夏目漱石の「こころ」
Kが自ら命を断った理由を「失恋したから」と解釈している方がいて、
そうかな~? と思ったので書いてみる。
Kが命を断った理由。
それは『恋愛に心を惑わされた自分が許せなかったから』だと思う。
Kは宗教的な求道心をもった人物でストイック。
それで神経衰弱になってしまったりする。
そんなKを先生は「人間らしくしたい」と考えてお嬢さんに会わせる。
ところが、このことが思わぬ事態を巻き起こした。
Kがお嬢さん(静さん)に恋に落ちてしまったのだ。
先生はお嬢さんに心を寄せていたので焦る。
Kに劣等感を持っているので、お嬢さんを奪われるのではないか、と不安になる。
だからお嬢さんにメロメロになっているKを批判してこんなことを言う。
「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」
この言葉はKにとって致命的なものになった。
先生がお嬢さんと婚約したことも重なって自ら命を断ち、Kはこんな遺書を残す。
『自分は薄志弱行で到底行先の望みがないからみずから命を断つ』
ストイックでまっすぐな人は折れると弱い。
………………………………………
先生が厭世的になった理由は、もちろんKのことが大きい。
自分がKを死に追いやってしまった罪の意識に苛まれている。
こんな自分が世に出て他者と関わったら、また同じ間違いをしてしまうかもしれない。
だから厭世的になった。
このことを掘り下げると、こういうことだと思う。
『自分への不信』だ。
若い頃、先生は叔父に父親の財産を掠め取られて『人間不信』になっている。
お金は人を狂わすとも考えている。
この段階で、先生はまだ『他者への不信』というレベルで留まっている。
自分にすり寄って来る者、近づいて来る者をすべて警戒している。
それは後に妻になるお嬢さんや彼女の母親もそうだった。
ところが、今度は自分が信じられなくなることが起きてしまった。
お嬢さんを奪われたくないと焦って、Kを裏切ったことだ。
これで先生は自分も信じられなくなってしまった。
自分の心の中の闇に気づき、醜いと考えてしまった。
こんな自分が許せなかった。
Kといい、先生といい、何てピュアなのだろう。
彼らとは対照的な生き方。
鈍感で、突き詰めて考えることなく生きていくことが生きる秘訣なのかもしれない。
『こころ』の最後では、乃木希典の殉死が描かれて、それが先生の死のきっかけになる。
殉死してしまう乃木希典もピュアな人なんだろうな。
これが『明治』という時代なのだろうか?
『こころ』は人の心の中を深掘りして描いた作品だ。
日本文学で初めて人間の心の中を深掘りした作品だから、文学史上、重要な作品なのだと思う。
※追記
芥川龍之介は『将軍』という作品で乃木希典をメチャクチャ、ディスっている。
鼻持ちならない俗物として描いている。
結果、検閲を受け、伏せ字だらけの出版となった。
「明治の漱石」と「大正の芥川龍之介」で、大きく違っている乃木希典像。
『将軍』は芥川龍之介や大正という時代を考える上で注目すべき作品かもしれない。
Kが自ら命を断った理由を「失恋したから」と解釈している方がいて、
そうかな~? と思ったので書いてみる。
Kが命を断った理由。
それは『恋愛に心を惑わされた自分が許せなかったから』だと思う。
Kは宗教的な求道心をもった人物でストイック。
それで神経衰弱になってしまったりする。
そんなKを先生は「人間らしくしたい」と考えてお嬢さんに会わせる。
ところが、このことが思わぬ事態を巻き起こした。
Kがお嬢さん(静さん)に恋に落ちてしまったのだ。
先生はお嬢さんに心を寄せていたので焦る。
Kに劣等感を持っているので、お嬢さんを奪われるのではないか、と不安になる。
だからお嬢さんにメロメロになっているKを批判してこんなことを言う。
「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」
この言葉はKにとって致命的なものになった。
先生がお嬢さんと婚約したことも重なって自ら命を断ち、Kはこんな遺書を残す。
『自分は薄志弱行で到底行先の望みがないからみずから命を断つ』
ストイックでまっすぐな人は折れると弱い。
………………………………………
先生が厭世的になった理由は、もちろんKのことが大きい。
自分がKを死に追いやってしまった罪の意識に苛まれている。
こんな自分が世に出て他者と関わったら、また同じ間違いをしてしまうかもしれない。
だから厭世的になった。
このことを掘り下げると、こういうことだと思う。
『自分への不信』だ。
若い頃、先生は叔父に父親の財産を掠め取られて『人間不信』になっている。
お金は人を狂わすとも考えている。
この段階で、先生はまだ『他者への不信』というレベルで留まっている。
自分にすり寄って来る者、近づいて来る者をすべて警戒している。
それは後に妻になるお嬢さんや彼女の母親もそうだった。
ところが、今度は自分が信じられなくなることが起きてしまった。
お嬢さんを奪われたくないと焦って、Kを裏切ったことだ。
これで先生は自分も信じられなくなってしまった。
自分の心の中の闇に気づき、醜いと考えてしまった。
こんな自分が許せなかった。
Kといい、先生といい、何てピュアなのだろう。
彼らとは対照的な生き方。
鈍感で、突き詰めて考えることなく生きていくことが生きる秘訣なのかもしれない。
『こころ』の最後では、乃木希典の殉死が描かれて、それが先生の死のきっかけになる。
殉死してしまう乃木希典もピュアな人なんだろうな。
これが『明治』という時代なのだろうか?
『こころ』は人の心の中を深掘りして描いた作品だ。
日本文学で初めて人間の心の中を深掘りした作品だから、文学史上、重要な作品なのだと思う。
※追記
芥川龍之介は『将軍』という作品で乃木希典をメチャクチャ、ディスっている。
鼻持ちならない俗物として描いている。
結果、検閲を受け、伏せ字だらけの出版となった。
「明治の漱石」と「大正の芥川龍之介」で、大きく違っている乃木希典像。
『将軍』は芥川龍之介や大正という時代を考える上で注目すべき作品かもしれない。
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