しいタイプの抗ヒスタミン薬(アレグラR,アレジオンR,ザイザルRなど)を選択することが望ましい(表1)(文献8)。


<参考文献>
1) Yokoyama H, et al:Eth Find Exp Clin Pharmacol. 1996;18(Suppl A):181-6.
2) Simons FE:N Engl J Med. 2004;351(2):2203-17.
3) Yanai K, et al:Clin Exp Allergy.1999;29(Suppl 3):29-36.
4) Leurs R, et al:Clin Exp Allergy. 2002;32(4): 489-98.
5) 片山一朗, 他:アレルギー免疫. 2010;17(3):456-68.
6) Gathercole SE:Trends Cogn Sci. 1999;3(11): 410-9.
7) 辻井岳雄, 他:Pharma Medi. 2007;25(5):102-7.
8) 新島新一:医療ルネサンス. 読売新聞, 2014年7月28日.


・・・この記事を読むと「2歳未満の乳幼児には抗ヒスタミン薬を処方しない方が無難」という気持ちになります。
ではなぜ厚労省は添付文書を書き換えないのでしょう?
その答えは「エビデンスが不十分だから」と推測することしかできません。

そして、抗ヒスタミン薬の代わりに抗アレルギー薬(アレグラR,アレジオンR,ザイザルRなど)を提案しています。
これ、変です。
抗アレルギー薬には「上気道炎」や「鼻炎」の適応はありません。
上記薬剤を処方する場合、すべて「アレルギー性鼻炎」と診断されることになります。
そして実感として抗アレルギー薬は風邪の鼻水にはほとんど効きません。

そしてよく処方される「ザイザル(=レボセチリジン)」の添付文書には以下の記載があります;

9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 てんかん等の痙攣性疾患又はこれらの既往歴のある患者
痙攣を発現するおそれがある。

11. 副作用
11.1.2 痙攣(頻度不明)[9.1.1参照]

これって、ペリアクチンとほぼ同じ内容ですよね。

現在、A型インフルエンザが席巻しています。
もともとインフルエンザは中枢神経への親和性が高い、つまりけいれんや意識混濁など精神神経症状を起こしやすいウイルス感染症として有名です。
当院では従来から熱性けいれん経験者には抗ヒスタミン薬を処方しない方針でしたが、
インフルエンザ検査陽性者にも処方を控える方針をとっています。

その理由は、けいれんを起こしやすいからではなく、
けいれんを起こした場合に濡れ衣を着せられる可能性があるからです。

心配な方には漢方薬を提案しています。
鼻水・鼻づまりに効く漢方薬は眠くならない(抗ヒスタミン作用がない)ため、
けいれんのリスクが増えることはありません。

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医師偏在対策としての「開業規制」〜ドイツと日本〜

2025年01月18日 09時21分53秒 | 医療問題
都市部と地方の医師偏在を政治力で強引に行おうとする厚生労働省と、
「自由開業」が補償されてきた歴史を重視する日本医師会の綱引きは、
昔から行われてきてきました。

日本の厚労省はイギリス型のかかりつけ医制度を目指してきましたが、
紹介する記事ではドイツと比較しています。
いろいろな問題に悩みながらも、日本よりは進んだ制度になっている様子。

海外の医療制度と比較検討することにより、
よりよい精度になることを期待したいですね。


▢ 開業規制を導入したドイツで起きたこと医師偏在対策、ドイツの取り組み(前編)
吉田 恵子(独日通訳・青森県立保健大学大学院非常勤講師)
2025/01/17:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 日本では2024年末に「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」(以下、総合的な対策パッケージ)が策定され、今後は、国を挙げて医師の地域偏在や診療科偏在の是正に乗り出すことになった。一方、先んじてドイツではかねてより都市部などで外来診療所の開業規制を行っており、日本のパッケージで示されたメニューと比べると、縛りはずっと厳しい。こうした規制はどれほどの効果を上げているのか。また見えてきた限界は。ドイツ在住の医療ジャーナリスト、吉田恵子氏がリポートする。
 ドイツでは、医師・患者の高齢化や、医師の都会・病院・専門医志向、パート勤務の増加により、過疎地を中心に外来医※1、特に地域医療の要である家庭医の不足が深刻だ。地域・診療科偏在に対し、ドイツでは医師配置計画や経済的インセンティブを用いた対策が行われてきた。

※1:ドイツの外来医療は伝統的に、開業家庭医と、それ以外の開業専門医により提供されてきた。近年増加している外来医療機関の勤務医も、後述の「需要計画」においては開業医同様にカウントされる。本稿では特に言及しない限りは、外来医とは開業医と外来医療機関の勤務医を意味する。

 過疎地での医師不足が深刻化する日本でも、2024年末に総合的な対策パッケージが策定され、今後は、外来医師過多区域での「規制的手法」や、重点医師偏在対策支援区域での「経済的インセンティブ等」による複合的な対策に乗り出した(関連記事)。本稿では前編として、日本の規制的手法に当たるドイツでの医師配置計画、いわゆる開業規制について紹介する。加えて、不足が深刻化する家庭医のイメージ・地位の格上げによる確保策も見ていく。後編では、家庭医不足地区における経済的、またそれ以外のインセンティブ、さらには働き方の変化についてまとめる。

 ちなみに、ドイツでは入院医療と外来医療が明確に区別され、前者は病院、後者は診療所が担当する。診療所が病床を持つことはなく、病院も原則外来を持たない※2。病院勤務医には配置計画はなく、各病院は不足すると外国から医師をリクルートするなどして補っている。家庭医診療所は病院よりアクセスの悪い場所にも配置されており、こうした所では医師の確保はことさら難しい。また、外来医療においてはこれまで1人医師の診療所が中心であった。開業資金を払い、へき地の小さな診療所を承継しようとする医師は外国はもちろん国内にもほとんどおらず、家庭医の地域偏在につながっている。本稿で扱う規制は、外来医療機関を対象とし、特にへき地での医療供給の最後のとりでとなる家庭医診療所にフォーカスを当てる。

※2:現在ドイツでは病院改革が行われている。病院も外来を提供することが可能になる見込みだ。

▶ 需要に応じて地域別に各診療科の医師数を設定
 ドイツには需要計画という外来医配置計画に基づき、全国に17ある公的医療保険適用外来医の団体「保険医協会(Kassenärztliche Vereinigung )」が開業の許可・規制を行っている。需要計画は1990年代前半から都市部などでの外来医数の抑制対策として用いられてきた。具体的には、計画地区内の診療科別医師供給度※3が110%を超えると過多とし、原則その診療科の新規開業を認めない。ただし、既存診療所の承継はできたので、偏在のさらなる悪化は防げたが、問題の解消にはならなかった。

※3:診療科別の医師1人に対する理想的な住民数と、医師1人に対する実際の住民数との比率(ただし年齢構造などで調整)を供給度と呼び、実際の医師数が目標医師数と同じであれば100%となる。110%は医師が過剰にいることを示す(公的医療保険中央連合会)。

 医師過多地区での診療所承継にもルールがある。承継は、既存開業医の開業権の返却、および地域の保険医協会と保険者からなる委員会において「承継が必要である」と判断されることで可能になる。後継者は同じ分野の専門医資格者から公募され、最終的には委員会が法定基準に基づき選ぶ。医師としての活動年数や、医師不足地で連続5年以上保険医(外来医)として働いた経験などが考慮される。家族であることも考慮されるが、継げる保証はないという。選ばれ開業権を得た者は前任者から診療所を買う。
 2012年には全国あまねく住居の近くで医療が受けられるようにと、需要計画改革を行い、配置ルールが主に以下のように改められた(連邦保険医協会Bedarfsplanung)。

▶ ドイツにおける需要計画(外来医配置計画)の概要
・全診療科を医療ニーズに応じ4レベルに分類。ニーズに応じて計画地区を細分化し、地区ごとの目標医師数を定めた。
・最も医療ニーズが高いと位置付けられるのが家庭医。それまでは郡・市単位で計画配置されていたが、結果として広い郡の中心部に医師が集中してしまった。そこで郡を2、3に分け(市の場合は分割されず1地区とされたままが多い)、計画地区を全国372から883へ増やした(図1)。
・次にニーズが高い一般的専門医(小児科、婦人科、眼科、外科など)は全国を郡・市レベルで372地区に、その次の特別専門医(放射線科医、専門内科医など)は96地区、最も特殊な専門医(核医学医、病理医など)は州レベルの17地区に分けて計画地区とした。
家庭医1人当たりの住民数の目安を、全国一律1671人とした。これは他のどの診療科よりも少なく、結果的に家庭医の目標配置数は他専門医より大幅に多い。例えば、一般的専門医の外科1人当たりの住民数は2万6230〜4万7479人、特別専門医の放射線科医は4万9095人、特殊な専門医の核医学医は11万8468人とした。これらの値に基づき計画地区ごとの目標医師数を定める。目標医師数と実際の医師数を基に、計画地区内の「診療科別医師供給度」を算出する。なお、医師1人当たりの住民数や区割りは、その後も、地域の実情に応じて都度修正されている。
・・・
 2015年には、開業規制を強化し、供給度140%を超えた地区では原則、承継も不可とした。ただ、医師数は基本的に退職者に応じて減るしかないため、即効性はない。例えば家庭医の供給度が140%以上だったのは、2014年に8地区あった(Klose/ Rehbein)が、2023年もまだ4地区残っていた。婦人科では計画地区の2割が140%を上回っていた(連邦保険医協会の統計に基づき著者計算)。
 保険医協会によると、需要計画には人気地区で開業できない医師を定員に余裕のある地区に分散する効果はあるという。また、診療科間の数の均衡を専門医教育中に調整する効果もあるようだ。例えばある医師から、「当初は消化器内科を専門にしていたが、専門教育中に需要が高い家庭医に転向した」という話を聞いたことがある。
 需要計画を中心とした医師偏在対策によって、国民の89%が自家用車で5分以内で家庭医を受診できる状態を実現している(連邦政府)。だが、保険医協会によれば、この分散効果も過疎地には及びにくい。医師にとっては、病院勤務や都市部周辺での開業といった選択肢が残されているからだ。過疎地へは、これらの選択肢に劣らないインセンティブを用意して医師を誘致するしかないという。こうした話は後編で紹介する。
 日本における規制的手法(総合的な対策パッケージでは「地域の医療機関の支え合いの仕組み」と表現)では、外来医師過多区域において「新規開業を希望する医療機関に『地域で必要な医療機能』を提供するよう要請を行い、応じなかった場合に勧告および公表を行う」こととなっている。開業を禁じているわけではなく、承継には制限がないため、ドイツと比べると緩い規制である。中長期的に見ても、このままでは都市部の医師はほとんど減らないのではないだろうか。総合的な対策パッケージでは施行後5年をめどに効果検証し、十分な効果が得られなければ、さらなる対策を講じる方針が示されており、ドイツのようなより厳しい開業規制、承継規制、診療科偏在対策が議論される可能性はある。
 過疎地への医師分散については、ドイツ同様、規制的手法だけでは効果を示さないだろう。日本でも大学病院(医局)からの派遣などで不足地を補う従来の手法に加えて、不足地への医師誘導には強力なインセンティブが必要になりそうである。
 ただ、日本も医師偏在対策を行うために、各区域における医師数の過不足の実態把握に本腰を入れ始めたということは注目すべきである。日本とドイツとでは医療の機能分化の形が異なるため、全く同じ形式にはならなそうだが、不足・過多を早期に発見し策を打つために、ドイツのように診療科ごとや、狭い地区単位で医師の所在地が詳細に把握され、「目標医師数」と比較されるような未来も近いと見られる。

▶ 診療科偏在解消─家庭医の格上げとその効果
 地域偏在の解消のため、特に過疎地へ医師を分散させるためには、ドイツにおいても強力なインセンティブが欠かせないというのは、先ほど触れた通りだ(詳細は後編で述べる)。
 では、診療科偏在ではどうか。日本の総合的な対策パッケージでは、病院の外科医不足について触れられているが、それほど踏み込んだ記載はない。一方、ドイツでは家庭医の絶対数が不足していたため、イメージ・地位の格上げによる確保策を講じてきた。
 ドイツは開業医と外来医療機関の勤務医が外来医療を、その中で家庭医がプライマリ・ケアを担う。現役医師42万8500人のうち15万3700人が公的保険適用外来医であり、そのうち5万5300人が家庭医である(連邦保険医協会2023)。
 家庭医とは、総合医療の専門医だ。総合医療の範囲内であれば最初の窓口として自ら患者を診療し、範囲外の診療が必要と判断すれば適切な外来専門医への受診、または入院・リハビリテーションを指示する。英国のような登録制ではないが、国民の9割以上は自らかかりつけ家庭医を決めている(Frankfurter Institut der Allgemeinmedizin)。
 ドイツでは現在、専門医の資格保有者しか公的医療保険適用医として開業できないが、以前は専門医教育を終えていない医師も開業し、家庭医役を果たしていた※4。しかし、医療の専門化が進むとともに、低い地位・報酬に甘んじざるを得ず、家庭医の成り手は減っていった※5。その上、若い医師は、開業資金がかかり時間的拘束も多い開業医を避ける傾向がある。こうして過疎地を中心とした家庭医不足は10年以上前から予測され、需要計画による適正配置や各種インセンティブのほか、家庭医の地位やイメージ向上、労働条件などの改善が行われてきた。

※4:ドイツでは国民の約9割が公的医療保険、1割が民間医療保険に加入している。本稿は公的医療保険制度のみを対象として書かれている。
※5:家庭医数は1999年は5万9000人だったが、その後5万4000人まで減少した。現在は5万5000人程度である(AOK)。頭数はそれほど減っていないが、高齢化とパート勤務医師の増加により、不足度は増している。


 その一方で近年、慢性疾患や健康管理ができる総合医療の専門医が国内外で重要視されるようになった。こうして2003年、総合医療専門医資格が家庭医の開業要件となり、家庭医が専門医に格上げされた(独家庭医協会 2020)。
 アカデミック化も進み、総合医療講座を新設する医学部が増えた。病院だけでなく家庭医診療所での実習も必修科目になり、医学生が家庭医療を体験する機会がつくられた。
 処遇も改善されつつあり、他の専門医の平均に比べ低かった公的保険からの報酬合計額は、今では平均を若干上回っている(連邦保険医協会 Praxisnachrichten)※6。

※6:公的保険適用の診療行為および診療報酬体系は診療科ごとに異なり、外来医診療報酬合計額の平均値は診療科間で差がある。開業医の報酬は通常、公的医療保険からの診療報酬を主体に、民間医療保険や自由診療などからの報酬が加わる。

 教育体制の充実や処遇改善など格上げ努力の結果、まだ十分ではないが総合医療専門医の認定数は再び増え出し、減っていた家庭医数は横ばい・微増傾向にある(連邦医師会)。
 日本では過疎地で1次・2次救急、かかりつけ医を担えるような総合診療医の不足が深刻化している。専門医の育成も徐々に進んでいるようだが、ドイツの例のように地位やイメージ向上、処遇改善などを思い切って行わないと、不足を埋め合わせることはできないのではないか。また、外科医についても、日本が示す施策のように機能集約をした上で、診療報酬改定などによって病院に収益をもたらせる存在にしていくといった検討が必要だろう。

【引用・参考文献】
・吉田恵子 ドイツ過疎地での家庭医確保策. 社会保険旬報 2024;2943:16-22.
・厚生労働省「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」
・Bundesärztekammer 連邦医師会. 医師統計(2023)
・KBV 連邦保険医協会. Bedarfsplanung(需要計画)
・Klose J , Rehbein I. Ärzteatlas: Daten zur Versorgungsdichte von Vertragsärzten. Berlin: Wissenschaftliches Institut der AOK.(2016)
・Bundesregierung 連邦政府. Deutschlandatlas. Erreichbarkeit von Hausärzten: 99 Prozent brauchen mit dem Pkw längstens 10 Minuten.
・Goethe-Universität Frankfurt Frankfurter Institut der Allgemeinmedizin.
・Deutscher Hausärzteverband独家庭医協会 (2020)60 Jahre Deutscher Hausärzteverband e.V.
・KBV 連邦保険医協会. Praxisnachrichten.
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鉄欠乏性貧血 アップデート2025

2025年01月16日 20時14分49秒 | 医療問題
世間でも医療界でも鉄欠乏性貧血でザワついています。
テレビでは多くの体調不良の原因として取りあげられることが増え、
医療界ではまだ貧血になっていない鉄欠乏状態でも治療対象にしようという動きがあります。

それらの情報を、私は一理あるとは思いつつ、すべて信じ込んでいいのかどうか、躊躇しています。

漢方医学では「身体に合う、体が必要とする食べ物は美味しく感じる」という口訣(クリニックパール)があります。
しかし鉄欠乏の患者さんに鉄剤を処方しても「胃がもたれて飲めません」という方が多いのが現実。

これはどういうことなのでしょう?

という意見もあります。

鉄を巡る医療の変遷を、注意深く見守り続けたいと思います。


▢ 鉄剤処方や検査・問診のポイント~「鉄欠乏性貧血の診療指針」発刊
2024/12/25:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 
 貧血の7割を占めるといわれる鉄欠乏性貧血。これに関し『鉄欠乏性貧血の診療指針』が2024年7月に発刊された。これまでに「鉄剤の適正使用による貧血治療指針」が2004年から2015年にわたり3回発刊されてきたが、近年では高用量の静注鉄剤をはじめとした新たな鉄剤が普及しつつあることから、鉄欠乏性貧血の診療の改訂が必要と判断され、このたび、タイトルを刷新して発刊に至った。そこで今回、診療指針作成のためのワーキンググループのメンバーである生田 克哉氏(北海道赤十字血液センター)に鉄欠乏性貧血を診断、治療するうえで知っておくべきポイントなどを聞いた。・・・
 本書は以下のように、3つの章と補遺で構成されている。

第I章  鉄代謝に関する総論
第II章  鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断指針
第III章 鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の治療指針
補遺  1. 貯血式自己血輸血における自己血貯血
    2. 鉄代謝異常症の遺伝的素因について

▶ 鉄欠乏が進む患者層、現代ならではの問題
 まず、第I章では、鉄の生理作用、人体内での鉄イオンの存在様式、鉄代謝制御の概要などが最新の研究結果を基に見直されており、生田氏によると「鉄代謝全般に関して基礎知識を学びたい先生にも有用となる仕上がりとなっている」という。
 続いて第II章では、貧血に関する疫学が示されており(p.18表II-1-1、p.19図II-1-1)、女性の場合は高齢者に続き30~40代の貧血の割合が高いことが示されている。これについては、「晩婚化によって生涯の月経回数が増えていることが一因と考えられる。患者には時代に応じた薬物治療や栄養学的実践の指導を行う必要があるため、30~40代の貧血を診断した際には、上記の説明を加えて、鉄の重要性について意識を持っていただけるようにしてほしい」と述べた。
 鉄欠乏性貧血の原因の項目(p.24)では、トピックスとして「悪性貧血と鉄欠乏性貧血」が記されているが、一言で貧血と言っても鉄欠乏・鉄欠乏性なのか否かの判断がその後の治療にも大きく左右するため、非常に重要である。
 たとえば、慢性炎症に伴う貧血と鉄欠乏性貧血を判別するうえでは、検査値としてヘモグロビン(Hb)値:低、平均赤血球容積(MCV)値:低、血清鉄を確認されるだろう。ところが、血液中の鉄量はどちらも減少している状態のため、いずれの検査値も両者とも同じ動向を示してしまう。鉄欠乏性貧血を鑑別する際には、鉄の体内蓄積の指標である血清フェリチンが低いかどうかをしっかり確認してもらいたい」と同氏は強調し、「不飽和鉄結合能(UIBC)を測定することで総鉄結合能(TIBC)にも違いが見られ、さらなる鑑別になる」とも説明した。
 ただし問題点として、血清フェリチンが炎症の影響で上昇してしまい、本当に鉄が不足しているのかわからないことがある。病態生理的に慢性炎症に伴う貧血はヘプシジンの測定が鑑別に有用であるが、現時点では保険適用はないため、現状はさまざまな病態や検査マーカーを組み合わせて判断してほしい。
 なお、微量元素の銅や亜鉛も臨床症状によって過不足の判断が難しい項目であるが、貧血の原因となっている場合があるため、貧血の原因が特定できない時には微量元素の測定も推奨していきたい(p.33)」と話した。

▶ 鉄剤の処方時にうっかりしやすいこと
 鉄剤を処方する前に確認しておくべき第III章は、治療方針、鉄剤による治療開始前に患者へ説明しておくべき事項、治療薬の種類、治療効果や鉄剤が効かなかった場合の対応方法について網羅されており、新薬である経口剤のクエン酸第二鉄水和物錠(商品名:リオナ)、注射剤のカルボキシマルトース第二鉄(同:フェインジェクト)やデルイソマルトース第二鉄(同:モノヴァー)の製品特徴に触れている。「新薬については、発売の経緯や特徴がわかりやすくなるよう意識して構成し、本邦における各薬剤の臨床試験については、コラムで紹介する形にして読みやすさを考慮した」と説明した。
 さらに、鉄剤の処方時の注意点については、「たとえば循環器領域において、『静注鉄剤の入院率や入院期間への有用性に関する論文』が海外で報告されているが、この研究対象は鉄欠乏ではあるが貧血患者ではない。日本での鉄剤の保険適用はあくまで“貧血がある場合”に限るため、鉄剤を処方する際には鉄欠乏性貧血の診断基準を満たすかどうかを確認する必要がある」と指摘した。なお、実際の投与量や切り替えタイミング、どのような場面での処方が適切なのかは、今後、実臨床からの声をくみ上げて検証・反映させていく予定だという。
 このほか、領域別(腎臓内科、消化器内科、産婦人科、小児科)の鉄剤使用法を示している点が本章の特徴である。

▶ 鉄欠乏性貧血を問診で疑う際、注意したい症状
 問診時の注意点として、同氏は「軽い貧血でもおざなりな対応をせず、鉄剤服用後のモニタリング(たとえば、3ヵ月に1回の通院時で血算以外に血清フェリチンを確認)を行い、鉄剤を漫然投与せず、必要に応じて中断し経過観察することも重要」とし、「鉄欠乏性貧血患者が問診時に訴える症状として、氷をガリガリ食べる異食症が散見される。また、脚のつりむずむず脚症候群に関しても患者本人からの訴えはないものの、問診してみると症状を有している場合があるため、治療モニタリングのためにもこれらの症状がカギとなることを理解しておいてほしい」と症状を探るポイントを説明した。
 さらに、鉄欠乏性貧血患者の特徴として「自覚症状や特異的症状がないことも多いため、だるさ(倦怠感)があったり、自律神経失調症と診断されたりした方はHb値に問題なくても実は…という場合がある。気象病月経前不快気分障害などを自覚する方には鉄欠乏性貧血を疑い、実際に鉄欠乏性貧血を認めた場合には、軽度の貧血であっても鉄剤を処方すると患者さんが見違えるくらい元気になることがある」とコメントした。

▶ 改訂に至った経緯
 最後に、生田氏は改訂の背景について「鉄代謝に関しての新たな知見は集積しているが、鉄欠乏性貧血に関する目立った研究的視点が加わっていなかったため、なかなか改訂に至らなかった。しかし、近年に新たな経口鉄剤や静注鉄剤が登場したことで、今後の鉄欠乏性貧血の診療もそれらを見据えたうえで方針を決定する必要があることから、第3版では対応しきれなくなった」とし、「今回の改訂ではMinds方式を取ることができなかったが、項目立てからしっかり見直し、各領域の専門家が独立して執筆を担当していた第3版に対して、本書はワーキンググループ全体で見解を統一させた。ありふれた疾患であるゆえ、新たな知見が出そろわない、海外でも高いエビデンスを持って適切な治療の推奨ができない、各国で使用する鉄剤が異なるなどの要因がありMinds方式が取りづらく従来の方式を踏襲した」とガイドラインではなく指針に留まった旨についても説明し、「ぜひ、日常診療で本書を役立ててもらいたい」と締めくくった。

<参考文献・参考サイト>
・日本鉄バイオサイエンス学会編. 鉄欠乏性貧血の診療指針. フジメディカル出版;2024.
・日本鉄バイオサイエンス学会:「鉄欠乏性貧血の診療指針 第1版」の刊行について

・・・ちなみに漢方では貧血を「血虚」という概念で捉えます。
血虚の症状は以下の通り(寺澤の“血虚”スコア)です。
一部共通する症状がありますね。

・集中力低下
・不眠/睡眠障害
・眼精疲労
・めまい感
・こむらがえり
・過少月経、月経不順
・顔色不良
・頭髪が抜けやすい
・皮膚の乾燥と荒れ、あかぎれ
・爪の異常:爪がもろい、爪がひび割れる、爪床部の皮膚が荒れてサ サクレるなどの症状
・知覚異常:ピリピリ、ズーズーなどのしびれ感、ひと皮被った感じ、知覚低下など
・腹直筋急痙

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飛行機の中でのCOVID-19感染リスクとマスクの効果を検証

2025年01月07日 06時21分39秒 | 新型コロナ
新型コロナ渦中では随分話題になった「隔離空間での感染リスク」。
飛まつ感染と空気感染の中間に位置づけられた「エアロゾル感染」という新しい概念の元、
喧々顎学の議論があったことを記憶している方は多いと思われます。

経験から言うと、市販の「サージカルマスク」では限界があります。
私は小児科医ですが、サージカルマスクを装着して診療していても、
患者さんから新型コロナをもらって感染・発症してしまいました。

医療者が使う「N95」マスクはどうでしょう。
これはほぼ完璧だと思います。
新型コロナ感染後、私はサージカルマスクからN95マスクへ替えました。
それ以降、新型コロナどころか、ふつうの風邪さえ何年も引いていません。

飛行機という隔離空間での感染リスクとマスクの効果を扱った記事が目に留まりましたので、
紹介します。
一つの研究ではなく、複数の信頼置ける研究をまとめて検討したシステマティック・レビューとメタアナラシスです。

<ポイント>
マスクが強制でない3時間未満の短いフライトと比較して、
マスクが強制でない6時間以上の長いフライトでは感染リスクが26倍に及ぶ。
マスク必須の場合では長時間のフライトでも感染が報告されなかった。

マスクが強制でない短距離、中距離、長距離のフライトの機内感染リスクを比較したところ、
短距離フライトに比べて、中距離は4.66倍、長距離は25.93倍の感染リスク増加と関連していた。
フライト時間が1時間長くなるごとに、罹患率が1.53倍増加した。

と効果は絶大であったことが判明しました。
ちなみに対象は一般市民なので使用されたマスクはN95以外と思われます。

▢ 行機でのコロナ感染リスク、マスクの効果が明らかに~メタ解析
2024/06/20:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの拡大は、航空機の利用も主な要因の1つとなったため、各国で渡航制限が行われた。航空業界は2023年末までに回復したものの、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の多い時期は毎年発生しており注意が必要だ。米国・スタンフォード大学のDiana Zhao氏らは、ワクチン導入前のCOVID-19パンデミック時の民間航空機の飛行時間とSARS-CoV-2感染に関するシステマティックレビューとメタ解析を実施した。その結果、マスクが強制でない3時間未満の短いフライトと比較して、マスクが強制でない6時間以上の長いフライトでは感染リスクが26倍に及ぶことや、マスク必須の場合では長時間のフライトでも感染が報告されなかったことなどが判明した。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2024年5月21日号に掲載。
 本研究では、PubMed、Scopus、Web of Scienceを使用し、2020年1月24日~2021年4月20日に発表されたCOVID-19と航空機感染に関連する研究のうち、SARS-CoV-2感染のインデックスケース(最初の感染者)がいることが確認されていて、フライト時間が明示されているものを対象とした。抽出されたデータには、フライトの特徴、乗客数、感染ケース数、フライト時間、マスクの使用状況が含まれた。フライト時間は、短距離(3時間未満)、中距離(3~6時間)、長距離(6時間超)に区分し、フライト時間と機内でのウイルス感染率の関係を負の二項回帰モデルを用いて分析した。
 主な結果は以下のとおり。

・15件の研究が解析対象となった。これらの研究には、合計50便のデータが含まれた。
・50便のうち、26便が短距離(2~2.83時間)、12便が中距離(3.5~5時間)、12便が長距離(7.5~15時間)だった。うち、長距離の6便はマスク必須であった。
・50便のうち、35便では機内での感染がなかった(短距離20便、中距離7便、長距離8便)。うち、マスク必須の長距離の6便ではすべて機内での感染がなかった
・15便で1件以上の機内感染が報告された。
・感染率は中央値0.67(四分位範囲[IQR]:0.17~2.17)、短距離では0.50(IQR:0.21~0.92)、中距離では0.29(IQR:0.11~1.83)、長距離では7.00(IQR:0.79~13.75)だった。
・いずれもマスクが強制でない短距離、中距離、長距離のフライトの機内感染リスクを比較したところ、短距離フライトに比べて、中距離は4.66倍(95%信頼区間[CI]:1.01~21.52、p<0.0001)、長距離は25.93倍(95%CI:4.1~164、p<0.0001)の感染リスク増加と関連していた。
フライト時間が1時間長くなるごとに、罹患率が1.53倍(95%CI:1.19~1.66、p<0.001)増加した。

 本研究により、フライト時間が長くなるほど、機内でのSARS-CoV-2感染リスクが増加することが示された。とくに、マスクを着用しない場合、このリスクは顕著に高まる。一方で、マスクの徹底した使用は、長時間のフライトにおいても感染リスクを効果的に抑制することが示された。
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偏食外来(見習い)

2025年01月05日 15時01分07秒 | 乳幼児検診
神奈川県立子ども医療センターでは偏食外来(担当:大山牧子Dr.)を開設しています。
どんな診療をしているのか、大いに興味があります。
大山先生のレクチャーをWEB上で見つけ、視聴してみました。

初診で45分、再診で30分を書け、じっくり診療しているそうです。
これは病院だからできることで、開業小児科の当院ではとてもそんなに時間をかけられません。
また、多職種でチーム医療をしていることも特徴で、これも開業医では無理です。

そして相談内容は“好き嫌い”レベルではなく、
より広い“食べない・食べてくれない”という食事拒否レベルであることがわかりました。
世界的には「摂食障害」と定義されており、
好き嫌い・偏食のイメージより、病的状態です。

開業医でどこまでできるか、模索中です。
診療のエッセンスをいただくべく、WEB配信セミナーを視聴しました。
メモを備忘録として残しておきます。

****************************************

 1.食に関する神話

Q.  飲んだり食べたりはヒトの本能として備わっているものですよね?
 → 生まれた赤ちゃんは本能的に飲食できるわけではなく、学んで獲得する技能である。

Q.  離乳食はスプーン使用が原則?
 → 手づかみ食べが自然であり、食べ物に手を伸ばして、つかんで、自分の口に入れるという食事の基本がそこにある。

Q.  手づかみ食べは危険なのでは?
 → 安全に与えるポイントがある;
✓ 赤ちゃんがのけぞっていないこと(泣いていると仰向け反り姿勢になりNG)
✓ 赤ちゃんが自分から食べ物を口に入れること
✓ 大人が側で見守っていること

Q.  食事は1日3回が基本ですよね?
 → 朝起きてから寝るまでの時間を2.5時間で割った数が1日の食事回数。
・・・16か月〜3歳までは、早め早めに与えると、食事と食事の間隔を2.5時間から3時間あけるより食べる量が減ります。

Q.  食事はしつけの場だから、よくないことは叱らないといけない?
 → 4歳までの子どもの頭の中には「食卓では口から出したり落としてこぼしたりしてはいけない」という考えはありません。
・「ダメ!」と言うと、子どもは注目されたと思ってもっとやる。
・して欲しくない行動には反応しないのが原則。

2.小児摂食障害とは
(定義)
年齢にそぐわない経口摂取障害で、
医学的、栄養的、摂食技能の機能障害を合併する。
精神社会機能障害を持つ場合も持たない場合もある。
小児摂食障害の結果、WHOの身体機能構造障害、活動障害、生活状況における問題をきたす。

3.子どもの偏食は介入する必要があるのか

▶ 正常範囲の摂食状況
・好き嫌い(ピッキーイーター)
・食欲低下、興味がない
・食べるのが遅い(30分以上かかる)
・食べ物を口に入れたまま(フードポケッティング)
・日々の摂取量のうち30%程度までの幅は成長に影響しない。

▶ 小児摂食障害の頻度(アメリカ)
・小児全体の2-29%
・医学的な課題のある小児(※)の2-40%
※ 早産児、心肺疾患、先天異常、遺伝疾患、食物アレルギー、慢性疾患、神経発達症
・重度の認知障害のある児の80%

▶ 医学的介入を要する小児摂食障害
・身体構造機能障害をきたした場合
 ✓ 治療可能な疾患の治療:扁桃肥大、慢性便秘
 ✓ 栄養的課題を持つ場合:成長障害、微量元素不足
 ✓ 発達年齢相当の口腔運動技能を獲得していない場合
・活動障害、生活状況における問題をきたしている
 ✓ 集団・集団生活に入れない
 ✓ 毎日の食卓のトラブルで養育者の育児不安、負担感が高い場合
・これまで言われてきた小児集団の1-2%よりはるかに多い。

▶ 専門家へ相談の要否をスクリーニングするチェックリスト
(乳幼児摂食障害スクリーニング:0-4歳)
① お子さんはあなたにお腹が空いたことを知らせますか(※1)? No・YES
② お子さんはあなたから見て十分量を飲んだり食べたりしますか? No・YES
③ お子さんに飲んだり食べたりさせるのに(食べるのに)どのくらい時間がかかりますか(※2)?
  (5分以内あるいは30分以上) (5〜30分)
④ お子さんに飲んだり食べたりさせるために、何か特別なこと(おもちゃ、テレビ、ビデオ、YouTubeなど)をしていますか? YES・No
⑤ お子さんはあなたにお腹いっぱいだと知らせますか? No・YES
⑥ 上記の質問に答えて、あなたはお子さんの食事について心配がありますか? YES・No

※1)母乳、人工乳、牛乳の場合は飲んで1時間すれば食事にできます。食事時間を決めて与えるようにすると2週間で空腹感のある生活になると言われています。食事時間を決めて、歌を歌いながら、手洗い、行進などしながら、椅子に座るようにしてみましょう。朝早起きすると、時間のデザインをしやすいです。
※2 )一食にかける時間が45分を超えると、食べることに費やすエネルギーの方が、食事エネルギーより増えてしまう。子どもの食事時間を調べた研究によると、1回の平均食事時間は20分、ゆっくり食べる子どもでも25分。食事時間は15〜30分(長くても40分まで)にしましょう。

 → 赤字の答えが2コ以上あれば、専門家受診を推奨

4.小児科医に対応できる範囲

・医学的要因:早産、心肺疾患、遺伝/染色体異常、頭蓋顔面奇形、神経発達症、消化器疾患・アレルギー(小児科医)
・神経発達症:自閉スペクトラム症、全般性発達遅滞、脳性麻痺/運動障害(小児科医、児童精神科医)
・消化器疾患:胃食道逆流、慢性便秘、好酸球性食道炎(小児科医、小児外科医)
自律神経調節不全(小児科医、児童精神科医)
 ✓ 睡眠障害
 ✓ 乳児期早期:睡眠覚醒レベルの異常から哺乳に苦労した既往。
 ✓ 検査では正常なのに吐きやすい。緊張すると吐く。
 ✓ 空腹という体のサインに鈍感/過敏(痛みとして感じる児も)
 ✓ 遊びだしたら夢中で食べることを忘れる。
 ✓ 食事は退屈で常に刺激を求める。
・栄養評価
 ✓ 成長曲線が標準カーブに沿っているか
 ✓ 沿っていなければ血液検査を:Hb, MCV, ALP, フェリチン、総鉄結合能、亜鉛、TTR、RBP、ビタミンB1、ビタミンC、25-HビタミンD
・栄養指導(小児科医、栄養士)
 ✓ 成長曲線に沿っていても、20品目以下なら微量元素欠乏のことがある
・摂食機能因子の評価・指導(小児科医、保育士、保健師、言語聴覚士、歯科医)
 ✓ 食べる機能の完成は2歳、2歳まで待って介入していると手遅れになる。

▶  “食べる機能”発達過程のつまづきと具体的なアドバイス
・哺乳・摂食障害が起こりやすい時期
・・・つまづきの月齢を知ると、今、目の前の子どもは何ヶ月相当の食べる機能を持っているか推測可能
① 反射飲みから随意飲みになる頃
 → 与えられるがままにではなく、空腹と満腹の感覚が出てきていわゆる飲みムラが出てくる。
② 乳汁からペースト状の固形食の時期
 → 食事摂取方法の大きな転換であり、口腔機能の適応を要する時期
③ なめらかなペースト状から粒や塊への移行期
 → 舌の前後運動での飲み込み(ゴックン)から、舌の側方運動(モグモグ)、舌の上下運動(カミカミ)も必要になる。

▶ スムーズな離乳食の進め方神奈川県小児保健協会HPより)
・・・いつから?なにを?どのように?

(いつから?)
・・・暦年齢ではなく、子どもの発達段階に合わせて
口を閉じるようになったら(口を開くようになったらではありません!)スプーンで与え始める
② 舌の動きに注目:前後 → 上下 → 側方 → グルグル回し、と上手になる。
③ 「前歯でひとくち大にかみ切る」から「奥歯(の出る場所)でかめる(粉砕)」に変わっている。
④ 以上を行いながら、同時におもちゃの持ち替えが始まる頃(6-8か月)から、固くてかめないモノで手づかみ食べの練習を始めましょう。
※ すべての段階で、食べた量ではなく、子どもの表情に注目!

(なにを?)
・・・ペースト食+手づかみ食べの食品
★ 手づかみ食べに関してはこちらをご覧ください。

(どのように?)
・・・スプーンで与える+手づかみ食べ
スプーンでの与え方のポイント;
① 乳児用スプーンを使う(ボールが浅い、持ち手が長い)
② 養育者はスプーンに少量の食事をのせ、水平に持って口の真ん中から入れる。
③ くちびる子を得てすぐの所、または舌の先端で止める。舌の前方1/3より奥に入れない。
④ 子どもがくちびるを閉じたら水平に引き抜く。

・心理的因子:精神社会的機能不全(小児科医、保育士、保健師、臨床心理士、児童精神科医)
1.食べさせられると、積極的・消極的に避ける
2.養育者が、子どもの栄養・ニーズに合ったケアをしない
3.食事に関する社会機能から隔離されている
4.食事の時、養育者と子どもの関係性がない
  
1.食べさせられると、積極的・消極的に避ける
・一番効果があるのは「強制をやめる」こと
❌️ スプーンは必要?
 ✓ スプーンで食べさせると、顔を背ける、手で払いのけるなど嫌がる場合は、思い切ってスプーンや箸で与えることを一切やめましょう。
❌️ NGな言葉や態度
 ✓ 一口だけでも食べよう!
 ✓ おいしいよ〜
 ✓ せっかく作ったのに〜
 ✓ 何で食べないの?
 ✓ お腹空いてるはずだよね?
 ✓ 食べるかどうかをみんなで見ている
❌️ 食べ物の種類・量
 ✓ 食べないものを必ず置く
 ✓ 食べるものでも食べきれないくらいの量を置く

・食卓での親子の役割を決めることがポイント
・・・メニューは子どもの希望を鵜呑みにせず、親が決めることが大切。
✓ 親が決めること:いつ?どこで?なにを食べる?
✓ 子どもが決めること:食べるか食べないか、どうやって食べるか?

2.養育者が、子どもの栄養・ニーズに合ったケアをしない
3.食事に関する社会機能から隔離されている
 → 年齢に見合った、食事の時間・空間の調整が相当する

★ 食事環境の調整とアドバイス
・食事はすべて(3食も軽食も)、場所を決めて食べるようにしましょう。
・食事する環境に、気になるおもちゃ、テレビ、ビデオなどが目につかないようにしましょう。
・食事中は、他人が口の周りや手を拭かない。自分で拭きたがる場合は濡らしたタオルなどを置いて、いつでも自分で拭けるようにしましょう。
・食卓から下りてから、口を拭き、手を洗いましょう。
・キレイに食べさせようと、口周りや手を拭くのは感覚過敏の元になるかもしれません。
・食べ方や食べた量を話題にしないで、食べ物を話題にしましょう。兄姉などの食べっぷりをほめるのもよいでしょう。また、これを食べたら好きなアレを食べてもよいなどと、ご褒美にしないことも大切です。
・食器はシンプルに(キャラクター付きは❌️)、食べ物が目立つようにしましょう。自分の食べ物の領域をはっきりさせると落ちついて食べるお子さんもいます。シンプルな滑らないシリコンのランチョンマットをおくのもよいでしょう。
・スプーン、お箸を上手に使うことに集中しすぎず、楽しく食べることを優先しましょう。“手づかみ食べ”もOKです。
★ テーブル・椅子の調整
・食卓の高さは、子どものおへそと乳頭の間になるように。前腕が食卓につくくらいが子どもには食べやすいです。
・歩けるようになったら、椅子と食卓の調整を。お子さんの足首、膝、股関節の部分が90度になるように。足の裏が床に全部ついていることが大事。
・椅子が体に合わない場合、タオルやクッション、牛乳パックや雑誌を台にしたりして調整を。
★ 姿勢を安定させることが食事の基本
・姿勢は呼吸の次に大事なことです。
・“倒れないようにする”という指示から運動脳を解放し、食べる操作に専念できる。
・姿勢が安定すると呼吸を助ける。
・座位姿勢を安全にする。
・手と口の協調を安定させる。
・噛むための関節の可動範囲を拡げる。

▶ 生活リズム調整(食事環境調整の一環として)
・空腹を感じるような生活を。
 ✓ 生活リズム、食事を決まった時間に出す。
 ✓ 便秘対策
 ✓ 眠りの儀式:眠るまでの一連の行動を決める。
・食べ物を食べる場から食卓の皆が食事時間を楽しむ場へ。
 → 自律神経を整える役割(遊び・興奮の交感神経優位から、リラックスの副交感神経優位へ)

▶ 専門家によるチームプレイで対応
・摂食技能のエキスパート:言語聴覚士または作業療法士
・小児消化器専門医
・小児管理栄養士
・発達小児科医
・臨床心理士・ソーシャル・ワーカー


<参考>
食べない子ども・偏食への対応(2021年、大山牧子Dr.)
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「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」登場!

2025年01月01日 09時35分43秒 | 感染症
感染性胃腸炎と単語は硬い印象がありますが、
いわゆる「嘔吐下痢症」「お腹の風邪「胃腸炎」のことです。

“感染性”という単語がついているように、原因となる病原体が存在します。
夏を中心に発生する細菌性と冬を中心に発生するウイルス性に大きく分けられます。

細菌性の特徴は、発熱・腹痛・下痢が激しいことが多く、時に血便が見られます。
ウイルス性の特徴は嘔吐・腹痛・下痢ですが、発熱はそれほど目立たず、便の色が薄く白っぽくなることがあります。
ただし、症状だけでは細菌性かウイルス性か、判断が難しいのが現実です。

治療に関しては、細菌性には抗菌薬(抗生物質)と常識的にはなるところですが、
感染性胃腸炎の場合はちょっと事情が異なります。
もともと腸の中にいる腸内細菌叢も抗菌薬の影響を受けるので、
抗菌薬で病原菌が減ったけど、
防御機能もある腸内細菌叢が乱れると病原菌が生き残って悪さする可能性があるからです。
そして腸内細菌叢の乱れは、回復に3ヶ月ほどかかるとされています。

なので、細菌性を疑った場合でも、重症感がなければ抗菌薬に飛びつかない、
使う場合はFOM(ホスホマイシン)、
というのが従来の方針でした。

一方、ウイルス性の場合は特効薬はないので、
脱水症に気をつけながら対症療法で回復待ち、
ということになります。

以上が今までの常識でしたが、
さて、ガイドラインにはどんなことが書かれているのでしょう。

▢ 「小児消化管感染症診療ガイドライン」が初登場、注目のポイントは?
〜国内事情踏まえ、整腸薬投与やホスホマイシン使用などは海外と異なる推奨
2024/12/25:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2024年11月、「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」が日本小児感染症学会と、日本小児消化管感染症・免疫アレルギー研究会より発表された。日本の子どもに多い消化管感染症を紹介して、その治療法についてそれぞれ推奨度を提示。疫学や診断などについても解説した国内初の指針となる。同ガイドラインの作成委員会委員長を務めた札幌医科大学医学部小児科学講座教授の津川毅氏に、注目すべきポイントを聞いた。

──今回初めて、「小児の消化管感染症」に特化したガイドラインが登場しました。作成の経緯を教えてください。

津川 現在、日本の小児感染症の診療現場では「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022」(日本小児感染症学会、日本小児呼吸器学会)が広く活用されていますが、ここでは消化管感染症については紹介されていません。2017年に日本小児感染症学会と日本小児消化管感染症研究会(現:日本小児消化管感染症・免疫アレルギー研究会)が新体制になったタイミングで、比較的頻度の高い小児の消化管感染症に特化したガイドラインを求める声が関係者から上がり、作成へと動き出しました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で一時は作成作業が中断していたものの、ようやく今年発行することができました。

──本ガイドラインにはどのような特徴がありますか。

津川 本ガイドラインは大きく分けて2章で構成されており、第1章では小児消化管感染症の治療法に関する9つのクリニカルクエスチョン(CQ)とその推奨などを、非抗菌薬治療と抗菌薬治療に分けて提示しました。第2章は教科書的な内容とし、診断や各疾患の症状、疫学など35項目について解説しています。
 また、第1章は「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3」に準拠しており、国際標準で定められた、科学的な根拠に基づいた系統的な手法によってシステマティックレビューを行っているのが特徴です。
・・・
 本ガイドラインでは、「この1冊で診療が完結すること」を目指しました。消化管分野で先んじて国内で発行されている「JAID/JSC感染症治療ガイドライン―腸管感染症―」(日本感染症学会・日本化学療法学会)は、抗菌薬治療に焦点が当てられています。また、「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」(日本小児救急医学会)の治療に関する記載は、経口補水療法や食事療法などの非抗菌薬治療が中心でした。そのため本ガイドラインでは、この1冊で包括的に小児消化管感染症に対応できるよう心がけました。また、JAID/JSC感染症治療ガイド2023や米国感染症学会ガイドライン、Red Bookなどを参考にしながら、各薬剤の小児用量を可能な限り記載し、実際の臨床現場で役立つことを目指しました。

──第1章では、非抗菌薬治療のCQが4つ、抗菌薬治療のCQが5つ提示されています。CQの作成に関して意識した点はありますか。

津川 このガイドラインでは、海外と日本との現状を考慮した上で「日本の小児患者」に使えることを意識しました。例えば、「CQ1-3:小児の感染性胃腸炎に対して整腸薬投与は推奨されるか?」については、海外と日本で推奨が異なります
 欧米のガイドラインでは、小児の感染性胃腸炎に対する整腸薬の投与は推奨されていませんが、その根拠となっている大規模研究では、使用された整腸薬に含まれる菌種が日本で使用できない菌種も含まれていること、また、胃腸炎の背景が異なる可能性がある低所得国での研究も多く含まれていることなどから、これらの結果を直接日本に当てはめることは難しいと考えました。そこで、低および低中所得国を除き、日本国内で使用可能な菌種を含んだ整腸薬に限定して解析を行ったところ、下痢を1日程度早く改善する効果が認められました。整腸薬は安価で副作用も少ないため、本ガイドラインでは下痢の期間を短縮させる目的で、整腸薬の投与を提案しています。

──抗菌薬治療に対しては、主に適正使用の観点から解説されており、カンピロバクター腸炎や非チフス性サルモネラ属感染症など、特定の疾患が取り上げられています。これらの疾患はどのような基準で選ばれたのでしょうか。

津川 細菌性胃腸炎の中で、比較的頻度の高い疾患を選びました。日本における小児科診療では、主にカンピロバクター腸炎と非チフス性サルモネラ属感染症に出会う場面が多くあります。また、エルシニア感染症もこの2疾患に次いで報告が多いことから、今回、CQで取り上げることにしました。一方、Clostridioides difficile感染症(CDI)や腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、上記の3疾患よりは頻度が少ないものの、現場の医師が診療方針に悩むことが多い疾患です。
 例えば、「CQ2-4:2歳以上の小児において,初発Clostridioides difficile感染症患者を治療する場合の治療薬としてバンコマイシンは推奨されるか?」については、これまで日本の小児におけるCDIの治療指針がなかったため、今回取り上げました。C. difficileには非毒素産生株と毒素産生株が存在し、2歳未満ではC. diffficileの保菌率が元々高いことから、本ガイドラインでは対象を2歳以上の小児に限定しています。ここでは日本国内で小児に使用可能な薬剤に限定した解析を行った結果、治癒率、再発率などの有効性の観点から、初期治療薬としてバンコマイシン(経口投与)を使用することを提案しています。
 「CQ2-5:小児の腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症に抗菌薬は推奨されるか?」については、EHECによって生じる重症な合併症である溶血性尿毒症症候群(HUS)を予防する観点から、EHEC感染症に対する抗菌薬使用の是非が日本でもたびたび議論されてきました。日本では、欧米でEHEC感染症に対して使用されていないホスホマイシンFOM)が主に使用されていますが、FOMはHUSの発症リスクの低下を認めたという国内の報告がありました。今回抗菌薬ごとに行ったメタ解析の結果、HUS発症リスクが高いと判断した場合には、予防目的で経口FOMを投与することを提案しています
 なお、今回は3つのCQを例に挙げて簡単に説明しましたが、CQごとに背景やエビデンスの質のレベルがそれぞれ異なっています。そのため、薬剤投与については、本ガイドラインの推奨の記載全体を読んだ上で判断していただきたいと考えています。

──本ガイドラインを現場でどのように活用すればよいでしょうか。

津川 臨床現場で広く使っていただきたいので、気になったときにすぐに手に取れるように外来や病棟など身近なところに置いていただきたいです。本ガイドラインは主に小児科医に使っていただくことを想定していますが、例えば内科小児科医院の先生や、救急外来において小児の患者を診るときにも、入門的な内容と詳細な解説が織り交ぜられているので使ってもらいやすいのではないかと思います。
 なお、本ガイドラインは5年前後で改訂を検討する予定です。今回は初版ということもありCQは治療に限定した内容となりましたが、今後は、治療以外の部分も必要に応じて盛り込みたいと考えています。

<参考>
「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」におけるCQ
■非抗菌薬
CQ1-1:小児の感染性胃腸炎による脱水症の治療に経口補水療法は初期治療として推奨されるか?
CQ1-2:小児の感染性胃腸炎による脱水症に対して,推奨される是正輸液療法の輸液組成は何か?
CQ1-3:小児の感染性胃腸炎に対して整腸薬投与は推奨されるか?
CQ1-4:小児の感染性胃腸炎に対して制吐薬投与は推奨されるか?
■抗菌薬
CQ2-1:小児のカンピロバクター腸炎に抗菌薬は推奨されるか?
CQ2-2:小児の非チフス性サルモネラ属感染症の重症化予防および罹病期間短縮・神経学的合併症の予防を目的とした抗菌薬投与は推奨されるか?
CQ2-3:小児のエルシニア感染症に抗菌薬は推奨されるか?
CQ2-4:2歳以上の小児において,初発Clostridioides difficile感染症患者を治療する場合の治療薬としてバンコマイシンは推奨されるか?
CQ2-5:小児の腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症に抗菌薬は推奨されるか?

・・・ウ〜ン、私の知識の範囲とあまり変わりが無いかな・・・。諸外国では整腸剤やFOMは使われていないようですね。でも日本の事情で今後も使ってよいことになりそう。

紹介した記事では触れていませんが、嘔吐下痢の際に腸の動きを止める薬(例:ロペラミド)は使っていけないことになっています。
毒素産生タイプの細菌性腸炎では、毒素を体外に出すために下痢しているのですが、腸の動きを止めて下痢を止める薬はそれを邪魔してしまい、重症化につながると考えられているからです。

しかし整腸剤ではいつまで経っても下痢が治まらないことが度々あります。
私は西洋医学の薬では治まらない強い腹痛・下痢に対して漢方薬を提案しています。
飲めると効きます。

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