平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

Q10~世界を愛せよ!

2010年12月12日 | 学園・青春ドラマ
★ハッピーエンド。
 でも、未来に回収されていったQ10(前田敦子)のことを考えてしまう。
 Q10は幸せだったのか?
 人類の未来のことを考えて悩む平太(佐藤健)から<心のザワザワ>をなくすために姿を消そうとするQ10。
 悩む平太を幸せにするために回収されることを選ぶQ10。
 Q10にはプログラムされた感情しかないので人間のような哀しさはないのだろうが、リセットボタンを押される彼女の気持ちを考えるとせつない。
 「ナキタクナッタトキハ、ヘイタトノコトヲオモイダシテワライマス」
 とQ10は言っていたが、きっと平太との記憶もリセットされているのだろう。
 それともメモリーの奥底にあって、何らかのきっかけで思い出すことがあるのか?

★Q10がクラスメイトに別れを告げるシーンは上手い。
 Q10は「さようなら」と別れを告げているのにクラスメイト達は「また明日」と答える。
 Q10はレンズのように歪んだロボットの映像でクラスメイト達を見ている。
 そこには何の感傷もない。デジタルな機械の眼だ。
 なので視聴者は、「さようなら」と言っているQ10が哀しいのかそうでないのかがわからない。
 どう感情移入していいのか戸惑う。
 この点が上手い。
 普通の作品ならここは泣かせ所で感情移入させようとするはず。

★中尾(細田よしひこ)にQ10が「パフパフパフ」とパワー注入する所もユーモラスで泣ける。
 ここも別れのシーンなんですよね。
 Q10にしてみれば自分が地上やみんなの記憶からいなくなってしまうこと。
 なのに、Q10は常に相手のことを考え、幸せを願っている。
 これもプログラムされたことなのだろうが、常に幸せを願ってくれるQ10のような存在は救いだ。

★今回のテーマは<見えないものを信じる>ということ。
 自分の将来なんて見えないし、不確かですよね。
 でも信じる。
 久保(池松壮亮)と民子(蓮佛美沙子)は、校門の前の坂をのぼって一緒に通学する姿を信じる。
 藤丘(柄本時生)は家族四人が再び一緒に暮らす姿を信じる。
 影山(賀来賢人)と恵美子(高畑充希)は影山がカナダから戻って来た時のことを信じる。

 <見えないものを見る>というのは何も未来や将来のことばかりではない。
 実は自分は地球のすべての人と繋がっている。
 平太の父親(光石研)の理屈だが、自分のまわりには自分を支え、現在の自分を形作ってくれた人達がいる。その人達には同じように支えて形作ってくれた人達がいて……と、こういうふうに人と人との連なりを考えていけば、地球上にいるすべての人類は繋がる。

 人と人とは鉄塔のように電線で繋がっている。
 その電線は世界の人々と繋がっている。
 その電線は<目に見えないもの>だけれど、信じれば見ることが出来る。
 要は想像力の問題だ。
 だから地球の至る所で起きている戦争や貧困は他人事ではない。
 まさに地球規模のヒューマニズムですよね。

★岸本校長(小野武彦)が言ったことも興味深い。
 「温かいパンと妻と娘と孫がいて、信じてくれる教え子がいる。俺は幸せだなぁ」

 現在のありのままの自分を肯定すること。足るを知るということ。
 人間の欲望には限りがない。
 ある人は一生安楽に暮らせるお金がありながらもっとお金を求めてしまう。
 ある人は地位と名声がほしくてしょうがない。
 結果、多くを求めすぎてつらい思いをしている。現在に満足できずにいつも自分は不幸だと思っている。

 人類はこうした欲望によって発展してきたと思うが、もはやそんな時代ではない。
 柳教授(薬師丸ひろ子)が言ったように、現在はエコの時代。
 際限のない欲望は地球と人類を滅ぼす。
 小川先生(田中裕二)のように「いろいろなことに期待しない。何とか食べていけて最悪の事態が避けられる」ぐらいでいい。

★最後にこのせりふ。「Q10を愛したように世界を愛せよ」。

 <世界を愛すること>
 
 このことが「Q10」という作品全編を貫いているテーマだ。
 「エヴァンゲリオン」「20世紀少年」もこのテーマを描いてきた。
 毎回例に出すが、秋葉原連続殺傷事件の加藤智大被告は孤独であらゆることが上手くいかずに<世界を憎んでしまった>。
 だから世界を破壊しようとした。
 月子(福田麻由子)の言う<暗黒エネルギー>のとらわれて。
 これから逃れるには、どうしたらいいか?

・自分を信じること。
 加藤被告の場合は、一流の車のエンジニアになって幸せな家庭を築いている<まだ見えていない自分>を信じること。
・人と人とは<見えない電線>で繋がっているとイメージすること。
・足るを知って、現在のありのままの自分をまず受け入れること。

 こうすれば、世界を少しは愛せるようになれると思う。 


 「Q10」は僕にとって、すべてのシーン、せりふが心に響いてくるシンクロ率の高い作品でした。
 深く読み込めば、まだいろいろなことが見えてくると思うので、折に触れて何度も見たいと思います。


コメント
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