小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

平成のアレルギー医療史

2019年03月16日 06時55分43秒 | 医療問題
 私が小児科医になったのは、昭和63(1988)年です。大学で研修していた年明けに、元号が「平成」に変わりました。
 当時のアレルギー疾患の診療を振り返ると、現在とけっこう異なることに気づかされます。例示しますと、
【気管支喘息】
 発作性疾患と捉え、発作時の治療をメインに組み立て、現在のような予防治療・定期治療は行われていなかった。
【アトピー性皮膚炎】
 小児科医は食物アレルギーが原因、皮膚科医は皮膚疾患として捉え、双方の議論がかみ合わず、その間で患者さんは翻弄されました。治療に関しては、「ステロイドを使わずに治す医者が名医」という考えも一部にありました。
【アレルギー性鼻炎】
 対症療法の他に、減感作療法(皮下注射法)が細々と行われていましたが、近年、舌下免疫療法が登場し、いわゆる体質改善が再注目されるようになりました。

 実際に診療していて、喘息もアトピー性皮膚炎も寛解と悪化を繰り返し、ラチがあかない印象がありました。
 その後、喘息では吸入ステロイド療法が登場して発作を予防管理できるようになり、アトピー性皮膚炎では近年ですがプロアクティブ療法が登場して喘息と同じように「最低限の局所ステロイド療法でコントロールする」という時代になり、患者さんの負担もずいぶん楽になったと感じます。
 しかし局所ステロイドは治癒に直結するわけではなく、今後はもう一歩・二歩、医学が進む必要がありそうです。

 長らく小児アレルギー分野のオピニオンリーダーであった西間三馨先生(元・国立病院機構福岡病院院長)が平成のアレルギー医療史を振り返るインタビュー記事「平成の医療史30年◆アレルギー疾患編」を見つけたので、気になった箇所を抜粋メモしておきます。

Vol. 1 ステロイド叩きを乗り越えて
Vol. 2 食物アレルギーの対策が未熟だったと痛感
Vol. 3 アレルギー専門医の育成がこれからの鍵
番外編:平成でアトピー減、鼻炎・花粉症は倍増

<メモ>

1982〜2012年のアレルギー疾患有症率


アレルギー疾患の平成30年略史


アトピー性皮膚炎
・1990年代に「ステロイドバッシング」(ステロイド叩き)が一世を風靡し、ステロイド軟膏の使用を忌避する患者が増えた。
・1999年(H11年)にタクロリムス軟膏(プロトピック®)が発売され、アトピー性皮膚炎診療が大きく変わった。
・皮膚のバリア機能に欠かすことができない「フィラグリン」遺伝子などの異常がアトピー性皮膚炎患者から多く見つかり、スキンケアの重要性が注目されるようになった。
・2018年(H30年)に抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体であるデュピルマブ(デュピクセント®)が認可され、ステロイド軟膏やタクロリムス軟膏でも十分な効果が得られなかった重症患者に光が当てられた。

アレルギー性鼻炎
・アレルギー性鼻炎はアレルギー疾患の中で最も多く、その原因の多くはスギ/ヒノキ花粉であり、昭和の終わりから平成中期にかけて患者数が激増した。
・アレルギー性鼻炎の治療は、長年抗ヒスタミン薬(≒抗アレルギー薬)オンリーだったが、2000年代に導入された舌下免疫療法で一変、それまでの皮下注射による減感作療法に取って代わられた。現時点でスギ花粉とダニのみなので、その他の花粉症を引き起こすイネ科、キク科、カバノキ科に対する舌下免疫療法の開発が期待される。

小児気管支喘息
・2017(H29)年に喘息で亡くなった小児の数がはじめてゼロになった。西間先生が石になった1968(S43)年は272人が亡くなっていた。その背景は吸入ステロイドの普及である。
吸入ステロイド薬の変遷
(平成初期)CFC-BDP:フロンガスであるCFCを含有したベクロメタゾン
(2003年)HFA-BDP:代替フロンであるHFAを用いたベクロメタゾン
(   )ドライパウダー製剤のフルチカゾン
(   )ステロイド薬と長時間作用性β-2刺激薬との合剤
ロイコトリエン受容体拮抗薬の登場
 それまで使われてきたテオフィリン徐放製剤より安全域が広くて使いやすいことが特徴。
(1995年)プランルカスト(オノン®)
(   )モンテルカスト(シングレア®、キプレス®)
・オマリズマブ(ゾレア®)登場は難治喘息患者にとって大きな福音となった。

食物アレルギー
・「茶のしずく石けん事件」(2009年〜);石けんに含まれていた加水分解小麦が原因で小麦アレルギーを発症し、被害者数は2000人以上。視点を変えると、これは壮大な人体実験であり、食物アレルギーが皮膚感作から発症し、それがアナフィラキシーショックまで引き起こすことが図らずも証明されてしまった。これを機に、正しい情報提供を目的とした「アレルギーポータルサイト」(日本アレルギー学会&厚生労働省)が創設された。
・2012(H24)年に東京都調布市で牛乳アレルギーの小学5年生女児が給食に出たチーズ入りチヂミを食べてアナフィラキシーショックを起こして死亡するという痛ましい事件が起こった。エピペンを所有していたが、それを使いタイミングが遅れたことが残念である。この事件を教訓に、日本小児アレルギー学会が「エピペンを使用すべき13の徴候」を作成・発表した。これを機に、学校側の体制が一気に変わった。それまでは「学校の中に医療は絶対持ち込ませない、薬を飲ませるのだって抵抗する、注射なんて論外」という風潮があったが、事故後はエピペンが普通に学校に使われるようになり、学校生活管理指導表(アレルギー疾患についての詳しい情報を主治医が記した用紙)が提出されればきちんと対応をとるようになった。
・経口免疫療法の開発が進んでいるが、まだ確立されておらず、今後に期待したい。

アレルギー疾患ガイドライン(GL)とその周辺の歴史
(1993年)喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎の診療GL公表
(1995年)アレルギー性結膜炎のGL公表
(2007年)気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーをまとめた「アレルギー疾患診療・治療GL」公表
(2014年)「アレルギー疾患対策基本法」公布(2015年施行)
(2019年)アレルギー研究10ヵ年戦略公表予定

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東京医大受験の女性差別から見えてきた「医師の職場=ブラック企業」という現実

2018年09月06日 07時22分11秒 | 医療問題
 東京医大が受験の際に女子学生と3浪以上の男子学生を差別したことが社会問題になっています。
 単純に「男女差別は違法」と騒ぎ立てるメディアが多い中、週刊ダイアモンドの記事はその深層をよく説明していて感心しました。

 その根っこは「医師の職場はブラック企業」という現実。
 息を切らせて働く肉体労働ではありませんが、とにかく拘束時間が長い。
 朝から晩まで働くのは一般の仕事と同じです。
 しかしそこに連続勤務として当直が重なります。当直では救急患者対応で眠れず、当直明けも事務職員や看護師のように帰宅できず働き続けます。
 一般勤務の他に「ポケベル待機」あるいは「オンコール」という緩やかな拘束勤務があります。
 私は小児科医ですが、小児科では2〜3日に1回程度。
 「オンコール」では、急患や入院患者の急変があると呼ばれ、30分以内に駆けつけなくてはいけないという不文律がありました。
 つまりその晩はアルコールは御法度、家族で食事に外出することもためらわれます(途中で呼ばれるとまずいので)。
 しかしこの「オンコール」、呼ばれない限り勤務時間に数えられません。

 こんな勤務を、子育て中の女性医師がこなすことは困難です。
 医師の数は事務職員や看護師より少ないので代わりがいません。
 休むと他の医師にそのまま負担がかかります。

 私の後輩の女医さんは「勤務途中で妊娠・出産すると同僚の医師に迷惑がかかるので、私は今年は休職して妊活します」と宣言して実際に休んだことを鮮明に覚えています。
 彼女はめでたく予定通りに妊娠出産、数年後に仕事に復帰しようとしましたが、熟考の結果、病院勤務医の労働環境は子育て中は無理と判断し、思い切って開業しました。

 なぜこんな「ブラック企業」的労働環境がまかり通っているのでしょうか?
 その要因は3つあると私は思います;

1.無意識のうちに医師に滅私奉公を強いている「医術は仁術」という社会通念。
2.勤務医にはその場から立ち去る「開業」「フリーランス」という選択肢がある。
3.勤務医の長時間労働は労働基準法に抵触していないらしい。


 というわけで、今回の議論が「受験で女性差別した大学我が悪い」に終始せずに、医師の労働環境を改善するところまで深まって欲しいと切望します。
 ちなみに、私の所属する大学の医局では「女性医師は就職して5年間に8割が姿を消す」と人事担当者を悩ませていました。
 もう15年前の話ですが。


□ 「東京医大の女性差別を医師の65%が「理解できる」と答えた真の理由
奥田由意(ダイヤモンド・オンライン、2018.9.3)
◇東京医科大学の入試における「女子受験者一律減点」の背景には、医師の苛酷な職場環境があった
 東京医科大学が医学部医学科の一般入試で女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を制限していたことが判明。大きな反響とともに、女性差別への批判を呼んだ。しかし、問題はそれだけにとどまらない。女性医師対象のウェブマガジンjoy.netを運営する、医師向け人材紹介会社エムステージが、同サイトの会員を中心に緊急アンケートを実施したところ、今回の大学の対応を「理解できる」「ある程度は理解できる」と回答した医師が65%にのぼったからだ。回答からは、いま現場で求められている働き方では、女性医師が出産を経て働き続けることはきわめて困難であるという実態を反映するかのような、諦めの声も多く聞かれる。なぜ優秀な女性医師が差別を受け入れるような回答をするのか、大学病院の働き方の実態についてレポートする。

◇過半数を超える医師が女性差別を「理解できる」「ある程度理解できる」と答える衝撃
 医師向け人材紹介会社エムステージが、8月上旬に女性医師を中心に行った「東京医科大学入試での女子一律原点に関するアンケート調査」。同調査で医学部に入学する女性の数を制限することを18.4%が「理解できる」、46.6%が「ある程度は理解できる」と回答し、「理解できない」「あまり理解できない」という意見を大きく上回る結果になった。
 「理解できる」「ある程度は理解できる」とした人の自由回答では、「そういうものだと思っていた」「そのつもりでトップ層に入るよう勉強してきた」「自分も妊娠中や育児中にまわりに負担をかけていたので理解できる」という意見が散見され、女性差別が所与のものとされている現状が明らかになった。
 また、「体力的にもきつい当直の穴埋めをするのは非妊娠女医と男性医師」「独身女医としてはママ女医の仕事を全て被っている。女医の数を制限した方が職場は上手く回ると思う」、「女性医師はマイナー科(眼科や皮膚科)に偏りがち」という声もあった。
 もちろん、差別を受け入れている当事者がいるくらいなのだからしかたがないのでは、ということでは断じてない。調査を実施したjoy.netの編集長岡部聡子さんは、これまで同サイトの取材で120名、医師担当のキャリアプランナーとして100名、計220名にのぼる女性医師と向き合ってきた。
 想像を絶するような努力を重ね、出産し、子どもを育てながら、当直もオペもこなす女性医師もいる。そして、彼女たちを支えてきた男性医師、独身医師や子どものいない女性医師もいる。出産後職場復帰したくても、出産前と同様に働けないことで諦めたり、「マタハラ」に泣き寝入りする医師もいる。また、差別を断固許さないと考える医師ももちろんいる。
 岡部さんは、むしろ女性医師たちの側で「自分たちはこうした状況が当たり前だと思ってやってきたけれど、社会の反響を見ると、私たち自身が当たり前だと思うことも問題だったのでは」と、改めてショックを受けている医師が多いと言う。
 また、岡部さんは、妊娠中の医師、子どもや要介護者がいる医師が働きにくいような、長時間労働を強いる大学病院での勤務の実態があまり一般に知られていないとも嘆く。せっかく医師になっても、35歳時点で24%の女性医師が離職しているという厚生労働省のデータもある。

◇大学病院勤務の過酷な実態 32時間連続勤務でも労基法は適用外
 勤務医には、大きく分けて5つの業務がある。
 病院に来る外来患者を診る「外来」、主治医として入院患者を診る「病棟」、内視鏡や心臓カテーテル検査といった「検査処置」、外来系の医師であれば「手術」、そして輪番で夜間の患者の容態急変や救急患者に対応する「当直」だ。主治医としての「病棟」業務の中には、勤務時間外であっても担当患者の容体急変時などに駆けつける「オンコール」対応も必要となる。
 そして、意外に知られていないのは、労働基準法が一般企業と同じようには適用されていないことである。長時間労働の上限は実質ないに等しい。例えば、オンコールや当直業務は実作業時間より待ち時間が多い「断続的な業務」であると解釈されて、労働時間の規制対象外となっているのだ。
 当直の場合、病院に泊まって当直業務をこなしたあと、当直明けもそのまま翌日の夜まで働き、場合によってはオペさえも担当することがある。「32時間連続勤務が常態化している病院も多い」と岡部さんは言う。
 株式会社メディウェルが2017年10月~11月にかけて1649人の医師に行ったアンケートでは、当直後も82.5%が通常勤務をし、32時間以上の連続勤務を行っていると回答している。また、2017年に「全国医師ユニオン」が勤務医に実施したアンケートでは、タイムカードなどで労働時間が管理されていると答えた大学病院の医師はわずか5.5 %だった。
 朝も早い。外来が始まるまえに「カンファレンス」といって、症例報告会などを行う。
 このように一般企業以上に長時間労働が当たり前の現場で、しかもそれが、労働基準法で適法とされているのである。
 加えて「応召義務」といい、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という法律がある(医師法19条)。70年前の1948年に成立した法である。
 このような長時間勤務を前提として、「成績優秀な女子より、男子で洗脳しやすい元気なバカのほうが役に立つ」などと言われたことのある女性医師も決して少なくない。

◇バイト代のほうが常勤先の給与より高くなることも
 過酷な業務であるにもかかわらず、大学病院の勤務医の給与は低い。若手医師であれば給与も手取りが月20万円程度であるのはざらで、自分が勤務する大学病院で寝ずの当直をしても手当ては一晩で5000円のところさえある。
 さらには大学病院には有給のポスト自体が少ないという問題もある。大学病院は臨床を通じて学ぶ、研究をする場でもあるということを論拠に、「無給医」も数多く存在している。出産や育児などで一時職場を離れた女性が大学病院に戻る場合に、有給ポストがなく無給医として働くこともあるのだ。
 ただし、常勤の大学での給与は低いものの、市中病院やクリニックなどで非常勤としてアルバイトをする場合、週1回の勤務だけでもある程度の収入にはなる。そのため、勤務医や無給医は多忙な勤務の合間を縫って市中病院やクリニックなどで非常勤のアルバイトをして収入を補填するしかない。

◇医局が持つ強力な権限に逆らえない医師ならではの事情
 大学病院での勤務がきつく、非常勤の市中の病院やクリニックの給与が高いなら、最初からそちらに就職すればいいと思うかもしれない。しかし、国家試験を通った医師は、必ずしも自分が卒業した大学でなくてもよいのだが、大学病院の医局に属して研修を受けるのが普通だ。大学医局や大病院でないと、専門医の受験資格が得られないなど、医師としてのキャリアが積みにくいという実態がある。
 また医局は強い人事権を持っており、たとえば、医局とけんか別れした医師はその大学だけでなく、系列病院や関連病院すべてから事実上排斥される。とくに地方で有力な病院が少ない場合などは、医局から見放されれば、その地方ではやっていけなくなることもままある。
 例えば開業したり、市中の小さなクリニックで働いていたりして、専門病院に紹介しなければならない患者が来たとき、医局との関係が悪ければ、「あの医師の紹介患者は受けるな」と医局から市中病院に司令が出て、患者の受け入れ先病院がないということも起こりうるからだ。
 専門医の資格をあえて取らず、医局に属することも選ばず、非常勤バイトだけで生活する医師もいる。出産、育休などで大学病院に復帰できず、そのような働き方をしている医師も多い。
 しかし、「非常勤バイトだけで生活できてしまうことで、ますます大学病院での長時間労働が改善されないことにもつながっている」と岡部さんは指摘する。「低賃金かつ24時間365日対応でプライベートを犠牲にして働くか、非常勤バイトか、だけでなく、その間に多様な働き方があってもいいはず」と岡部さんは言う。

◇複数主治医制、タスクシフトなど「解」自体はあるが進まない虚しさ
 ではどうすればよいのか。もちろん一朝一夕に解決できることではない。
 医師不足と言われるが、年間4000人の医師が誕生しており、実際には医師は偏在している。そして日本は8400と世界一を誇るほど病院数が多いために、各病院が総合病院として複数の専門の科を持つと、医師を1~2名ずつしか確保できない病院も多くなる。そのため、病院では慢性的な医師不足が生じている。
 そこで、病院の数を絞って急性疾患や救命救急に専門的で高度な治療をほどこす「急性期病院」の機能を集約化する、主治医を複数制にして交代で担当できるようにする、医師がしている事務作業を別の医療従事者ができるように「タスクシフト」する、気管チューブ交換など医師が行う医療行為の一部を特定看護師などができるようにする、業務量・対応数に応じて公平に給与を支払うなど、「理想論としての解はあります」と岡部さん。
 しかし、現実問題としてそれらが急に進むことはありえない、という無力感が、「女性の医学部入学者を制限する差別もしかたがない」と65%の医師が思う結果を招いていると岡部さんは言う。

◇「患者ファースト」「コンビニ受診」など患者の側の過剰な期待も問題
 「応召義務」のプレッシャーがある、あるいは、もともと正義感や使命感が強く、全身全霊で患者に尽くしたい、尽くさなければならないという価値観で働いている医師が多いのは事実だ。
 目の前の患者を救いたいという思いや、実際に多くの命を救って感謝されることのやりがいが、医師を長時間労働に追い込んでいることもあるだろう。その職業意識を否定することはできない。いっぽうで患者になる可能性のあるわれわれも、医師は患者ファーストであるべきと当然のように思い、無意識のうちに、医師に滅私奉公を強いている
 また、夜間でも休日でも、自分が病気になったら救急病院に駆け込めるのを当然の権利だと思ったり、医療費が安く、誰もが自由に好きな病院にかかることができるため、ちょっとした風邪でも大学病院にかかったりという、「コンビニ受診」が多いのも事実だ。
 女性差別はあってはならない。ただし、それが一部の大学の経営幹部の時代錯誤な価値観だけに起因するものだと考え、今の時代にありえないと断罪して安心するだけでは、差別の根本原因の解決にはならない。むしろ、制度の歪み、大学病院の勤務医の過酷な労働状況、医師・患者双方の意識改革が進まない現状、男性医師と女性医師の間、あるいは子どものいる医師といない医師との間などさまざまなレベルでの分断など、多くの問題を隠蔽することになる。医師の働き方の実態はもっと知られていいだろう。 
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「白いご飯」は体に悪い。

2018年07月08日 06時03分48秒 | 医療問題
 日本人は米を主食としてきました。
 ただ、庶民が白米を食べられるようになったのは、江戸時代〜明治時代と最近のようです。

 しかし近年、この白米が糖尿病のリスクを上げることが明らかになってきました。

□ 『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』津川友介著、東洋経済新報社、2018年

 この本の中では「精製されていない玄米は白米より体によい」と記されています。玄米は食物線維や栄養成分を豊富に含み、肥満や動脈硬化のリスクを下げると報告されているからです。

 私は数年来、炭水化物(≒糖質)制限をしています。
 といっても、ご飯を食べないだけのゆるゆるの制限ですが。
 天ぷらやとんかつの衣も食べてしまいますし、暑い季節はアイスクリームも食べます。

 炭水化物制限が体によいという根拠は、「炭水化物は消化・分解されて体に吸収されると、すべてブドウ糖になり、血糖値を上げる」ことです。
 逆に言うと「炭水化物を食べなければ血糖値は上がらない」ことになります。

 白米も玄米も、その栄養素のメインは炭水化物です。
 玄米も炭水化物に変わりはなく、当然血糖値を上げます。
 つまり、「玄米は白米よりマシ」程度で、糖尿病対策としては不十分なのですね。

 炭水化物制限を主張している江部先生は、実は玄米食を始めた人でもあります。
 彼曰く、
「体によい食事を求めて1000年歴史を遡ったら玄米食にたどり着いた」
「さらに体によい食事を求めて10000年遡ったら炭水化物制限にたどり着いた」
 とのこと。
 私はこの考えに共感して炭水化物制限を始めたのでした。

 狩猟採集時代は、米を食べなかったので、タンパク質と脂質が摂取栄養素の中心だったのですね。
 人類の歴史700万年のうち、タンパク質と脂質中心の食生活が699万年続き、稲作が始まり炭水化物中心の食生活は最後の1万年だけなんです。
 おそらく縄文時代までの日本人は、食事内容と生活パターンから、肥満や糖尿病と無縁だったと思われます。

 しかし日本人は主食に米を選びました。
 米を食べるために、おかずはしょっぱくなりました。
 ご飯を食べなくなって気づいたことは、「日本のおかずはご飯が欲しくなるほどしょっぱい」こと。

 日本人は米を食べることにより糖尿病と仲良くなり、
 米を食べるためにおかずをしょっぱくすることにより高血圧と仲良くなった、
 という国民病の歴史が垣間見えました。

 さて、炭水化物を減らせば、血糖値は上がりません。
 徹底して管理すると、糖尿病患者も薬を減らすことが可能です。
 ただ、インスリンや経口血糖降下剤を使用中の患者さんが自分の判断で炭水化物制限を行うと、低血糖が必発しますのでご注意を。

 インスリンが登場する前は、「糖尿病治療食=炭水化物制限」でした。
 まあ、当たり前ですね。
 インスリンが登場した際のキャッチフレーズは、
 「今までの食事を変えなくて済みます、食べるのを我慢する必要はありません」
 というものでした。

 裏を返せば、インスリン治療をしていると、炭水化物を食べなければなりません。
 インスリン治療は糖尿病を治す治療ではなく、炭水化物を食べ続けるための薬なのです。
 
 「糖尿病が治る=薬が必要なくなり、ふつうに生活できる」と定義とすると、インスリン治療より炭水化物制限の方がゴールが近いですね。
 繰り返しますが、炭水化物を糖尿病患者さんが勝手に控えると低血糖必発で危険です。
 試したい場合は、治療を受けている主治医・管理栄養士に相談してください。

 しかし糖尿病学会レベルでも、まだ古い食事指導に固執する重鎮がたくさんいるようです。
 ですから、現場の管理栄養士さんも「バランスのよい食事」を指導するばかりで「炭水化物を控えましょう」とは言いませんね。

 では、白米を食べないでどう食生活を組み立てるのか?
 私は肉・魚・野菜をメインに食べていますが、けっこうお金がかかります。
 最近は、主食というほどではありませんが、毎食大豆食品(豆腐・納豆・油揚げ・がんもどき)を食べるようにしています。

 いつになったらこのEBMが現場の糖尿病診療に反映されるのでしょうか。
 3年後?10年後?

<参考>
最先端の医学では「白米は体に悪い」が常識だ〜UCLA医学部助教授が教える「不都合な真実」

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「ブログ閉鎖」を撤回します。

2018年03月23日 20時24分11秒 | 医療問題
私のブログのどの部分が著作権法違反なのか、しばらく考えてきましたが、心当たりがなく悩める日々。

先日購入した「医療従事者のギモンに答える!トラブルに巻き込まれない著作権のキホン」を斜め読みしましたが、ピンとくる箇所はありませんでした。

強いて言えば、ブログが“主”、引用が“従”関係でなければならない、というくらい。
メモ感覚で、自分の意見・感想は最小限で引用しただけという項目もなきにしもあらず・・・これは反省(^^;)。

本には書いていないことですが、もしかしたら「登録制(有料あるいは読者限定)サイトの記事を全文引用したこと」がまずいのかなと考え、リンクを張るだけに修正して goo 本部に「直しましたので確認してください」とメールしました。
するとあっさり、「確認しました、ご理解していただきありがとうございます」という返信が来て公開停止された項目が復活したのでした。

というわけで、今回知ったルールを遵守すればブログを閉鎖する必要がなくなりましたので、前言を撤回します。
励ましのコメントをいくつかいただきました。
感謝します。
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ブログ閉鎖のお知らせ

2018年02月23日 07時36分02秒 | 医療問題
 自分自身への備忘録として始めたブログですが、「ネット上の記事を引用して感想を記す」というスタイルは著作権法違反になるとのご指摘を受けました。
 引用元を明記すればよいのでは(宣伝にもなるし)との考えは、私の勝手な思い込みだったようです。

 2018年3月に閉鎖する予定です。
 ご愛読ありがとうございました。
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“病の姿”が見えない 新潟水俣病の50年

2018年02月16日 07時51分19秒 | 医療問題
 先日、水俣病を世に問うた作家である石牟礼道子氏が亡くなりました。
 水俣病患者の声を、自然からの叫びを「苦海浄土」(くがいじょうど)という壮大な叙事詩にまとめ上げた人物です。

 もう一度水俣病を見つめ直すよい機会と感じ、録り溜めておいたTV番組の中から、新潟水俣病のドキュメンタリーを視聴しました。

 水俣病は工場廃水に含まれていた有機水銀による中毒です。
 しかし、高度経済成長期の日本においては、その責任を企業も日本政府もなかなか認めたがりませんでした。
 健康を犠牲にして経済成長を優先する時代だったのです(原発事故の扱いを見ていると、今も変わらない?)。
 被害者は同情よりむしろ差別を受けるという悲しい現実がそこにあり、名乗り出て患者申請することさえ躊躇されるような雰囲気もありました。
 人間はこのような過ちを繰り返してきたのですね。
 そこに“歴史を見つめる”意味があるのでしょう。

※ 下線は私が引きました。

■ “病の姿”が見えない ~新潟水俣病の50年~
2015年6月4日:NHK
◇ 水俣病と認めて欲しい 認定審査を待つ人々
阿賀野川中流の新潟県阿賀町です。
神田三一さんです。
手足のしびれやめまいなど、水俣病特有の症状を抱えています。
特に深刻なのが手の震え。
物をうまくつかむことができません。
視野も狭く、周囲の様子が分かりづらいといいます。
「(視野は)これが精いっぱい、ここから上は見えない。
なんともしょうがない。」

三一さんの兄、栄さんも水俣病の症状を抱えています。
2人はこれまで、国の救済策などに名乗り出ることはありませんでした。
水俣病に苦しみ亡くなった父親が、周囲から偏見の目を向けられていたのを見てきたからです。
しかし80代後半を迎え、生きているうちに水俣病と認めてほしいと、一昨年(2013年)新潟県に認定審査の申請をしました。
「認定されなければ、いつまでたっても解決のめどはたたないわけだから。」

◇ 水俣病 認定審査 新たな指針
去年(2014年)、国は新たな通知を出し審査の指針を示しました。
これまでほぼ認定されなかった、1つの症状しかない人でも、有機水銀に汚染された魚を食べたこととの因果関係が認められれば認定できるとしたのです。
しかし、「できるだけ客観的な資料で裏付ける必要がある」ともされました。



◇ “新潟システム” 救済の道は開かれるか
今、新潟で認定審査の結果を待つ人は、113人。
国の通知に対し、県は独自の方法を取り入れた認定審査を始めています。
これまで主に医師が行ってきた審査に、水俣病に詳しい弁護士や研究者を新たに参考人として加えることにしたのです。
従来は、手足のしびれなど水俣病の症状を調べる医学面の審査が重視されてきました。
新しい仕組みでは、専門家の視点を生かし、疫学面の審査を重視することにしたのです。
当時の資料がなくても、汚染された魚の流通ルートなどを参考人の意見をもとに丁寧に調べることで幅広く救済の可能性を探ることにしました。

新潟県生活衛生課 藤田伸一課長
「当時の状況ですとか、魚の関係であれば専門的な知識等を補充していただいて、きちっと解明できるという部分で近づければと考えています。」

参考人の1人、坂東克彦弁護士です。
長年、患者側の立場で訴訟に関わってきました。
坂東克彦弁護士「新潟第1次訴訟の原告の診断書です。」
坂東さんは疫学面の調査をするにあたって、50年という歳月の壁を痛感しています。
魚を入手した人の名前や居住地運搬方法や調理法など50項目以上からなる細かな調査。

坂東克彦弁護士「大正11年生まれの方で93歳。」
しかし、高齢の申請者の中には記憶があいまいになってしまっている人も多く、詳しく思い出せない人もいます。
申請者に残された時間が少なくなる中、それでもできるだけ救済につなげていきたいと坂東さんは考えています。

坂東克彦弁護士「取り残すことのないようにね、これが最後の機会だと思ってますから。
精いっぱい落ちのないように、きちっとして仕事を進めていきたいと思っています。」

偏見を恐れ、一昨年ようやく認定申請を行うことができた神田栄さんと三一さんも、2か月前に詳しい調査を受けました。
当時、食べていた魚の種類や量など、思い出せることのすべてを伝えたといいます。
日々、体調の悪化を感じる2人。
一日でも早く水俣病と認められることを待ち望んでいます。
神田栄さん(87)
「認定申請する以上は認定に結びついてほしいなと思いますけど、結果はどうなるのかですね。」

◇ 立ちはだかる“年齢の壁”
認定申請をしている113人の中には、若い世代の人もいます。
佐藤美穂さん(仮名)、45歳です。
子どもの頃から手足の感覚が鈍く、痛みや熱さに気付くことができないといいます。

佐藤美穂さん(仮名・45)
「この親指のところにビール瓶の破片が刺さっていても何かあるなというくらいで、見たら血が、だーと出て、ああというときもあって。」
昭和45年に生まれた佐藤さんが水俣病と認定されるには、厳しい壁があります。
去年、示された国の通知にはあるただし書きが添えられていたからです。
「阿賀野川流域では昭和41年以降水俣病が発生する可能性のあるレベルの水銀汚染はなくなった」という趣旨の指針が書かれていたのです。
阿賀野川沿いの、多くの患者を出した集落で生まれ育った佐藤さん。
漁師の親戚からもらう魚を食べて育ちました。
当時、自治体は行政指導で魚を食べることを抑制していましたが、集落にその指導は十分に行き渡っていなかったといいます。
さらに、佐藤さんの母親の晴子さん(仮名)も、長年水俣病の症状を抱えてきました。
水俣病患者を長年見てきた佐藤さんの主治医は、母体を通じて水銀の影響を受けた可能性もあると指摘しています。

母 晴子さん(仮名)
「私にすれば、母乳飲ませて、(魚で)離乳食たべさせたからなったのかなと。
負い目がありますよ、悪かったかなっていう。」
新潟の新たな認定審査では、家族の症状も親戚に至るまで詳しく調査されます。
佐藤さんは壁を越えられるのではないかと、いちるの期待を寄せています。

佐藤美穂さん(仮名・45)
「期待はありますね。現に(魚を)食べてるから、食べて今回こういうことになってるから。
だから何年までとか言わないで、とにかく調べるだけ調べて、年齢言わないで調べてほしい。」

◇ 水俣病 見過ごされた“被害”
発生から半世紀以上たっても被害を訴える人が後を絶たない水俣病。
埋もれた被害がまだあるのではないかと指摘する研究者もいます。
岡山大学の頼藤貴志准教授です。
頼藤さんは、母親の胎内で水銀の被害を受けた胎児性水俣病の研究をしています。
水俣病の確認後、しばらくたってから明らかになった胎児性の被害。
成人と比べ、重症化するケースも少なくありませんでした。
頼藤さんが注目するのが、胎児期に比較的低い濃度の汚染を受けた人々の実態です。
高濃度汚染の基準とされる、へその緒の水銀値1ppm。
それを下回る人を中心に調査を行いました。
これまで水俣病の症状としてはあまり顧みられてこなかった、認知機能について調べることにしたのです。
その結果、多くの項目で、一般の人に比べ認知機能が2割ほど低下していることが明らかになりました。
胎児期に水銀の影響を受けることで、脳の機能が広範囲に傷ついたことが原因だと頼藤さんは考えています。

岡山大学 頼藤貴志准教授
「中低濃度の汚染を受けてきた人、生まれつきもしかしたらこれが自分の普通なのかなと思って生きてこられる人がいるんじゃないかと思うんです。
それは外見上わからないですし、そういう人は見過ごされてきたんじゃないかと思います。」

熊本県水俣市の緒方博文さんです。
82歳の母親も、水俣病の症状に苦しんでいます。
緒方さんはいつも欠かさずノートを持ち歩いています。
幼い頃から物を記憶することが苦手だったため、聞き取ったことをすぐ書き留めないと混乱してしまうからです。

緒方博文さん
「パーと書きますね、そんとき。そうせんと忘れるから。覚えとっても、あれどやったかねって自信なくなるから、必ずそれは書きます。」

手足のしびれや頭痛などの症状を抱え、10年前認定申請をした緒方さん。
しかし、これまで自分の認知機能と水俣病の症状を結び付けて考えたことはありませんでした。
緒方さんは、水俣病の新たな知見が見つかれば、補償や対策にそれを取り入れてほしいと考えています。

緒方博文さん
「本気で救済する気があったら、とことん水俣病を検査して調査して、どんな実態か明らかにするのが当たり前だと思う。
最新の医学的、科学的データに基づいて、患者さんをできるだけ救済するという方向に持っていかんと、これはいつまでも解決しない。」

◇ 水俣病 見過ごされたデータ
さらに、新潟水俣病に関してあるデータが埋もれていたことも近年の研究で分かってきました。
毛髪に含まれる水銀の値を示すデータです。
WHOはこの毛髪水銀値に関して、50ppmを成人で神経症状の出現が疑われる最小値としています。
新潟青陵大学の丸山公男教授は、新潟水俣病発生当初に神経症状を発した103人の毛髪水銀値を改めて調査しました。
すると、半数近くの人が50ppmに満たない値で発症していたことが明らかになったのです。
丸山教授は、被害を埋もれさせないためにも基準を見直すべきだと指摘します。

新潟青陵大学 丸山公男教授
「一番新しい知見に基づいて、科学的な根拠に基づいた基準を考えていくべきだろうと思います。」

◇ “病の姿”が見えない 新潟水俣病の50年

ゲスト尾崎寛直さん(東京経済大学准教授)

●新潟は独自の方法で臨もうとしているが、救済はこれで広がるか?
今回の新通知を受けて、より疫学的な資料を重視しようという流れの中で、参考人制度が入ったと。
今までの認定審査会自体が、行政が指定した医師によって構成されて、どういう審査が行われたのかということが非公開で、ある意味でブラックボックスだったわけですね。
そこに患者さんのことをよく知ってる、水俣病などのこともよく知っている弁護士や医者が入るということは、今までのそうした不透明な問題を1つ変える第一歩にはなるだろうとは思っています。

●なぜ50年たっても声を上げることができなかった人々がいるのか?
1つはやはり、今までの認定制度のハードルが高すぎたっていう部分があると思います。
認定されればいいけれども、もし却下されたら偽患者だという差別を恐れると。
そういうこと自体が患者さんの被害を訴える気持ちをなえさせて、ちゅうちょさせる、そういう側面はあったと思います。
(なぜ、そのハードルをかなり高く設定した?)
典型的なのは、昭和52年の判断基準なわけですけれども、やはり国としては、いつまでも被害者が出続けると、加害企業の財源が破綻するんじゃないかという心配があったんだろうと思います。
ですから、あるところで、その財源を前提に線引きをすると。
そのために認定基準を作って患者さんを振り分けると、そういうようなことを考えたんじゃないかというふうに思います。
(被害者の視点に立っていないアプローチだと思うが、今では加害企業の懐具合という視点では考えないのでは?)
そうですね。
加害企業の財源によって、救済される人とされない人が出てしまうというのは、これはあってはいけないことだと思います。
今の拡大生産者責任だとか、そういう流れの中では、やはり単純に直接の加害企業だけではなくて、その材料を使って製品を作った企業であるとか、それに融資をした金融機関であるとか、さまざまな関係主体というものが実際にはあるわけですから、そこまで幅広く網をかけて補償の責任を負ってもらうということは、あってもいいんじゃないかなというふうに思います。

●胎児期に低濃度の水銀に汚染された影響、どの程度分かっている?
やはり、今のVTRにもありましたように、長期微量汚染の健康影響ということは、実際にはまだ解明されてないところがたくさんあると思います。
やはり今までの水俣病ということ自体が、重度の方々を基準に考えられ、認定制度が作られてきたということがありますので、本当のところは、そうした長期微量汚染の影響はどこまであるのかというのは、もっとやはり最新の知見を取り入れて、被害者の実態を直視して考えなきゃいけないことだと思います。

●昭和41年という線引きも1つの基準として出ているようだが?
実際には、その昭和41年以降も決して汚染が終わったわけではなくて、濃度が低くはなっていくんですけれども、決してなくなったわけじゃないと。
そういう意味では、暴露も高濃度ではないけれども、中程度、軽度の暴露を受けてる方々が次々出ているのは事実ですから、そういう方々の実態に合わせた水俣病の考え方というものを、ちゃんと作っていかないといけないと思います。

●水俣病の50年とは?
もしひと言で言うならば、何が水俣病なのかということを巡って、その水俣病の病像を巡って争いが続いた50年だったと言っていいと思います。
そしてその何が水俣病なのかということを国が握ってきたわけですから、結局、実際に健康調査だとか、健康診断を地域全体に行ってないわけですから、どのくらいその広がりがあるのか、そして症状のバラエティーがどんな形であるのかということは、やはり正確に解明されていないと言っていいと思います。

●救済を急ぐ方策はある?
そうですね。
実際には認定制度で認定を勝ち取るまでに、10年、20年かかってる方がおられます。
やはりそこまでの時間と労力ということは、今の高齢の患者さんには非常に負担だと思います。
そういう意味ではもっと、ある程度の客観的な資料を前提に、迅速に救済を受けられるような仕組みを作っていくということも考えられていいと思います。
(誰が、どうやってスピーディーに認定する?)
そうですね、やはり今まで認定を行っていた判断権者が国だったわけですけれども、結局今までは、その加害者性を認定された国が続けるということで来たわけですが、それはもう今後はできないんじゃないかと、もっとそういうものを、例えば裁判所だとかですね、第三者に委ねる形で、客観的に公平に審査をしていくような仕組みを作らなきゃいけないと思います。

●水俣という名前は世界に広がっている 今、何をすべき?
やはり日本語名が付いた、人類初めての病ですから、これは日本人自身が解決をしなきゃいけない問題ですし、国もそういう方向で研究を進めていく責務があると思います。
(被害者へのきめ細かな救済というのも改めて問われる?)
そうですね、介護や医療以外のサポートもしていかなきゃいけないと思います。

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褥瘡対策のポイントは「Zn」

2018年02月15日 06時42分13秒 | 医療問題
 皮膚疾患に使用する外用剤にはZn(亜鉛)を含んだものが多く存在します。

・亜鉛華軟膏:サトウザルベ®、ボチシート®
・フェノール・亜鉛華リニメント:カチリ®
・酸化亜鉛:カラミンローション®
 
 それから、亜鉛欠乏は「腸性肢端皮膚炎」という皮膚が荒れる病気を引き起こします。

□ 「亜鉛欠乏によって生じる開口部・四肢末端の皮膚炎」川村龍吉 山梨大学医学部皮膚科学講座(山梨医科学誌 30(1),15 ~ 19,2015

 ということで、皮膚症状には亜鉛が深く関わっているのです。
 さて、介護の現場で悩まされる「褥瘡」。
 “褥瘡にも亜鉛欠乏が関わっていた”という記事を紹介します。

 皮膚の局所療法だけより、効果が高い!

 一方、後半の「コラーゲンペプチド」は怪しいと感じます。
 タンパク質はアミノ酸として吸収されるので、それが人体内で再度もとのコラーゲンに構成されることは期待できません。おそらく、タンパク質摂取+付属の亜鉛による副次的効果ではないかと思われます。

褥瘡治癒の決め手は「亜鉛」にあった
2018/2/15 日経メディカル
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糖尿病治療の現況2018

2018年02月12日 09時58分18秒 | 医療問題
 小児のI型糖尿病患者さんを勤務医時代に数人担当したことがあります。
 インスリン注射が必要なタイプ。

 一方、成人では経口血糖降下剤が中心の2型糖尿病が多勢です。
 食事療法は「カロリー制限&バランス食」から「糖質制限食」へ緩やかに移行しつつあります。
 薬物治療はどうなっているのでしょう。
 新規経口糖尿病薬の名前を最近よく聞くようになりました。
 概説した記事を読んでみました;


■ 2017年に飛躍的発展遂げた糖尿病治療-米専門家の見解は?
HealthDay News:2018/01/22:ケアネット
 2017年は糖尿病の研究と治療が飛躍的発展を遂げた一年であった。特に進歩がみられた分野には、

(1)人工膵臓技術
(2)糖尿病治療薬による心血管疾患リスクの低減
(3)持続血糖測定(CGM)の進歩
(4)1型糖尿病の妊婦における血糖コントロールの改善
(5)超速効型インスリンの承認
(6)医療コストへの関心の高まり


-の6つが挙げられる。これらの進歩の意義について、米国の専門家に見解を聞いた。
 2017年に最も注目を集めたのは「人工膵臓の実用化」であろう。メドトロニック社による携帯型の人工膵臓デバイスには、インスリンポンプとCGMが装備され、コンピューターのアルゴリズムによってモニターした血糖値に応じてインスリン投与量を自動的に調整し、インスリン注入を行う。血糖値が下がり過ぎるとインスリンの注入を一時的に中断する機能も備えている。
 操作はまだ完全に自動化されておらず、デバイスを装着した患者は食事中に含まれる炭水化物の摂取量や1日数回測定した血糖値を入力する必要があるが、若年性糖尿病研究財団(JDRF)のAaron Kowalski氏は「人工膵臓デバイスの実用化はわれわれの悲願であった。その機能は完璧ではないとしても、患者に大きな利益をもたらすものだ」と高く評価している。現在では、数十社が独自の人工膵臓システムの開発に着手しており、同氏は「競争でより革新的なデバイスが生まれる可能性がある。今後数年間の成果に期待したい」と話している。
 また、2017年には糖尿病患者で懸念される心血管疾患リスクについても新しい研究結果が発表された。約400人の成人1型糖尿病患者を対象としたプラセボ対照二重盲検のランダム化比較試験(REMOVAL試験)の結果、メトホルミンの長期投与は1型糖尿病患者の心血管疾患リスクを低減することが第77回米国糖尿病学会(ADA)で発表された。ADAのChief Scientific & medical officerを務めるWilliam Cefalu氏は「心血管疾患は糖尿病合併症の中でも死に至るリスクが高く、治療コストもかかる。既にSGLT-2阻害薬やGLP-1受容体作動薬については2型糖尿病患者の心血管疾患リスクを低減したとの報告がある」と述べている。
 糖尿病治療の技術革新は人工膵臓にとどまらず、米食品医薬品局(FDA)がアボット社のフラッシュグルコースモニタリングシステム「FreeStyle Libre」を承認したことも注目を集めた。このシステムでは皮膚の下に小さなセンサーワイヤーを挿入して血糖値を測定するが、患者は装置をセンサーにかざすと測定した血糖値の情報を読み取ることができる。また、このシステムでは採血のための指先の穿刺を必要としない。Kowalski氏は「CGMから常に送られる血糖測定値に精神的な負担を感じる患者もいる。FreeStyle Libreはこうした負担を軽減するほか、他のCGMよりデバイスが薄く、価格も安いといったメリットもある」と説明している。
 また、CGMに関しては、1型糖尿病の妊婦を対象とした非盲検の国際的なランダム化比較試験(CONCEPTT試験)により、CGMを使用することで非使用よりも血糖目標を達成する期間が延長し、新生児アウトカムも改善することが報告されている(Lancet 2017; 390: 2347-2359)。
 その他、2017年9月にFDAが承認した新しい超速効型インスリンアスパルト製剤(Fiasp®)にも期待が寄せられている。従来の超速効型インスリン製剤は吸収速度が遅く、血中に移行するまで約5~10分を要するため、食事の約10分前にインスリンを注射する必要があった。しかし、この新しい製剤は約2.5分で血中に移行し始めるため、食事開始後20分までに注射をすれば食後血糖値の上昇を抑えられる。
 さらに、インスリンに関しては過去10年間で急上昇したコストが課題とされている。ADAは“Make Insulin Affordable(インスリンを手ごろな価格に)”と題したキャンペーンを開始しており、この問題への関心を高める活動を行っている。
 Cefalu氏は「2017年の研究の進展で糖尿病とその合併症への理解が深まったほか、糖尿病患者が直面している経済的課題や治療へのアクセスといった面への配慮もなされるようになった」と話している。



 なるほど、なるほど。
 次は山田悟先生の解説・概説をメディカル・トリビューンの記事から。


■ 大きく変わった糖尿病薬物療法アルゴリズム 〜ADA2018年版勧告
2017年12月22日:メディカル・トリビューン
 米国糖尿病学会(ADA)は、毎年1月にStandards of Medical Care in Diabetesという勧告集を機関誌であるDiabetes Careの付録(supplementation)として発表している(2014年以前はclinical practice recommendationという名前であった)。このたび、2018年版の勧告が発表され、2型糖尿病患者の薬物療法のアルゴリズムが大きく変更されたのでご紹介したい(Diabetes Care 2018;41:S73-S85)。

◇ 勧告のポイント1(1型糖尿病):2017年版と変わらず
 最初に記載されているのは1型糖尿病患者の薬物療法であり、この部分の勧告は2017年版と全く変わっていない。

・1型糖尿病患者のほとんどは追加インスリンと基礎インスリンから成るインスリン頻回注射療法か、持続皮下インスリン注入(CSII)で治療すべきである。
・低血糖リスクを下げるため、1型糖尿病患者のほとんどは超速効型インスリンアナログを使用すべきである。
・1型糖尿病患者には、糖質摂取、食前血糖値、予想される身体活動量の三者に対してインスリン注射量を適合するという応用カーボカウント指導の教育を考慮する。
・CSIIを上手に使っていた1型糖尿病患者は65歳を超えてもCSII治療の機会が与えられるべきである。

◇ 勧告のポイント2(2型糖尿病):第二選択薬を横並びにせず
 ここが今回、変更されたところである。

・メトホルミンは、禁忌でなく、忍容性がある限りにおいて、2型糖尿病薬物療法の望ましい開始治療薬である。
・メトホルミンの長期使用はビタミンB(VB)12欠乏と関連するかもしれず、定期的な血中VB12測定を検討すべきである。特に、貧血や末梢神経障害のある患者ではそうすべきである。
・新規に診断された2型糖尿病患者のうち、症候性であったり、HbA1c10%以上であったり、随時血糖値が300mg/dL以上の患者には、開始治療薬としてインスリン療法を考慮すべきである。
・HbA1c 9%以上の新規診断2型糖尿病患者には、2剤併用での経口治療薬の開始を考慮すべきである
・動脈硬化性心血管疾患の既往のない患者で、3か月間目標HbA1cが達成できない場合、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素を加味して追加薬剤を選択する。
・薬物療法の選択においては患者中心アプローチを用いるべきである。すなわち、有効性、低血糖リスク、動脈硬化性心血管疾患の既往、体重への影響、潜在的な副作用、腎臓への効果、投与法、費用、患者の嗜好を踏まえて考慮する。
・動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では、生活習慣管理、メトホルミンで開始し、続いて、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素に基づいた考慮の上で、主要有害心血管イベント(MACE)や心血管死への有効性を証明している薬物(現時点ではエンパグリフロジンとリラグルチド)を追加する。
・動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では、生活習慣管理、メトホルミンの後で、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素に基づきつつ、MACEを減らすためにカナグリフロジンの追加を考慮してもよい。
・継続した薬物レジメンの再評価や患者要素とレジメンの複雑さを考慮した調整を推奨する。
・血糖目標を達成できない2型糖尿病患者に対する治療強化は遅らせるべきでなく、それにはインスリン療法の考慮も含まれる。
・メトホルミンは、禁忌でなく、忍容性がある限りにおいて、他の治療薬との併用において継続されるべきである。

 2017年版勧告(Diabetes Care 2017;40:S64-S74)でも「長期にわたって血糖管理が十分でなく、動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では心血管死や総死亡を減少させることを示したエンパグリフロジンとリラグルチドが考慮されるべきである」との記載はあったが、2018年版では「長期にわたって血糖管理が十分でなく」といった条件がなくなった。何よりも大きく変更されたのが「一般的な薬物療法勧告の図」と「糖尿病治療薬の一覧表」である。
 2017年版までの勧告では、2012年のADA・欧州糖尿病学会(EASD)の合同アルゴリズム(Diabetes Care 2012;35:1364-1379)を踏襲し、開始薬としてメトホルミンを挙げ、第二選択薬としてさまざまな薬剤(SU薬, チアゾリジン薬, DPP-4阻害薬, SGLT2阻害薬, GLP-1受容体作動薬, 基礎インスリン)を横一線に挙げていた(図1)。

図1. 2017年版勧告における薬物療法アルゴリズム



(Diabetes Care 2017;40:S64-S74)

 このタイプの図を目にしたことのある先生も多いであろう。それが今回は、第二選択薬を横並びにはせず、まずは患者を心血管疾患の有無で分けることを求めたのである(図2)。

図2. 2018年版勧告における薬物療法アルゴリズム



 その上で、心血管疾患の既往のある患者に対しては心血管疾患保護の科学的根拠のある治療薬を推奨するというスタンスを取り、そのために薬物一覧表の記載を大きく変更した。

 2017年版までは表の1行目(項目名)は、

① クラス(例;ビグアナイド)
② 薬剤名(例;メトホルミン)
③ 基礎的作用機序(例;AMPキナーゼ活性化)
④ 臨床的作用機序(例;肝糖産生低下)
⑤ 有益性(例;豊富な使用経験、低血糖がまれ、心血管イベント抑制、比較的HbA1c低下作用が強い)
⑥ 不利益〔例;消化器症状、VB12欠乏、推算糸球体濾過量(eGFR)

―の7項目であった。
 これに対し2018年版では、

① クラス(例;ビグアナイド)
② 薬剤名(例;メトホルミン)
③ 基礎的作用機序(例;AMPキナーゼ活性化)
④ 臨床的作用機序(例;肝糖産生低下)
⑤ 腎機能に対する用量調整の勧告

―というほぼ従来通りの表に加えて、

① クラス
② 血糖低下効果
③ 低血糖の発生頻度
④ 体重変化
⑤ 心血管イベント(動脈硬化症・心不全)
⑥ 費用
⑦ 経口/皮下注射
⑧ 腎臓(糖尿病性腎臓病の進行・腎不全時用量調整)
⑨追記

―の9項目(⑤と⑧を分けると11項目)が並んだ薬剤特異的要素の表が新設された(表)。

表. 治療薬選択において考慮すべき薬剤特異的および患者側の要素



(図2、表ともDiabetes Care 2018;41:S73-S85)

◇ 私の考察:薬剤の序列付けが進むか
 元来、脂質異常症の治療の中では、心血管疾患の一次(初発)予防と二次(再発)予防とを分けて考えるという概念が一般的であった。今回のADAの勧告では、糖尿病の薬物療法においても、心血管疾患の初発予防と再発予防を分けて考えるという概念が明確に示された。心血管疾患は脂質異常症だけでなく、糖尿病の合併症としても重要なものであり、こうした概念が定着していく可能性は高い。
 また、今回動脈硬化性心血管疾患に対して有益あるいは潜在的に有益とされた薬剤の一部(カナグリフロジン、エンパグリフロジン、リラグルチド)は、糖尿病性腎臓病の進行予防に対しても有益であったと表に示されている。そうした点も第二選択薬を横並びにできない理由になろう。
 わが国のガイドラインでは糖尿病治療薬は経口か皮下注射かで大別され、経口薬に関しては作用機序で患者ごとに適応を考えることになっている。しかし、臓器保護効果についての科学的根拠は考慮されていない。
 また、実臨床の現場では、例えばインスリン分泌が低下している患者への処方として、インスリン分泌促進系薬剤を考えたとしても、同じインスリン分泌促進系薬剤の中での(SU薬かグリニド薬かDPP-4阻害薬かの)選択が求められる。作用機序だけでは患者ごとの適応を考えることは不可能といえる。そうした意味では、わが国の実臨床の現場でも、今回のADAの勧告のような、あるいは米国臨床内分泌学会/米国内分泌医会(AACE/ACE)の勧告(Endocr Pract 2016, 22, 84-113)のような、薬剤を序列付したものの方が使い勝手が良いのではないかと感じる(上記文献の107ページ参照)。
 AACE/ACEの勧告では、単独療法の場合には、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬...という序列付けが2016年の段階でなされている。今回のADAの勧告の改訂は、これを追認したような印象である。これらはいずれも海外の指針ではあるが、今後のわが国における糖尿病治療薬の処方動向も、今回の勧告の改訂によりなんらかの影響を受けていく可能性があるように感じる。


 経口血糖降下剤がたくさん開発・発売され、メカニズムや作用、特徴を考慮して選択する時代になってきたのですね。
 日本のガイドラインはその視点ではまだ不十分なようです。
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その症状は病気なのか、違うのか?

2018年02月10日 22時37分38秒 | 医療問題
 興味深い記事が目にとまりました。
 「身体化障害」「転換性障害」は、「ストレスに対する反応」「他人にアピールする目的」などである程度理解可能ですが、「虚偽性障害」はもっと深い心の闇の存在を伺わせます。
 私個人としては、やはり「愛が足りない、愛が欲しい」症候群ではないかと感じています。

■ 「身体化障害と転換性障害と虚偽性障害と詐病の違いは?」より
2017/11/6:日経メディカル
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労働基準法を遵守すると、約7割の産婦人科が破綻

2018年02月10日 07時30分18秒 | 医療問題
 日本の医療は医師のボランティア精神に頼ることで維持されてきました。
 しかし医師を“労働者”として考えると、現状のエンドレス労働は労働基準法に明らかに違反しています。

 人並み以上の体力がなければ、40歳以降病院勤務医を続けることは困難です。
 私も身体を壊してドロップアウトした一人であり、開業することにより夜の勤務(眠れない当直)から解放されました。

 しかし開業医となった現在も、診療レベルを維持するために日々医学知識のアップデートが欠かせません。
 仕事の準備(医学関連の情報収集)に費やす時間は、毎日数時間。
 これを労働時間に含むと判断すると、私は一生涯“過重労働”から逃れられないことになります。

 産婦人科の現状を報告する記事を紹介します。
 労働基準法を遵守すると、約7割の産婦人科施設でマンパワー不足となり運営不能となる、という当たり前すぎる内容です。
 現場の医師から見ると「何を今更・・・」という感が無きにしも非ずですが、果たして厚労省がこれをどう解決していくのか、見物ではあります;

■ 労基法の遵守で約7割の施設が運営不能に 〜勤務シミュレーションに基づく試算
2018年02月06日:メディカル・トリビューン
 日本産婦人科医会常務理事で日本医科大学教授の中井章人氏は、政府が進める働き方改革の一環として、医療機関における労働基準法(以下、労基法)を遵守することによって産婦人科勤務医の労働環境の改善が期待されると歓迎。その一方、現状のまま遵守すれば勤務医を抱える多くの施設で大幅な医師不足となり、68%の施設が運営できなくなる事態を招くとする勤務シミュレーションの結果を、日本産科婦人科学会が1月21日に東京都で開いた「拡大医療改革委員会」兼「産婦人科医療改革公開フォーラム」で指摘した。

◇ 施設の二極化が進行中
 中井氏は冒頭、同医会が昨年(2017年)実施した施設情報調査における周産期医療の実態を紹介した。分娩取り扱い施設数および産科医師数の推移を見ると、いずれも一般病院と診療所で減少の一途をたどる一方、総合周産期母子医療センターおよび地域周産期母子医療センターでは増加していた。また、施設ごとの分娩数については一般病院で減少し、診療所ではわずかに減少。それに対し、両周産期センターでは増加傾向にあり、診療所と周産期センターの二極化が進んでいる。

◇ 宿直1.4回分、74時間が超過勤務
 このような産科医療を取り巻く実態に関連し、これまで同学会および同医会は産婦人科勤務医の勤務条件の改善や医療再生などを提言してきた。
 医師の宿日直勤務と労基法に関する厚生労働省労働基準局の通知(2005年)では、宿直は週1回(日直は月1回)を限度とし、病院の定時巡回などの軽度または短時間の業務に限るとしている。さらに、応急患者の診療または入院、患者の死亡、出産などといった昼間と同様の労働が常態化したものは許可していない。
 しかし、同医会勤務医部会が行ったアンケート(2017年、暫定値)では、産婦人科医の平均宿直回数は1カ月の上限を上回る5.7回であることが分かった。
 さらに1カ月の平均在院時間は295時間(休憩時間22時間含まず)と、労基法で定める176時間を上回り、宿直1.4回分、74時間が超過勤務となった。

◇ 遵守するなら16人必要
 そこで中井氏は、労基法で定める宿日直の条件に基づき、分娩取り扱い施設で必要な勤務医数を試算した。
 その結果、毎日1人で宿日直を担当する施設(1カ月当たりの宿直必要回数30~31回、日直必要回数8~10回)では、産科医8人の確保が求められた。総合周産期センターで毎日最低2人が宿日直を行う場合は16人が、非常勤医による宿日直と常勤医の自宅待機を行う一般病院では4人がそれぞれ必要であることが分かった。
 ただし医師数には育児中の女性医師がを含まれており、教育・研修の時間や有給休暇、宿日直が1人体制の施設における緊急時の自宅待機者の呼び出しは除外されている。
 同氏は国が定める基準を満たすには交替制勤務もありうるとし、1日3交代・各2人体制の勤務表を組んでみたところ、人数が足りず1カ月当たり4日間外来診療に医師を割り当てることができないことが想定された。そのため1日3交代制を導入し、労基法内の勤務時間とすると、外来、手術担当、病棟担当も含めて16人(有給休暇は含まず)の産科医が必要であるとした。

◇ 全国規模で医師数が多い施設から移動しても改善せず
 実際に交代勤務が可能な分娩取り扱い施設はわずか7%である(前出アンケート)。前述の産科医16人以上を確保できている施設は、総合周産期医療センター107施設中41施設(38%)にすぎず、16人未満の66施設は計432人を追加確保する必要があった。また地域周産期医療センターについては、700件以上の分娩を取り扱う71施設のうち、16人以上確保できている施設は9施設にとどまった。分娩700件未満の227施設中では16人以上が12施設で、16人未満であった215施設については分娩数を考慮し、8人での宿日直体制に縮小した試算でも、その人数に満たない施設数は163に上った。
 今回の試算から、両周産期医療センターで交代勤務を導入するには、追加で1,545人の医師を確保する必要があることが示された。改善策として、非常勤医を含めると不足数は約1,300人と若干改善されたが、全国規模で医師数の多い施設から少ない施設へ移動したとしても総合周産期医療センターで約150人、地域周産期医療センターで約800人が不足。そのため、全体で68%の施設が運営できなくなると試算された。
 中井氏は「労基法の遵守は、勤務医の労働環境の改善に役立つことが期待できる」とした。その一方で、今回の試算結果を踏まえ、多くの勤務医を抱える周産期母子医療センターでは大幅な医師不足に陥ること、医師数を急激に増やすのは人員的・経済的に困難であることなどの問題点を指摘。「日本産婦人科医会として、宿直業務の捉え方や時間外労働の上限などの課題解決に取り組むと同時に、経済的な側面からも検討を進めていきたい」との見解を示した。
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