学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

木谷恭介『野麦峠殺人事件』

2018-12-10 | 松沢裕作『生きづらい明治社会』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年12月10日(月)10時42分22秒

>筆綾丸さん
いえいえ。
私もある程度自信を持って書けるのは明治・大正期の製糸業だけで、紡績業については詳しくなく、まして絹紡糸の世界は全く視野の外でした。
製糸業と紡績業との混同、近代製糸業史の「女工哀史」化は根深くて、山田盛太郎等の「講座派」が理論的基礎を提供し、山本茂実『あゝ野麦峠─ある製糸女工哀史』が民衆の世界から新たな材料を入手して作家ならではの巧みさで補強し、そのエッセンスを山本薩夫監督が抽出して映画『あゝ野麦峠』で「女工哀史」像を完成させたのかな、などと思っていたのですが、『絹と明察』は私にも盲点があったことを自覚させてくれました。
近江絹糸争議は、事実のレベルとして製糸業と紡績業が交わる「女工哀史」的世界が存在していたことを示すものですから、研究者や一般人の認識にも相当な影響を与えているのかもしれないですね。

『絹と明察』のついでに、製糸業と結核の問題にも少し触れておこうと思います。
『絹と明察』では駒沢善次郎の妻・房江が結核で京都宇多野の国立療養所に入院しており、そこに駒沢によって「絹紡工場」に移され、結核に罹患した石戸弘子も入院したとのストーリー展開となっており、結核の存在が物語の全体を暗く彩っていますが、製糸工場でも結核が蔓延していたというイメージは今でもかなり根強く存在していると思われます。
『絹と明察』と比べると些か文学的香気は劣りますが、ネットで「野麦峠」を検索している際に知った推理作家・木谷恭介の『野麦峠殺人事件』を入手して「あとがき」を見たところ、『あゝ野麦峠』を読んで結核の悲惨さに強く印象付けられたと書いてありました。

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峠を越えて女は死出の旅へ…?

連上蘭はワイドショーのかけだしリポーター。「未婚の母」告白の会見をした人気女優・仁科奈津子を追いかけることになった。その奈津子が失踪した。娘の紀子は京都で保護されたが、奈津子は野麦峠のふもとの実家で首を吊って死んでいた。所轄署は自殺説だが、蘭は他殺説にこだわって取材をつづけていく。そんな蘭のもとに宮之原警部が訪れ、不可解な死の真相を解明していく……。


私も、製糸工場では大勢が寄宿舎生活をしていたのだから、結核の蔓延はあったのだろうなと思っていたのですが、実態はかなり異なるようなので、少し検討してみたいと思います。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

反省 2018/12/09(日) 17:42:05
小太郎さん
数十年ぶりに三島のレトリックに酔っ払っていて、製糸と紡績の矛盾にも気づかいとは、まあ、ただのバカですね。やれやれ。
三島の作品は、評論も含め、ほとんど読んでるはずですが、「栄光の蛸のやうな死」は記憶にありません。
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