福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

ブータン訪問記 その1

2010-01-12 | 講員の活動等ご紹介
これは私がバンコク特派員だった98年秋に出張でブータンを訪れた際の「感想文」です。国家として佛教国を標榜する珍しい国ですので、ご紹介する次第です。オリジナルは家族や友人にメールで送ったもので、10年以上が経ち、現在のブータンはかなり変容しているようですが、文章は基本的に当時のままです。大変長いものですので、分割しました。 2010年1月 鈴木

(本文)
行って来ました、「秘境」ブータン。結論から言うと、とにかくすごかった!こんな国がまだあるんだから、世界は広い!国全体がひとつの大きな「テーマパーク」のおもむきです。いきなり民族衣装を着た人たちが、映画のセットのような町並みを歩いている、それが爽快な空気と、息を呑む絶景と、きれいな田園風景と、夜には満天の星と、野生のコスモスが咲く国全体に広がっているのですから!こんな国に行けるのも、この仕事の醍醐味です、ほんとうに。

まさにブータンは世界の宝石です。いままでも機会があっていろいろな国を見ましたが、「また行きたい!」と思ったのはパラオ(海がキレイなダイビングのメッカ。日本から直行便がなく、グァムで乗り換えるのが救いになっている。これで直行便ができたら、ゴルフおやじとホステスさんが大挙して押し寄せてしまう!)、ヤップ島(いまだに若い女性が民族衣装で胸をブラブラさせながら歩いている。石の通貨も使われる)、ニュージーランド(森と湖と羊の国)とブータン。

ブータンを扱っている日本の旅行会社のコピーに「モースやラフカディオ・ハーンの旅した日本を見るような国、ブータンの旅で、私たち日本人が失ってしまったものを見つけて下さい」とある。よく読むととっても安っぽいキャッチなんですが、実際にあの国に行くと「なるほど!」という名コピーでもあることがわかりました。一言でいえば、まぁ日本より50年は遅れているのではないでしょうか?電話もほとんどないし、車も少ない。農村の雰囲気なんか「明治・大正の日本ってこんなだったんだろうな」といつも思いました。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が、日本を大好きになり、定住し、日本人の奥さんを貰って住んだものの、明治の日本はどんどん西欧化する政策をとっていったことに「何故日本は、こんなに素晴らしい自分たちの伝統を、こんなに簡単に捨てようとするのか!」と激怒した、というエピソードも分かるような気がするのです。

貧しい国であることは間違いない。ひとりあたりのGNPは日本のおよそ100分の1(98年当時のデータ)。しかし、わたしにはどうしても彼らが貧しいがための不幸に見舞われているとは思えないのです。これがたとえばカンボジア、プノンペンのスラム街で裸のストリートチルドレンが物乞いをしてくれば、これは社会的な貧しさを感じないわけにはいかない。しかし、ブータンの貧しさはこれとは違う。一つには国民の90%が農業に従事し、かなり自給自足の経済が成り立っていることもある。いかにも楽しそうに自分で民族衣装を織っている女性たちをいたるところでみかけました。やはり、国を計る尺度はGNPだけではないのです。使い古された言葉ではありますが、「本当の豊かさってなんだろう」と何回も考えました。

これはブータン自身もよく自覚している。国王は「GNPよりもGNH(Gross National Happiness)」というスローガンを掲げています。つまり「いまは確かに貧しいし、遅れている。しかし、この自然環境を守っていけば、21世紀には世界中からうらやましがられるような幸せな国になるかもしれない」というんです。これ、なかなかできることではないです。放っておいても、この情報化時代、国はどんどん近代化、西欧文化を取り入れる。これを明確な意志で拒否するのは、生やさしいことではないはず。たまたま私は「文明の衝突」というベストセラーを遅まきながらいま読んでいるのですが、これがなかなか示唆に富んだ本。つまり「近代化するということは決して西欧化することではない。これを非西欧諸国は自覚し始めている」ということ。この主張が実にぴったりと分かる国です。たとえば、後述するドゥルック・エアーというブータンの航空会社。このスチュワーデスさんたち、当然ながら民族衣装の「キラ」をデザインした制服を着ている。ですので、バンコクの空港あたりで歩いているとどうしても目立ってしかたがない。他社のクルーや客が「なんだ、あれ?」という感じ。これが20年前だったら私も「格好悪いなぁ、遅れてるなぁ」と思うところですが、今は決してそうは思わない。かえって誇らしげにこれを着ていることは「かっこいい!」と思うのです。これは決して今回のブータン出張ですっかりブータンファンになったためでもない。つまり世界の人たちは、いまや西欧に向かって自らの文化を誇り始めているのです。
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