漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0382

2020-11-15 19:27:03 | 古今和歌集

かへるやま なにぞありては あるかひは きてもとまらぬ なにこそありけれ

かへる山 なにぞありては あるかひは 来てもとまらぬ 名にこそありけれ

 

凡河内躬恒

 

 「かへる山」という山は何であるのか。その意味は帰って来る山ということだと思っていたのに、遠隔地から戻ってきた人が泊まりもせずにまた帰っていくという意味であったのだなあ。

 この歌もなかなか意味を理解するのが難しいですね。「あひしれりける人の、越の国にまかりて、年経て京にまうで来て、また帰りける時によめる」という詞書と併せ読むことでようやく言わんとするところがわかってきます。

 


古今和歌集 0381

2020-11-14 19:09:06 | 古今和歌集

わかれてふ ことはいろにも あらなくに こころにしみて わびしかるらむ

別れてふ ことは色にも あらなくに 心にしみて わびしかるらむ

 

紀貫之

 

 別れというものは、色がついているわけではないのに、どうしてこれほど心に染みてわびしく思われるものなのだろうか。

 「別れ」というものは具体的な事物ではなく、当然色などはついていないのに、まるで衣が染料に染まるように心をわびしく染めるのはどうしてなのだろうという問いかけの形で、あなたとの別れがそれほどまでに私の心に響いているということを表現しています。


古今和歌集 0380

2020-11-13 19:58:26 | 古今和歌集

しらくもの やへにかさなる をちにても おもはむひとに こころへだつな

白雲の 八重に重なる をちにても 思はむ人に 心へだつな

 

紀貫之

 

 白雲が幾重にも重なるその向こうへと旅立たれても、あなたを思うこの心には、どうか距離をおかないでください。

 「をち」は「彼方」または「遠」で遠隔地の意。こうして読んでくると、やはり「遠く離れ離れになっても心は共に」というのが、古今集においても離別歌のひとつの定番と言えそうですね。また、一読してストレートにその心情が伝わってくるのは貫之歌の特徴の一つでしょうか。称賛の対象ともなり、また「歌に深みがない」といった批判の理由ともなる点かと思いますが、私個人的にはとても好きです。 ^^

 


古今和歌集 0379

2020-11-12 19:01:14 | 古今和歌集

しらくもの こなたかなたに たちわかれ こころをぬさと くだくたびかな

白雲の こなたかなたに たちわかれ 心をぬさと くだく旅かな

 

良岑秀崇

 

 白雲のこちら側と向こう側に別れることとなって、心を幣として砕く旅路であることよ。

 こちらも雲に隔てられるほどの遠隔地への旅立ちによる別れの歌。
 作者の良岑秀崇(よしみね の ひでおか)平安時代前期の貴族にして歌人。古今和歌集への入集はこの一首だけですが勅撰集全体を見ても他に入集歌は見られないようです。

 

 

  


古今和歌集 0378

2020-11-11 19:43:56 | 古今和歌集

くもゐにも かよふこころの おくれねば わかるとひとに みゆばかりなり

雲居にも かよふ心の おくれねば 別ると人に 見ゆばかりなり

 

清原深養父

 

 雲のかなたまでとでも通じ合う心は、遅れることなくあなたについて行きますので、離れ離れになるように見えるのは、ただ身体だけのことなのです。

 遠く離れていても心は一つ。なんだか70年代のフォークソングのようなモチーフですが、別れがたい人へのそうした想いは、千年の時を経ても変わらないのですね。^^