しらくもの やへにかさなる をちにても おもはむひとに こころへだつな
白雲の 八重に重なる をちにても 思はむ人に 心へだつな
紀貫之
白雲が幾重にも重なるその向こうへと旅立たれても、あなたを思うこの心には、どうか距離をおかないでください。
「をち」は「彼方」または「遠」で遠隔地の意。こうして読んでくると、やはり「遠く離れ離れになっても心は共に」というのが、古今集においても離別歌のひとつの定番と言えそうですね。また、一読してストレートにその心情が伝わってくるのは貫之歌の特徴の一つでしょうか。称賛の対象ともなり、また「歌に深みがない」といった批判の理由ともなる点かと思いますが、私個人的にはとても好きです。 ^^
しらくもの こなたかなたに たちわかれ こころをぬさと くだくたびかな
白雲の こなたかなたに たちわかれ 心をぬさと くだく旅かな
良岑秀崇
白雲のこちら側と向こう側に別れることとなって、心を幣として砕く旅路であることよ。
こちらも雲に隔てられるほどの遠隔地への旅立ちによる別れの歌。
作者の良岑秀崇(よしみね の ひでおか)平安時代前期の貴族にして歌人。古今和歌集への入集はこの一首だけですが勅撰集全体を見ても他に入集歌は見られないようです。