投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年12月31日(木)11時39分10秒
今年は南原繁の『国家と宗教』などを素材にして国家と宗教の関係について少し勉強しようかなと思っていて、多少は本を読んだのですが、この掲示板への反映は全くできませんでした。
その原因のひとつは世間の安保法制騒動に影響されて、シールズのようなあまり知性を感じさせない運動に親和的な憲法学者たち(以下、「アザラシ系憲法学者」という)の代表格である東大教授・石川健治氏の「窮極の旅」の分析を長々と続けたことですね。
石川健治氏が絶賛する清宮四郎は、憲法学者としてはそれなりの実績を残した人ではありますが、南原繁や田中耕太郎、あるいは河合栄治郎・竹山道雄といった同時代の他の知識人と比較すれば別にそれほど優れた人ではないので適当に受け流せばよかったのですが、結果的に石川氏に引き摺られて無駄につきあってしまった感じは否めません。
しかし、後から振り返って別のルートがあったことに気付いても、実際に歩いているときにはそうそう効率的に進めないのが普通ですし、無駄足の過程でそれなりの副産物も多々あったので、まあ、これで良しとしたいと思います。
「窮極の旅」の謎として最後まで残ったのが、アザラシ系憲法学者の頂点に位置する樋口陽一氏が清宮のあまり出来の良くない論文、清宮自身が「苦しまぎれにやった」と告白する「違法の後法」を「恩師の最高傑作」と評価していたという石川氏の証言をどのように評価すべきか、という点です。
「最高傑作」に言及した自分の投稿を数えてみたら七つもありましたが、これも分かってみれば単純なことで、樋口氏は「(清宮四郎先生にしてみれば)最高傑作」と「冗談めかして」言ったのでしょうね。
樋口氏の清宮学説に対する最終評価は「国法秩序の論理構造の究明─清宮四郎先生の戦前の業績─」(『ジュリスト』964号、1990年)」に出尽くしていて、まあ、結論として、「戦前、戦後を通して実定法学の土俵で終始」した人で、そこそこ頑張ったけど理論的にはあんまりたいした人じゃないよね、ということですね。
樋口氏も聞き手の一人として参加している清宮の回顧座談会記録「憲法学周辺50年」の第三回(『法学セミナー』1979年7月号)によれば、ドイツ語に比べると清宮のフランス語能力はあまり高いものではなかったようで、憲法学界屈指のフランス通である樋口氏から見れば、清宮は既に基礎学力の点でそれほど評価できる人でもありません。
清宮の学士院会員・東北大学名誉教授という社会的地位は、通常人を基準にすれば目の眩むほど高い場所にありますが、同じく学士院会員であって、更に東北大学名誉教授と東京大学名誉教授を兼ね(そんな人は今までいなかったし、これからも出そうもない)、また「ポーランドアカデミー法学部門名誉会員・比較法国際アカデミー正会員・フランス学士院人文社会科学アカデミー連携会員」といった、何だかよく分からないけれども立派そうで清宮には全く縁遠かった各種資格を有する樋口氏から見れば、清宮は高く仰ぐのではなく、低く見下ろす位置にある人ですね。
ま、要は樋口氏は清宮をちょっと軽く見ていて、それが「最高傑作」という「冗談めかした」表現に繋がったものと私は考えます。
石川氏は、
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清宮の弟子のなかでも末っ子にあたる樋口陽一は、一九三四年の論文「違法の後法」を、かねて恩師の最高傑作として推していたものである。「タイトルからして格好いい。清宮先生のものとは思えないほど格好いいね」と、樋口は冗談めかして本稿筆者に語ったことがある。
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と書いていますが、資料に「熊谷次郎直実」をあるのを勝手に「熊谷三郎直実」と変えてしまう石川氏の習性も考慮すると、「冗談めかして」は「恩師の最高傑作として推していた」にも掛かっているものと私は考えます。
日本学士院・会員個人情報・樋口陽一
http://www.japan-acad.go.jp/japanese/members/2/higuchi_yoichi.html
「恩師」の水浸し(10月11日)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/8514e7f64e3d4284564f634d1d8865bd
「ケルゼンをいわば換骨奪胎」(by 樋口陽一) (10月7日)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/76855f281318a3938c88a50f0c8ad1e0
「苦しまぎれにやった」(by清宮四郎)─「窮極の旅」を読む(その35)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/ae3ac8c2d691fa04bb1adb15a675d757
ショムロー『法学の根本理論』─「窮極の旅」を読む(その25)(9月9日)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/8f0669597928b69979b622502af43f03
「永久法」の問題─「窮極の旅」を読む(その17) (9月2日)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/e22cf60e4607821a6979f0bbabac883a
「一見すると規範論理の骸骨」─「窮極の旅」を読む(その14) (8月30日)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/ed46085a2b557fa192e657c150c29fe5
違法の後法─「窮極の旅」を読む(その11)(8月28日)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/166a3d2d745e0d4b969ab3cac22c04f4
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