小児アレルギー科医の視線

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「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」登場!

2025年01月01日 09時35分43秒 | 感染症
感染性胃腸炎と単語は硬い印象がありますが、
いわゆる「嘔吐下痢症」「お腹の風邪「胃腸炎」のことです。

“感染性”という単語がついているように、原因となる病原体が存在します。
夏を中心に発生する細菌性と冬を中心に発生するウイルス性に大きく分けられます。

細菌性の特徴は、発熱・腹痛・下痢が激しいことが多く、時に血便が見られます。
ウイルス性の特徴は嘔吐・腹痛・下痢ですが、発熱はそれほど目立たず、便の色が薄く白っぽくなることがあります。
ただし、症状だけでは細菌性かウイルス性か、判断が難しいのが現実です。

治療に関しては、細菌性には抗菌薬(抗生物質)と常識的にはなるところですが、
感染性胃腸炎の場合はちょっと事情が異なります。
もともと腸の中にいる腸内細菌叢も抗菌薬の影響を受けるので、
抗菌薬で病原菌が減ったけど、
防御機能もある腸内細菌叢が乱れると病原菌が生き残って悪さする可能性があるからです。
そして腸内細菌叢の乱れは、回復に3ヶ月ほどかかるとされています。

なので、細菌性を疑った場合でも、重症感がなければ抗菌薬に飛びつかない、
使う場合はFOM(ホスホマイシン)、
というのが従来の方針でした。

一方、ウイルス性の場合は特効薬はないので、
脱水症に気をつけながら対症療法で回復待ち、
ということになります。

以上が今までの常識でしたが、
さて、ガイドラインにはどんなことが書かれているのでしょう。

▢ 「小児消化管感染症診療ガイドライン」が初登場、注目のポイントは?
〜国内事情踏まえ、整腸薬投与やホスホマイシン使用などは海外と異なる推奨
2024/12/25:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2024年11月、「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」が日本小児感染症学会と、日本小児消化管感染症・免疫アレルギー研究会より発表された。日本の子どもに多い消化管感染症を紹介して、その治療法についてそれぞれ推奨度を提示。疫学や診断などについても解説した国内初の指針となる。同ガイドラインの作成委員会委員長を務めた札幌医科大学医学部小児科学講座教授の津川毅氏に、注目すべきポイントを聞いた。

──今回初めて、「小児の消化管感染症」に特化したガイドラインが登場しました。作成の経緯を教えてください。

津川 現在、日本の小児感染症の診療現場では「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022」(日本小児感染症学会、日本小児呼吸器学会)が広く活用されていますが、ここでは消化管感染症については紹介されていません。2017年に日本小児感染症学会と日本小児消化管感染症研究会(現:日本小児消化管感染症・免疫アレルギー研究会)が新体制になったタイミングで、比較的頻度の高い小児の消化管感染症に特化したガイドラインを求める声が関係者から上がり、作成へと動き出しました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で一時は作成作業が中断していたものの、ようやく今年発行することができました。

──本ガイドラインにはどのような特徴がありますか。

津川 本ガイドラインは大きく分けて2章で構成されており、第1章では小児消化管感染症の治療法に関する9つのクリニカルクエスチョン(CQ)とその推奨などを、非抗菌薬治療と抗菌薬治療に分けて提示しました。第2章は教科書的な内容とし、診断や各疾患の症状、疫学など35項目について解説しています。
 また、第1章は「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3」に準拠しており、国際標準で定められた、科学的な根拠に基づいた系統的な手法によってシステマティックレビューを行っているのが特徴です。
・・・
 本ガイドラインでは、「この1冊で診療が完結すること」を目指しました。消化管分野で先んじて国内で発行されている「JAID/JSC感染症治療ガイドライン―腸管感染症―」(日本感染症学会・日本化学療法学会)は、抗菌薬治療に焦点が当てられています。また、「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」(日本小児救急医学会)の治療に関する記載は、経口補水療法や食事療法などの非抗菌薬治療が中心でした。そのため本ガイドラインでは、この1冊で包括的に小児消化管感染症に対応できるよう心がけました。また、JAID/JSC感染症治療ガイド2023や米国感染症学会ガイドライン、Red Bookなどを参考にしながら、各薬剤の小児用量を可能な限り記載し、実際の臨床現場で役立つことを目指しました。

──第1章では、非抗菌薬治療のCQが4つ、抗菌薬治療のCQが5つ提示されています。CQの作成に関して意識した点はありますか。

津川 このガイドラインでは、海外と日本との現状を考慮した上で「日本の小児患者」に使えることを意識しました。例えば、「CQ1-3:小児の感染性胃腸炎に対して整腸薬投与は推奨されるか?」については、海外と日本で推奨が異なります
 欧米のガイドラインでは、小児の感染性胃腸炎に対する整腸薬の投与は推奨されていませんが、その根拠となっている大規模研究では、使用された整腸薬に含まれる菌種が日本で使用できない菌種も含まれていること、また、胃腸炎の背景が異なる可能性がある低所得国での研究も多く含まれていることなどから、これらの結果を直接日本に当てはめることは難しいと考えました。そこで、低および低中所得国を除き、日本国内で使用可能な菌種を含んだ整腸薬に限定して解析を行ったところ、下痢を1日程度早く改善する効果が認められました。整腸薬は安価で副作用も少ないため、本ガイドラインでは下痢の期間を短縮させる目的で、整腸薬の投与を提案しています。

──抗菌薬治療に対しては、主に適正使用の観点から解説されており、カンピロバクター腸炎や非チフス性サルモネラ属感染症など、特定の疾患が取り上げられています。これらの疾患はどのような基準で選ばれたのでしょうか。

津川 細菌性胃腸炎の中で、比較的頻度の高い疾患を選びました。日本における小児科診療では、主にカンピロバクター腸炎と非チフス性サルモネラ属感染症に出会う場面が多くあります。また、エルシニア感染症もこの2疾患に次いで報告が多いことから、今回、CQで取り上げることにしました。一方、Clostridioides difficile感染症(CDI)や腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、上記の3疾患よりは頻度が少ないものの、現場の医師が診療方針に悩むことが多い疾患です。
 例えば、「CQ2-4:2歳以上の小児において,初発Clostridioides difficile感染症患者を治療する場合の治療薬としてバンコマイシンは推奨されるか?」については、これまで日本の小児におけるCDIの治療指針がなかったため、今回取り上げました。C. difficileには非毒素産生株と毒素産生株が存在し、2歳未満ではC. diffficileの保菌率が元々高いことから、本ガイドラインでは対象を2歳以上の小児に限定しています。ここでは日本国内で小児に使用可能な薬剤に限定した解析を行った結果、治癒率、再発率などの有効性の観点から、初期治療薬としてバンコマイシン(経口投与)を使用することを提案しています。
 「CQ2-5:小児の腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症に抗菌薬は推奨されるか?」については、EHECによって生じる重症な合併症である溶血性尿毒症症候群(HUS)を予防する観点から、EHEC感染症に対する抗菌薬使用の是非が日本でもたびたび議論されてきました。日本では、欧米でEHEC感染症に対して使用されていないホスホマイシンFOM)が主に使用されていますが、FOMはHUSの発症リスクの低下を認めたという国内の報告がありました。今回抗菌薬ごとに行ったメタ解析の結果、HUS発症リスクが高いと判断した場合には、予防目的で経口FOMを投与することを提案しています
 なお、今回は3つのCQを例に挙げて簡単に説明しましたが、CQごとに背景やエビデンスの質のレベルがそれぞれ異なっています。そのため、薬剤投与については、本ガイドラインの推奨の記載全体を読んだ上で判断していただきたいと考えています。

──本ガイドラインを現場でどのように活用すればよいでしょうか。

津川 臨床現場で広く使っていただきたいので、気になったときにすぐに手に取れるように外来や病棟など身近なところに置いていただきたいです。本ガイドラインは主に小児科医に使っていただくことを想定していますが、例えば内科小児科医院の先生や、救急外来において小児の患者を診るときにも、入門的な内容と詳細な解説が織り交ぜられているので使ってもらいやすいのではないかと思います。
 なお、本ガイドラインは5年前後で改訂を検討する予定です。今回は初版ということもありCQは治療に限定した内容となりましたが、今後は、治療以外の部分も必要に応じて盛り込みたいと考えています。

<参考>
「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」におけるCQ
■非抗菌薬
CQ1-1:小児の感染性胃腸炎による脱水症の治療に経口補水療法は初期治療として推奨されるか?
CQ1-2:小児の感染性胃腸炎による脱水症に対して,推奨される是正輸液療法の輸液組成は何か?
CQ1-3:小児の感染性胃腸炎に対して整腸薬投与は推奨されるか?
CQ1-4:小児の感染性胃腸炎に対して制吐薬投与は推奨されるか?
■抗菌薬
CQ2-1:小児のカンピロバクター腸炎に抗菌薬は推奨されるか?
CQ2-2:小児の非チフス性サルモネラ属感染症の重症化予防および罹病期間短縮・神経学的合併症の予防を目的とした抗菌薬投与は推奨されるか?
CQ2-3:小児のエルシニア感染症に抗菌薬は推奨されるか?
CQ2-4:2歳以上の小児において,初発Clostridioides difficile感染症患者を治療する場合の治療薬としてバンコマイシンは推奨されるか?
CQ2-5:小児の腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症に抗菌薬は推奨されるか?

・・・ウ〜ン、私の知識の範囲とあまり変わりが無いかな・・・。諸外国では整腸剤やFOMは使われていないようですね。でも日本の事情で今後も使ってよいことになりそう。

紹介した記事では触れていませんが、嘔吐下痢の際に腸の動きを止める薬(例:ロペラミド)は使っていけないことになっています。
毒素産生タイプの細菌性腸炎では、毒素を体外に出すために下痢しているのですが、腸の動きを止めて下痢を止める薬はそれを邪魔してしまい、重症化につながると考えられているからです。

しかし整腸剤ではいつまで経っても下痢が治まらないことが度々あります。
私は西洋医学の薬では治まらない強い腹痛・下痢に対して漢方薬を提案しています。
飲めると効きます。


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